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押しかけメイドが男の娘だった件  作者: 敷金
第三章 誰も居ない世界編
26/123

ACT-26『誰か居ませんか?』

挿絵(By みてみん)


  ■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■


            第三章

 

      ACT-26『誰か居ませんか?』






 それからも、三人は誰とも会うことはなく、また見かけることすらなかった。

 音すらも、自分達が立てるもの以外は一切ない。

 不気味なまでの静寂は、日中であってもかなりの恐怖感を覚えさせるものだと、卓也は実感させられた。


 やむを得ず、その日はコンビニにある食料を持ち出し、それを食べる事にする。

 マンションに戻って食事を済ませ、一息入れたところで、沙貴が話題を振る。


「もしかしてここは、誰もいない世界なんじゃないでしょうか」


 その言葉に、卓也と澪の動きが止まる。


「そ、そんな馬鹿な!

 きっと、何か事情があって住人がどこかに避難してるんじゃないのかな?」


「でもそうだとしたら、今朝製造されたこの生パスタはどうなるの?」


「あ、そうか」


「よくわかりませんね。

 どうします? これから」


「本当に誰も居ないってことになったら……ある意味、ここは最高の世界よね?」


 沙貴の質問に、何故か澪が嬉しそうに応える。


「だって、だって、誰も居ないんなら、ボクと卓也のラブラブ生活を、徹底的にエンジョイ出来るじゃなーい♪」


 そう言いながら、卓也に抱きつく。

 

「ちょ、何だよいきなりぃ?!」

 

「ちょっと澪、さらりと私を省かないでよ!」


「沙貴は隣の部屋に住みなさいよ~。

 あ、でもそれじゃ、ボク達の愛の営みが聞こえちゃうわね。

 それなら、あっちの棟に住みなさいよね」


 そう言いながら、検討違いの方向を指差し、ニヤニヤと笑う。

 そんな澪の態度に、沙貴は平然と受け応える。


「そういうわけには行かないわよ。

 私は、ご主人様のお傍に居てお世話をしなくちゃ」


「だーかーらぁ! それはボクの仕事だっての!」


「あらあら、まだご主人様のご寵愛を受けたこともないのにぃ?」


「ぬぬぬぬ……! もう怒った!

 沙貴、あんたとは決着を着けてやるわ!」


「望むところよ」


「ちょ、待って二人とも! ケンカなんかしてる場合じゃ……」


 慌てる卓也を尻目に、二人はすっくと立ち上がると、突然その場で服を脱ぎ始めた。

 あっという間に全裸になると、澪と沙貴は、急に艶っぽい表情で卓也に迫り出す。   


「ねぇ卓也ぁ~、そろそろ決めてぇ♪」


「そうですよぉ、私と澪、どちらがご主人様に相応しいか……ね♪」


 身体をくねらせ、ぷるぷる震わせながら、猫なで声で囁く。

 だが卓也は、そんな二人には興味を示さず、スマホを見ながら調理パンを口に放り込み続けた。


(何をするかと思えば、この性欲過剰な女装男子共め)


 だんだん耐性が付いてきたのか、卓也はもう、この程度では動揺しなくなってきた。


「ちょ、ちょっとぉ、卓也あ! 無視しないでよぉ~」


「ご主人様ぁ!」


「悪いけど、飯食ってる時にそんなもん見せられても困る。

 そのブラブラ、とっととしまえ」


「え、あ」


「は、はい、すみません……」


「それより、ネットは繋がるみたいだな。

 検索すれば、一応結果は表示されるよ」


 そう言いながら、卓也はネットショップのサイトを開き、検索する。

 

「インターネットが生きているということは、人が居るということですよね?

