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押しかけメイドが男の娘だった件  作者: 敷金
第二章 ロイエ編
24/118

ACT-24『次は、三人で一緒に……♪』

「ご主人様」


「え? いきなり?」


「はい、ご主人様。

 それでは、ここからは私に任せてください!」


 谷川は――否、沙貴さきは、ウィンクしながら頷いた。






  ■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■


 

 ACT-24『次は、三人で一緒に……♪』





「ちょ、い、痛いってば! 離してよっ!!」


 無言で拘束する黒服の男達に、澪は必死で抵抗する。

 しかし、華奢な女性と大差ない体格と力の澪では、パワーで抗うのには限度がある。

 妙になれた手つきで、澪の四肢をバンドのようなもので固定する。

 あとは猿轡を、という時点で、谷川が部屋に駆けつけた。

 その脇には、卓也もいる。


「あっ、卓也! 遅い、どこで何してたの?!」


「ご、ごめん、澪!」


「皆さん、ご苦労様でした。

 少し、澪とこの男性に尋問したい事があります。

 皆さんはロビーで待機してください」


 谷川の指示で、三人居る男達は、一言も口を開かず、その指示に従って行った。

 まるでロボットみたいだなぁ、と思って、その後姿を見送る。


「実はあの人達も、ロイエと同じように作られたホムンクルスなんですよ。

 私の指示は、全て無条件で聞くように訓練されています」


「ええっ?! あ、あんなごっついおっちゃん達も、ご主人様~っておホモい行為に?!」


 卓也の驚きの言葉が変な所に入ってしまったのか、澪はゲラゲラ笑い出した。


「ちょ、そ、それ止めて! し、死ぬ!!」


「呑気なものね、澪。

 あなた、これから処分されるのよ? 判ってるの?」


 呆れ声で、谷川がソファに放り出された状態の簀巻き澪を見下ろす。

 その途端、澪の表情が険しくなった。


「あのね、沙貴! 言わせてもらうけど、ボクは――」


「事情は、ご主人様から伺ったわ」


「へ? ご、ご主人様?」


「ええ、そうよ。

 私のご・主・人・様・よ♪」


 そう言いながら、谷川沙貴は、卓也に抱きついて頬にキスをする。

 唖然とする澪に向かって、卓也は、声にならない声で「ごめん」と囁いた。


「それは、いったい、ど~いうことよぉ~~! た~く~や~ぁ~!!」


「ひぃっ、ゴメン!」


「とにかく、これからどうするか。

 手短に話すから、二人とも聞いて」


「ねえ、待ってよ!

 話が急展開過ぎて、最終回の一個前を飛ばして最終回観てるような気分なんだけどボク!」


「なんでそう、表現が具体的なの」


 沙貴は、事情についていけてない澪に、おおまかに話を共有する。

 無論、先ほどの荒々しい情事については伏せて。

 その説明の無駄のなさから、さすがはイーデル社員! と、卓也は心底感心する。

 そのせいか、澪は沙貴が味方である事と、金卓也が卓也を罠に嵌めようとした事、そしてこれからどうやって“イーデルの制裁”から逃げ遂せるかという事について、即座に理解を示した。


「でも、どうやったら逃げ遂せるの?

 ボク達がイーデルから逃げ切るには、あのマンションに戻って世界移動をしなければならないのよ?」


「そうだな、でもその為には、あそこに居る俺と茉莉を何とかしなければ」


「それについては、私に策があります。

 まず、これから二人には、私の車でマンションへ向かって頂きます」


「へ?」


「その間にお二人は、どうすれば世界移動を始められるか、過去の事を振り返って特定してください」


「にゃ?!」

「ええっ?!」


 キョトンとする二人の前で、沙貴の目がギラリと輝いた。





 薄暗くなったロビーで、先の黒服の男達は無言で待機していた。

 その異様な雰囲気に、周囲の客が奇異な視線を向ける。

 そこに、卓也と澪を連れ立ってやって来た沙貴は、男の一人に話しかけた。


「大変なことがわかりました。

 このニセモノの神代卓也の自白で、澪の契約書類に手が加えられていることが発覚しました」


 その言葉に、黒服の男は声を上げずに驚く。


「至急、その書類を回収して確認をしなければなりません。

 その為に、私はこれから二人を連れて現場のマンションへ向かいます。

 貴方達は、別の車で私の車の後に付いて来てください」


 必要な指示を受けると、男達は即座に駐車場へ移動を開始する。

 沙貴は、一瞬ニヤリと微笑むと、目線で二人に合図した。


 他者にはわかりにくいよう、手首だけ拘束された状態の二人は、沙貴の背後について歩く。


『ねぇちょっと! いったい何があったのよ、沙貴と?!

