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押しかけメイドが男の娘だった件  作者: 敷金
第五章 アンナセイヴァーの世界編
80/118

ACT-79『もしかして大事件の前触れですか?!』

※今回のエピソードは、拙作「美神戦隊アンナセイヴァー」第106話と同時進行の内容となります。

 「アンナセイヴァー」では、今回のエピソードとは異なる視点での内容となっております。

 必ず両方読まなければわからない、といった展開ではありませんが、宜しければマルチサイト(複数視点)での展開をお楽しみください。


「そうか、じゃあ早速今日の打ち合わせだが」


「その前に寝ろよお前」


 なんだかんだで老け卓也を手伝うことになった卓也は、渋々ながら彼の話に付き合うことにする。



 老け卓也の計画は、こういうものだ。

 今日の午後一時から二時頃にかけて、渋谷か新宿のいずれかに到着。

 渋谷ならJR渋谷駅周辺、新宿なら歌舞伎町周辺をポイントとして拠点を決めて待機。

 その間、スマホかモバイルPCでSNSや匿名掲示板を経由して情報収集。

 変化が起きたら即座にその場所に移動する。


 無論、当てが外れて全く違う場所にアンナセイヴァーが現れたらアウト。

 しかし、現状これが老け卓也に考えられる最良の対策だった。


「よし、じゃあじゃんけんだ」


「なして?」


「どちらが新宿か、渋谷かって割り当て」


「え~、面倒だからお前が決めて。俺がそこ以外にするって」


「おうそうか、それはありがたい。

 じゃあ……どっちにしようかな。

 おい卓也、やっぱ決め切れないからじゃんけんしてくれ」


「あのなあ」


 結局、勝った方が新宿、負けた方が渋谷ということでじゃんけん一発勝負が行われることになった。








  ■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■

 

  ACT-79『もしかして大事件の前触れですか?!』






 澪が用意してくれたランチプレートを温めると、二人の卓也はテーブル越しに顔を突き合わせて食べ始めた。


「なんかこれ、盛り付けがお子様ランチみてぇだ」


「そうはいうがな卓也。

 このチキンソテー、味付け超美味いぞ!」


「だろ、澪の料理はプロ級だからな。

 見ろよこのバターライス。マッシュルームの風味がすんごくて胡椒も利いててたまらんわ」


「生ハムトマトも美味いし、このまろやかなマッシュポテトがまた……」


「干しブドウが混ぜてあるのが、またいいんだよね」


「本当に、あの子は料理の天才だな!

 いったいどうやって知り合ったんだ? 卓也」


「言ってもどうせ信じないだろ」


「聞かせろよ、別にどこかに言いふらしたりしないし」


「あ~、まあ俺達がいなくなった後ならどうでもいいんだけどな」


 卓也は、炒め玉ねぎのコンソメスープクルトン入りを飲み干して息を吐くと、仕方ないといった態度で話し始めた。


 ある晩、突然マンションに訪問してきたこと。

 彼がロイエという、世界的製薬企業イーデルが秘密裏に生産した人造生命体ホムンクルスであること。

 特殊な性的嗜好の顧客に合わせて調整された、極上ランクの“ロイエ”であるため、通常生活や事務的なもののみならず、性的な技術までもが完璧に仕込まれているということ。

 元々は別世界の別な卓也に向けて納入された商品だったが、紆余曲折を経て自分のところに来たこと。

 既に三つもの世界を渡り歩き、それぞれの世界で奇異な体験をしてきたこと。


 これらを、卓也は老け卓也に詳しく説明する。

 はじめは半信半疑といった感じだったが、説明の途中から、老け卓也はいつしか真剣な表情で聞き入っていた。


「――というわけだ。

 どうだ、とても信じられないだろう?」


「いや、そうでもない」


「お?」


「だって今、実際にここに神代卓也が二人居るわけだし、澪と新崎の例もあるし。

 納得するだけの材料は揃ってるよ。

 それに……誰もいない世界だっけ? その話、異常なくらいリアリティがあって正直とても興味深いよ」


「お、おう。ありがとう」


「それにしても、植物の化け物の話めっちゃ怖いな。

 そういうのがこっちの世界に居なくてホント良かったと思ってる」


「マジそれな。

 本気で何度も死ぬかと思ったもの」


 話が、異様に盛り上がる。

 澪の話からいつしか異世界の話題にシフトし、細かな経験談に華が咲く。

 この後の予定の話も、頭から飛びそうになるくらいに。


「あ、やべぇぞ老け卓也!

