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押しかけメイドが男の娘だった件  作者: 敷金
第二章 ロイエ編
16/118

ACT-16『 お帰りなさい! ご主人様 』

これより、第二章開始です。



『奥沢さんは、五年前に交通事故で亡くなられてますけど――』



「は、はい?!」


『奥沢さんって、本社技術課の男性の方ですよね?

 はい、間違いありませんが……私、葬儀に行きましたし』


「だ、だって、昨日……」


 動揺しながらそこまで話した時点で、横から澪が、ジェスチュアで電話を切るように指示を出す。

 卓也は、とりあえず簡単な詫びを入れて、電話を切った。


「どういうことなんだ、奥沢が死んでるって……

 それに、なんか優花も他人行儀だったし。

 あと、専務ってなんだ? 俺か?」


 困惑する卓也に、澪は、冷静な態度で応える。


「並行世界への転移」


「え?」


「また起きたのよ、転移が」


「ま、マジで?」


「そう、恐らく三回目のね。

 だから、この世界の奥沢さんと優花さんは、夕べあったお二人とは全くの別人なのよ。

 そりゃあ、話も通じないんだわ」


「なんてこった。

 ってことは、俺が専務って言われてたのも……」


 自分を指差して、卓也はぎょっと目を見開く。

 澪は、こっくりと頷いた。


「そう、この世界のあなたは、どこかの会社の専務さんなのよ」






  ■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■


            第二章

 

 ACT-16『 お帰りなさい! ご主人様 』





 澪の話は、確かに説得力がある。

 彼が夜中に見たという異常現象をはじめとして、昨日までの世界とはまた違う状況になっているのは疑いようがない。

 だが、一応、優花が何かの冗談を言った可能性も否定はし切れない。

 卓也としては、ここが違う世界であるという証明を確認する必要があった。


「早速、ネットで検索してみよう」


「卓也、大ローゼンと神代重鉄鋼を調べてみてよ」


「おっそうだな」


 早速、かの二社を検索してみる。

 大ローゼンの公式WEBサイトは普通に存在し、内容も、前の世界で見たものと大差ないようだ。

 問題は、後者。


 検索したところ、あっさりと――公式サイトが表示された。


「出た! うぇ、こ、これが神代重鉄鋼?!」


「そうよ、ここ! このサイト!

 ボクも、ここで調べたのよ。卓也、会社情報を確認して」


「お、おう」


 会社概要をクリックすると、どこの会社のサイトにもあるような、代表取締役の挨拶を記したページが表示される。

 そして、そこには社長のバストショットの写真も掲載されていた。


「親父だ……この、はっ倒したくなる面、間違いなく俺の親父だ!」


「あなた達って、どういう親子関係なのよ」


 少し呆れたような声で、呟く。

 

「あれれ? 代わりに、大菊輪商会がないぞ? どこ探しても出てこない」


「この三社を調べれば、おおよそ判断がつくって云うのは、どういう事なのかしらね」


 澪の悩みをよそに、卓也は、ふとある事を考えた。


「なあ、澪」


「なぁに? 朝ごはん食べる?」


「それはそれでお願いするとして、あの、イーデル社の件。

 親父が生きてるってことは、この世界、もしかしてロイエも居るってことじゃない?」


「可能性はあるわね」


「どうする? 君が初めてここに来た時に話したみたいに。

 君の本来の行くべきところを、探してもらうか?」


 卓也は、やや心配そうに呟くが、澪はその言葉に顔を強張らせた。


「それって、ここでお別れするってこと?」


「あ、いや、ホラ。

 君は本来、俺とは違う世界の神代卓也の所に送られる筈だったんだろ?

 だったら――」


「もう遅いわよ! ボクは、今ここにいるあなた、この神代卓也に仕えてるの!

 今更、他の卓也のところになんか行けないわよ!」


 ぷりぷり怒りながら、睨みつける。

 だが、その仕草が可愛らしく、卓也はつい吹き出してしまった。


「な、何よぉ!」


「いや、ゴメン。つい」


「卓也は、もうボクのことが必要ないの?」


 そう言いながら、身体を密着させてくる。

 甘えるような目つきで見上げてくる表情に、卓也はまたもドキリとさせられる。


「でも、俺はその、本来契約している卓也じゃないわけで。

 その辺、イーデルに知られたら、いろいろまずいんじゃないのかなって」


「うん、それはそうなんだけd――」


 ピロロロロロロ♪


 ピロロロロロロ♪


 とその時、突然、携帯が鳴った。

 電話番号は、全く見覚えがなく、登録されているものでもない。

 思わず声を止めた二人は、まるで恐ろしいものでも見るような顔で、転がっているスマホに目を向けた。


「ど、ど、どうしよう?」


「で、出てみるしかないんじゃない?」


「そうだよな……」


 恐々、スマホを手に取り、通話ボタンを押す。

 それと同時に、やたらと覇気に満ち溢れた元気な声が飛び出した。


『よぉ! 起きてたか?!』


「え、だ、誰?」


『まだ寝ぼけてるのか! 俺だよ、お前の親父だ!』


「えっ、お、親父?!」


 通話の声があまりにも大きかった為、傍に居る澪にも聞こえたようだ。

 十年前に亡くなった筈の父親からの電話。

 澪と逢ったばかりの時、彼のことを確認する為に連絡したことがあるものの、やはり微妙な不気味さを感じる。

 卓也は、とりあえず出来るだけ平静を装うことにした。


「何か用?」


『何か用? じゃないだろ。

 澪ちゃんが居なくなった件で、イーデルの谷川って担当者が、お前に直接話を聞きたいってこっちに連絡してきたんだぞ。

 いったい、何がどうなってるんだよ』


「え、谷川?」


 澪の方を見ると、何故か、顔が青ざめている。

 先程と同じように、電話を切るようにとジェスチュアで示す。

 首を傾げながら、卓也は早々に通話を切り上げることにした。


「後でまた連絡する! 今、立て込んでて」


『あー? また朝からお盛んなのか?

