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押しかけメイドが男の娘だった件  作者: 敷金
第四章 誰もいない世界から脱出編
61/118

ACT-61『ご主人様救出大作戦決行です!』

「ひ、ヒィッ?!」


 震える手で、卓也は懐中電灯の光を今座っていた蔓に向ける。

 見てはいけないものが、暗闇の中から浮かび上がった。


 男物の服を着た、ミイラ。

 上体を斜め下に向け、足の方を上に向けた不自然な体勢のまま、それは無数の蔓や根に巻き取られていた

.。

 だが、卓也が目を奪われたのはそこではない。

 そのミイラの服装と見た目だ。



 ボーダー模様のポロシャツ。

 銀縁メガネ。


「げ……?!」


 それは紛れもなく、先程まで話していた倉茂の特徴と一致している。


「じ、冗談じゃねえぞ! こんな所で死にたくねぇッ!!」


 叫び声を上げて、卓也はその場から逃げ出した。



 倉茂くらも容志やすし

 卓也よりも先にこの世界に迷い込み、たった一人で彷徨い、各所に落書きを残していた男。

 自身の存在を他者に伝える為、懸命に活動を行い、そして遂には狂ってしまった者。


 しかし卓也は、そんな彼に逢ってみたかった。

 彼がこの世界で何を想い、何を悩み、そして何を訴えたかったのか。

 それを知りたいと思っていた。


 彼は卓也にとって、そう思わせるだけの謎と秘密、そして魅力を残していた。

 そしてそれは、思わぬ再会によってようやく果たされると思われた。



 なのに。

 倉茂は、死んでいた。


 では、さっきまで話をしていた彼は、何者?



 卓也の背筋に、冷たいものが迸る。

 そして彼は、更なる事態に気が付いてしまった。


 そこら中に繁茂する木の根や蔓。

 その中に取り込まれた“犠牲者”の躯は、倉茂一人だけじゃなかった。

 今にも消えそうな明かりに照らし出された、囚われのミイラ達。



 五……十……いや、数えきれない。



 そこが“地獄”だと理解した卓也は、またも闇雲に走り出した。


(な、なんで皆、植物に取り込まれてるんだ?!

 もしかして、ここに生えまくっている植物ってのは!!)









  ■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■

 

  ACT-61『ご主人様救出大作戦決行です!』






 沙貴と澪は、急いで元来た路を駆け戻る。

 急がなければ、卓也が危ない。

 二段置きに階段を駆け下り、更に最後に五段くらい飛び降りて進む沙貴の動きに、澪は完全に遅れを取っていた。


「あ~ん、沙貴ぃ、待ってよぉ!」


「澪は後からゆっくり来なさい!」


「そ、そんなぁ!」


 身体能力の差がこんな所で出てしまい、澪は今更ながら、沙貴のような訓練も受けておくべきだったと後悔する。

 ロイエの中には、いざという時主人を護るように戦闘技能を身に着けるタイプも居るのだが、愛玩主体のロイエにはそこまで求められていないので、ここは本人達の選択による。

 そういえば沙貴は資格マニア的な側面もあったなと、こんな時に思い返してします。


「うう、でも、こんな事態になるなんて普通絶対に思わないも~ん!」


 なんだかんだで、地下四階まで辿り着く。

 先程の場所、エレベーターの所まで辿り着くが、案の定そこには誰もいない。

 沙貴に倒された男達やエンジの姿も、ない。

 

「え? 沙貴、もう下に潜ったの? 早っ」


「まだよ」


「ひぇ?!」


 いきなり背後から声をかけられ、澪はビクンと反応する。


「辺りを確認してたのよ。

 あいつらが隠れていたら困るもんね」


「あ、ああ、そうだね、うん……はぁ、べっくらしたぁ」


「さっき覗き込んだ限りでは、下の階は真っ暗のようね。

 澪、ライトはちゃんとある?」


「勿論よ。

 どうする沙貴? ザイルを何処に引っかけようか」


「それなんだけどね」


 沙貴は、エレベーターのあるホールの反対側にあるドアを指差した。


「あのドアノブに括りつけるしかないようね」


「じゃあ、このエリアをザイルが横切るってこと? 長さが足りなくならない?」


「それは恐らく大丈夫だと思うわ。

 ただね、問題が――」


 沙貴の懸念は、何者かによってザイルを外される可能性だった。

 この部屋およびこの階には明かりがあるので、建物自体は通電している筈なのに、このエレベーターはドアが開けっ放しにされておりゴンドラもない。

 ということは、何者かによって細工が施され、使用出来ない状態にされているのだろう。

 

 先程のエンジの意味不明な言動から、この穴が彼らにとって特別な意味を持つ者であることは分かる。

 であれば、この穴に対して不用意な事態が起きるのを警戒することは、想像に難くない。


「そこでね、お願いがあるの」


「え、僕に?」


「澪、あなた一人で降りてくれない?」


「え? ええ――モガモゴ」


 思わず大声を上げそうになる澪の口を、押さえる。


「ちょっと、こんな時にふざけないで」


「ふざけてんのはどっちよ!

