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押しかけメイドが男の娘だった件  作者: 敷金
第六章 “学園”編
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ACT-92『ベリーベリーコンビニエンス』



「え、えぇえええ?! な、なんでぇ?!」


「嘘だろ、何だよこの展開?!」


「ご都合主義って、本当にあるのねぇ……」



 二人の目線の彼方、おおよそ十メートルほど彼方には、一台のランドクルーザーが停まっていた。


 しかも、その色は「赤色」だった。



「これ、俺達があの世界で乗ってた車と同じ?」


「でもあのランクルは、壊されちゃったのよ?」


「いやそれ以前に、違う世界だし!

 この世界にあるわきゃあないじゃん!」


「でもこれ……キャッ! 鍵開いてるよ?」


 澪のいう通り、ドアロックはかかっていないようで簡単にドアが開けられる。


「もしかして、これ運転出来るのか?」


「試してみる?」


 恐る恐る運転席に座った澪は、ご丁寧にドアポケットに収まっているキーを確認すると、ブレーキを踏みながらエンジンスターターのボタンを押した。

 メーター類が点灯し、エンジンが雄たけびを上げる。


「うっそ! エンジンかかったぁ!」


「ガソリンは?」


「なんと、満タンです!」


「ししし、信じられない幸運!!

 よし澪、そのまま発進しよう!」


「おっけー!

 じゃあ卓也、シートベルト締めてね」


 廃墟の街中にぽつんと置かれていた、妙に綺麗な赤いランドクルーザー。

 二人とも、あまりの都合の良さにもやもや感が晴れないが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 比較的開けた道を選び、澪は軽快にランクルを操り、走り出した。


「ひええええ、で、デコボコ道なのに普通に走れちゃうぅ!」


「さすが4WD!! パワーが違う!

 行けぇ澪! ゾンビ共を蹴散らして走れぃ!!」


「ひぃやだぁ! 蹴散らしたら車が汚れちゃうじゃないのよぉ!」


「赤だから多少は目立たん!」


「そういうことじゃないでしょお~!」


 多少気持ちに余裕が出来たせいか、二人は訳のわからないやりとりをしながらも、ひたすら“遠く”を目指した。

 途中、ゾンビらしき人影が自分達を呆然と眺めている様子が見える。

 しかし、結構なスピードで走るランクルに覆い縋ろうとする者はなく、思ったよりもあっさりと、二人は危険地帯を抜けることが出来た。







  ■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■

 

    ACT-92『ベリーベリーコンビニエンス』





 十分程走ると、景色は益々荒れ果てて行く。

 位置的な関係で、今走っているこの道は青梅街道の筈で、まもなく新宿駅付近に到着する筈だ。

 しかし、それと思しき建物は見当たらず、それどころかあの有名な“大ガード”すらもない。

 いや、長年の荒廃で崩れ果ててしまったのかもしれないが、それを差し引いても、周辺の景色は卓也の記憶と合致するものが全くない。

 建物は皆高さが低いものになり、密集度も低く、個人商店のような建物も増えて来る。


 まるで行った事もない地方都市に紛れ込んでしまったような、奇妙な違和感を覚えた卓也は、怪訝な顔つきで先に伸びる道路を見つめた。


「俺達、今どこ走ってんだ?」


「ナビは……反応してないね。画面真っ暗」


「ここ、東京じゃないぞ明らかに」


「そうだよね、四谷から新宿にかけては何度も走ったからわかるけど、絶対こんなんじゃなかったもん」


「この世界、どうやら街の構造からして俺達の知ってる世界とは違うっぽいね」


「ってことは、本当に手探りで探していくしかないのね……トホホ」


「それより、俺達の家に戻れるのかな?」


「それは大丈夫だと思うわ。

 基本的にここまで一本道だったから」


 更に数分走ると、もはやゾンビらしき影は一切見当たらなくなる。

 景色はやがて田舎の田園風景のように変化し、彼方には山すら見えて来た。

 荒廃した廃墟群は、もう何処にも見当たらない。


 気が付くと、空はもう夕焼け色に染まっており、彼方では夜の帳が降り始めている。

 綺麗なグラデーションを奏でる空に、思わず見とれていた澪だったが――


「え? ちょ、待って?!

 ついさっきお昼になったばかりでしょ?!

 なんでもう夕方ぁ?!」


「そ、そういやそうだ!