 ご主人様ってどういうこと? ねえ!』


『話すと長いんだ……それより俺、今めっちゃ眠い……』


『いつもならもう寝てる時間だもんね。

 ――って卓也、あなた、香水なんか付けてた?』


『へ? いいや?』


『なんか――沙貴のと同じ香りがする……さては、卓也』


『ほ、ほら急がないと! 置いてかれるぞ!』


『後で絶対に吐かせてやる』




 沙貴の作戦通り、二台の車に分乗した一行は、そのまま卓也のマンションを目指す。

 その間に、卓也達は、世界移動について沙貴に説明をした。

 はじめは半信半疑だった沙貴も、澪の熱の入った説明で、徐々に信憑性を感じ始めたようだった。


「なるほど。

 実はね澪、あの日あなたと別れた後、ちょっと不思議なことがあったのよ」


「えっ、澪を連れて来たのって、谷川さんだったの?」


「んもう、沙貴って呼び捨てにしてください、ご主人様♪」


「あ、はい、すみません」


「ちょっとぉ! なんでラブラブ空間即構築してんのよ、二人とも?!」


「ちょ、そんなに時間ないんだから、話、続きぃ!」


 沙貴によると、澪を送り出した後、地上からマンションを見上げて見送っていたという。

 だがその時、一瞬建物全体がブレたような気がしたという。

 目の疲労から来るものと思って気にしていなかったが、あの瞬間に澪がこの世界から消えたというのなら、納得が行くようだ。


「そうか、ボクはいったいどの瞬間から異世界に紛れ込んだんだろうと思ったんだけど、あのマンションに入ってすぐだったのかもね」


「へぇ、俺、てっきりあの部屋の中だけが移動してるんだと思ったよ」


「でも、そうだとすると、マンションの住人全体が混乱してトラブルが起きる筈ですよね。

 そうなっていないというなら、やはりご主人様の部屋とその周辺のエリアが転移対象になっていたと考えるべきかもしれません」


 事情を把握した途端、沙貴が妙に説得力のある分析を開始する。

 だが、問題はそこではない。


「結局、並行世界への転移はどうやったら起こるんだ?

 澪、君が見たあの変な光景、アレが起きると移動するんだったよな?」


「そうなの! でも、どうやったらアレが発生するのかがわからないわね」


「ご主人様は、その変な光景というのは見てらっしゃらないのですか?」


「見てないなあ。寝てたから」


 あの日は、奥沢や優花と飲みに行き、あまり得意ではないのに酒を飲み過ぎ、べろんべろんになって帰宅したから、帰宅後すぐに寝てしまったのだ。

 その前に世界移動した時は――


「あ」


 卓也は、何か思いついた。


「どしたの? ねえ、何か思いついた?」


「そういや俺、澪が来た日の晩、酒飲んでたんだ。

 すっごく疲れて帰って来てさ、なんとなく一本だけ飲む気になったんだけど、そのまま寝落ちしちゃったんだ」


「アルコール、ですか……」


 沙貴は、澪にマンションへ行ってからの卓也の飲酒状況を思い返すように依頼した。

 




 マンションに辿り着いたのは、午前一時半頃。

 無論、周囲の住民はとっくに就寝している時刻だ。

 だが、卓也のマンションには金卓也と茉莉が確実に居り、そしてどちらも起きている。

 何故、それが判ったかというと――



 アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、!!


 アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、!!


 アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、!!



