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押しかけメイドが男の娘だった件  作者: 敷金
第四章 誰もいない世界から脱出編
62/118

ACT-62『さぁ、お仕置きの時間です』


「間違いない、本物だ」


「だ、だから、僕は本物の澪だって言ったじゃない」


「だってさ、さっき俺、ここに居る筈のない奴に会ったから」


「それなら、僕も逢ったわよ」


「え? も、もしかして倉茂に?」


「倉茂さんって言うの? 名前は聞かなかったけど、メガネをかけてて」


「それだー! 澪も逢ったのか!」


「うん、消えちゃったけど。目の前で」


「……」


「さ、行こ。

 上で沙貴も待ってるから」


「沙貴も来てくれたのか。ありがたいなあ」


「そりゃあ、僕達はあなたのロイエなんだから。

 助けに来ない訳ないじゃない!」


「うう、嬉しいのぅ嬉しいのぅ」


「何、中沢啓治の漫画みたいな事言ってるのよ。

 さぁ、もう行こう」


「待ってくれ澪、俺の方も」


「はいはい、帰ったら枯れるまで絞り取ってあげるから、今は我慢して!」


「自分はスッキリしたからって、ズルイ」


「ちょ、そ、それはぁ!!」








  ■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■

 

    ACT-62『さぁ、お仕置きの時間です』






 澪が階下であんなことやこんなことをしている時、上の階では少々面倒な事が起きていた。


 澪が下に降りて十数分程経った後、エレベーターホールに複数の者達が現れた。

 いずれも深くフードを被り、手にはそれぞれ物騒な武器を持っている。

 そのいずれも、周辺の店で手に入りそうなものではあるが、さすがにノコギリまで加わると洒落にならない。

 目の前に居るのは五人。

 そこに加え、更にもう一人奥の方から割り込んで来た者がいる。

 エンジだ。


「よぉ、オカマ野郎!

 さっきはよくもやってくれたな!」


「……」


「差し当たり、もう一人の奴もオカマなんじゃねぇのかぁ?

 ってことは、お前らが助けに来たアイツはホモかよ!

 汚ったねぇなぁ、ケツの穴で毎日ズコバコやってんのかよ、えぇ?!」


「あら、試してみる度胸もない癖に、下品な批判をするの?」


「うるせぇ! 人を騙しといて良く言うぜ!」


「あら。

 騙していたのはあなたの方じゃなかったかしら?」


「うるせぇ! お前も特別に、元の世界に戻してやっからよ!

 さぁ皆さん、お願いします!」


「そこ、人にやらすの?!」


 エンジの指示を受けて、五人のフードを被った者達が距離を詰める。

 五人のうち、三人は棒状の長い武器を持っており、しかもそのうち二人は刺股さすまただ。

 あれで挟みこまれてしまったら、沙貴は一方的に攻撃を受けるしかなくなる。


 現在の沙貴は、ザイルがを護るような立ち位置で彼らと対峙している。

 もし距離を詰められ刺股さすまたで押さえ込まれても、壁際に押し付けられる心配はない。

 しかし、その間に他の二人……いや三人が、ザイルを切ろうとするだろう。

 手の中のアーミーナイフが役立つ場面は、どうやらありそうにない。


 心の中では絶体絶命感に苛まれている沙貴だったが、少しでも時間を引き伸ばそうと、なんとか間を持たせようとする。


「ねえ、あなた」


「これ以上、オカマ野郎のくだらねぇおしゃべりに付き合う気はねぇよ!」


「あ、そ」


 額に青筋を立てて怒号を放つエンジは、一気に決めようと考えているようだ。

 どうやら会話から隙を見出すことは不可能そうだと判断した沙貴は、長い得物を持った三人が前に出た

  

「よっしゃあ! やっちゃってください!

 あのオカマ野郎を地獄に叩き込みましょう!」


「え、地獄?」


 エンジの言葉に、場の空気が一変する。

 武器を構えていた者達も、「お前は何を言ってるんだ?」といった態度で彼の方を向く。


「地獄ってあなた、この下は現実世界に戻れるんじゃなかったの?」


「え?! あ、いやそれは」


「おかしいじゃない、あなた達の教義では、ここは最後に辿り着く聖地みたいな所じゃなかったの?

