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高齢者アワー

作者: yamatoya

1.テレビ画面。音楽。タイトル「高齢者アワー。―いつまでも輝き続けるためにー」

2.キャスター「さあ、いつまでも輝き続けるために。高齢者アワー!本日はある商社マンに密着します」

3.東京丸の内。大同物産㈱、産業エネルギー部オフィス。30名ほどが執務している。

リポーター「ただいま大同物産、産業エネルギー部に来ています。本日、部長の藤井さんが定年を迎えます」

4.窓際のデスクでパソコンに向かう藤井健吾(60歳)。今日が60歳の誕生日で定年退職を迎える。

5.藤井部長のインタビュー「へへ。40年、競争相手との戦いで取ったり取られたりよ。このやくざな業界で、まあよくやってきたぜ。さすがにくたびれたわな」

6.終業のチャイムが鳴る。藤井が立ち上がると部下たちが回りに寄ってくる。課長の横井(50)が部下代表であいさつする。「藤井部長、長い間お疲れさまでした」川井彩香(28)が花束を持ってきて藤井に渡す。拍手の中、受け取って藤井がお礼のあいさつを始めようとした時、ドアが開き、会長秘書の真理(35)が入ってくる。「会長がお見えです」

一同、何事かと立っていると岩井会長(70)が入ってくる。

岩井「ご苦労様と言いたいところだが、本日、会社の定年を10年延長することが決まった。人生100年、働き方改革の一環だ。ただし再雇用だから退職金は10年後である」

辞令を読み上げる。「藤井健吾。本日付で再雇用。産業エネルギー部平社員を命ず。よろしくな」岩井はさっさと帰っていく。

7.唖然とする藤井のインタビュー「なんだよ。やっと上がれると思ったら、まだやるのかよ。まあ仕事は嫌いじゃねえけどもさ。それにしても平社員からやり直し?ほんとかよ」

8.横井課長のインタビュー「ほんとは年寄りには早く辞めてもらいたいんですけどね。まあ、残るって言うなら平社員からスタートです。当たり前です。おい、藤井。お前の席はそこだ」

9.彩香のインタビュー「藤井君。この伝票、お願いね。今日中よ。えーと。雑用をやってくれるのはありがたいですけど、職場が年寄りばっかりになるのはいやね。爺臭くて」

10.岩井会長のインタビュー「人生100年の時代を踏まえて当社としてはいち早く、定年延長に踏み切りました。最初の該当者が藤井君です。いや、彼は口は悪いけども、実に温厚な人物でね。いろいろあっても、会社の方針とあれば快く協力してくれるものと思います。(声をひそめて)いや、つくづくいい男です」

11.藤井の再雇用社員としての生活が始まる。

朝、鉢巻をして全員のデスクを拭いて回る藤井。→始業前のラジオ体操のリーダー役となって体操をする藤井。→資料のコピーを取る藤井。→お茶出しをする藤井。→飲み会で酒を注いで回る藤井→ひたすらパソコンに伝票入力をする藤井。

12.深夜のオフィス。残業する藤井。へとへとになって、舟をこぎながらパソコンに向かっている。どさりと伝票が届く。ついに切れる藤井、電話を手に取ってわめく「会長!もうたくさんです!給料は下がるわ年金は出ないわ医療費は上がるわ税金はどこまで行っても取られまくるわ。その上目下のガキどもに顎でこき使われて。もうやめる!やめてやる!何が働き方改革だ……ああ?……はあ。……はあ。……はあ!?」藤井、電話を切る。

13.藤井のインタビュー「秋田のナマハゲ博物館に転勤だってよ。なんだこれ」

14.岩井会長のインタビュー。岩井はバスローブを着てベッドに腰掛けている。「これからは地方創生の時代です。特に東北秋田。自殺率NO.1。あそこを明るく元気にしないことには、日本全体が沈没します。彼なら地方を大いに活性化してくれるでしょう。会社のために。(声をひそめて)ああ見えて人のいい男でね」ベッドの上の女に笑いかける。

15.10年後。藤井ナマハゲ館長のインタビュー。藤井、祭りのはんてん姿ではまはげの面を脱ぐ。老けた顔で白髪。「この10年、秋田のナマハゲ、ひたすら気合入れてやってきたよ。なんとか文化遺産にもなったしな、まあおれなりに輝いた10年だったかな」拍手の音が聞こえる。はんてん姿の岩井がやってきて、辞令を読み上げる。「本日、当社定年がさらに10年延長された。ついては藤井健吾、本日付けを持って当社グループホテルチェーン、”ピンクボンゴ”に出向を命ずる」

16.藤井のインタビュー「なんで俺がこの歳になってラブホテルなんだよ。なんで俺が若えもんのシモの世話まで見てやらなきゃいけねえんだよ。わからねえよ、おれは」

17.ラブホテルのロビーで岩井会長のインタビュー「このホテルこそが日本の少子化対策に大きく貢献する社会インフラなんです。藤井君なら立派にやり遂げてくれるでしょう。(声をひそめて)ああ見えて底抜けに人のいい男でね」

18.さらに10年後。すっかり禿げ上がった藤井支配人のインタビュー。ピンクのスーツ姿。「若えモンにSEXしやすい環境を提供し続けてこの10年。まあこの国の少子化対策にそれなりに貢献できたかなあ」背後のテレビ画面に岩井が映る。「藤井君。すでに知っていると思うが、またまた当社定年がさらに10年延長された。今や人生120年の時代だからな。と言うわけで藤井健吾。国防軍に出向を命ずる。」

19.藤井のインタビュー「おれがこの歳で軍隊?おい、冗談じゃないだろ、さすがに!」

20. 岩井会長のインタビュー。「今や日本は世界の平和に積極的に貢献する国に成長しました。防衛力の強化は急務です。全世代型防衛構想にのっとり、地上戦前線に立つ兵士は高齢者です。現代科学の粋を集めたマッスルスーツを着ていけば、高齢者でも全く問題ありません。(にんまりと笑う)中東で彼は戦車に乗ります。(声をひそめて)まあ、彼にもそろそろ年貢を納めてもらわにゃなりません。戦葬というやつですな」

21.さらに10年後。戦闘服姿の藤井二等陸士のインタビュー。なぜかナマハゲの面をかぶって敬礼している。「会長。藤井であります。お元気ですか。中東で砂漠の保安警備に従事してかれこれ10年経ちました。相変わらず戦争は終わりません。どこの国も領土と主権を守るため、一歩も引きません。はは。戦争は終わりませんわ。もう慣れました。外は灼熱地獄ですが、戦車は完全自動運転。車内は快適な温度です。こちらへきてメシもうまく、すこぶる健康で体重も増えました。絶好調であります。毎日、会社のため、日本国民の安心、安全を守るために私は誠心誠意、頑張っております。しかしです。私も来月100歳の誕生日です。引き続き老骨に鞭打って、祖国日本、国民のため努力してまいることに何の躊躇もございません。しかし会長、あの。私はいつまで働けばいいんでしょうか……」敬礼するナマハゲのアップ。画面が真っ暗になり、音が途切れる。

22.キャスター登場し、頭を下げる。「失礼いたしました。高齢者アワー、そろそろ時間です。人生いよいよ150年時代。いつまでも輝き続ける人生のために。高齢者アワー。また来週です」音楽。エンドマーク。

―了―


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