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押しかけメイドが男の娘だった件  作者: 敷金
第三章 誰も居ない世界編
27/118

ACT-27『ロイエが調査を開始します!』


 翌朝、卓也は最悪の体調で目覚めた。

 夕べ飲んだ酒が残っているようで、二日酔いかそれに限りなく近い状態だ。

 食欲は全くなく、布団から起き上がる気力もない。

 澪と沙貴に支えられ、例の大型ベッドに寝直したが、それが精一杯。

 軽く水を飲んだだけで、その日はもう、何もする気力が湧かなかった。


 と同時に、ものすごく不思議な気分に苛まれる。


(おかしいな、過去二回の世界移動の時は、翌朝自分でも驚くくらいすっきり目覚められたのに、どうして今回だけ……?

 世界移動に失敗すると、普通に二日酔いになるのか?)


 澪から聞いて、いまだに「無人の世界」から移動出来ていないことは知っている。

 何で失敗したのか、または何か条件が足りなかったのかと改めて考えようとしたが、激しい頭痛がそれを拒む。


「卓也ぁ、無理しないで、今日はゆっくり休んで、ね?」


「そうですよ。

 何かあったら、いつでも私達にお申し付けくださいね」


「ああ、ありがとう……ううっ、頭が」


「何か思い出せそうなの? 卓也?!」


「え、何それ?」


「いやホラ、良くあるじゃない。

 記憶喪失のキャラが何か思い出しそうになると、頭痛ガーっていう展開」


「あのねぇ」


「ま、まあ、ありがとう二人とも。

 今日は、俺のことはほっといて、二人とも自由に過ごしててくれよ」


 弱々しい声でそう呟くと、二人のメイド……否、正しくは、デンジャラなんとかのコスプレイヤーとエロメイドは、厳しい表情で向き直った。


「「 そうは行きません! 」」


「へ?」


「ご主人様が苦しんでる時こそ、ボク達ロイエが一番頑張らなきゃならないのよ!」


「そうです、私達は、ご主人様がご回復なさるまで、つきっきりで看護いたします!」


 背景にメラメラと燃え上がる炎を纏わせながら、二人は何故か腕を組んでフンス! と立ち上がる。

 良くわからない態度ではあったが、それでも、卓也はなんだかとても嬉しい気持ちになれた。


「ありがとう、二人とも。

 じゃあ、申し訳ないけど、二人にお願いしてもいいかな?」


「「 なんなりとお申し付けを! 」」


「ううっ、頼りになるなあ、本当に」


 女性のような美しさとスタイル、溢れる気遣い、そしてハイレベルの技量を持つロイエ。

 どうやら、こういった時の気概だけは、立派な男のようだ。

 卓也は、ロイエの良さをまた一つ見つけたような気がして、そしてすぐに否定した。

 頭を振ったせいで、また頭痛が酷くなる。


「それで、お願いって何?」


「性欲処理でしたら、私がいつでも、このままで対応したします。

 手でも、お口でもお尻でも、お好きなところで♪」


「ぬぬぬぬ! ぼ、ボクだって負けないもん!

 卓也ぁ、ボクのフィンガーテクニックは、最高なのよ!

 卓也の一番感じるトコを、じっくり責めてあげる♪

 それにぃ、最後はお口と喉でぇ、いっぱい吸い取ってあげるよぉ♪

 沙貴より、ずうっと気持ちいいんだからぁ☆」


「あらぁ、何を言ってるのかしら。

 ご主人様はね、既に私のお尻で何度も何度も楽しまれてたのよ?

 あなたより確実に悦ばせて差し上げる自信があるわ」


「ウキィ――! そんな事言ったらボクだって!

