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押しかけメイドが男の娘だった件  作者: 敷金
第六章 “学園”編
102/123

ACT-101『女王コンテストと“学園”の怪異』


 ここは学園長室。

 体育館でコンテストが行われている最中、御陵は学園長に迫っていた。


「学園長、宜しいのですか?

 このような催し、校内の風紀を著しく乱すことになるのでは?」


 いささか感情のこもった物言いに対し、学園長は視線さえ向けずに答える。


「別に問題はないだろう」


「学園長!」


「この“学園”は、あくまで避難所だ。

 それ以上のものではない」


「ですが、校内の風紀を乱すということは、ひいては漂流者エトランゼ達自身の生活にも悪影響を及ぼす事に繋がりかねず」


「構わん」


「え?」


 分厚い遮光カーテンの隙間から外を覗きながら、学園長はまるで独り言でも呟くように続ける。


「この“学園”に避難して来ている者達は、いずれも酷く退屈している。

 平和だが、代わり映えのない日常の繰り返しにな。

 だからこそ、退屈した者達は“学園”の外に刺激を求める。

 この前の連中のようにな」


「は、はぁ」


「そういう問題行動が抑制出来るのならば、生徒達が自主的に行うイベントの一つや二つ、目溢ししても良いだろう。

 彼らにとっても良い刺激になる」


「それにしても、その……コンテスト? というのですか?

 人の美醜を競い合わせるなどという下劣な行為を、生徒会として見過ごす訳には」


「それなら生徒会自体が、それを上回るような面白いイベントを企画運営すれば良かったのではないかね」


「……」


 言葉を切り返せない。

 とても悔しそうな表情を浮かべたまま黙り込む御陵に、学園長は一息置いて呼びかける。


「それよりも、だ」


「はい」


「ここしばらく、ナイトメアと思しき者の目撃情報がない。

 こういう時こそ、警戒すべき時だ」


「同感です。

 以前も、このような事があった後に……」


「生徒達には、くれぐれも“学園”の外に出ないよう周知を徹底してくれたまえ。

 その為にも、今回のコンテストは絶好と云えるだろう」


「そのご意見には同意いたしかねます」


「そうか」


 会話は、そこで止まる。

 一礼して無言のまま立ち去る御陵を振り返りもせず、学園長は重い溜息を吐き出した。


「昭和ヒト桁生まれは、頭が固すぎて困るな」

 





  ■□ 押しかけメイドが男の娘だった件 □■

 

   ACT-101『女王コンテストと“学園”の怪異』






 会場は、割れんばかりの大喝采に包まれた。


 白と青を基調とした、丈の短いセパレートのセーラー服。

 そこに大きなピンク色のリボンを配して、ミニスカートの後ろをガードしつつ華やかさを添えている。

 蒼いリボンを施した白のオーバーニーにショートブーツを合わせ、長い黒髪には白地にブルーのラインが入ったキャップが乗る。


 大胆にして清楚、可憐にして妖艶。

 正に性別を超越した存在が、ステージの上に佇んでいる。

 まるで学園祭に招待されてきたアイドルの如き輝き。

 そのあまりの可愛らしさ、愛らしさに、一瞬にして会場の全員が魅了された。


 男女入り混じった会場の声援が、さらにヒートアップしていく。

 それはもう先程のジャネットの時の比ではない。


「ぬぐぐぐぎぎぎぎぎ!!

 な、なんでぇ?! なんであんなオカマの方が受けるんですの?!

 む、胸だってぺったんこで、お尻だってあんなにちんまいのに!

 色気のへったくれもないじゃないですの!!」


「ポワワ……」


「ちょ、アリス!

 何を見とれているんです?!」


「へぁっ?!

 お、お嬢様?! いらしたんですか?」


「ちょっと! 何で私の存在を忘れてるんです?!」


「え、あ、いや、あのその」


「どういうことなんですの?!

