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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

奇石

かなりきつい話なのでショッキングが苦手な方はお控えください。

 この石って....まさかあの時の!?まさかこの川に落ちてるなんて....。やっぱあの石で間違いない。裏面に傷がついてる。あの時と同じ場所につけた傷。だがなんでこんなところに.....

「この石には沢山の思い出があるなぁ」

こんな奇跡ってあるんだな。

まだ輝いてる。


       〜30年前〜


 小学2年生だった僕は、近所の川で まきちゃんと遊んだ。彼女とは幼稚園から一緒で1番の友達。家も近かったことから、よく近所の川に遊びに来る。

「ゆうきくんボールそっちにいったよー」

「今取りに行ってくるー」

最近はボール遊びしかしていない。石を投げたり魚を捕まえたりカニを探したりするのはもう飽きてしまった。ほかにいい遊びがないかと言った時、ボール遊びを思いついたが運動をあまりしてこなかった僕には難しかった。

「確かこっちの方に飛んでいったと思うんだけどなぁ」

棘のように地面から突き出た草木を掻き分け奥の方へ進んでいった。水着姿で上半身が無防備なため草がチクチクと無慈悲に体を刺した。だがまきちゃんは痛いのは嫌だというし、「痛いことには平気な僕が取りに行く」とかっこつけたものの痛いことに「慣れ」なんてなかった。

「かなり奥の方に入っていったな....」

弱音を吐きながらもうボールを諦めようかと思った。だがその時、少し奥の方で微かに光が見えた。見間違いかと思ったが、やはり光っている。いや、光っているというより「輝いている」。