 なんか時間の経ち方早すぎないか?!」


「もう午後四時ぃ?!

 卓也、お腹大丈夫?」


「そう言えば、ちょっと空いて来たかも」


「ご飯、食べよっか」


「仕方ない、な」


 あぜ道の真ん中に車を停め、二人は用意して来たサンドウィッチを分け合い食べ始めた。

 外に気を配りながら。

 しかし、食べ終わるまで誰一人として、周囲に近付く者はなかった。


「ごっそさん。美味しかった」


「あはは、全部食べちゃったね」


「ごめん、結構腹減ってたみたいで」


「いいのよ! 食べられる時に食べた方がいいから」


 これで、手持ちの食料はもうない。

 元々たかが知れた量ではあったが、ここからは本格的に食料を見つけなければならない。

 口に出さずとも、二人ともその思いは共通していた。


「もう少し、走ってみるか」


「うん、そうだね。

 でもこの調子だと、今日中におうちに帰れるかわからないわよ」


 空はだんだん暗くなっていく。

 明らかに陽の落ちる早さが尋常ではないが、そんなことは言っていられない。

 二人はやむなく、もう少し先に進んで民家がないか期待を賭けてみることにした。



 ――それから二時間。



 ランクルはひたすら続く田舎道を抜けて、ようやく一般道と思しき路に出られた。

 そこは普通に舗装されたアスファルトの道路で、最初の街とは違って特に荒廃した様子はない。


 田舎の郊外に出たような感じの路を更に進んでいくと、今度は彼方に住宅街らしき影が見えて来る。

 かなり疲労が溜って来た二人にとって、その光景は大きな救いに思われた。


「澪! 家があんなに沢山!」


「ねえ、明かりがついてる家もあるみたいよ?!

 これってもしかして?!」


「人が住んでる?!

 だったら、近くにコンビニとかあるかもしれないな!」


「やったぁ! じゃあ、もう少し張り切っていくよぉ!」


 急に元気を取り戻した二人は、住宅街のある方向に向かって走って行く。

 丘状の広大な敷地一杯に広がる住宅街は、かなりの規模のように思える。

 二人の期待はどんどん膨らんで行った。


 だが……どんなに走っても、路は住宅街の方へ向かってくれない。

 むしろ、どんどん離れて行っているようにすら思えた。


「おいおいおい、なんだかどんどん寂れた方に行ってない?」


「で、でもここ、一本道だし、どうしてもこうなっちゃうのよ!」


「え~?! まさかここまで来て辿り着けないのか?!」


「そんなこと、ボクに言われたってぇ!」


 更に十数分程走ったものの、やはり住宅街とは見当違いの方向へ行ってしまう。


 やがて路は住宅街を回り込むように進み、小さな山を思わせる丘へと向かい伸び始めた。


「あ、見て! 街灯が灯ってるわ」


「ホントだ! じゃあこの辺には電気が供給されてるんだ」


 まるで二人を迎えるかのように、道路の脇に並ぶ街灯が小さな明かりを灯している。

 いつの間にか二人は、そんな路をそのまま進むことに違和感を抱かなくなっていた。

 路は少々勾配になっており、その先には何か大きな建造物のシルエットが見える。

 さすがにもう辺りは真っ暗になっており、その建物が何かを視認することは難しい。


「なんか、まるであの建物に来いって言われてるみたいだな」


「うん、ボクもそんな気がする」


「気味悪いな。

 澪、迂回出来そうだったら曲がって行こう」


「うん、そうだね」


 言い知れない薄気味悪さを覚えた二人は、謎の建物の手前数十メートルの辺りから分岐し始めた路を適応に曲がってみた。

 すると、先程入れなかった住宅街の中にすんなり辿り着く事が出来てしまった。


「ありゃ、今度はあっさりと」


「この辺りのおうちは、全然崩壊してる感じがしないわね」


「いったいどうなってんだ、この世界は?!」


「どうしよう? どこかのお宅に声をかけて話を聞いてみる?」


 澪の提案に、卓也は即座に首を振る。


「やめとこ。

 こんな夜にいきなり見知らぬ奴らが尋ねて来て“この世界ってどんなとこですか?”なんて聞いて来たらどう思われるかって話だぞ」


「それもそうね」


「それにしても、静かだなこの住宅街」


「夜の住宅街って、だいたいこんなものじゃないの?」


「ああ、そうかもしれないけど……」


 卓也は、明かりが点いている家が立ち並ぶ住宅を眺めながら、何とも言葉に現しがたい違和感を覚えていた。

 ごく普通の、どこにでもありそうな閑静な住宅街。

 だが、何かが強烈に違っている。

 そして、自分自身それに気付いている筈なのに、それがよくわからない。


 住宅街を軽く周回したところで、澪は前方を指差して小さく声を上げた。


「卓也、見て!」


「えっ?