 アリスまで目を奪われるなんて……もう、異常としか……」


 散々悪態をつきながらも、ジャネット本人もいつしか澪の姿に見とれ、舞台袖から顔を覗かせる。

 この瞬間、会場の全員の意識が一つになった。



(すげぇ……毎日顔を合わせてるのに。

 澪って、こんなに可愛かったんだ……)


 主人の卓也すらも、例外ではなかった。

 ぼうっとステージの方に見入っていると、急に膝の上のリントがぐずり出した。


「ど、どうしたの?」


「おトイレ、行きたい」


「お、おう!」


 見た目は小学生……くらいではあるが、実際は未就学児。

 色々と自分に言い聞かせながら、卓也は後ろ髪を引かれる想いで体育館を後にした。


(そういえば、体育館に一番近いトイレって何処だったかな?)


 会場を抜け出すと、二人は人目を避けるように誰も居なくなった校舎へ戻って行った。





 一方、ステージの真ん中に立ち尽くす澪は、眼下で盛り上がっている生徒達に手を振りながら、頭の中ではどうやって間を持たせようかと、必死に考えていた。


(ま、まいったな~! ど、どうしよう?

 いつまでも立ちっぱなしってわけにもいかないし……かといって、派手に動いたら、み、見えちゃうしぃ!!)


 たはは顔で間を繋ぎながら、澪は必死でスカートの端を押さえて、覗かれるのを防いでいた。




 ――時間は、澪が衣装を渡された直後に遡る。


「ちょ! 何よこれ!

 サイズ小さすぎじゃないのよ!」


「これは……どう見ても百三十サイズくらいしかないな」


「子供用じゃないの? こんなの着れっこないよぉ!」


「そうだな、仕方ない。

 僕がなんとかしてみる」


「あ、でも」


「気にするな、そのための付き人だろう」


 そう言い残して、麗亜は壇上から飛び降りて行った。


 どう考えてもわざとやったとしか思えない、衣装の縫製。

 いくら女性のような見た目と体格とはいえ、百六十センチある澪の体格には明らかに合わない。

 百三十サイズといえば、十歳未満の子が切るくらいのサイズだ。

 広報部の手配でやって来た裁縫部により採寸はしっかり行われたにも関わらずこんな衣装が提供されてとなれば、もはや悪意があるとしか思えない。


「どうするつもりかしら?

 スタッフに文句でも言って交換させるのかな?

 ……間に合うとは思えないけど」


 舞台裏で一人カッカしていると、やがて麗亜が戻って来た。

 ただ、その両手に何やら色々抱えているのが気になる。


「お待たせ」


「麗亜、それは何?」


「何って、裁縫部から無理矢理借りて来た裁縫道具と材料だよ」


「こんなもの、どうするのよ?!」


 澪の疑問の声に、麗亜はニヒルな笑みを浮かべ囁いた。


「手直しするのさ」


「手直しって……えっ、今から?!」


「大丈夫だ、問題ない。

 君の番まではまだ充分時間がある。

 二人がかりでやれば、むしろ余裕すら出来るさ」


「うえぇ……」


「澪、もしかして裁縫、苦手?

 だったら僕がやるけど」


「で、出来るわよそれくらい! ロイエの基本技能なんだから。

 でも、これをどうやって?

 切った貼ったで丈を伸ばせるわけじゃないし」


 トホホサイズな服を手に持ちながら困り顔をする澪に、麗亜は何の問題もないといわんがばかりにウィンクを返す。


「僕の発想は逆だな。

 このサイズを利用するのさ。

 まあ見ててご覧」


 そう言うが早いか、麗亜は澪の持つ服を彼の身体に押し当て始めた。


「まず、前と背中の中心部分は切り開こう」


「えええっ?!」


「スカートは、いっそのことローライズにアレンジしよう。

 ウエストの拡張は必要だが……そうだな、これも後ろの方で」


「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ麗亜!

 問題個所をそんなに後ろに回したら……」


「大丈夫さ、君の長い髪である程度隠せるし。

 それに、その為にこれがある」


 麗亜はそう言いながら、大きなピンク色の布地を広げて見せた。


「さぁ、裁断は僕がする。

 澪、君は縫い付けの方を頼む。

 ああ、ミシンもないし、そこまでがっしり縫う必要はないから」


「だ、大丈夫なのかなあ~?