 もう出ないと」


「うえ、もうそんな時間か?! 急ごう!」


「じゃあ四ツ谷駅で新宿まで出て、俺はそこで降りればいいな」


「そうだ卓也。

 んで俺は山手に乗り換えて渋谷に向かう」


 互いのスマホでLINE登録を済ませると、向かい合って頷き合う。

 いつしか二人の間には、奇妙な友情のようなものが芽生え始めていた……ような気がした。





 卓也から予算はたっぷり貰って来た。

 一人で駅まで歩いて一人で電車に乗って移動するのはいささか心細いが、いつもと違う新鮮な気持ちで居られるのもまた事実だ。

 振り返れば、こうして私服をまとって一人で自由に街を闊歩するなど、ロイエとしては本来ありえない事だ。

 しかし今、ロイエという縛りが全く存在しない世界に於いて、澪は完全な自由人だった。


「さて……と。

 新宿駅に着いたら、今度は山手線内回りで渋谷まで、ね。

 未央はもう着いてるかしら?」


 少し軽い足取りで中央線から新宿駅に降り立つと、澪は何やら只ならぬ雰囲気を感じ取った。


(うえ……な、何?)


 平日の日中にも関わらず、ホーム内に人がやたら多い。

 それだけではなく、次々に電車から大勢の人が降りて来る。


(し、新宿駅の利用客数が世界一多いってのは知ってるけど、それにしても異常じゃない?

 なんで?)


 あっという間に人混み状態に陥ったホームから、まるで流されるように移動した澪は、転ばないよう必死で階段を降りる。

 やはり14番線への路も非常に混んでおり、これではまるで何かの大型イベントでもあるかのようだ。


(イベント……って、まさかこの人達が全部、あの話にってことはないよね?)


 ぎゅうぎゅう詰めの車内に身体をねじ込むように乗り込んだ澪は、その十数分後、予想が正しかったことを思い知ることになった。





「み、澪さ~ん!」


 酷く疲れ切った声で呼びかけて来たのは、白を基調とした涼し気なサマードレスをまとった未央だった。

 大胆な膝上丈、ノースリーブで背中も大きく開いているデザインだが、それでも清楚なお嬢様といった着こなしで悪印象はない。

 問題は、せっかくのスカートが人混みのせいなのか皺だらけになってしまいっている点だ。


 かくいう澪も、似たような状態なので人のことは言えなかったが。


「おまたせ~。

 いやぁ、すんごい人だったねえ」


「そうなんですよ。

 知ってますか? ここに謎のコスプレ集団が現れるって書き込みがSNSでアップされてたからみたいです」


「え、やっぱりこの人達って、みんなそうなの?」


「そうみたいです……ね」


 元々渋谷駅周辺は人の数が多いものだが、今日ははたからでもわかるくらい段違いに多い。

 しかも駅周辺からあまり動かず、かといって待ち合わせをしているとは思えない雰囲気の者達ばかり。


 更に加えて、あまり渋谷に似つかわしくない――秋葉原辺りにいそうな中年男性の集団まで集まっている。

 中にはバズーカ砲のようなレンズを付けたカメラを抱え、しきりに辺りの様子を窺っている者達まで居る。


 彼らの目的が何であるか、二人は確信していた。


「ま、まあ、僕達には関係ないし……あはは」


「さぁ、目的地に行きましょ。

 渋谷ぱるるって、ボクの居た世界にはなかったの。

 だからとっても気になるわ!」


「そうなんですか!

 そういうの、微妙に違ってたりするんですね」


「尤も、渋谷に一人で出かけることなんかもなかったから、あんまり変わらないんだけどね」


「あらら♪」


 澪と未央は、仲良く並んでスクランブル交差点を渡って行く。

 そのあまりの美しさに、道行く人々はつい彼らを見、また振り返る。

 中には声をかけてくる者達も居たが、二人は完全に無視して交差点を突っ切った。



 渋谷ぱるる。

 JR渋谷駅ハチ公口付近、スクランブル交差点を渡って渋谷センター街方面に向かうと見えて来る、大型の商業施設。

 109より手前であり、直接交差点に面しているということもあり非常にアクセスが容易である上、地下街とも繋がっている。

 低階層に若年層向けの、そして高階層には様々な世代の客層をターゲットにした有名テナントが入っている上、最上階のレストラン街、また映画館等もあり、今とても人気の高いポイントだ。


 入口をくぐった直後、フロアの華麗さに澪は一瞬で魅了された。


「うわぁ、素敵ぃ! とっても綺麗でいいわね!」


「でしょ? 僕もお気に入りなんですよ。

 澪さん、上の階でお茶しませんか?」


「うんうん、行く行く!」


 そこまで極端に広いわけではないフロアスペースだが、壁色や装飾、また通路の道幅やエスカレーター、エレベーター前の空間が大きく取られているため、実際よりもかなり広く感じられる。

 客層は若い女性が多いようで、自分達が混じっていいのだろうかという躊躇いもあったが、エスカレーターに乗った時点で、そんな気持ちはだんだんどうでも良くなって来た。


「最上階に、とっても素敵なカフェがあるんです。そこに行きましょう」


「は~い♪」


 未央の誘導に素直に従い後を付いていく。

 その時、澪はふと思った。


(あれ、この場合デートってことになるのかしら?