 ――ありゃ、店?」


「そうよ! コンビニかしら?」


「マジか!

 だとしたら天の助け!

 澪、近くに停めてくれ」


「はーい!」


 接近してみると、そこは二人の予想通り、一軒のコンビニのようだった。

 都内の寂れた街の一角にあるような、個人商店規模のマイナーコンビニといった印象。

 店の周りには駐車場はなく、道路から直接入口に入るようなスタイルだ。

 それでも、煌々と輝く店の明かりは、二人にとって大きな救いに感じられてならなかった。



 車を店の前に停めると、二人は飛び込むような勢いで入口をくぐった。

 チリ~ンという、風鈴を思わせるような音が鳴る。


 店は、想像していたよりもかなり小規模で、ぶっちゃけとても狭い。

 だが、その中にはぎっしりと商品が詰め込まれた棚が、所狭しと配置されている。


 生活用品、インスタント食品、菓子パンや調理パン、弁当やおにぎり、サラダや総菜……

 種類は少ないものの、全体的な量はかなりのもので、しかもついさっきチャージしたばかりのようにすら見える。

 奥の方には飲料商品を詰め込んだ冷蔵庫もあり、そちらもかなり充実しているように思えた。


 だが、この店には、決定的なものが足りていない。

 二人とも、それにいち早く気付いていた。


「ねえ卓也、このパターンて」


「ああ、ものすごく身に覚えがある」


「そうよね、ボクもなんだ」


「これって、あの世界の、アレと同じじゃね?」


「どう考えても、そうよね」


「じゃあ、真っ先に捜すのは」


「「 店員さん!! 」」


 二人の声がハモる。

 そう、この店には店員がおらず、それどころか人の気配が全くないのだ。


 “誰もいない世界”に居た時、自宅の近所のコンビニにも店員がおらず、それなのに商品が高頻度で入れ替えられているという不思議な状況を体験した。

 この小さなコンビニも、あの時と非常に状況が似ている。

 澪と卓也は、レジの横からバックヤードを覗き込むが、誰も居ないようだ。

 声を上げても、誰も出て来る兆しがない。


「お~い澪、食料なんだけどさぁ」


「うん、賞味期限とかどう?」


「いや、それがなぁ」


「どうしたの?」


「記載が、ないんだ」


「え?」


「どの商品も、賞味期限も消費期限も書かれてないんだな、これが」


「どどど、どういうこと?」


「それにさ、これ、見ろよ」


 小さなカゴに入れたいくつかの商品を、卓也は示して見せる。

 澪はそれを手に取ってしばらく見つめたが――


「何よこれ! “カットヌードル”? カップヌードルじゃなくて?」


「こっちなんかククレカレーじゃなくて“クレクレカレー”だよ」


「うっわぁ、パチくさぁ」


「これだけじゃなくてな。

 どうもここにある商品全部、どっかで見た事あるようで違うもんばっかりみたいだ」


 卓也のいう通り、この店内の商品は、まるで既存のコンビニ製品をちょっとだけ名称変更したような、或いはパッケージを少々小細工しただけのような、そういったものばかりが並べられている。

 十分ほど店内を物色した限りだと、オリジナルそのまんまな商品は一つも見当たらない。

 中にはオリジナルなのかパチモノなのか区別が付かないものもあるが、恐らくどれも同じようなものだろう。


 結局、何をどうしようとこのコンビニにお金を落すことは出来そうにない。

 躊躇いはあったものの、腹が空いて来た卓也は、手近にあったコロッケパンを引っ掴むと徐に袋を破り、ガブリとかぶりついた。


「あっ! 卓也ダメよぉ!」


「仕方ないじゃん、払いたくても払えないんだかr――うっわ、これ」


「どどど、どうしたの?! 変な味がするの?!」


「すっごく、素朴な味」


「へ?」


「食べてみろよ、なんかこう、本当に普通って感じだから」


「じゃあ、ちょっとだけ。

 ――あら、でも美味しいじゃないの。普通に」


 卓也の齧った部分を少し千切り、澪は口に放り込む。

 特に目を剥くようなことはなく、かといって顔をしかめるようなこともない。

 