 って、ねえ!

 こ、このパンツ、どうしよう?!」


 澪は、衣装の一番下にしまわれていた“紐みたいなもの”を指で摘まみながら戸惑う。

 どう見ても、これは本来必要な布面積の半分以下しかない。

 

「これは……下半分がかろうじて覆える程度だな。

 上は丸出しになってしまう。本当に酷いもんだ」


「まさか、これも穿かなきゃならないの?」


「用意されている以上、穿かないわけにはいかないんじゃないかな。

 仕方ない。澪、なんとか見えないように旨く隠し通すんだ」


「ぎえええ!」


 舞台裏でのまさかの衣装直しが始まる。

 その間も、次々に参加者がステージに上がり、罵声に晒されて退場していった……




 そんな経緯の末に出来たのが、澪が今着ているコスチューム。

 途中、予選落ちが大量に発生した都合、時間がなくなって色々しわ寄せも出たが、それらは“全部背中側に回す”という暴挙で無理矢理片付けている。

 そのせいもあって、澪は気軽に後ろを向けなくなってしまった。


(そんな事より、一番ヤバイのは下半身なんだって!

 これ、ちょっと下から覗かれたらモロ見えなんだからぁ!

 ああ~、早く時間終わってよぉ!)


 そんな事を考えながらも必死で笑顔を作っていると、


(澪、こっちを見て!)


 ふと見ると、舞台袖で麗亜が何やら注目を促している。

 何処から調達したのか、大きなダンボールに黒マジックで字を書いたものを示した。


(えっと……何?

 う、歌でも唄って繋いで、ですってぇ?!

 えぇ……う、唄うのお?! ボクが?!)


 ステージの上には、参加者がアピールトークをするためのマイクが設置されている。

 悩んだ末、澪はマイクに手をかけた。

 時間は、まだまだ残っている。


(え~と、じゃあボクのレパートリーの中から、そんなに大きな振りつけが必要なさそうなものを)


『そ、それじゃあ、澪唄いまぁ~す♪』

 


 オオオオオオオオ!!!



 会場が、更に盛り上がる。

 その気迫にだんだんその気になって来たのか、澪は覚悟を決めてすぅ~っと息を吸い込んだ。


『それでは聞いてくださぁい♪

 歌は“昭和枯れすすき”――』

『待て! 待て待てまてぇ!!』


 何を思ったのか、麗亜が舞台袖から飛び出して抗議して来た。


『なんでそれなんだ?!

 もっとこう、若者受けするような明るいポップな曲をだな!』


『若者受けって……これ、物凄く大ヒットした曲なのよ?!』


『わかるけど、セレクトが古過ぎると言ってるんだ。

 ここはだな、例えばおニャン〇クラブとか』


『それ、いくらなんでも新し過ぎない?』


『じゃあ〇ゲンジ辺り』


『いいわねぇ、でもそれもボクにとってはまだ新しい部類かな』


『え? ――昭和から離れろ、だって?

 澪どうする? お客さんからクレーム入ったぞ?』


『えぇ?! だ、だって僕、昭和歌謡曲しか知らないしぃ』


『じゃあいっそのこと趣旨変えで、誰もが知ってるテレビまんがの歌なんかどうだ?』


『テレビまんが……ああ、アニメのことね?