 でも、別に相手は恋人ってわけじゃないし……この世界の自分自身だし……えっと)


 そんな事を考えていると、ふと視界の端に気になる者が見えた。

 エスカレーターでの移動中、二階のバルコニー状のフロアから吹き抜けを通じ、階下を眺めている少女。

 特に何の変哲もない光景だったが、何故か妙に心に引っ掛かる。


「どうしたんですか、澪さん?」


「え? あ、ごめん何でもないの」


 ふと見返すと、先程まで居た少女の姿がもうない。

 きっと何処かに移動したんだろうと思い返し、澪はもうそれ以上気にしないことにした。




 

 カフェに着いた澪と未央は、これからどうするかの話よりも、女装談義に華を咲かせていた。

 

「――だからね、卓也ったら物凄く反応がウブで可愛くって♪ ついついからかいたくなっちゃうの」


「いいですねぇ、素敵ですぅ。

 ああ、僕も先輩とそういう関係になりたぁい」


「そういえば卓也さん、しばらく有給取りたいって言ってたわよ?」


「え、そうなんですか?!

 それはやだなあ、ずっと逢えないってことじゃないですかぁ」


「う~ん、なんか同情したくなるような、そうでないような」


「澪さん、僕と入れ替わってもらえませんか? 一日だけでもいいから」


「そんな漫画みたいに上手く行かないわよ。絶対バレるって」


「そうですかぁ?」


「……卓也にガチで明け方まで寝かせてもらえなくなるわよ」


「えぇ♪ それはそれで♪」


「見境ないの?」


「あ、いやその、欲求不満が溜っててつい」


 初めて卓也と出会った時、どのようにして誘惑したかを武勇伝のように語る澪と、それに感銘を受ける未央。

 気付くと、時刻はもう午後四時を過ぎていた。


「澪さん、もうこんな時間ですよ。

 そろそろ行きませんか?」


「あ、そうね!

 じゃあそろそろ出ましょうか」


「澪さんのコーデ指南、楽しみにしてますね!」


「おっけ♪

 えっと、じゃあまず何階に行けb」


 そこまで呟いた次の瞬間、突然店の外から大きな悲鳴が聞こえて来た。

 しかも一度ではなく、大勢によるいくつもの声。

 店の雰囲気も一変し、穏やかな空気が破られる。


「み、澪さん?! な、なんでしょう?」


「さ、さぁ?!」


 急いで会計を済ませて店から出てみると、どうやら下の階で何かが起きたようだ。

 何人ものお客が、エスカレーターホールの隙間や吹き抜けのベランダより下を覗いている。


「ちょっと、何あれ?」

「映画か何かの撮影?」


 周囲の人々が、何やら話し込んでいる。

 澪はそれに耳を傾けながらも、階下を覗き込んだ。


「――えぇっ?!」


 下の階を覗いた澪は、想像を絶する光景を目の当たりにして思わず声を上げた。



 なんと吹き抜けの下には、かつて「誰もいない世界」の池袋サンシャインシティ地下で見たような、あの植物魔物プラントモンスターのようなものが、一杯に拡がっていたのだ。


(どうして、この世界にまで?!)


 青ざめた顔で後ずさる澪を、未央が咄嗟に支えた。


「澪さん、大丈夫ですか?!」


「未央、すぐに逃げましょう!

 大変なことになるわ!」


「下でいったい何が起きたんですか?!」


「化け物よ! 植物の化け物が出たの!!」


 あの世界での恐ろしい経験を思い浮かべながら、澪は真剣な眼差しで未央に訴えかけた。








『大変だ!

 渋谷ぱるるで事件発生! XENO の可能性大!

 アンナローグ、発進出来る?!』


 ナイトクローラーが、沈黙を破って突然叫ぶ。

 その声に、それまでぼうっと窓の外を眺めていた少女が、即座に反応する。


「わかりました! 上を開けてください!」


『気を付けてね! 行ってらっしゃい!!』


 ナイトクローラーは天井のハッチを展開し、彼女の立つ床をリフトアップする。


 夕刻の渋谷の街、フィンガーアベニューと神宮通りが交わる交差点。

 赤信号で停車する一台のタウンエースの上に、ピンク色の髪とコスチュームの少女が立ち上がり、爆音を上げて大空へ飛翔した。





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