 じゃあ、いったい何が……」


 いそいそと服を着直しながら、沙貴が小首を傾げる。

 一方、そそくさとメイド服に着替えた澪は、卓也のPCを開いて何やら検索を始めた。


「特に、何か事件とか避難勧告が出たってわけじゃないみたいね。

 どういうことかしら?」


「よくわからないけど、ひとまず様子を見よう。

 それで、本当に誰も人が居ない世界だってんなら、また移動すりゃいいさ」


 そう言いながら、パックの野菜ジュースを吸い込む。

 卓也はゴミを袋にまとめると、金卓也達のせいで様変わりしてしまった自分の寝室を眺める。


「あいつら、本気で俺達を追い出すつもりだったんだな。

 俺のコレクションまで軒並みなくしやがって。

 腹立つわ~!」


「でも、もしここが本当に誰もいない世界だったら、取り戻し放題ですよね?」


「あ、そうか。

 でも、それはそれで良心の呵責が」


「誰も居ない世界で、居もしない人の目を気にしてもしょうがないんじゃない?」


「まあ、正論ではあるけどさぁ」


「とにかく、今は全てにおいて様子を見た方が宜しいかと思います。

 夕べの件もあるし、今日は出来るだ身体を休めませんか?」


「そうだな、そうするか」


 卓也の許諾が得られたことで、澪と沙貴は声を上げて喜んだ。




 しかし、それから数時間。

 そろそろ夕方になろうという頃になっても、相変わらず外は静寂を維持したままだ。

 建物の明かりは点いておらず、外はまるで廃墟の街のようだ。

 当然、車も走らなければ、カラスなどの鳥の鳴き声すらない。


 それはまさに、死の街――


 一休みして起きて来た三人は、その異様な光景に絶句した。

 ドアを開けて外を見ると、数箇所に光が見える。

 だが、それが自動販売機や今朝行ったコンビニの光だとすぐに判り、つかの間の喜びは絶望に変わった。


 卓也は、単身朝のコンビニに行ってみたが、相変わらず人はおらず、そして店内の商品が入れ替わった様子もない。

 彼らが商品を取った棚はそのまま空いており、あの後誰かが来たような兆しも感じられなかった。


 店員の控え室に入り込んでみると、そこには帳簿や仕入れ用の資料、商品のチラシなどが拡げられ、ノートパソコンも開かれたままで電源が落ちている。

 また奥の休憩室には、飲みかけと思われるペットボトルが放置され、つい先程までここに誰かがいたような雰囲気を残していた。


「まるで、本当に人だけが消えてしまったみたいなんだな」


 卓也は、今日は調理などの手間がかかる事はしなくていいと二人に命じ、食事はコンビニの商品で賄うことにした。

 夕食用の商品を大量に取り、袋に詰めると、少々申し訳なさそうな態度で退店する。

 自動ドアが開いた時、来客を伝えるチャイムが鳴り、卓也はついビビってしまった。


(それにしても、誰も居ない都会ってこんなに闇が深いんだな)


 街灯は灯っておらず、明かりは自動販売機とコンビニ、そして一部の駐車場の看板だけ。

 それ以外は、完全に照明が消えている世界。

 夜空は、ここが東京だという事がとても信じられない程に星が多く見え、溜息が出るほど美しい。

 マンションに戻ると、同じ事を考えたのか、澪と沙貴が共にベランダから夜空を眺めていた。


「あ、卓也ぁ、おかえりー!」


 こちらに気付いたのか、澪が大声で叫ぶ。

 思わずキョドったが、誰も人が居ないことをすぐに思い出して安堵する。

 かろうじて手を振ると、何故か人目を避けるように、急いで駆け戻った。



 コンビニの状況を報告すると、澪と沙貴は、困ったような顔を向き合わせた。


「じゃあ、やっぱり、この世界から移動しますか?」


「そうだな、今はまだいいかもしれないけど、いずれ面倒なことが起こりそうだし」


「そっかー、せっかく、色んなものを取り放題の素敵な世界だと思ったんだけどなぁ」


「それはそうかもしれないけど……」


 無限にかつ自由に物資を手に入れられる環境に未練がある澪と、あくまで卓也の意思に委ねる沙貴。

 卓也は、金卓也が残した酒を冷蔵庫から取り出し、夕べと同じ状況を作り上げる事に決めた。


「というわけで、二日連続でとことん酔っ払おうかと思います。

 俺一人で飲んでると寂しいし酔い難いので、君達にも付き合って欲しいです!」


「でもご主人様、申し訳ないのですが、私達ロイエは、アルコールに弱い体質でして」


「そうなのー、だからジュースでもいい? あとお茶とか」


「構わないさ。君達が話し相手になってくれれば、それだけで充分だよ」


「まぁ☆ ご主人様ったら♪」


 頬を手で押さえながら赤面する沙貴と、にんまり笑う澪。

 早速、今夜の行動主旨が決定した。


 泥酔した後に速やかに眠れるよう、卓也は入浴と着替えを済ませ、澪と沙貴はリビングで倒れた時用に三人分の布団を引っ張り出し、予め敷いておく。

 これなら、眠くなってもすぐに布団に飛び込むことが可能だ。

 テーブルの上にはビールとグラス、オレンジジュースのパックとウーロン茶のペットボトル、そして大小の皿にはコンビニ調達のつまみや菓子などが並べられた。

 リビングは少々だらしない感じになったが、その中央を陣取る三人は、それなりに盛り上がりを見せていた。

 

「うわぁ、たまにはこういうのも悪くないね!」


「そうね、買って来た食べ物だけでってのは、私達からしたら普通ありえないものね」


「ああ、そうかぁ。

 でもさ、なんかちょっとした飲み会みたいな感じがして、俺はいい雰囲気だと思うよ?