 なんのスキルもない僕が、たった一人で行っても」


「スキルなら売るほどあるでしょ?

 語学にITに調理にランドリーに――」


「そのどれも、今から始まるアドベンチャーに対して毛程の意味もない気がするわね」


「じゃあ、澪がここに残ってザイルを守り抜いてくれる?」


「え……む、無理無理無理ぃ!」


「じゃあ、答えは決まったわね?」


「うぐ」


「安心して、ザイルは必ず死守するから」


「た、頼むわよ!

 えっと、必要なものを確認っと」


 しゃがんでザックの中を確認する澪に、沙貴は、少しせつなそうな表情で呟く。


「ねえ、澪」


「え、何?」


「一応、先に言っておくわね」


「だから何よ?」


「もし、万が一のことがあったら」


「万が一?」


「その時は、すぐに戻って来るのよ」


「ちょ! そ、その“万が一”って、どういう意味の万が一なのよ?!」


「それは、察して」


「ええ……」


 困惑するも、澪は沙貴の言いたい事がなんとなくわかっていた。

 ここから落とされた以上、卓也が無傷でいる可能性は著しく低い。 

 最悪の場合は――


「わかった。

 僕もロイエだもん、覚悟を決めるよ」


「頼むわ」


 立ち上がり、沙貴と手をパチンと叩き合う。

 それぞれの決意を確かめて、澪は、エレベーターの穴に放られたザイルを見つめた。


「ハーネスは、必ず着けるのよ。

 あと、これだけは今すぐ覚えて」


 沙貴は、輪っか状の帯を用意し、それをザイルにぐるぐる巻いていく。

 下の端を上の輪に遠し、それを引っ張ってハーネスに止める真似をする。


「登るときは必須の行程よ。

 これを押し上げるようにして登ってね」


「わ、わかった」


「もし、ご主人様が動けない状態だったら、下から大声で呼ぶのよ。

 その時はまた指示をするわ」


「了解。

 じゃあ、行ってくるね」


 敬礼の真似をすると、澪は沙貴のレクチャーに従いハーネスを掛け、エレベーターの穴を下って行った。

 思ったよりも行動に移るのが早く、沙貴はふぅと安堵の息を漏らした。


(頼むわよ、澪。

 あなたが頼りなんだから)


 しばらくすると、何処からともなく大勢の足音が聞こえてくる。

 表情を引き締めると、沙貴は先程拾ったアーミーナイフを構えた。







 どのくらい走っただろうか。

 遂に懐中電灯の明かりが途絶え、振っても叩いても点灯しなくなってしまった。

 周囲は、完全な暗闇。

 もう、これ以上動く事は危険だ。


 幅が広く、何処まで続くかわからない通路は、まるで永久に続く回廊のようだ。

 その大部分が植物に覆われており、もはや人工物の中というよりは自然が生み出したトンネルのようにも思える。

 青臭さと据えた匂いが混ざり合ったような異臭が鼻を突く。

 足元の凸凹さを気にして、これ以上進むことを断念した卓也は、その場にどっかと座り込んだ。


(これから俺、どうなるんだろう……?

 沙貴も澪も、俺がこんな所にいることなんか分からない筈だし。

 どう考えても、俺詰んでるよなあ。

 あ~、もう……俺、こんなうすら寒い不気味な所で死ぬのかぁ……?)


 もはや、池袋の報告を怠り、ノートのコピーを隠した二人に対する怒りはない。

 今はただ、心細さと惨めさが心を支配している。


(倉茂も、こんな気持ちで朽ち果てていったのかなあ?) 