 それを“地獄”なんて言うの、おかしくない?」


「あ、いやだから、それは言葉のあやで」


「言葉のあやでも、言っていい事と悪い事があるんじゃないかしら。

 ねぇ皆さん?」


 沙貴は、エンジ以外の者達に同意を求める。

 フードを被った者達は、意外にも彼の言葉に深く頷いた。


 その瞬間、沙貴は頭の中で、こう思った。


(チャ~~ンス♪)


「エンジ、あなたはこちらの皆さんと同じ信仰の道を歩んでいるように見せかけて、実際は小馬鹿にしていたんじゃないの?

 そうでなければ、間違ってもそんな言葉は出て来ない筈でしょう?」


「そ、そ、そ、そんなことはないぞぅ」


「本当かしらね、疑わしいわ。

 もし、あなたが本当に信じているのなら、あなたからこの穴を降りてみてくれない?」


「え?」


「信仰に殉じているのなら、出来る筈でしょう?

 そうですよね、皆さん?」


 沙貴の呼びかけに、フードの者達はまたも深く頷く。

 風向きが変わって来た。

 

「私、あなたが先に降りるなら、後を追ってもいいわよ?

 さぁどうするの? 信仰の証を見せて頂戴」


「う、うぐぐぐぐ」


 エンジは顔を真っ赤にしたり、かと思うと真っ青になったりして、沙貴と仲間達を交互に見つめる。

 顔中に脂汗を浮かべ、更には仲間達の疑惑の視線を向けられてたじたじになっている。

 沙貴は、この隙に出来ることは何かを懸命に模索した。

 だが――


「あ、アイツは! 現実世界に戻っても! その後に地獄に行くだろうって話っす!」


 追い詰められたうっかり者は、苦し紛れにおかしな事を唱え出した。


「え?」


「それに、俺はまだ自らここを降りる程徳を詰んでませんっ!

 すなわちぃ! また資格がないんです!

 み、皆さん! 俺に徳を詰ませてください!

 その為にも、アイツを今すぐに、あの穴へ!」


 オーバーなジェスチュアで、必死に呼びかけるエンジ。

 するとフードの者達は、なんと彼の言葉にも深く頷き始めた。


「は、はぁ?!」


 まさかの、逆転。

 まるで時間が巻き戻ったように、ポジションは先程の状態に戻ってしまった。

 ドヤ顔で、エンジが沙貴を睨みつける。


「それでは言い直します!

 皆さん、あの者を現世に返し、更なる徳を詰みましょう!

 さぁ、今です!」


 完全勝利を確信したか、エンジは満面の、それでいて滅茶苦茶イラつく笑顔で見つめて来る。

 あまりのトンデモ展開に呆気に取られた沙貴の一瞬の隙を突き、二本の刺股が彼の腹部に向かって突き出された。


「うぐっ!!」


 上から下に向けて押さえ込むように当てられる刺股は、ザイルのせいで後退出来ない沙貴をあっさりと捕えてしまった。

 ナイフを振り回すが、到底届く筈もない。

 そこに、もう一人の長い棒を持ったものが沙貴の右手を執拗に攻撃し、ナイフを払い落した。


「しまっ……!!」


 その直後、棒の一撃が沙貴の頭に直撃した。

 かなり、強く。


「うっ!!」


 額から、何かが流れ落ちる感覚がある。

 それに怯んだ瞬間、とうとう沙貴は、床に押し倒されねじ伏せられてしまった。

 後頭部を強打し、一瞬意識が朦朧とする。


 何者かが、手首を拘束しようとしている。

 そして何故か、エンジが沙貴のズボンに手をかけ、脱がそうとしているのが見えた。


「へ、へへ、ほ、本当に男だったか、もっかい確認しねぇとなぁ!」


「こ、この……!!」


「さっきのは見間違いかもだしな、もし女だったら謝ってやんぜぇ!」


「や、やめなさい! わ、私の身体は、ご主人様の――」


「うるせぇよ!」


 必死で抵抗するも、三人がかりで押さえ込まれては、さすがの沙貴もどうする事も出来ない。

 完全に発情しているエンジをはじめ、フードを被った者達の何人かも、欲情の眼差しで見つめて来る。

 彼らの股間を見て、沙貴は背筋に怖気を感じた。


(ま、まさかこんなところで、こんな目に……ご主人様!!)