僕は思わず拾い上げた。どの方位から見ても白く輝く手のひらより少し大きいサイズのその石は、自然と僕に「力」を与えてくれる気がした。

「まだ見つからないのー?」

その美しさの余韻に浸っているところに、彼女の声でようやく現実へと戻された。

「はいはい。今行くよー」

僕はその石の近くにちょうどボールが落ちているのをみつけ、拾おうと腰をかがめると同時にその石をポケットの中へ入れた。

平たく丸い石だったので水着のポケットに入れても痛くはなかった。

「まきちゃん見て見てー変な石見つけたー」

「え!すごい綺麗!いいないいな!」

「まきちゃんには貸さないよ〜」

「え〜いいじゃん貸してよ〜」


      〜その4年後〜


「お邪魔しま〜す」

「あら、まきちゃん久しぶり〜!さ、上がって!ゆうきは2階にいるわよ!!」

 お母さんとまきの会話が1階から聞こえる。今日はまきと昨日でた新作のゲームをやる予定だった。

 ガチャりとドアが開く。

「せめてノックぐらいしろよな」

「まぁまぁ、そんなことよりゲームやろうよ!ほら、ゲーム出して。私機械系いじるの嫌いだから」

相変わらず嫌いなことは俺にやらせる。なんも変わっちゃいないな。

渋々重い腰を上げながら配線の準備をする。

すると、俺はあることに気づいた。

片付けていない。

「あ、この石小2の頃に川で遊んだ時のやつじゃない?なんで飾ってんの?」

「いや、別に飾ってねぇよ。置き場所に困ったから」

「こんなただのキラキラしてる石なんてどこにでもあるから捨てればいいのに。」

「捨てれねぇよ。これは思い出の石だか....」

「ふふふ。意外とピュアなところもあるんだ。」

「関係ないだろ。さ、準備できたからさっさとやろうぜ」

正直、誤魔化そうなんて気持ちはあまりなかった。

せっかくの。こんな機会に俺の気持ちに気づいて欲しかった。


      〜その5年後〜


「まき、お前誰とLINEしてんの。」

「拓也くん。」

 冷静に、俺の目の前で他の男とのLINEを返す。メンヘラのような言い方だが、付き合いたてのまきとせっかく家で遊ぼうとしたのに、正直少し冷めてしまった。

そこにまきが更に、俺に驚く発言をしてきた。

「まだあの石置いてんの?海で拾ってきただけのただの石なのに。」

「拾ってきたのは川だよ」

「わかったわかった」

 イライラしていることを察していたのか、別の話題に変えようとするが話しが入ってこなかった。

「石は何も悪くない。ただの石とか言うな」

は?と言わんばかりの表情で俺を見つめてくる。

自分でもたかが石に何をキレているんだとツッコミたくなる発言だ。

彼女はただ、ドン引きな眼差しで俺を見つめる。もう、何か全てがどうでもよくなってきた。

「なんでそんな目で俺を見るんだ?」

「あんたもあの動画のこと知ってるでしょ?」

あの動画とは、誰かが撮影した俺の映像だった。誰が撮ったのか心当たりは全く無く、いつの間にかみんなに拡散されていた。その映像には、弱っている鳩に向かって俺が「その石」を投げて遊んでいるものだった。

「だからどうしたの?俺が怖いの?あの石が怖いの?」

「そういうとこだよ」


      〜その3年後〜


「付き合って3年。もう、無理。限界!!」

部屋一帯にその叫び声が響く。正直頭が痛くなった。聞き流そうかと思ったが、これは反論できると思って必死に怒りを抑えつつ冷静に彼女を諭す。

「何言ってるんだ。俺は正しい選択をしたんだ。その結果がこれだ。最善の選択をしたのにお前はこれ以上のハッピーエンドを思いついている上で俺を批判しているならまだしも、策すら考えていないお前に俺の気持ちを理解される筋合いは無い。」

「もうこりごり。なんのために生きてるのかすら分からない。」

「この家の外へ出たら誰かに言うのか?俺の事を。いいさ。言えばいい。お前にはもう言える相手はいないからな。」

 これでもかなり脅したつもりだが、まだ言葉を続けてくるまきに嫌気がさす。

「もう何を言っているのか分からない。何で殺したの。拓也くんを。」

「確実にあいつは俺を殺そうと企んでから家に来た。睡眠薬を入れられてたんだよ。俺の麦茶に。」

「なんで拓也くんがそんなことをする必要があるの。」

いちいちうるさい女だ。

「知らないのか?あいつはお前狙いだぞ。目的は身体かもしれないがな。そしてなにより、あいつ半グレとかヤクザとかとつるんでるらしいじゃねぇか。俺に睡眠薬を混ぜて後処理はそいつらに任せる。それが1番濃厚な説じゃないのかな。」

「嘘だよ....」

「火のないところに煙は立たない。ヤクザとつるんでるのはほぼ確実。そいつらと一緒にいるとこも写真撮られてるから。」

「......でも...」

「もし拓也に取られてたらどういう生活してたろうなお前。一生あいつらの奴隷だったのかな。だとしたら俺がお前を救ったってことにならないか?彼氏としての役割を」

   部屋に大きな音が響く。

 部屋のモニターの画面が割れた。

 まきが思いっきり昔遊んだゲームのコントローラーで割っているのが見えた。何をそんなに怒ることがあったのだろうか。それともまだこの現実が飲み込めてないとか。

「落ち着けって」

「無理だよ」

「とりあえず座れ」

「嫌だよ....」

「なんで」

「もう無理。何もかも。」

「俺は守ってあげたんだよ」

「うるさい。」

走るように、逃げるように俺の部屋から飛び出そうとしていくのを確認したと同時に彼女の腕を掴んでいた。必死に離せと叫びながらもがく所を、俺は近くに置いてあった石で彼女の頭を殴った。気絶する程度に。

ボコンッと鈍い音がした。

「痛ぁァ!!!」

もう少しでドアノブに手が届くところだった。だが力加減をミスったか。華奢なので手加減したが弱くしすぎたか....

