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すいかずら:言葉のない愛の絆
廃屋の垣根に残されたすいかずらは
主も忘れて花盛り
咲き始めは白く次第に黄色に変化する
金銀花からは
茉莉花に似た甘い香りが漂う
金と銀があわじ結びに絡んだ
幸せ契りの水引も
ほつれほどかれ遠い過去
あなたがこの宿を訪れてくれたのは
いつの昔だったろう
あの頃もこのすいかずらは
今を盛りと咲き誇っていた
いずこの姫を訪ねているのか
もう嫉妬する力も私には残されていない
時は男よりも女に辛く当たるから
行きずりだったと割り切る以外に
私に生きる方法はなかった……
嗚呼、それなのに
ある日、あなたは
ひょっこり姿を現した
あの頃と変わらない笑みで
「息災でしたか」と尋ねるあなた
「左大臣に除目で意地悪されて……」
烏帽子を取って頭を掻くあなたの額に
ほろりと銀髪がこぼれかかる
「任地は冬が厳しく連れていくには忍びなく」
あなたは私のうらぶれた部屋を見回す
「他の男の……世話にもならずに?」
私の喉は嗚咽に詰まり
「なるわけがありませぬ」
と言葉にできない
すいかずら 二人の指に巻き付けて
言葉なくとも金銀誓う
すいかずらは愛の絆
私とあなたを結ぶ愛