 つうわけで、今夜は楽な方向で楽しもうや、みんなで」


「はーい、さんせーい!」


「ご主人様のご要望に従いまーす♪」


「でも確かに、こういうのもいいわねぇ♪

 すぐに眠れるポジションってのが気に入ったわ!」


「ロイエたるもの、こんな自堕落な設定はどうかと思うのですが……たまには、いいかもしれませんね♪」


「よし、それじゃあ早速始めようぜ!

 かんぱーい!」


「「 乾杯―!! 」」


 三人のグラスがぶつかり、綺麗な音が響く。

 卓也の希望で、今夜は主従関係はなく、お互いが話したいことを自由に話そうという主旨となった。

 所謂「無礼講」というものだ。


 一杯目の酒はあっさりと飲み干せ、二杯目が注がれる。

 最初の話題は――


「ねえ卓也。

 前から聞こうと思ってたんだけどね?」


「うん何?」


「本棚の中にあった、コスプレイヤーの写真集なんだけど」


「ぶっ!!」


「卓也って、ああいうのが好きなの?

 結構、えっちっぽい格好の娘も多かったけど」


「い、いやいやいやいや、そそそ、それはだな」


「澪、ご主人様の持ち物を勝手に見たらいけませんよ」


「だぁってぇ、あの二人が本棚から引っ張り出した中にあったから、片付けてる時に見えちゃったんだもん。

 卓也って、真面目一徹かと思ったけど、結構根スケだよね~」


「今時、根スケって」


 ジト目で見つめる澪から、何故か視線を逸らしてしまう。

 それをフォローするように、沙貴が割って入る。


「ご主人様がそういうご嗜好であるなら、私達もそれに従うべきなのでは?」


「そうだよねー! だから……じゃじゃん!」


 澪は、いったい何処から取り出したのか、ビニール袋に入れられたコスチュームを掲げた。


 もう一回、卓也が吹く。


「これは何?」


「えっとね、確か人気番組の“デンジャラスバーディブルジョワ”ってアニメの主人公の服ね」


「やだ可愛いじゃない! ピンク色が素敵ね。

 これ、どうしたの?」


「そうだよ、どどど、どうしたんだよこれ?!」


「前に居た世界で、こっそり買いました」


「いつの間にそんなことを」


「というわけでぇ、今からこれ着ますねー☆」


「ブホッ!」


「えーっ! 澪、私のはないの?」


「あるわけないじゃない!

 あ、でも、ボクの予備のメイド服あるよ? 着る?」


「そ、そうね……メイド服、実習の時以来だわ。

 ありがたくお借りするわね」


「じゃあ卓也、少し待っててね~♪」


 そう言うと、澪は沙貴と共に隣室に消えていく。

 グラスを持ったまま、その後姿を見送った卓也は、キョトンとした顔で硬直していた。


(いつからここは、コスプレ居酒屋になったんだ?!)


 とは言うものの、正直な所、澪が出したキャラのコスチュームは、卓也的にどストライクであり、ましてあれだけスタイルが良く美人な澪が着るとなると、期待値が上がってしまう。

 また、黒スーツでビシッと決めてるイメージの強い沙貴が、澪のようなフレンチメイド風の格好をしたらどうなるのか、興味はある。


(ま、まあ、見るだけなら、性別とか関係ないもんな、ウン)