「よっしゃぁ! どうだぁ!!」


「い、いやぁっ!!」


 ボスッ、という音と共に、とうとう沙貴はズボンを全部脱がされてしまった。

 下着をつけていない為、彼の下半身は、男達の欲望にまみれた視線に晒される。

 

 美しい肢体と、そこに付加された小さな膨らみに、男達の目線が集中する。

 誰かが、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。


「す、すげぇ……こいつ、マジで男かよ。

 でも、し、信じられねぇ……これを見ても、まだ女にしか思えねぇ」


「……っ!!」


 今度は両脚を無理やり開かれ、所謂「M字」の状態にされる。

 エンジは鼻息を荒げながら、沙貴の股間に顔を近づけた。

 生暖かい鼻息が、敏感な部分を刺激する。


「や、ほ、本当に止めて……!」


「こ、これは……もうホモとか関係ねぇな。

 な、なんつうか……俺も、その」


 カチャカチャと、金属がぶつかる音がする。

 見ると、なんとエンジが自分のベルトを外そうとし始めている。

 その表情はまっすぐに沙貴の下腹部を見ており、頬が真っ赤だ。

 その意図を察した沙貴は、必死で身をよじり、叫んだ。


「やめて! 本当に止めて!

 た、助けて、ご主人様ぁ! 澪ぉ!!」


 初めて叫ぶ、卓也と澪に向けた救いの懇願。

 だが当然、それに対する応えは、ない。


「い、いやあぁ!! や、止めなさい! あなた、さっきまで私が男だからって嫌がってたでしょう?!」


「う、うるせぇ! おとなしくしろぉ!」


「いや、ダメえぇぇ!!」


「さ、先っぽだけでいいから、な?」


「そういう問題じゃなぁ~~い!!」


 もはや、万策尽きた。

 沙貴は、かつて上司に無理やり行為に及ばされた時の嫌悪感を思い出していた。



「そこまでだ」


 突然、聞き慣れない声が響く。

 と同時に、バスン! という激しい音が聞こえ、誰かの呻き声が続いた。

 更に続けて


「そういうのは、いけませんね。

 さすがに見過ごせません」


 バスン、ドスン、ゴンッ! と、三連撃。

 もう一人の聞き慣れない声と共に、今まで聞いたこともないような打撃音が耳に届く。


 次の瞬間、立ち上がろうとした刺股を持つ者達が、真横に吹き飛んでいった。

 それが、破壊力抜群の回し蹴りによるものだと気付くのに、若干の時間を要する。


「え……?」


「ひ、ひぃ?!」


 最後に残った下半身丸出しエンジは、突如乱入して来た二人の男達を見上げ、硬直していた。

 へなへなと、萎えて行く。


 二人のうち、年配の男の方は、背を向けたまま上着を脱ぎ、沙貴に投げ与えた。


「ひとまず、それを」


「……あ、は、はい……」


 まだ恐怖心と怖気が抜けず立ち上がれない沙貴は、床にペタンと座り込んだまま、突然の救援を呆然と見つめていた。


「さて父さん、どうする?」


「そうだね、ようやく追い詰められたからね」


「俺がやろうか」


「いや、ここは私から直接、反省を促すようにしよう」


 年配の男は、落ち着いた声で呟くと、もう一人の若い男に指示しエンジを立ち上がらせる。

 エンジの顔は、もはや完全に怯えて青ざめている。


「た、助け……ゆ、許し……」


 若い男からエンジを引き渡された年配の男は、彼を壁際に立たせると、優しい声で呟き始めた。

 その表情は、沙貴からは見えない。

 だがなんとなく、想像は出来た。


「数年間、好き放題やってくれたね、エンジ君」


「は、はい……?」


「私達が救おうと、頑張って手を差し伸べて来た人達を、君は何人もここに突き落とした。

 そうだね?」


「あ、いあ、そ、それは……」


「今もそのつもりだったね?

 しかも、この人にこんな酷いことまでして」


「ひ、ひぃ!!」


「今までも、ずっとこんな事をして来たのか?

