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押しかけメイドが男の娘だった件  作者: 敷金
第二章 ロイエ編
17/118

ACT-17『 究極の選択ってヤツですかコレ?! 』


「俺が、居る?」


「俺が……もう一人?」


「ご、ご主人様が二人?!」


 マンションの脱衣場と風呂場、狭い空間に、四人……いや、三人? が、互いの顔を見合わせ硬直していた。

 

「ああっ?!」


 もう一人の卓也――すなわち、先程外から入って来た卓也が、大声を上げる。

 しかしそれは、風呂場で固まってる卓也を指してではないようだ。


「あっ!」


 続けて、見知らぬ美少女も声を上げる。

 同じく、風呂場の卓也は無視だ。


「「 み、澪ぉ?! 」」


 二人の驚きの声が重なり、同時に指を差してくる。

 澪は、その瞬間、物凄くバツの悪そうな表情になった。






  ■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■


 

 ACT-17『 究極の選択ってヤツですかコレ?! 』






 数分後、リビング。

 二人の卓也と、澪、そして茉莉まりと呼ばれた美少女が、顔を並べる。


「どういうことなの、これ?」


「ご、ご主人様と帰宅したら、もう一人のご主人様と、澪が部屋の中に?」


 戸惑う澪と茉莉をよそに、二人の卓也は互いに睨み合っていた。


「お前、俺か?」


「俺は神代卓也だ」


「俺もなんだが」


「じゃあ、お前がニセモノってことだな」


「冗談言うな、偽者はお前だろう? 勝手に人の家に入りやがって」


「いや待て、ここは俺の家だ! 良く見ろ」


「……?? あ、あれ?」


 卓也が卓也と会話し、なんだかややこしい事になってくる。

 外から入って来た方の卓也は、高価そうなジャケットとパンツを穿き、腕には大きな金色の腕時計、首元には金のネックレスを着けている。

 はたからだと、まるで卓也ホストバージョンといった出で立ちで、卓也というよりは「金卓也」といった風情だ。


 一方の元から居る方の卓也は、みすぼらしいジャージ姿にぼさぼさ頭。

 全くの正反対な見た目だが、それでも尚、両者がそっくりだという雰囲気が伝わってくる。


「どうなってるんだここ?! 俺のマンションなのに、全然違ってるじゃねぇか!」


「あ、あの、あなた達は、いったい何処からここへ?!

 それに澪、あなた、今までいったい何処に居たの?」


 金卓也と、茉莉が続け様に尋ねてくる。

 卓也と澪は顔を見合わせた後、まるで親に叱られてる子供のような態度で、自分達の事情を話し始めた。

「信じられない話だとは思うが、ひとまず聞いてくれ、俺」


「おう、俺のよしみで聞いてやるぞ、俺」


「何よ、その妙なやりとり」


 卓也は、自分がここに到るまでの経緯を、簡単に説明した。

 ある晩、澪が突然訪問して来たこと。

 その後、澪と共にこの部屋ごと異世界に行ってしまったこと。

 昨日の深夜、また異世界転移が発生したらしきこと。


 無言で聞き入っていた金卓也と茉莉は、不思議そうな顔で卓也達を見た。


「ってことは、その澪は、最初から逃げたりしてなかったって事なのか!」


「ちょっと、ボクははじめから逃げたりなんかしてないわよ!」


「澪! ご主人様に向かって、その口の利き方は……」


「あ、そうか! し、失礼しまし……いやちょっと待って!

 ボクのご主人様はこっちなの!」


「ぐお! く、苦し……チョーク、チョーク!」


「なんだか、ややこしいことになってるなあ」


 はじめはいぶかしんでいた金卓也だったが、あまりに非現実的な出来事なせいか、或いは澪がいるせいなのか、ひとまず卓也達をここから追い出そうといった話にはしない事を約束してくれた。

 どちらの卓也も大本は同じなのか、まずは話を聞いて状況を整理して行こうという思考パターンがあるようだ。

 金卓也の計らいで、ひとまず卓也と澪は、彼らに受け入れられる形となった。


 というより、そうしないと収拾がつかなくなっただけなのだが。


「いやまあ、とりあえずお前達の異世界云々の話は理解した! ……ような気がする」


「ありがとう、俺。

 それと、お前の部屋を消しちゃった? みたいな形にしてしまって、申し訳ない」


「でもそりゃあ、いずれまたお前がこの世界から移動すれば、元に戻るんだろ?

 理屈はよくわからんけど」


「あ、ああ、たぶんそうだと思う」


「それならそれでいいさ!

