俺とアイツは断じて違う!
今日も退屈な日常だったな。
「おーい、西村。上を向くなって」
「何だ、少しだけいい気分に浸っていたんだが」
こいつの名前は遠藤 涼。俺の友達だ。
「それより、アレ見てみろよ」
「アレ?」
俺はそいつが指す方向を見てみると、女子が仲良く話してる場面であった。一体、何かあったのか?
「左から2番目、お前幼馴染だろ?」
左から2番目……確かにこいつが言ってることは間違いない。あの女子の名前は 春風 ありす。
小学校からの友達である。まあ、今は高校生だしグループ分けもされてるから、あっちはあまり絡んでこないが。
「それがどうした?アイツと俺は幼馴染だが他断じて違う」
「出たよ、お前のそれ」
「何が悪いんだ」
「お前、違う違うと言いながらすっげぇ些細な事じゃん」
人にはそれぞれ価値観がある。違うのは当たり前である。確かに、あいつと俺は周りから見たら似ているかもしれない。
だが、俺自身は違うと思っている。彼女がこっちに来て、話しかけてくる
「幸永君」
「んぁ?どしたん、なんか困ってる?」
「いや、その」
彼女は周りに聞かれてないか確認する。多分聞かれてると思うけど、彼女は話を続行した。
「今日、一緒に帰ろ?」
春風は周りから見ても可愛い女と位置づけられている。昔は、この頼みがなくても一緒に帰っていたが、成長して判断を任せるようにしたんだろう。
俺は頷くだけだった。彼女はその反応だけでも笑顔であった。
「あ〜羨まし」
俺の机の上に座りながら、この光景を眺めていた太田が話しかけてくる。
羨ましいか。この言葉を聞いて、俺は少しだけ優越感があった。幼馴染と帰るだけなのに。
「ま、お前も頑張れるだろ?」
「いや、俺告白してんだけど、振られるんだよね」
「誰に?」
「それは言わん」
まあ、青春を作る為に努力してる人は違うんだなと感じた。俺は、所詮幼馴染という立場を利用してるだけなんだから。
そんな話をしているうちにあっという間に帰る時間となった。
下駄箱へ行くと、春風が俺の下駄箱前に立っていた。
「帰ろ?」
「ああ」
靴を履いて、外へ出て行く。雨がポツポツと降っている。傘、持ってたかな。
鞄を漁ったが、折りたたみ傘はなかった。春風の方に視線をやると、彼女もまた持っていなかった。
「ちょっと待ってて」
「え、ちょ、ちょっと」
俺は鞄を頭の上にして、颯爽とコンビニへ駆け寄った。傘はあったが、財布には1人分しか買えなかった。
俺は濡れてもいい。春風に風邪は引いて欲しくない。買って、息切れしながら学校に戻ってきた。
「はい、傘、ゼェゼェ」
「だ、大丈夫?別に一緒に帰るのは明日でも良かったんだけど」
別に、大した事じゃない。奥底にある何かの感情が、行動をうつしてしまったのだろうか。
「君に風邪は引いて欲しくない」
彼女は顔を赤らめつつ、俺の傘を受け取った。そして、俺の手を引っ張り、もう一度同じ言葉を言う。
「一緒に帰ろ?」
俺はまた頷く。彼女はハンカチを使って、俺の頭を拭く。
「傘が目の前にあったのに、使わずにここまで来るなんて」
「め、面目ない」
「ううん、ありがと、ホントお人好しのは変わってないね」
お人好しなのはこいつもだがと思ったけど、傘もあったのに濡れたまま来るなんて、俺の方が上手だったか。
「はい、じゃ入ろ?」
彼女は傘を開き、手招きをする。俺は何もかもが今だけ明るく見えた。外は雨が段々激しくなって暗いが、俺の視界には笑顔でいる春風だけだった。
「どしたの?」
多少話しながら、俺の奥底にある感情を引き出したいと思いつつも、俺は話を合わせることしか出来なかった。
「はい、着いたから返すね。付き合ってくれてありがと」
「ああ」
そのまま帰宅した。
「へっくし」
やはり、風邪を引いたのだろうか。あのよく分からない行動が原因か。
まあ、明日も風邪を引かないことを願うか。何だかんだ、今日は楽しかったし。
後日、案の定風邪を引いて、3日後に登校した。
ある日のこと……
俺は遠藤に話しかけられ、そいつの友達と一緒にボーリングセンターへ行くことになった。
「さて、分かってるか?」
遠藤は俺に顔をよせて、小さな声で、
「これはな、負けたら罰ゲームあるんだよ」
「は?罰ゲーム?」
最悪な事態となった。罰ゲームって、絶対どっかのお店奢らされるやつだ。負けてたまるか。
俺はメラメラになった。
「まずは遠藤からか」
「おらよっと」
遠藤はボーリング玉を転がし、真ん中のピンが当たると、全部のピンが倒れた。表記にはストライクと出ている。これは、劣勢かもな。
他の友達もスペアやストライク。今、そんなにお金持ってないから、負けたくねぇ。俺はボーリング玉を転がす。
だが、転がってるうちに黒い溝に入る。
「はい、G」
「げ、まじかよ」
その後も俺はGや少ないピンしか出来なかった。スコアがだいぶ低くなってしまい、最終プレイまで来た。
「おら、行け!」
俺の声も虚しく、ボーリング玉は黒い溝に流れて行った。
これで、俺の最下位が決定した。罰ゲーム、もう何でも来やがれ!
