スノーフレーク:春の初めの舞踏会
王様は一人娘の17歳の誕生日に
諸国の王子を厳選し
婚約者候補として城に招いた
最終決定は娘に任せようとして
招かれた8名の男たちは
思い思いの盛装で
姫の前に騎士の礼を取る
風花のように清らかな姫は
壇上から課題を与えた
「婚約したら私を何と呼んでくれますか」
男たちは動揺する
武に自信のある者、財に糸目付けぬ者
機知の足らぬ者、趣を知らぬ者
右端の王子から口を開き、姫はそれぞれ答えてく
「姫と」ー「それは何とも趣のない」
「スノーフレークさま」ー「平凡すぎる」
「ラヴ」-「私はまだあなたの愛しい人ではありません」
「ダーリン」-「それほどあなたと親しくもありません」
「スィートハート」ー「右に同じです」
「お前」ー「論外ですわ」
「我が気高き女神」ー「まあ、なんて大上段な」
姫は誰もお気に召さないよう
ところが最後の王子はこう答えた
「鈴蘭……。雪のカケラ又は六花と」
その答えに姫はにっこり笑って言った
「鈴蘭……私を表す名前ですわね。六花という呼び方も好ましい」
最後の王子はさらに低頭し奏上する
「あなた様を表す言葉は一つなどで足りようもありませぬ」
それもそのはず
姫は国一番の美姫
誰よりも美しく
誰よりも優しく
誰よりも誇り高い
姫は壇上から降りて王子に近づき、すっと右手を伸べた
「踊りましょう」
そして、ふたりは軽やかにステップを踏む
その様は雪が舞い踊るように
鈴蘭が香るようにかぐわしく
それは、古の物語
春のはじめの物語……