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トライアルズアンドエラーズ  作者: 中谷干
Vol.02 - 擬態
55/74

02-015 証明

◇ ◇ ◇


 3日目、4日目の日記から、少しばかり嫌なものが混ざり始める。


 特に3日目の日記は、ちょうど昨日、自身が経験した事と重なる。ケイイチ的には共感しかない。

 調子に乗って舞い上がっていたので全く意識してなかったが、言われてみればアンドロイドコスプレ姿で人助けをした時、お礼を言われた記憶はない。

 依頼もそういえば上からな感じの命令口調で言われる事が多かった。

 人助けをしながら、心のどこかで小さな違和感を感じていたのだが、なるほどそれだったのか、と腑に落ちた。


「にしても、アンドロイド壊す人とかいるんですね……」

「ん。ボクも似た経験ある」

「そうなんですか!?」

「ん」


 ナオは思い出し、苦い顔をした。

 ナオがまだ幼い頃だ。

 首筋のコネクタを隠すとかいった事を意識できていなかったその頃、アンドロイドだと誤解され、突然襲撃された事がある。

 その時は近くにいたハルミやAIたちの助力で身を守り難を逃れたが、ハルミがいなかったらどうなっていたことか。


 それ以来ナオは自衛のため、アンドロイド関連の悪い情報は一通り集めている。

 日記に登場するような破壊を楽しむ連中以外にも、アンドロイドを様々な方法でいじめる事に楽しみを見出す人、気に入った機体を勝手に捕まえて蒐集する悪質なコレクターなどもいる。

 アンドロイドというのは、人に近い姿をしているからこそ、様々な人間の欲に晒される存在でもあるのだ。


 「妙な事になってるみてぇだな」


 そんな二人の会話に、またさらりとギンジが割り込んできた。

 煙草をふかすダンディな姿がARルームに現れる。

 口ぶりからして、すでに日記の事は把握しているようだ。


 「どうだ?」


 例のごとく色々すっ飛ばして進捗状況を確認するギンジに、ナオは「成果なし」と言わんばかりに首を横に振ってみせた。

 ギンジもその返答は予想していたのだろう。特に驚く様子もない。


「日記の出所は?」

「それなんだがな……」


 ナオの質問に、ギンジは顎髭を撫でながら答える。


 警察の超AIのほうでも、失踪した少女と日記の主が一致することは確認したようで、AIが持っている日記に関わる情報は、警察で一定の権限を持つ者には公開された。

 ――が、誰が日記を公開したのかについてはわからなかったそうだ。


「プライベート持ちか、そういう手順踏んだか」


 プライベートを持つ人間なら、ネット上に発信した文書の発信者を隠す方法を持っている。

 それ以外にも、完全匿名でのタレコミをしたい人をサポートする団体があり、匿名での文書公開を行う方法もいくつかある。


 「そっちの線で探るのは難しそうだな」

 「そ」


 AIが把握していないのなら、無理。ナオはその線をあっさりと捨てる。


 そうなると、あとは地道にリィミの行動をトレースするしかない。

 炎上のお陰、というのもなんだが、ネット上に情報は大量に集まってきているし、ユラト以外にも日記に登場した何人かが特定されて燃えている。

 その周辺に集まる情報を拾っていけばかなりの精度が出せるだろう。

 ナオは自身のAIアシスタントにその辺りの情報収集の指示を出し、集まってくる情報を軽く流し見た。


「あの……」


 そんなナオの横で、ケイイチはおずおずと手を上げる。


「炎上みたいのって、警察でどうにかできたりしないんですか?」

「ん?」

「……ああええと、今回のこの件で知人が炎上してまして」

「この件で、ってーと、コスプレ少女に何かやらかしたとかか?」

「じゃなくて、コスプレ衣装作ってた人で」

「そっちか……まぁ、無理だな」

「AIの力とかで……」

「AIは不介入が原則」

「……で、ですよね……」

「ま、人の口に戸は立てられねぇしな……」


 ネットではすでに、日記に登場し、リィミに無礼や狼藉を働いた何人かが特定され、晒し者にされている。

 だいぶひどいバッシングを受けている人もいるようだが、ケイイチはその辺の情報は何となく怖くてしっかり見ていない。


「ち、ちなみに炎上がらみで出回ってる情報って合ってるんですか?」

「さーて、どうだろな……。あの日記に出てくる連中も犯罪者ってわけではねぇし、警察だからってそうそう何でも情報もらえるわけじゃねぇからな」

「そうなんですね」

「ま、仮に知ってたとしてもお前さんらには教えられねぇが」

「で、ですよねー」

「潔白の証明が簡単なのが救いってとこかね」


 今も昔も、ネットで炎上するような話はいくらでもある。

 だが、AIたちがいるお陰で、当事者であればその真偽をはっきりと証明することはできるので、大昔と比べれば鎮火はしやすくなったと聞く。

 

 古い時代には、情報が本当に正しいのかを証明する方法はなかった。

 だから悪意を持った人間が扇動するだけで騙される人も多く、デマが原因で社会的な立場や信頼を失う人も多かったらしい。


 今は少なくともデマに踊らされる事はない。

 AI達が世界のあらゆる場所のあらゆる出来事を記録し続けているのだ。

 公の場でAIによる認証をつけて発言すれば、その発言内容が真実だという事はいくらでもAIが保証してくれる。

 だから本人にやましいことがないのなら、AIによる証明をつけて公の場でそれを伝えればいい。


 第三者が嘘を広めたところで、それを当事者がきちんと否定できるのだから、発信した側が評判を落とす結果は目に見えている。

 それゆえ出所の怪しい都市伝説レベルの噂話を広める怪しいメディアは多数あれど、個人が他人を攻撃するためにデマを流したりすることはほとんどない。


 ――のだが。


 不思議なことに、目下大炎上中のユラトは、日記が公開されてから、全く発信をしていなかった。

 炎上し、あからさまに嘘でしかない妙な噂を多数流されているにもかかわらず、だ。


 ケイイチにはそれが、どうにも気になっていた。

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