「よし、てことで罰ゲームだな」
「で、何処の店を奢れと?」
「ん?奢り?そんなん無くていいけど」
あれ、これ罰ゲームあるんだよな。遠藤は俺の耳元で、罰ゲームの内容を言う。
「春風 ありすに告白だ。期限は来週までだ。一応、この期限が切れたら、店の奢りだ」
「ちょっと何言ってるか分からない」
「分かれ」
罰ゲームなのに、何で別の罰ゲームがあるんだよ。奢るのはまだしも……告白は俺にとっても相手にとってもよろしくない。
「その回答について、期限を来月まで伸ばしてくれ」
「ん?分かった」
案外、遠藤はあっさりと了承した。期限伸ばしていいんだ。それなら、無回答のままの方が良かったのか?
いや、けど一応、俺も了承した側だからな。
「ん?何話してるの?」
春風が俺に話しかけてくる。遠藤はバレないようにトイレへ行くふりをしていた。
「あ、あ〜ゲームの話だよ」
「ほんとかな?」
一応、ゲームはゲームだな。うん、嘘はついていない。
「まあ、顔見るに嘘ついてないね」
春風は指で丸を描きながらいった。一体、俺の顔に何があるのだろうか。
「俺はお前と違って顔に出ない!」
「それは……」
そう、俺とコイツは絶対に違う!なんで、俺の趣味と違う人に告白をしなければいけないんだ。
「あ、今日予定ある?」
「ないけど」
「よしじゃあ、私のお使いに付き合ってもらおう」
ええ。まさかの荷物持ちでした。下校時間になると、また下駄箱で待っている春風を見る。
「あ、あ〜。ちょっとテス勉が」
逃げようとする俺を春風が俺の手を引っ張る。少しだけ甘い声で
「ダ〜メ、顔に嘘と書いてあるからね」
普通に嘘がバレて買い物に付き合わされる事になりました。
というか、こいつ何で俺を誘ったんだ?流石にお使いは言いずらかったのか?
「はい、これ」
「これ、冷えピタ……」
春風が差し出したのは冷えピタ。確かに前、風邪引いたけど、まさか買ってくれるとは。
余程、前の事気にしてるのか?
「風邪引いたこと気にしてるの?」
「また馬鹿なことされたら困るから」
まあ、そうだよな。2人で行動してたんだから、悪い噂立つよな。
「悪い噂とか立った?」
「ううん、立ってないから大丈夫だよ」
「そっか、良かった」
春風は急に背を向ける。あれ、俺また何かやらかしたか?うーん、背を向けられる行動が探しても見当たらないし。
帰る途中、俺は何となく春風に話しかける。
「なあ、春風ってさ告白された事ってあるのか?」
「え、急に何?」
「冗談、聞いてみたかっただけだし」
「ないかな」
え、ないのか。どうしてだ?断ってるとかなら分かるのだが、された事がないのは驚いたな。
「それにね……」
「それに?」
「ううん、やっぱ何でもない」
「そうか」
詮索はしない。相手が別に言いたくないことは黙っておくが大事だろ。
はあ、俺、本当に罰ゲームで告白は良いのだろうか。俺の今の想いを罰ゲームで伝えるのはどうかと思う。
下手したら、一生俺の心に傷が永遠に残るかも知れない。
なら、答えはもう1つだな。明日、アイツに伝えよう。
俺は遠藤について告白することを伝える。
「遠藤、俺告白するよ」
「お、まじか」
お前が始めた物語のくせになんで少し引いてるんだよ。さてと、まあそれは一旦置いといて、春風にどうやって話すかだな。
俺は春風を探しに廊下を歩いていた。窓を見ながら歩いていると、春風が男と対面していた。
……俺は何してるのだろうか。相手は罰ゲームでもなく本気の告白をするのに、嘘の告白する俺よりは、あっちの方がお似合いだよな。だが、罰は実行すべきだ。例え、どんな反応であろうと。
「幸永!幸永たっら」
「んぁ?」
俺は寝てたのか?春風……起こしてくれたのか。告白されてたのは見間違いだったのか?