 深夜のマンション街に響き渡る、あえぎ声。

 それが茉莉のものであることは、容易に理解出来た。


「何やってんだ、あの二人は」


「ね、ねぇ、もしかして、ベランダで……?」


「そうみたいね」


 窓から漏れる光で影になり、あまり良くは見えないが、明らかに卓也の部屋と思われるベランダには、誰かが立っている。

 それが小刻みに揺れながら、闇夜にシャウトしているのだ。

 さぞや近所迷惑なことだろうが、起きているなら都合がいい。


 沙貴は、車から降りて来た男達に指示し、マンションの入り口で待機するよう指示をすると、卓也と澪を連行する体で中へと入っていった。


「いいですか、お二人とも。

 段取りは、先ほどの通りで」


「う、うん」


「上手く行くかな。ゴクリ」


「上手く行かなきゃ、俺達はイーデルに捕まって、エラい目に遭わされるだけだ」


「うぐ、ぜ、絶対に成功させないとね」


「エレベーターに、乗りますよ」


 静かに降りて来るエレベーターに乗り込むと、三人は深呼吸をした。

 いよいよ、金卓也に対する強攻作戦の実行である。

 卓也は、沙貴の提示してくれた段取りを、脳内で何度も繰り返し確認した。





「ふ~い、えがったぁ~」


「ご、ご主人様……もう、あ、脚が……」


「ハハハ、ベランダで犯されたいって行ったのはお前だぞ?

 いや~、それにしても、あの俺と澪は今頃どうなってるのかな。

 今頃イーデルで拷問でも受けてたりしてな!」


 そう言いながら、金卓也は冷蔵庫の中から缶ビールを取り出す。

 窓際でへばっている全裸の茉莉を眺めつつ、プルタブを開けようとする。

 その時、突然チャイムが鳴り響いた。


 ――ピンポーン


「こんな時間に、誰だ?」


 二度目の音。

 インターホンの受話器を取り、どなたですかと呼びかけると、向こうから聞き慣れない女性の声が聞こえて来た。


『神代卓也さんの御宅ですね』


「え? はい」


『夜分遅くに大変申し訳ございません。

 イーデルの谷川と申します』


「えっ?! な、なんで?!」


 思いもよらなかった来客に、半裸の金卓也は大慌てで衣服を身に着ける。

 窓際の茉莉も、谷川が来た、という報告に飛び起き、急いでメイド服を身にまとった。


 数分後、茉莉が玄関のドアを開くと、黒いスーツの女性と、その背後に、見慣れた二人の姿を確認する。

 茉莉と金卓也は、思わず無言で息を呑んだ。


「な、何事ですか?! そ、ソイツらは!」


「はい、実はこちらの、神代様を名乗る輩が、このお部屋に澪の契約書を置いているとのことで、回収をさせて頂きたく」


「け、契約書?

 そんなもの、後で送ってやるのに!」


「いえ、それが契約書が偽造されている疑いがありまして」


「はあ?」


「その契約書が明日の朝に必要となるのですが、偽造となるとその事実確認を要してからの再発行となりますので、今早急に回収する必要が生じてしまいます。

 その為、無礼を承知でこんな時刻にお邪魔させていただきました」


「な、なんでそんな急な話になるんだ?!」


 沙貴は、ここで時坂の話を挙げる。

 澪に新しい購入希望者が出たので、彼を引き渡せば神代卓也へのペナルティの話は消失するという内容。

 金卓也は非常に驚いたものの、その話自体には納得の意を示したようだ。


「ですが、その為には、今夜中に契約書を回収しなければなりません」


「それはわかった! だが、なんでその二人まで連れて来たんだよ?!」


「手早く契約書の在り処を特定するためです。申し訳ありません」


「あ、ああ……」


 どうやら、金卓也は諦めて折れたようだ。

 真実と嘘を巧みに織り交ぜ、金卓也を黙らせた沙貴の話術に、後ろで聞いていた卓也は、心底舌を巻いた。


 玄関で長々と話そうとする沙貴に、その後ろでギロリと睨んでいる卓也と澪。

 その迫力に圧されてか、或いは周囲の影響を考えたか、金卓也は渋々三人を中に招き入れた。


(第一段階、終了! っと)


 リビングに通された三人は、つい先ほどまでそこで痴態が繰り広げられていただろう痕跡を発見し、冷ややかな目で二人を見つめる。

 妙におとなしくなった金卓也と茉莉をよそに、三人は、卓也の寝室へ向かった。


「なんだこれ! 俺のコレクションがなくなってるじゃねぇか!