 ロイエもいいけど、たまにはお前、女とも――』


「じ、じゃあまた!」


 話が長引きそうな雰囲気を感じ、とっとと電話を切る。

 ふぅ、と息を吐くと、先程から顔色の悪い澪を心配する。


「どうしたんだ? 真っ青な顔して」


「た、谷川って言ってたわよね、さっき?」


「ああ、俺に会いたがってるって」


「……まずいわ、この世界、本当にまずい!」


「え? どうしたんだよ?!」


「ひ、ひとまず、朝食の準備をするわ!

 その後で話しましょう」


「あ、ああ」


 澪は、大急ぎでいつものメイド服に着替えると、朝食の支度を始めた。

 短いスカートからは、珍しく下着がチラ見えする。

 今日は穿いてるんだ、と思いながら、卓也はその様子を何気なく、そして自然に眺めていた。



 少し遅い朝食を済ませた卓也は、当初の目的だったシャワーを済ませる。

 リビングに戻ってくると、洗濯を始めようとしている澪と鉢合わせた。


「そういえば、さっきの話」


「あ、ああ、そうね」


「谷川って、もしかして、澪が逢いたくない感じの人なの?」


「うん、そう」


「いったい何が……」


 脱衣場へと移動し、洗濯物を洗濯機に入れ洗剤の量を測りながら、澪は、疲れたような声で話し始めた。


「ボク、この世界で、やらかしちゃった扱いになってるみたい」


「やらかした? どういうこと?」


「たぶんだけど、ボクの本来のオーナーになる筈の、“この世界の神代卓也”が、ボクが納入されていないって文句言ったんだと思う」


「それで、何か問題が起きたのか?」


「卓也、初めて逢った時にボクが話したこと、覚えてる?」


 そう言われて、記憶を遡る。

 だが、ここしばらく色々な出来事があったので、すぐには思い出せない。

 悩む卓也に呆れたように、澪が説明する。


「ロイエは、イーデルが顧客情報を入念に調べ尽くして、守秘義務のチェックもした上で出荷されるの」


「ああ、そういう話あったなあ」


 確か澪が来た翌日に説明された事だと、思い返す。

 

「覚えてる? もし、出荷が間違いだとわかったら、ボクらロイエは処分されるって話」


「ああ、そうそ……って、えっ?」


 卓也の動きが、止まる。


「どうやらこの世界、ボクが元々居た世界みたいね。

 そして、あなたと異世界に飛ばされたボクは、顧客に納品っされる前に行方を眩ませた扱いになっているようだわ」


「だから、どうしてそこまでわかるんだ?」


 少し焦り気味に尋ねる卓也に、澪は、冷や汗を垂らしながら応える。

 その目は、真剣そのものだ。

 というより、むしろ怯えの色が窺える。


谷川沙貴たにがわ さき

 イーデル製薬株式会社日本支部、ロイエ管理課の課長」


「そ、それが?」


「この人の名前が出た時点で、イーデルはボクの行方を追っているのが確定なの!

 もし谷川に見つかってしまったら、ボクは、100%殺処分されちゃうわ!」


「な、な、なにぃ?!」


 思わず、大声を出してしまう。

 以前は、話半分に聞いていた、ロイエの事情。

 それが今、急激に現実味を帯びてきた。

 卓也も、さすがに焦りを感じ始めた。


「そ、そ、そ、それはまずい、まずすぎるだろ!」


「どうにかして、すぐにまた並行世界へ転移しなきゃ、いつかボクは殺されるわ」


「どどど、どうすればいいんだ?!

 そ、そうだ、ここに篭城し続ければ、きっと――」


 と、そこまで言った時、異変が起きた。


 玄関が、何やら騒がしい。

 洗面所から顔を出してみると、ドアの向こうから、誰かが会話するような声が聞こえてくる。


 そして、次の瞬間――



 ガチャ、ガチャ……ガチャッ



 なんと、しっかり締められていた筈の鍵が回転し、あっさりと開錠されてしまった。


「はい?!」


「え?」


 咄嗟に、二人は手で口を塞き、身を隠す。

 ゆっくりと開いたドアからは、二つの人影が入り込んできた。

 忍び込むなどといった風情ではなく、まるで自宅に戻ったかのような、ごく自然な雰囲気で。




「話し声聞こえたの、気のせいか?」


「おかしいですね、僕も聞いた気がするのですが」


「まぁいいや、それより腹減ったなぁ。

 茉莉まり、飯作ってくれるか?」


「かしこまりました、ご主人様♪」




 侵入して来た二人の会話に、風呂場に身を隠した卓也と澪は、お互いの顔を見つめた。


(な、なんだ?! 誰が来たんだ?)


(片方の声、なんか、卓也に似てなかった?)


(そう? 全然違うような。

 それより、ご主人様って――)


 そんな話をしていると、突然、風呂場のドアが勢い良く開かれた。

 しばしの沈黙の後……



「き、キャアァァ―――ッ!!」


 甲高い悲鳴が、響き渡る。

 その直後、ドタドタという足音が接近して来た。


「な……?!」


「うぎ……?!」


 風呂場で硬直する二人と、脱衣場からそれを覗き込む二名。

 狭い空間で、今、四人が顔を合わせた。


 その状況に、澪は、信じられないものを見たような表情で、弱々しく呟いた。





「た、卓也が……二人いる……?」



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