けど、今春風いるしチャンスだ。
「春風……明日予定あるか?」
「予定はないけどどうしたの?」
「校庭へ来て欲しい」
「え」
春風は周りを見て、もう一度確認をとる。俺は大きく頷く。
春風はとても嬉しそうであった。まだ何もやっていないのに、何故嬉しがってるのか。
――明日――
「今日でいいんだよね?」
「ああ」
春風は昨日の約束をちゃんと覚えている。これが罰ゲームと知ったらどんだけ悲しむことか、今の俺には分からない。
女子と話していても俺とのやり取りは出していない。お人好しは俺ではなくアイツなんだけどな。
「今日も仲良しで」
「だから違うっての」
「否定するな」
「そして、遠藤ごめんな」
「あれ?俺、振られた?」
断じて違うぞ。それは。勘違いするのではない、何故、謝ったかは今日の告白でわかる。
そして、俺は校庭に呼び出す。ちなみに、サラッと遠くの木の所で遠藤が見ている。
「春風……来てくれたんだ」
「うん」
風が靡き、春風の髪が揺らぐ。俺は、大きく息を吸い、春風に告白する。
「春風、ごめんな。これは罰ゲームなんだ」
「え」
俺は、罰ゲームである事を告白した。好きという告白ではなかったから、この事を明かした。
「告白だけという条件だったから、この事を明かしたんだ」
「そっか。まあ、そうだよね」
「けど、勘違いしないで欲しい。春休みまで残り3日しかない。その日までに俺は答えを出す」
春風は少しだけ涙を流す。人を不幸にさせるなんて、春風も俺も出来ない。
けど、もう一度、あの質問をする。
「告白された事はあるか?恋愛的な意味で」
「先日の事?」
「ああ」
「あれは、弟だよ」
あ、弟いたの忘れていた。まさか、この学校だったとは思わなかったし。
「あ、弟ね。ごめん」
「ううん、いいよ」
俺はこの時、春風の頭をポンとし、
「待っててくれ」
「うん。必ず」
そして、春風は帰っていた。俺は隠れていた遠藤に話しかける。
「ふ、そういう事か。お前らしい」
「怒ったか?」
「いいや、俺こそごめんな」
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
遠藤はそうかと言い、そのまま去っていた。残り3日待ってくれと春風には言ったけど、俺は明日の昼までには答えを出さないとな。
そして、俺はまた明日春風を呼び出した。昨日と違う所は、まあ、伝える場所が放課後の教室と言うだけだな。
今日は委員会があり、少し遅れてしまった。果たして春風はいるのだろうか。
居なければ、もう俺は諦めるしかない。階段を一つ一つ飛ばして昇っていく。
息切れしながらも思いっきりドアを開けた。開けた先には、窓の外を眺めている春風がこちらを向いた。
「春風……来てくれたんだな」
「もちろん」
春風は今日、罰ゲームでもない俺の所に来てくれた。じゃあ、俺がやる事はただ1つだ。
「先日はごめんな。春風」
「まあ、確かに少しだけ悲しかったかな。けど、罰ゲームの事を告白する方が驚いたかな」
もう、俺は後に戻れない。俺は、春風に告白をする。俺自身が決めた告白。他人に言われた告白ではない。
「春風、俺は……だ」
春風は少しだけ首を傾げ、やれやれと言い、肩をすくめる。
「私はね、好きな人がいるんだよ」
そりゃ、そうだよな。春風と俺は違う。幼馴染であろうと、変わっていく所が春風は多い。
「長くいたのに、私と似ていると言われても違うと信念を曲げなかった人がね」
春風は顔をこちらに寄せ、
「西村幸永、そんなあなたが好きだよ」
春風は笑顔で、この時の俺は先日の事で胸を痛めた。相手がこうやって思ってくれたのに、俺は何故、罰ゲームを実行したんだ。
とんだ人間だな。俺は。
「小さくて言えなかった。春風、俺も君が好きだ」
春風は涙を流す。俺は春風の頭を撫でて、俺も涙を流しそうだったが、我慢をして、話を続けた。
「俺がやってきた事は事実だから、清算なんてされない」
春風は涙を拭きながら、
「私なら、清算して欲しいと言うんだけどね、西村幸永、末永くよろしくね?」
それって付き合うって事なのかな?俺は春風に視線を向けると、急に春風は抱きつく。
「これで分かったかな?」
「ああ」
否定することも良いけど、他人と似ていて幸せもある。もう、俺は春風 ありすを悲しませないと、永遠の心に誓うことを示すために俺も抱きしめる。