 そう自分に言い聞かせて、ほろ酔い加減になった卓也は、二杯目のグラスを半分ほど空ける。

 しばらくすると、まず先に澪が戻って来た。


「ジャーン! どう? 卓也」


「うお……!」


 澪のコスプレは、想像以上に見事なものだった。

 白を基調に濃淡のピンクを各所に折り混ぜた可愛らしい色調、腕と胸元が大きく開かれ、大きく横に膨らんだミニスカートからは、ブーツを履いた長い脚が伸びる。

 そして、腰には大きな丸っこいリボン。

 何かで調べたのか、髪形もしっかり整え、更にはアクセサリーまできっちり付けられている。

 同人イベントのコスプレ撮影ブースに行ったら、長蛇の撮影待ちの列が出来るのは間違いないだろう! と思わせるほどの完璧さと可愛らしさ。

 卓也は、思わず我を忘れて見とれてしまった。


「こ、これはすごい……」


「ふふ♪ ロイエはなんでもこなすのよ☆」


 そう言うと、澪はそっと卓也の膝の上に乗る。

 柔らかい太ももの感触が脚に触れ、心地良い。

 卓也は、澪の腰を手で支えると、反対側の手で彼の内ももに手を差し込んだ。


「あっ……」


「まぁた、穿いてないのか?」


「だ、だって……その方が、卓也、喜ぶかなって……」


「悪い子だな」


「あんっ♪」


 卓也の手が、スカートの中で膨らみ始めた澪自身に触れる。

 人差し指で先端の部分をクリクリと圧迫し、ぬめりを拡げるように回す。

 澪の呼吸が荒くなって来た。


「た、卓也ぁ……そ、それ、刺激、強い……んっ」


「剥いていい?」


「う、うん……優しくしてね」


 澪の唇が、卓也に近づく。

 あと少しで、伸ばした互いの舌が絡まり合うという、その時――


「オホンオホンゲホン!」


 突然、わざとらしい咳払いが響く。

 見ると、いつの間にか戻って来た“メイド服姿”の沙貴が、こちらを見下ろしていた。


「ご主人様、私もメイド服着ました。いかがでしょう?」


「おお、こ、これは……」


「むぅっ!」


 むくれる澪をよそに、卓也は沙貴の姿にも注目した。

 黒のフレンチメイド服を纏った沙貴は、少女っぽさを残す澪とは違い、大人の色気ムンムンの洗練された雰囲気だ。

 アップにした髪と、すらりとした首許を締めるチョーカーが見事に決まり、むき出しになった肩甲骨と胸元の肌が眩しい。

 そして大胆にオープンカットされた背中は、腰の辺りまで肌が見え、更にはかろうじてぎりぎりお尻が隠れている程度のマイクロミニが映える。

 ふんわりと横に膨らんだスカートは、沙貴の長い脚が動く度に揺れ、その下に隠されたヒップラインが見え隠れする。

 そして、白のニーハイと、その境でやや盛り上がる肉。

 脚の上に澪を抱えたまま、卓也はその見事なメイド姿をじっくりと堪能した。


「ご主人様、どうぞお好きな方で、今夜はお楽しみくださいね。

 もっとも――澪が選ばれるかは疑問ですけど♪」


「ムキー! ぼ、ボクの服着て何エラソな事言ってんのよ!」


「あなたこそ、どさくさに紛れてご主人様に甘えるのはおやめなさい。

 正々堂々、ご主人様に選んで頂くのがスジよ」


「ちょっと待て! 選ぶって、いったい何のことだ?!

 俺、何をしなきゃならないってんだ?」


「え、今更?」


「今夜の伽の相手の事ですけど」


「と、と、と、伽って、アホかーい!

 俺は今夜、べろべろに酔ってそのまま寝落ちしなきゃならないんだろ?

 そんな余裕あるかぁ!」


 二人の下僕に、眉を吊り上げて吼える。

 だが、そんなことお構いなしといわんがばかりの態度で、二人は揃って卓也の前で、スカートをたくし上げた。


「そんなこと、言わないでよぉ……」


「そうですよ、ご主人様。

 私達は、いつでもご主人様のご寵愛をお待ちしているんですから……」


「……ゴクリ」


 卓也は、硬直したまま二人の下半身を凝視し、やがてグラスの残りをぐいっとあおった。

 だんだん、アルコールが回って来る……



 その後、色々とお馬鹿な展開があったものの、卓也は最終的に三本半のビールを開けたところで、とうとう限界に達した。

 そのままリビングに敷かれた布団に潜り込み、間髪入れずにいびきをかき始める。

 残された二人のロイエは、無言でテーブルの片付けを始めた。


「確か、ご主人様が寝込んでから、そんなに経たないうちにアレが始まるのよね?」


「そう、だからボク達も、急いでシャワー浴びて着替えないと」


「わかったわ。

 ここはやるから、澪は先にお風呂どうぞ」


「わっ、ありがと! って、もしやボクがいない間に、卓也に悪戯するつもりじゃないでしょうね?」


「そんなつもりなかったけど。

 澪、あなたはそんな事してたの?」


「え?! あ、いやその……あはは、一~二回くらいかなあ~」


「でしょうね、そういうの、やった事のある人じゃないと思いつかない発想だもの」


「むうっ! い、いいじゃない、バレてないんだから!」


「ホラホラ、いいから早くお風呂に行きなさいよ。

 こんな話してるうちにアレが来たら、寝る所じゃなくなるわよ」


「あ~い、じゃあ、悪いけどお先に」


 キッチンから澪が出て行くのを見届けると、沙貴は彼の話を思い出し、ついつい寝入っている卓也の布団を凝視してしまった。



 それから、沙貴もシャワーを済ませ、布団に入る。

 三枚の布団をきっちり並べて、所謂雑魚寝が出来る状態だ。

 澪も沙貴も、一糸まとわぬ姿になり、卓也の両脇に収まる。

 

「――アレ、起きないわね」


「言われてみれば」


 熟睡する卓也を挟み、二人は不思議そうな顔で互いを見る。



 結局、その晩はあの怪現象が起こることはなく、そのまま朝を迎えてしまった。

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