 ご丁寧に、カウンターにはお湯の入ったポットもあるので、卓也は早速“カットヌードル”なるものを食べてみることにした。


 三分後。


「う~ん、これただのカップヌードル」


「味はそのまんまなのね?」


「本当に名前だけ違う感じだな。

 んで、これメーカーどこ?」


「書かれてないわね……何なのよまったく」


「澪も、何か食べとけよ」


「あ、うん」


 適当に総菜パンと野菜ジュースを手に取った澪は、卓也と並んでカウンターに腰かけて食事を始めた。

 飲食用のスペースはおろか、テーブルや椅子のような気取ったものは、ここにはない。

 澪は、卓也のカットヌードルを一口分けてもらうと、頬をほんのりと赤らめた。

 

 とりあえずの目的を達成した二人は、さてこの後どうするべきかと考え始めた。


「とりあえず、お酒は確保しなくっちゃね」


「そうそう、あと当面の食料と水分も」


「それらは車に積むとして……生活用品も貰って行きましょう」


 誰もいない世界での経験が活きて……というより災いしてか、店内の品物を強奪することに、二人とも躊躇いが殆どない。

 だがしかし、二人はそこで新たな問題に直面してしまった。


「――酒が、置いてないだと?!」


「ええっ?! う、売り切れ?」


「いや違う、空いてるコーナーはどこにもないってことは、ここ、はなから酒を扱ってないんだ」


「え~! じゃあ、酔っぱらうこと出来ないじゃないのよぉ!」


「嘘だろ、こことは違う所をまた探せってのかよぉ~!」


 思わず、通路の真ん中にへたりこんでしまう。

 一応バックヤードなども確認し、調理酒などもないか探してみたが、やはり卓也の見込みで正解だったようだ。


 やむなく二人は、必要なものを車に積み込み、更に移動を試みることにした。


「ねえ、卓也」


「ん、どうした?」


「思うんだけど、今夜はこのコンビニの中で泊まらない?」


「奇遇だな、俺もそう思ってたんだよ」


「そうでしょ、そうでしょ? やっぱその方が効率いいよね!」


「だとしたら、この建物の中に何があるのか調べてみないとな」


「思うんだけどね、卓也。

 この世界が“誰もいない世界”と同じような世界だったら、周りのおうちにも誰もいないんじゃないかしら?」


「おお、その可能性もあるな。

 だったら、そこを使わせてもらえb――」


 そこまで話した時、突然


 チリ~ン


 と音が鳴り、入口のドアが開く音が聞こえて来た。


「え」


「うそ、誰か来た?!」


 見ると、入口付近に誰かが立っている。

 無言でこちらを睨みつけているのは、パッと見卓也よりかなり年上の男性。

 薄汚れたTシャツと半ズボンを身に着け、ぼさぼさの頭を揺さぶっている。

 目の焦点が、合っていない。


 一目で普通ではないことがわかる。


「あ、す、すみません! 誰もいなかったんで、つい」


「ごめんなさい! お金ちゃんと払いますから!」


 男性に向かって懸命に弁明するも、どうやら聞いていないようだ。

 男はゆっくりとこちらに歩み寄ると、虚ろな目を向けて唸り始めた。



 う ぁ あ ぁ あ あ 



 地獄の底から響いてくるような不気味な声に、二人は、ようやく事態を把握した。

 というより、思い出した。


 そうだ、この世界は――


「こ、こ、こいつ! ゾンビだぁ!!」


「え、えええええっ?!」



 う ぁ あ あ ぅ



 よく見ると、男の顔や肌はまるで絵の具を塗ったように青白く、衣服の模様に見えたものは滲んだ血だ。



 男は両腕を前に突き出すと、目玉が零れ落ちそうなほどに目を見開き、襲い掛かって来た。


「うぎゃあああ!! に、にげろ澪ぉ!!」


「きゃあああ! や、やっぱりここ、ゾンビの世界で確定なのぉ?!」


 こうなったら、もう食料調達どころじゃない。

 二人は一旦店の奥に走ると、ゾンビの後ろに回り込み、入口へ向かった。

 幸い、ゾンビの動きは緩慢なので、巻くのは難しくない。

 店を出て車に戻ろうとしたその瞬間、二人は見てしまった。