 ま、まだ、挿れてもらえてないけど……ぜったい、枯れるまで搾り取れるもん!」


「あなたに、ご主人様の強烈過ぎるプッシュが受け止められるか、心配だわぁ」


「な、何よ! ボク絶対大丈夫だもん!」


 卓也は、「ああ、やっぱりコイツら駄目だ……」と、心底呆れ返った。







  ■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■


    ACT-27『ロイエが調査を開始します!』







 午後、澪と沙貴は、二人で外出することになった。

 卓也は家で眠ることになり、その間、共に行動するように命ぜられたのだ。


「まあ、そういうことになったからには、よろしくね澪」


「こちらこそよろしく。

 今度こそ、成果を上げて卓也に褒めてもらうんだからね!」


「早速動きましょう」


 マンションを出た二人は、まずはマンションの周辺を調べて回ることにした。


 今回の失敗で、異世界移動はいつでも卓也の意志で自在に行えるわけではなく、また彼自身の肉体にも負担をかけやすいという事実が判明した。

 ということは、また別な機会を狙うか、或いは更なる別な条件を探し出し、それで再度挑戦するしかない。


 それまでどのくらいの時間を要するか読めない現状、この世界がどのような状況になっているのかを、より深く理解しておく必要がある。

 その為、卓也は澪と沙貴に「夕方までの時間で、出来る限りの情報を集めて欲しい」と指示したのだ。

 それまで一人の時間を得る為の方便であることは、言うまでもないが……


 相変わらず、物音一つしない静まり返った世界。

 その中に佇む二人は、まず何から手をつけるべきかを考える事にした。


「まずは食料の確保ルートね。

 さすがにコンビニだけってわけには行かないから、スーパーみたいな大きな店舗を探しましょう」


「だね、出来れば業務用冷蔵庫や冷凍庫がある場所がいいし」


「それはどういう意味なの? 澪」


「だってホラ、野菜とかお肉とか、商品が入れ替わるわけじゃないでしょ?

 であれば、大きな冷蔵庫でまだ使えそうな食材を出来るだけ保存しとかなきゃ」


「それ以前に、スーパーの生鮮食品が全部腐ってる可能性もあるんじゃない?」


「あ、そうか……でも、だったらなんで、あのコンビニだけ新しい商品だったんだろう?」


「そうね、もしかしたら、何かヒントが残されているかも。

 もう一度、あのコンビニに行ってみない?」


「OK沙貴、じゃあまずそこへ!」


 二人は頷き合うと、最初に食料を調達したコンビニへ向かった。

 コスプレしたまま。



 入店を知らせるアラームを聞きながら、澪と沙貴は誰もいないコンビニの中へ入った。

 中は前に来た時と殆ど変わっておらず、恐らく夕べ卓也が持ち帰ったと思われる商品の場所が空いているだけだ。

 補充が行われた形跡は、ない。

 弁当や惣菜のコーナーの日付を見るが、やはり昨日の朝製造したものがそのまま残っており、入れ替わった様子はない。


 更に調べると、事務所はつい先ほどまで誰かが居たような状態のまま放置されており、今にも誰かが戻って来そうな雰囲気だ。

 沙貴は、事務所の中にある書類やトイレの清掃シートをチェックすると、少なくとも一昨日の夜までは、ここで誰かが記録をつけていたことがわかった。


 一方、澪は監視カメラの映像記録を遡る事を思いつき、PCを起動させようとしたが、パスワードの壁に阻まれへこんでいた。



 結局、この店内の状況を見る限りでは、一昨日の晩から昨日の朝にかけてはここに人の出入りがあり、それから卓也達が来店するまでの短い間に、周辺の街の住人全員を含めて、一斉に姿を消した……という結論を出さざるを得なくなった。


「何それ、ありえないじゃん!」


「そうね、緊急避難警報が出て移動したって割には、あまりにも不自然だわ。

 第一、逃げ遅れた人を捜しに来る様子も一切ないし」


「だよね。

 そもそも、街全部の明かりが消えてたもん、夕べ」


「もし、ここが本当に人が居ない世界だとしても、私達がぱっと想像するものとは違う何かがあるみたいね」


 やはりこの世界は、ただの無人の世界と見るのは、何かがおかしい。

 しばらくの間滞在するのであれば、少なくともその「何か」は把握するべき。

 その認識は、澪と沙貴とで共有出来ていた。


 しかして、まずは最重要となる食料の確保からだ。

 当然、二人の視線は各棚に置かれている食料品に向けられる。


「どうする? 澪。

 このままにしておくのはもったいないわよ」


「そうね、これはこれで回収しておいた方がいいかも。

 まだしばらくは食べられると思うし」


「でも、さすがにこの量を三人で近日中に食べ尽くすのは無理ね」


 二人は、パンや惣菜など、比較的足が早いものを優先にチェックし、一旦マンションに保管することにした。

 念のためバックヤードも確認したが、全ての食料を一度に長期保管出来るような設備はなさそうだった。


「出来るだけ、詰め込んでおきましょう。

 入り切らない分は、諦めるしかないかもしれないわね」


「ねぇ! 今思ったんだけどさ!