 てめぇら、何をしやがった?!」


「静かに! 騒ぐとすぐ警察行きですよ」


 沙貴が咎めるが、無論、これは演技だ。

 だが卓也の怒りは、ホンモノだ。


「だ、だけど……」


「さては、邪魔だからって売ったわね?

 見てよ、インテリアも少し変わってるし!」


「うっわ、この野郎、俺の部屋を勝手に――」


「うるせぇ! ここは誰が何と言おうと俺のマンションだ!

 お前みたいな奴が本来入っていい場所じゃねぇんだよ、この貧乏人が!」


「こ、この野郎、もう許せねぇ! 嘘つき野郎!」


「ちょ、ちょっと! 止めてください!」


 口喧嘩を始めたダブル卓也と、それを諌めようとする三人の美女達。

 つかみ合いの喧嘩になった二人はリビングの真ん中で暴れ出し、遂には殴り合いに発展した。

 

「こんの野郎! 今すぐこの場でぶっ殺してやる!」


「やれるもんならやってみろ俺!」


「いい加減にしてよ! ねぇ――きゃあっ?!」


 二人を止めようとした澪が、弾かれてよろめき、すぐ後ろに立っていた沙貴に激突する。


「ああっ!」


 よろめいた沙貴のハンドバッグから、ゴロン、と重い音を立て、何かが転げ落ちた。

 それを横目で見止めた卓也は、金卓也のホールドを力ずくで抜け出すと、急いで駆け寄る。

 沙貴の手を弾き、その黒い物体を鷲掴みにする。


 バチッ!


 突然、激しいスパーク音が鳴り、金卓也をはじめとする四人の動きが止まった。

 黒い物体の先端には、青白いスパークが迸る。


「す、スタンガン?!」


「か、返してください! それは、護身用の……」


「うるせぇ! おい俺! コイツで丸焼きにしてやるぜぇ!」


「いや、そこまでは無理でしょ」


 冷静な澪のツッコミを背に、卓也はスタンガンを前面にかざしつつ、金卓也に迫る。

 青ざめた金卓也は、茉莉にすがるような格好で、どんどん玄関の方へ追い詰められていく。


「お、お、お、お前、マジかよ?!

 そ、そんな事して、どどど、どうなると思ってんだ?!」


「うるせぇよ! よくも俺のことをコケにしてくれたなぁ~!

 おまけに家まで滅茶苦茶にしやがって! もう許せねぇ!

 コイツで顔面を焼き切ってやるぜぇ!」


「お、お止めください、卓也様ぁ!」


「やかましい! オラァ、食らいやがれぇ!」


 わざとらしいオーバーアクションで、金卓也と茉莉に迫る。

 二人はたまらず、玄関のドアを開けて外に逃げ出した。


「神代様! マンションの外に、護衛の社員が待機しています!

 お二人とも、逃げてくださぁい!」


「ひ、ひぃぃ!!」


「オラァ――っっ!!」


 最後の圧し、卓也は鬼の形相で金卓也と茉莉を追い立てた。

 エレベーターのある方向へ走り去ったのを見届けると、卓也はふぅと息を吐き、ドアの鍵をしっかりと締める。


「ご主人様、ナイす演技です!」


「ボクの演技も、なかなかだったでしょ?」


「第二段階、終了! か。

 さて、問題はここからだな」


 三人は顔を見合わせると、共に大きく頷いた。




谷川沙貴は、本作が初登場ではなく、過去の拙作にも複数回登場しています。

宜しければ下記作品も、是非ご参照ください(ただしノクターンノベルズの為、18歳未満閲覧禁止です)。

・~Reue~(ロイエ) 優美:

 https://novel18.syosetu.com/n8970eu/

・~Reue~(ロイエ) 杏里 Another Version.:

 https://novel18.syosetu.com/n5590ev/

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