 それより、澪が戻って来たとなると、こりゃまたまずい事になったぞ」


「どういう事なんだ? 俺」


「ああ……実は」


 金卓也は、横に座る美少女・茉莉を指す。

 茉莉は、すらりとした長身でとても穏やかそうな優しい美女、という出で立ちで、亜麻色の髪はセミロングに切り揃え、深い蒼色の瞳が幻想的な雰囲気を感じさせる。

 澪は活発な女の子というイメージだが、茉莉は反対に、おしとやかなお嬢様といった印象を受ける。


 そんな彼女を指しつつ、今度は金卓也が話をし始めた。


「そこの澪と顔見知りって時点でもうわかると思うけど、実はこの子もロイエなんだ」


「え、ロイエってことは……まさか、この人も男?!」


 驚いて目を見開く卓也に、茉莉は無言で頷いた。


「はい、性別は男でございます」


「あ、はい、ご丁寧にどうも」


「そうよ、茉莉はボクと同じプラントで育成されたロイエよ。

 すっごく優しい子で、当然ランクもボクと同じSクラス。

 最高級スキルを持ってる最高のロイエなのよ」


「み、澪……やめて、恥ずかしい」


「な、なんだかよくわからないけど、とんでもなくすげぇってことはわかった!」


「よ、よろしくお願いいたします……えっと、こちらの神代卓也様は、なんとお呼びすれば」


「ああ、俺は君の直接の主人じゃないんだし、適当に」


「それでは、卓也様、と呼ばせて頂きますね」


「よ、よろしく」


 何故か二人とも立ち上がり、互いに深々と頭を下げる。

 その光景に、金卓也は思わず吹き出した。


「ああいや、笑ってる場合じゃないんだ。

 実はこの茉莉は、澪が俺の所に届かなかった代わりに、イーデルが寄越した“代わりのロイエ”なんだ。

 コイツが来たという事は、澪は今、俺の所から逃亡した存在として、イーデルに追われてる扱いになってる」


 金卓也は、先程澪が話した内容と同じような事を告げる。

 卓也と澪は、共に青ざめた。


「ってことは、澪が見つかったら……」


「ああそうだ、澪は消される。

 イーデルにも俺にも不要な存在、と認識されるからな」


「ちょ……!!」


 思わず、澪の肩を抱く。

 卓也は、先程の話がより現実味を帯びて来た為、改めて恐怖感に支配された。


「んで、俺の親父も、澪の件は怒り心頭でな。

 イーデルにかなりの勢いで怒鳴り込んだらしい。

 それで茉莉が送られて来たって訳だ」


「そ、そんな! ボク、何も悪い事してないのに……」


「確かにそうだけど、僕達には、もうどうすることも出来ないわ」


「うぅ……」


 うなだれる澪を横目に、卓也は突然ソファから降りると、金卓也に向かって土下座をした。

 突然の行動に、驚く三人。


「な、なんだ?」


「頼む、お願いだ!

 どうか、澪が処分されないように、取り計らってくれないか?」


 頭を伏せたまま、卓也は必死で金卓也に頼み込む。

 その光景に、澪は、激しくうろたえた。


「た、卓也! ちょ、止めて!

 ボクのために、そんな事まで……」


「澪は、ここまで俺の事を色々支えてくれたんだ。

 こいつが居る事で、俺は生き方が変えられそうな気がする。

 それくらい、助けになってるんだ!」


「……卓也」


 澪が、驚きと喜びの入り混じったような表情で、卓也を見つめる。

 そんな彼の仕草を、金卓也はじっと見つめた。


「頼む、俺に出来ることがあるなら、どんなことでもする!

 だから、どうか澪を助けてくれないか!

 いや、お願いします!!」


「た、卓也……そんなに、ボクのことを……?」


 顔を赤らめながら、卓也に覆い被さるように抱きつく。

 なりふり構わず、卓也はひたすらに金卓也に嘆願する。

 そんな彼の肩に、金卓也は優しく手を置いた。


「顔を上げろよ。

 お前の気持ちは、よぅくわかった。

 確約は出来ないけど、出来るだけなんとかしてみよう」


「え、マジ?」


「俺だって、澪が現れて、しかも理由まで説明されたんなら、納得するしかないよ。

 何も悪いことをしてない澪が、このまま殺されるなんてったら、やっぱ気分悪いモンな」


 意外な言葉に、卓也は思わず表情を明るくした。

 しかし澪は、逆に更に不安げな表情となった。


「あ、ありがとう! 恩に着るよ!」


「ははは、世にも珍しい自分自身からの頼みだもんな。

 まぁ、これも何かの縁だ」


「ご主人様、本当に大丈夫なのでしょうか」


 大笑いする金卓也に、茉莉が不安げに尋ねる。


「ああ、大丈夫さ。

 対策も、ついさっき思いついた」


「対策?」


「要は、澪がトラブルに巻き込まれて、本人の意志とは関係なく俺のところに辿り着けなかった事の証明と、俺がそれを許容するって意志を示せばいいわけだ」


「ふんふん、それで?」


 頷きながら聞き入る卓也に、金卓也は、何故かニヤリと不敵に微笑んだ。


「その上で、俺が澪の所有権を主張し続ければいいわけだ」


「ちょっと待って! でも、もう茉莉がここに居るんだから、それはイーデルが認めないんじゃない?」


「澪の言う通りです。それでは規約違反になって、ご主人様自身にも違約問題が――」


「ははは、俺を誰だと思ってる?