「拓也くんは.....そんな......人じゃない......」

「もうそれ以上喋るなよ。」

「あなたは.....妄想を見ている........」

床に這いつくばりながらゆっくりと拓也のカバンへと向かっていく。残りの気力を振り絞りながら。

そのジッパーをゆっくり下げ、中のものを全て放りだす。

「カバンの中も.....麦茶にも.....睡眠薬なんて入ってない。......勘違いをしたのよ」

そして、今にも死にそうな声で続ける。

「拓也くんは....私のことが好きなのは知ってた.....だけどあなたを殺そうとはしていない....あなたを止めようと交渉しに来た....」

そして、

「いつもゆうきに殴られて....叩かれて....パシリにされ、八つ当たりされて。もううんざりなの。このこと、拓也くんは知ってた。だからもう辞めてくれって直接あなたに交渉しに来た....殴るつもりではいたけど....殺さないから安心してって言ってた.......もう私は拓也くんと付き合ってるの......」

僕はその時、自分は何をしていたのかわからなくなった。人をここで1人殺し、もう1人は気絶寸前まで苦しめた。もしこれが本当に俺の勘違いなのだとしたら......そう思うと......

俺は握っていた石を思いっきり壁へ叩きつけた。それを拾い上げ、また壁にガンガン叩きつける。ヒビが入り、唸りながら、鼻息を荒らげながら、必死で理性を抑えようと叩き続けた。丸くて平たい石が、角のとがった角錐の石へと変わった。目を充血させる俺。

彼女はその俺の姿を、見ようともしない。

今こんなにところで彼女が喋ったりなんかしたら.........喋られたり何かしたら.......

「拓也くんは、私を」

「うるさいッ!!もうわかった!!」

「ゆうきから.....守るために」

割れて尖った、どの方位から見ても白く輝く手のひらサイズの小さなその石は、自然と僕に勇気を与えてくれる気がする。

石の先端は、彼女の首に、深く刺さっていた。細く白く美しい首筋が次第に赤色に染まっていく。

その時俺は呟いた。

「石は悪くない」


      〜その15年後〜


 もう38歳になっていた俺は、就活真っ盛りな時期を逃し、その間裁縫や質素な食事をして刑務所で過ごしていた。裁判の時に凶器として石が出された時、再会できた喜びと、もう会えないという悲しみに暮れていた。

俺は約30年振りに、思い出の川へ訪れた。あたりは丸くて平たい石が、散乱している。その中に、奇跡的にあの石が落ちていたのを発見した。そう。確実にあの時の石。裏面には、あの時に必死に壁に叩きつけてできた傷。なぜこんなとこに落ちているのかは分からない。本当はもう見たく無いはずなのに、こうして再会できたことへ何故か縁を感じた。

どの方位から見ても白く輝く手のひらサイズの小さなその石は、自然と僕に勇気を与えてくれた気がする。

この薄汚れた俺の思い出に反して、その石はいつまでも石としての輝きを増していた。

だが私はもう石についてあまり興味を持てなかった。その石を川に投げ捨てると、今まで思ったこともないような感情が込み上げてくる。

「働くか。」

あの石には本当に沢山の思い出があるな。

こんな奇跡ってあるんだな。

俺の人生もこれから輝けるのかな。

遠くを見つめながら河原沿いを歩いた。



その川の土手の地面に転がっていた新聞の一面にはこんなことが書かれていた。

「弁護士、「石」で裁判官2人を殺害

 事件について「石が導いてくれた」等と意味不明な供述を繰り返している。」

石が導く奇跡。一見するとロマンチックなテーマなのですが、なんでこんな話になってしまったのか....

まぁでも、ある物に対してひたすら崇敬する人っていますよね。知らぬとこから買った壺だとか、でかい鈴だとか。つまりこの話で何が言いたいかっていうと、何事も過度に信仰するのは良くないです。石に取り憑かれるのは典型的な例です。なんか捨てれない石とかある人とかいますよね。私なんかそうですが、この話は言わばそのLv.100です。スピリチュアル系は友達や家族の信頼をなくしやすいです!気をつけていきましょう!

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