 じゃあ――ドラゴンボ-ルとか?』


『誰もが知ってるものなら、ここは“うんみぃのうた”で決まりだな』


『何よそれ! 初めて聞いたわよ?!!』


『何ってサザ江さんの主題歌じゃないか、知らないのか?』


『知らない!』



 突然始まった二人の掛け合い漫才に、会場は爆笑の渦に包まれた。

 一方で、それは古い、いや古くない、といった議論まで勃発している。

 よもやの突発芸に会場は沸き、反対側の舞台袖に居るジャネットだけがギリギリと歯ぎしりをしていた。


 だが、


「ん? あれ?」


「どうされました、お嬢様?」


「アリス、あそこをご覧なさいな」


 ジャネットが指差したのは、観客の生徒達の方。

 向かって手前右側に居る人物のことだと、アリスはすぐに気付いた。

 何故なら――


「ええっ?! えっ? えっ?!」


「ね、確かに居るでしょう?」


「どどど、どういうことでしょう、お嬢様?!」


「あっちにも……いるし、こっちにも……。

 あの子、いったいどんな面妖な術を?」


 ジャネットとアリスの視線の先。

 そこに居たのは――制服姿の、澪だった。


 だが彼は今、麗亜と共にステージの上で漫才をしている。

 

 では、あれは?

 と思って再度ステージ下に目線を移すと、


「あれ? いない……」


「おかしいですね、さっきは確かにそこに」


「疲れてるのかしら、私達?」


「夕べ遅くまで衣装の手直ししてましたからねぇ」


「それはあなたが、ど~しても真夜中にアップルパイが食べたいと言うから」


「お嬢様のアップルパイ、美味しかったです~♪」


「ぐぬぬ」


 揃ってあくびをした後、二人は「きっと気のせいだったに違いない」と、無理矢理納得することにした。




『それじゃあ、改めて唄いまぁす♪

 歌は“荒野の果てn』

「はい時間切れでーす!

 ありがとうございましたー!!」


『『 ええええ~っ?! 』』

 

 結局、学園のアイドルの歌声は披露されることはなかった。




 なんとかトイレを見つけて用を済ませ、体育館に戻ろうとした卓也とリントは、いつの間にか校舎内で迷ってしまった。

 思った以上にトイレの位置が離れていたのが災いしたようだ。

 

「まいったなぁ、どっちだったっけ?」


「おじちゃん、あっちじゃなかった?」


「そうだったっけ? 行ってみようか」


 自分のせいで迷ったことを悪く思っているのか、いつになくリントも協力的だ。

 少々焦りはするものの、卓也は彼との距離が少し縮められたような気がして、それはそれで悪い気はしなかった。


 やがて校舎の端に辿り着くが、見覚えのある大きな鉄の扉が視界の端に映る。

 ここは、先日麗亜とリントが出て来た場所でもある。


「おっ、こんなとこまで来ちゃったのか。

 なあリント君、この向こうって、どんな感じだった?」


 なんとなく尋ねてみると、リントは少し小首を傾げて答えた。


「あのね、ご本がいっぱいあったの」


「え、もしかして図書室?」


「わかんない。

 でもね、中はすごく暗くて怖いの。

 あと、お爺ちゃんが居た」


「お爺ちゃん?」


「うん、白いおひげがいっぱい生えてたの。

 そのお爺ちゃんが、出口を教えてくれたの」


「……」


 この“学園”には、どういう訳か若い男女しかいない。

 年齢不詳の澪、そして自分と学園長だけが例外だが、それ以外は高校生くらいの年齢の者しかいない。

 そんな“学園”内に老人が居るというのは、非常に興味深い情報だ。


(もしかしたら、この“学園”のことを詳しく知っているかもしれないな、その人)