 ふと、そんな事を思ってしまう。

 或いは、彼に引き寄せられたのでは? などという考えすら浮かんでしまう。


 やがて卓也は、考えることを止め、ごつごつした床に横たわった。





 地下五階に何とか降り立った澪は、そこが無数の植物に覆われた通路である事に気付き、愕然とした。

 まるでそれは、何かのSF映画のセットのようですらあり、現実味に乏しい光景だ。

 戸惑いながらも、澪はライトを肩バンドに固定して、両手を口の横に当てた。


「卓也ぁ――!! 聞こえる――??」


「卓也ぁ――!! 何処に居るの――? 返事をして――!!」


 てっきりエコー付きで富んで行くだろうと思われた澪の声は、予想以上に響かない。

 それが、植物の根や蔓のせいだとすぐに気付いた。

 それでも、声を掛け続けなければならない。



「卓也ぁ――! 居たら返事をs」

「君、彼の知り合い?」


「びえっ?!」



 突然、真横から声を掛けられ、澪は口から心臓が飛び出そうになった。


「ひ、ひ、ひ、ひ、ひぃぃ?!」


「そんなに怯えないでよ」


 そこに立っていたのは、銀縁メガネにボーダー模様のポロシャツを着た細身の男性。

 生気があまり感じられないその男は、少し困った顔で見下ろしてくる。


「あ、あなたは誰? どうして、こんな所にいるの?」


「そんなことより、卓也を捜しに来たのかい?」


「え、ええ、そうよ! あなた、知ってるの?」


「知ってるとも。ついさっきまで話をしていたんだ」


「そうなの?」


「彼は、あっちの方に向かって行ったよ。

 でも懐中電灯の電池も、そろそろ切れる頃だ。

 行って助けてあげてよ」


「わ、わかったわ。

 でも、あなたは?」


「俺のことはいいから。

 さぁ、早く彼氏の所に行って安心させたげて」


 そう呟くと、男はにっこりと微笑む。

 怪しい人物ではあるが、悪者という気はしない。

 澪は頷きを返すと、男が指差した方向を眺めた。


「ねえ、あのエレベーターの穴にザイルを下ろしているの。

 あなたも、それを伝ってここから逃げてね」


 澪の言葉に、男はキョトンとする。


「俺の心配をしてくれるの?

 ありがとう、嬉しいよ」


「僕達もすぐ行くから、さぁ、あなたも早く!」


「君や卓也みたいな人と、もっと早く出会いたかったな」


「え?」


 男は、ふっと微笑むと、澪の目の前で姿を消した。

 まるで、虚空に溶け込むように。

 一瞬、何が起きたかわからなかったが――


「え? え? な、何、今の――まさか、まさか?!」


 青ざめた澪は、その場から逃げるように走り出した。






 ――クヤァ――



 どこからか、声が聞こえる気がする。

 唐突に訪れた眠気に苛まれながら、卓也はおぼろな意識の中、誰かの声を聞いた気がした。


(まさかの幻聴?

 山で遭難した人が、幻覚を見たり幻聴を聴くって話は聞いたことあるけど、もう来たのか?)



 ――タクヤァ、ヘンジシテェ――



 それは、聞き慣れた声に感じる。

 少女のような声、否、少女ではないが、少女にしか聞こえないような声。

 しかし、今この場で聞く筈がない声。



――卓也ぁ! 卓也ったらぁ! お願いだから、返事をしてよぉ!!



 間違いない。

 澪だ、澪の声だ!


 卓也の意識が、現実に引き戻される。

 それでも、あの声は間違いなく耳に届いていた。


「お、お~い」


 少しだけ、声を上げてみる。

 こちらからの声が聞こえないのか、澪の声は、まだ叫び続けている。


「お――い! 澪、ここだぁ!!」


 今度は、ありったけの声を上げてみる。

 すると、反応が変わった。



――卓也!? ねぇ、卓也なの?!



「そうだ、俺だ、卓也だぁー!」



――ちょっと待ってて! 今、そっちに行くから!



 もう、疑いようはない。

 間違いなく、澪が傍に来てくれている。

 いったいどういう奇跡が起こったのか、想像もつかないが、これは現実だ。

 やがて卓也の視界にライトの光が映り、こちらにどんどん近づいて来る。


 逆光ではっきり見えないが、慣れ親しんだ澪の気配が伝わってくる。

 途端に、言い知れない程の安堵感が溢れ出した。


「卓也!」


「澪!」


「良かった! 無事だったのね?」


「ああ、でも、どうしてここがわかったんだ?!」


「そ、そんな事より……」


 澪は、ボロボロ涙を流しながら、床に座ったままの卓也に抱き着く。

 全身に伝わるぬくもりが、更に現実感を覚えさせる。


「もお! 本っっっ当に、心配したんだからぁ!!」


「ご、ごめん」


「もう、何も言わないで出て行ったりしないで!

 僕も沙貴も、本当に心配したんだからねっ!!」


「わ、悪かったよ」


「グス……でも、本当に良かった!

 もしものことがあったら、僕、どうしようかって……」


「……」


 抱きついて頬ずりをしてくる澪の頭を撫でる。

 卓也は、ふと彼の耳にふっと息を吹きかけた。


「やん!」


「澪……」


 首筋に、舌先を這わせる。

 澪が、ビクンと反応する。


「え? や、ちょ……こ、こんな所で」


「本当に澪なのか、確かめる」


「え、や……た、確かめるって、僕は本物……んっ♪」


 ズボン超しに、澪の特に柔らかい部分をさする。

 身体がびくんと反応し、無意識に腰が動く。


「立つんだ」


「ほ、本当に……するの?」


「うん」


「……」


 澪を立ち上がらせると、卓也は彼のベルトを外す。

 そしてそのまま引き下ろすと、ピクピクとうごめいているそれに顔を近づけていく。


「剥くぞ」


「う、うん――んっ♪」


 生暖かい感覚に支配され、澪は、思わず目を閉じて顔を上げる。





 数分後、顔を赤らめながら、澪はブルッと僅かに身を痙攣させた。




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