 どうなんだい?」


「……ひ、ぎ……」


「――エンジ教祖様」


「わ、悪かった……ご、ごめんな……さ……」


「もう謝っても無駄だよ。

 ――さぁ、お仕置きの時間と行こうか」


 完全に怯え切っているエンジから一歩距離を置くと、年配の男はスゥゥと息を吸い込み、止める。

 次の瞬間、彼の姿がブレて見えた。

 凄まじい速度で、正拳突きがエンジに向かって放たれる。


 ボスン!


 ボスン! ボスン! ボスン! ボスン!


 ボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボス!!!


ボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボスボス!!!


 年配の男は、エンジに向かって、無数の拳を容赦なく叩き込んで行った。

 十発や二十発などという、生易しいレベルではない。

 顔を、胸を、腹を、肩を、腕を。

 全身を満遍なく殴り、まるで壁にめり込ませてしまわんがばかりに、手加減一切なしの鉄拳を食らわせる。


 もはや、サンドバッグ状態。

 エンジは、大量の血を巻き散らし、歯の欠片を飛ばし、それでも崩れ落ちる事も許されず、数分間も連撃に晒された。


「でぇいやぁっ!!」


 鋭い気合の声と共に、年配の男はハイキックを頭に食らわせ、よろめいたエンジに更なる連撃を加える。

 回し蹴りで大気ごと薙ぎ払うが如きに、もはや原型を留めなくなったエンジの身体を吹っ飛ばす。

 その先は、エレベーターの穴だ。


「――っッ!!」


 悲鳴を上げることすら出来ず、エンジはそのまま、深き奈落の底に落ちて行った。


「遂に仕留められたな、父さん」


「ああ、久々にすっきりしたよ。

 不思議なもんだな、罪悪感の欠片もない」


「あんな外道に、そんな感情持つ必要もないさ」


「まったくだな。

 ――さて、と」


 さっと取り出したハンカチで返り血を拭き取ると、年配の男は沙貴の方に向き直った。


「沙貴さん、でしたね。

 大丈夫ですか?」


「え、あ、あの……さ、坂上……さん?」


「はい、またお目にかかれて光栄です」


「ど、どうしてここに、坂上さんが?!」


「はい、それはですね――」


 そう言うと、年配の男・坂上敏郎さかがみとしろうは、肩越しにもう一人の男を見る。


「大変申し訳ありませんが、実はアレがですね、皆さんの車に発信機を付けておりまして」


「父さん、GPSな」


「ああ、そうかそうか。

 その、GBSと云うのを辿ってまして」


「GPSです、坂上さん」


「おっとぉ」


 沙貴は、後ろで顔を赤らめながら立っている男に視線を向ける。

 それに気付くと、坂上は少々照れた顔で説明を始めた。


「これは、私の息子です。

 しょうと申しまして」


「よろしく」


 不愛想な挨拶と共に、翔と呼ばれた男は、エンジが奪い去ったズボンを返してくる。

 同時に、ハンカチも渡す。


「額を」


「えっ?」


「血が出てます。これを使って」


「でも、こんな綺麗な――」


「救急箱がありますので、応急処置は上がってから。

 ひとまずそれを」


「は、はい、わかりました」


 ハンカチを受け取ると、沙貴は頬を赤らめて翔を見つめる。

 だが頭がズキリと痛み出したので、急いで血を拭き取り始めた。


「私達はこの者達を片づけて参りますので、その間に服を」


「わ、わかりました。

 あの――」


 沙貴が話しかけようとすると、坂上はウィンクしながら指を振った。


「詳しい話は、全て落ち着いた後でゆっくりと」


「はい……」


「じゃあ、俺達は一旦」


 翔が、散らばった武器をかき集めエレベーターホール外に運ぶ。

 そして坂上は、なんと気絶している二人の足首を掴み、軽々と引きずっていった。


「……すご」


 完全に展開に置いて行かれた沙貴は、彼らの様子をただ眺めていることしか出来なかった。



 ズボンを穿きよろよろと立ち上がった沙貴は、ザイルが無事なこと、そしてエンジが這い上がって来る様子がないこと、更に澪達が上がってくる気配もまだないことを確認し、溜息をついた。

 


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