02-027 急変
「電脳移植、とはまた……」
「ご存じですか」
「ええ、もちろん」
ユラトだってケイイチ達とは方向性は違えど、アンドロイドおたくの一員だ。
電脳移植、という手法の存在は当然ながら知っている。
「あれこそ人類の可能性ですよ」
キヤマダの表情が、どこか恍惚とした、うっとりとしたものになった。
どこか自分に酔っている、という風だ。
「一説によれば、かの高名な玖珂ナオが、電脳持ちだという噂もありましてね」
その一言に、ナオの目がキッと鋭くキヤマダを見た。
ナオが電脳持ちである事は、広く公開されているわけではない。
様々なブラフを撒いて情報を攪乱してもいる。
こんなよくわからない男が、噂話レベルだとしてもそんな話を知っている事に少しばかり違和感がある。
何か優れた情報を持つ筋と繋がりでもあるのだろうか――
怪訝な表情になるナオをよそに、二人の会話は続いていた。
「是非とも私の手で叶えてみたいとそう思っていたんですよ」
「でも、あれってすごく難しいという話では?」
「その通りです。未だに成功事例は数えるほどしかない。だからこそ、やる価値があるんですよ。いち研究者としてね」
「……なるほど」
ユラトは頷く。
「つまり、えっと……そのお問い合わせいただいたお客様に、電脳移植を試みた、と?」
「はい」
「結果は……?」
「残念ながら……」
ユラトの一言に、キヤマダのテンションは急落した。
やれやれ、とでもいうように左右に首を振り、
「被験者が悪かったのかな。まったく奇っ怪な言葉で話す変な女でしたが、そのせいですかね」
キヤマダは悪びれもせずそう言い放った。
実験に使ったハツカネズミが死んだ、くらいの軽さだった。
「そう……なんですね」
ユラトはキヤマダのその言葉を噛みしめるように「そう……か……実験で。だから……」と何度も呟き、そして――
刹那、ユラトの纏う空気が――変わった。
ユラトは無言でキヤマダに近づく。
その目には――怒気。
キヤマダはユラトのただならぬ雰囲気に気圧され、後じさりして倒れ、尻餅をついた。
「な、何です……!?」
「うわああああ!」
ユラトが突然、大きな声を上げ、手を大きく振り上げた。
その手に、鋭い金属の光。
ナイフ――?
ユラトはその手をキヤマダに向けて振り下ろし――