 今回のイベントが終わったら、会いに行ってみようと卓也は密かに心に誓った。


「それにしても、誰もいない学校ってのはちょっと怖いよね」


 間を持たせようと、卓也は適当な話題を振る。


「おじさんの子供の頃な、小学校に“七不思議”って伝説があったんだ」


「ななふしぎ?」


 少し興味があるようで、反応してくる。


「そうなんだよ。

 校長先生の銅像が動いたり、誰もいないのにピアノが鳴ったり、人体模型が動いたり」


「やぁ、怖い~」


 リントが露骨に嫌そうな顔をして耳を塞ぐのを見て、卓也は「しまった」と思い、それ以上話を続けるのをやめた。

 しばらく歩いていると、


「ねえ、おじちゃん?」


 突然、リントが袖を引っ張ってくる。


「どうしたの?」


「あのね、さっきね。

 あっちに誰かいたよ?」


「ん?」


 リントが指差したのは、窓だ。

 方向的に外はグラウンドの筈だが、今は誰の姿も見えない。


「ああ、もしかしたらイベントに参加してない人がいるのかもよ」


「ふぅん」


「さぁ、早く戻ろうか」


 リントの手を繋ぎ、卓也は体育館のあるだろう方向に向かって歩き出す。


 窓の向こうから、真っ黒な影がべったりと両手をつけて中を覗き込んでいるのにも気付かずに。

 

 



 体育館の女王コンテストも、最高潮に盛り上がっている。

 残すのは、最後の審査『水着コンテスト』。

 しかし色々あり、結局この審査はジャネット霧島と澪の一対一対決となった。


 それぞれが舞台袖に戻って衣装を着替え、再びステージに戻りアピールする。

 その後、会場に集まった生徒達の投票が行われ、晴れて“学園”の女王が決定する流れらしい。


 早速仮設控え室に入った澪と麗亜は、用意された水着を見て目をギョッとさせた。


「び、び、び、ビキニぃ?!」


「しかも……白だと?

 布地も薄いな」


「こ、こんなの男の子に着せてど~すんのよ!

 見てよこれ! 下なんかギリギリじゃない!

 はみ出す、絶対にはみ出すよぉ!」


「確かにそうだな。

 これは……物好きなクライアントがロイエに夜な夜な着せて悦ぶとか、そういう領域のものだろう」


「冷静に分析してる場合じゃないよぉ!

 どうしよう、こんなんじゃさっきみたいに改修も出来ないし……」


 準備時間は少ない。

 先程の衣装を着たまま狼狽える澪をじっと見つめ、麗亜はやがて何かを諦めたような表情を浮かべた。


「こうなったら、止むを得ないな。

 澪、ちょっと」


「え? な?! ちょ」


「じっとしているんだ」


「え……だ、駄目!

 どうして急に、そんな」


「はみ出させないためさ。

 少しの間だけ、力を抜いて」


「ちょ、駄目……だよぉ!

 僕は、卓也の――」


「一分間だけだ」


 麗亜は澪に接近し跪くと、指を巧みに動かし刺激を与える。

 顔を近付けて舌を伸ばし、優しく包み込んだ。




『皆様、お待たせいたしましたぁ!

 いよいよ最後の、水着審査に移らせて頂きます!

 こちらが終了した時点で、会場の皆様には投票を行って頂き、それで“学園”の女王が決定します!

 世紀の瞬間に、是非ご参加くださぁい!!』



 司会者の弁士の声が大きく響き渡ったのは、それからおおよそ五分後くらいだった。


 いよいよ、最後の対決が始まろうとしている。






 その頃、男子寮地下の大浴場では、カイトとダイスケの二人が入浴していた。


「ふぃ~、誰も居ない大浴場は最高だぜぇ~!」


「あんな人が一杯のとこにわざわざ行くなんて、正気の沙汰じゃねぇよな」


 生徒達の大半が体育館に集まっているその隙に、がらがらの大浴場を堪能しようという狙い。

 それは見事に叶い、二人は大きな浴槽に半身浸かりながらのんびりとくつろいでいた。


「本当は行きたいんだろ? 澪さん見に」


「まぁそうなんだけどさ、どうせ女王は澪さんに決定だろ?

 だったらわざわざ行かんでも――」


 そんな事を話していると



 ――カラカラカラ



 脱衣場と浴室を繋ぐ引き戸が開く音が、突然聞こえて来た。

 二人は無意識に、誰が入って来たのかを確認する。


「珍しいな、俺達以外にここに来るなn――」


「――え、な、なんで?」


 二人は、思わずジャボンと大きな音を立てて浴槽に浸かり直した。



「こんにちは、お二人とも」


 聞き覚えのある声が、エコー付きで響く。



 浴室に入って来たのは――全裸の澪だった。




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