 仮にも神代重鉄鋼の専務・神代卓也様だぞ?

 こんくらいのトラブルなんか、何度も蹴散らして来たんだ」


 そう言うと、金卓也はふんぞり返る。

 彼の背中から、金色のオーラが漂い始めた……ような気がした。

  

「じゃあ、具体的にどうするんだ?」


 卓也の質問に、金のオーラをまとった金卓也は、人差し指を向けて来る。


「その為にまず、お前――神代卓也にも、やってもらわなければならん事がある」


「な、なんだ?! なんでも言ってくれ」


「まずは、このマンションの部屋だ。

 今はお前の部屋にすり替わっているようだが、この世界ではここは俺達の住処だ。

 なので、俺達もここでは好きに振舞わせてもらう」


「つ、つまり、一時的に四人暮らしになると?」


「そうだな、本当ならどこかに放り出したい所だが、それだとこちらも色々都合が悪い」


「お、おう。

 まあ、それはわかった」


「そして、もう一つ条件がある」


「なんだ?」


 金卓也の目が、きらりと光る。

 その視線は、澪に向けられた。


「あいつだ。澪な」


「あ、ああ」


「抱かせろ」


「はぁ?!」


 突然の申し出に、卓也は思わず声を荒げた。

 しかし、澪は何も言わず、俯いている。


「ど、どうしてそうなるんだ?!」


「簡単なことさ。

 俺が澪を手放さないっていう意思表示が、この対策において重要だ。

 となれば、俺も澪に対して思い入れってのを持たなきゃならん。

 だったら、そいつを抱くのが一番だ」


「そ、そんな事!!」


 思わず激昂して立ち上がる卓也を、金卓也は冷静に、それでいて圧を込めて諌める。


「澪はロイエだ。

 主人の命令は絶対だし、この世界では主人は俺だ。

 だから本来なら、お前と交渉するまでもない。

 俺が決めたら、それでOKなんだよ」


「だ、だけど……」


「俺が澪と再会して、やっぱり気に入ったから手放したくなくなった。

 だから、茉莉は後追いで買い取って、本来の契約通り澪と一緒に受領契約をする。

 こうすれば、イーデルは澪を処分する理由がなくなる。

 ―-どうだ、悪いシナリオではないと思うが?」


 言葉巧みに、金卓也は卓也に迫る。

 それはまるで、優しい言葉で交渉してくるヤクザのような雰囲気だ。

 卓也は、情けない程弱々しい視線で、澪を見る。

 ――だが澪は、毅然とした態度で、真っ向から金卓也を見つめていた。


「ボクは、構わないわ」


「澪?!」


「だって、ボクはロイエだもの。

 あなた達二人の話に合わせて、指示通りにするしかないもの」


「……でも……」


「澪もああ言ってるぜ?

 どうする、俺?

 後は、お前が決めるだけだぜ」


「ぐ……」


 即答など、出来ようはずもない。

 澪とはそういう関係ではないし、卓也自身、男同士でそういうことをする趣味は全くない。

 人間的には魅力を覚えてはいるが、性的な視点ではまた別な話だ。

 そう考えれば、金卓也の申し出を断る理由などない。 のだが、


「そ、それは……」


 それ以上、言葉が続かない。

 床を見つめたまま、卓也は答えを出せぬまま硬直していた。


「沈黙は肯定とするが、いいのか?」


「……」


「澪の方は、いいんだな?

 だったら、本来の主人である俺が命令する。

 ――服を脱げ、全部だ」


「……」


 金卓也が、目を細めながら命令する。

 立ち上がった澪は、一瞬卓也を見つめたが、指示された通り、その場でメイド服を脱ぎ始めた。

 見惚れるような、美しい肢体が現れ、金卓也は思わず口笛を吹いた。

 

「――脱ぎました」


「予想通り、エロい身体してやがる。

 よし茉莉、お前も来い。

 三人でだ」


「はい、ご主人様」


 金卓也は、全裸の澪の腰に手を回し、茉莉の肩にも手を置きながら、寝室へ移動する。

 ドアが開かれ、姿を消す三人。


 しばらくして、ドアの鍵が閉められる音が鳴り響く。



 それでも尚、卓也は、跪いたままその場から動けずに居た。



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