「うわ」


「な、なぁっ?!」


 なんと、赤いランクルの周りに、三体程の別なゾンビが集まっている。

 彼らは二人の存在に気付くと、実にわかりやすいゾンビウォークをしながら近付いて来た。



 え あ ぅ あ ぁ 


 う う う ぅ ぅ う


 あ ぁ ぁ あ あ 



「逃げるぞ、澪!」


「に、逃げるって、何処へよ?!」


「わからん! とにかく走れ!」


「ちょ、待ってよぉ卓也ぁ!!」


 気が付くと、周りの路地から、住宅の門から、次々にゾンビが湧いてくる。

 その数は、昼間に街で見た数を遥かに凌駕している。

 碁盤目状に交差した路をくねくねと曲がりながら、二人は際どいところでゾンビの群れをかわしていく。


「ひいい! な、なんでこうなっちゃうのよぉ!」


「澪、とにかく走れ!

 あそこに逃げ込むぞ!」


「あそこってどこよぉ?!」


「え~と、あの、でっかな建物!」


「そ、その中にもゾンビが居たらど~すんのよぉ!」


「今回が『押しかけメイドが男の娘だった件』の最終回になるだけだ!」


「ひゃあ~! それが一番まずいじゃないのよぉ~!!」


 二人が逃げる先に見えるのは、先程車内から見えた大きな建物と思しき場所。

 またも、そこに導かれるように足が向いてしまう。


 背の高いコンクリートの外壁に沿って走って行くと、やがて正門が見えて来る。

 もう足が限界に近付いた二人は、よたよたしながらも、なんとかそこまで辿り着けた。


 門は格子状の柵門になっており、かなりの重量がありそうながっしりしたもので、端に僅かな隙間が開いている。


「は、入るの?!」


「それしかないだろ! 行くぞ澪」


「それしかないかぁ! わかったわよぉ!」


 狭い隙間に身体を無理矢理押し込むと、卓也は力いっぱい振り絞り、柵門をがっちりと閉じる。

 遅れてやって来たゾンビ達は、あとちょっとのところで鋼鉄製の大きな門に行く手を阻まれる形となった。


 錠を下ろすと、二人はまたもその場にへたりこんでしまった。

 背後からは、ゾンビ共の呻き声が無数に木霊している。


「た、た、助かった……んか?」


「ど、どうやらそうみたいね。

 でも、どうするの? これから」


「そりゃそうと、このでっかな建物、いったい何なんだ?」


「なんかとても広い庭があるわね。

 もしかして、超お金持ちのおうちとか?」


「いや、これは――違う感じだな。

 どちらかっていうと、何かの施設みたいな感じしないか?」


「そう?」


 卓也は、夜空にそびえ立つ建物を見上げながら、呟く。

 そんな彼に寄り添うと、澪は辺りをきょろきょろ見回した。


「見て! あっちの方に明かりが」


「ホントだ! 誰かいるのかな」


「だといいけど……この中にもゾンビが居たら間違いなくアウトね」


「そうだな、どうかゾンビが居ませんように」


 そう呟いて先に進もうとしたその時、突然、正面玄関と思われる場所に明かりが灯った。


「え?」


「ライト?! やっぱ誰かいるのか?!」


 突然明るくなった庭の真ん中で呆然としていると、建物の中から、何人もの人影がぞろぞろと現れた。

 無数の靴音が、暗闇に響き渡る。


「うわぁ、こりゃあもっとヤバい展開になってきた予感!」


「次回! 押しかけメイドが男の娘だった件 最終回! ご期待ください!」


「こんなピンチな時に、しつこくメタ発言しないでってばぁ~!!」


 なす術もなく震え上がっている二人の前に、十人程の人影が並ぶ。

 ライトの逆光で、その姿は良く見えない。


 だが彼らは皆、足取りがしっかりしているように思える。




「早く、中へ!」




「えっ」


「こ、今度こそ、人間?!」



 中央に立つ背の高い男が、二人に向かって手を差し伸べて来た。




「ようこそ“学園”へ。

 君達の来訪を歓迎しよう」




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