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トライアルズアンドエラーズ  作者: 中谷干
Vol.01 - 復活
14/74

01-014 自死

 数秒前。

 博士の異変を認めたその瞬間から、ナオとハルミは動き始めていた。


「またお目にかかりましょう」

 博士がそう言って笑顔を浮かべた瞬間。

 ナオの胸の内に、強烈な焦燥のようなものが湧き上がった。


 何か途轍もなく嫌な事が起ころうとしている。

 これは、多分、博士の生命に関わるような事。

 注視すべきは、博士の首。

 首――?

(まさか……!)

 ナオの思考が一気に加速し、一つの可能性にたどり着いた時、その可能性は眼前で現実となっていた。


 博士の首から滲み出る赤い液体。

 そしてずれていく博士の頭部と、噴き出す血液。

 恐らくは、アンドロイドの首を落としたのと同じ方法。

 それを使って、おじさんは自分の首を切断した。

 切断された首。

 切り離された胴と頭。

 失われていく血液。


 どうにかしないと。

 どうにかして、おじさんを助けないと。

 どうしたらいい?

 首を繋ぎ直す?

 ハルミを動かして、首を正しい位置で繋げば、体内のナノマシン達がどうにか繋いでくれる可能性はある。ハルミの体にはいざという時のため、造血し輸血できる仕組みもある。失われた血液も多すぎなければどうにかなるはずだ。

 指示は飛ばしていないが、期待通りハルミは行動を開始している。

 博士に近づき、鮮血を浴びながら、その頭を――

 間に合う? 間に合うか?


 だが――ハルミからアラートが届く。ナオ自身も気づく。

 おかしい。

 おじさんの体の中に、血液に、ナノマシンの気配がない。

 いや、まったくいないわけではないが、極端に濃度が低い。

 そんな馬鹿な。

 今、この世界で、体内にナノマシンのない人間なんていない。特別な処置で除去しない限り、そんな事はあり得ない。ナノマシンなしで生きるなんて不便すぎるし、危険すぎる。

なぜ、ナノマシンがない?

 誰かがおじさんの体からナノマシンを除去した?

 だとしたら――これは殺人なのか?


 ――いや、そんな事は今はどうでもいい。

 おじさんの回復の事だけを考えろ。おじさんの命をどうにかする方法を――

 ナノマシンがないとしたら――

 ナノマシンをここで作る? それは不可能だ。ハルミの力を借りて作る事自体はできるが、十分な量を作る時間がない。間に合わない。

 近隣に医療設備の整った場所はない。

 切り離された首を繋ぐレベルの超高度医療に対応する車両は――400mほど離れた場所に一台あるが今から動かしても間に合わない。ドローンは向かってきているがこれも間に合いそうにない。大気中のマイクロマシンは……濃度不足だ。適切な医療行為を行えるだけの構造を作れない。

 自分の手で手術……はできるわけがない。

 ハルミなら可能性はあるが、それは十分な設備と環境があった場合の話だ。この薄汚れた路地裏ではどうにもできない。


 他の方法は?

 他の方法はないのか?

 ありとあらゆる情報、ありとあらゆる可能性を探す、探す、探す、探す、探す。

 でも、見つからない。

 何をどうやっても、可能性が1%たりとも見つからない。

 おじさんの死が、おじさんの死の確率が、100%からどうやってもどうあがいても揺らがない。

 それでも探す、探す、探す、探す、探す。

 ハルミの力も借りて、AIネットワークの力も借りて、あらゆる可能性を探る、探る、探る。

 見つかるはずなんだ。

 これまでボクは、たくさんのトロッコ問題に、誰一人として死なないで済む三つ目の選択肢を見出してきた。それが、おじさんの死の場面でできないなんて事はない。ないはずだ。

 この特別な頭脳は、こういう時のためにある。

 見つかるはず。

 見つかるはずなんだ。

 万に一つの可能性。億に一つの可能性。無量大数に一つの可能性。

 それが、きっとある。

 きっとあるはずなんだ。


 なのに――

 なのに、見つからない。

 見つからない。

 胸に湧き上がる焦燥。

 なぜ見つからない?

 どうしたらいい?

 どういう可能性がある?

 どういう可能性が――

 そうしている間にも、おじさんの首からは刻一刻と命が噴き出し失われていく。

 そして――博士の死は、可能性から確定した事象に遷移しはじめる。

 おじさんが、死ぬ?

 おじさんが目の前で死んでいくのに、ボクは何もできない?

 何もできないのか?

 目の前で、人が死ぬのに?


 ――気持ち悪い。


 どうしたらいい?

 どうしようもない?

 本当にどうしようもないのか?

 人が、死ぬ。

 死ぬ――


 ――気持ち悪い。


 気持ち悪い。


 キモチワルイ。


 博士の死が確定に近づいていくにつれ、ナオの心は圧倒的な不快感に埋められていく。


 気持ち悪い。


 気持ち悪い。気持ち悪い。


 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。


 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。


 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。


 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。


 博士の死が完全に揺るぎない確定事項になった時。


 全ての感情と感覚を不快感に埋め尽くされ――ナオの意識は途絶えた。

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