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二七一〇年 平城京遷都  作者: 羽越世雌
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エピローグ

二七一一年、晩春。


かつて「第一次大極殿」がそびえ立ち、そしてリヴァイアサンの砲撃を防ぐためにパージされたあの天層の跡地には、今、奇妙で美しい光景が広がっていた。


巨大な基部だけが残されたその場所には、金属の光沢ではなく、若々しい「緑」が溢れている。ナギが設計し、市民たちが一丸となって運び上げた土壌には、二千年前の地層から採取され、バイオ技術で蘇生した「古の植物」たちが芽吹いていた。


■ 三人の「その後」

朱雀大路を見下ろす展望デッキに、三つの影があった。


九条ナギ:

彼は今、公式な設計士の肩書きを捨て、一人の「石工」として街を歩いている。大仏と同期した際の後遺症で、左目の視力は失われたが、代わりに「大地の微細な震え」を肌で感じる直感を得た。彼は今、重力制御に頼らない、数百年先まで持つ「石積みの基礎」を次世代に教えている。


サキ・ミナモト:

彼女は新都の「執政官」に推挙されたが、それを辞退し、私設の「平城遺構図書館」を設立した。彼女が編纂しているのは、王侯貴族の記録ではない。あの戦いの最中、誰が誰の手を握り、どんな言葉を交わしたかという、名もなき民の「心の年表」だ。


ハヤト:

彼はネオ・ベイ(海上連合)に戻ることなく、平城京の「外周警備隊」の隊長に就任した。彼の駆る機体は、もはや戦うためのものではなく、山を耕し、物流の道を切り拓くための「開拓機」へと改造されている。


■ 語り継がれる「薄紅の記憶」

「なあ、ナギ。最近、この街の子供たちが変な遊びをしてるのを知ってるか?」


ハヤトが、再建された朱雀門の欄干に腰掛けながら笑った。

「地面に耳を当てて、『大仏様の寝息が聞こえる』なんて言いやがるんだ」


ナギは、手元にある古い木簡を愛おしそうに撫でながら応えた。

「あながち間違いじゃないさ。地下のシステムは今、完全に地殻の活動と調和している。……もう『制御』する必要はないんだ。大地が呼吸すれば、この街も一緒に呼吸する。ただ、それだけのことだ」


サキが、手元の端末に新しい一行を書き加えた。


二七一一年。平城京、真の遷都。都とは場所ではなく、共に生きるという決意のことである。


「サキ、その年表の続き……。千年の先まで、書くスペースは空いているかい?」


ナギの問いに、サキは静かに微笑んで、青く澄み渡った空を見上げた。

かつては汚染された雲に覆われていた生駒の空も、今では吸い込まれるような碧色を取り戻している。


「ええ。私たちの世代では、たった一ページも埋まらないでしょうね」


■ 結び:二千年のバトン

物語の始まりにあった年表の最後には、今、新しい一筆が加えられています。


2010年 平城宮第一次大極殿正殿が復原される


2022年 大極門(第一次大極殿院南門)の復原が完成する


2026年 平城宮第一次大極殿院東楼が復原される


2710年 平城京へ都をうつす(第三次遷都)


2711年 大仏開眼。人と大地、二千年越しの和解。


朱雀大路を、一陣の風が吹き抜けていきました。

それは万葉の昔から吹いていた風であり、戦火に焼かれた都を慰めた風であり、そして今、新しく植えられた神木桜の花びらを、未来へと運んでいく風でした。


人類の歴史は、ここからまた、ゆっくりと、丁寧に書き直されていくのです。


『二七一〇年 平城京遷都』―― 完 ――

最後まで読んでいただきありがとうございました。明日からは「辺境伯のニュータウン建設記」が始まります。

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