 うちのマンションの他の部屋の冷蔵庫も借りれば?」


 澪が、頭の上に巨大な電球を浮かべながら、満面の笑顔で提案する。

 その様子に、沙貴は目を剥いた。


「あ、あなた、なんでそんな泥棒的な思考を……」


「え~だってさぁ、誰もいないんだから、有効活用した方が絶対にいいじゃない?

 いちいち無駄にモラルを気にしていたら、この先やってられないわよ?」


「まあ、確かに正論ではあるけれど」


「沙貴はさ、こういう時の思い切りが弱いと思うのよ」


「そんなもんかしら」


 まず先に、この世界で何が起きているのか事情を把握したい沙貴。

 対して、それよりも生活基盤の安定を図ろうとする澪。

 沙貴は、澪の判断の方が生きる上で重要なのかもと思い返し、ここは彼の意向に賛同することにした。



「――ねえ、これ見て沙貴」


 荷物を抱え、コンビニを出ようとする沙貴を、急に澪が呼び止めた。


「なに?」


「こんなところに、落書きがあるよ!」


「落書き? そんなもの――えっ?」


「ね、不思議じゃない?」


 荷物を置くと、沙貴は澪の指し示す落書きを見た。


 それは、コンビニのレジに油性マジックのようなもので書き込まれているようだ。

 側面部に書かれている為、一見しただけでは良く判らなかったが、そこには



  “一万八百二十三円、借用いたしました!”



 と、殴り書きされていた。

 

「これ、誰が書いたの? この世界の住人?」


「ま、まさか! だって、誰もいないのよ? ここは……」


「で、でも、じゃあこれは?」


「……」


 なんだか背筋がゾクリとした二人は、逃げるように退店した。


 一旦マンションに戻った二人は、卓也の部屋と同じ階層の各部屋を巡り、ドアの鍵が開いていないかを早速調べる事にした。

 幸いなことに、卓也の部屋から見て丁度反対側の端にあたる部屋が、たまたま鍵が開いている事を知り、二人は早速そこに入ることにした。


「お邪魔します~」


 恐る恐る入るが、やはりそこは誰もいない。

 見た限り、そこは女性が住んでいると思われるところで、結構綺麗に整理されとても住みやすそうな環境だ。

 部屋の間取りは自分達の住居と変わりないが、整理整頓が行き渡っているせいか、それよりも若干広く感じる。

 

「なかなかいいお部屋ね、住人が相当綺麗好きなのが窺えるわ」


 幸い、冷蔵庫はそこそこ立派なものが置かれているようで、収納力も充分そうだ。

 むしろ、卓也のものよりこちらの方が使い勝手が良さそうに思える。


「どうやらここは、何かあった時の予備部屋としても使えそうね」


「そうねえ、寝室もちゃんとしているし。

 几帳面な人の部屋なのね、たぶん」


 食品を冷蔵庫に片付け終えた後、澪は更に別の部屋を物色し始めた。

 卓也の部屋でいうところの物置(優花の部屋)にあたる部屋に、やたらと沢山ワードローブが置かれていることが気になる。

 沙貴も不思議そうにそれらを見ており、二人でそれぞれ物色してみることにした。


「えっ、これって――」


「うっわ! すご!」


「こ、これ、コスプレ衣装という奴?

 あなたが着てるみたいな?」


「そう! でも、これ尋常じゃない数あるよ!

 見てよ、こっちの箱の中!

 アクセサリーが山ほど!」


「うわ、きっちりキャラクターの名前まで書いてあるわね。

 アクセとの組み合わせもわかりやすいし。

 ――何者なの、ここの住人?」


「かなり年季の入ったコスプレイヤーと見たわ」


 衣装を戻し、アクセサリーを片付けた後、澪と沙貴は顔を見合わせ、酷く邪悪な笑みを浮かべ合った。






 

 


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