スフアリフィル様との対面
「スフアリフィル様の発作が発生しました!しかも、っつ今日のは命に関わるとっ…!」
慌ててやってきた従者が俺たちに伝えた。
スフアリフィル様
俺の兄で第五王子であるスフアリフィル様はハーフエルフの体質に身体が合わず、貧弱でいつも寝込んでいるため外にはあまり出ない王子だ。リフ兄様の実の兄でもある。
「フィルがっ!」
リフ兄様は慌てた表情を浮かべて立ち上がった。
「ごめんノアっ!フィルの所に行かなくちゃっ!フィルがっ大変っ!」
「俺も行きますっ。」
俺も慌てて立ち上がりリフ兄様の後を追った。
俺の前世の記憶があれば多少の看病や手当は出来るはずだ。スフアリフィル様がどれくらい重症なのか分からないが、命に関わるくらいなら相当だろう。一回も会ったことは無いが、話して見たいとは思っていたのだから死んでもらっては困る。
リフ兄様達が暮らすフォリウム宮殿は俺が暮らす宮殿、アージェンティ宮殿とはまた少し違う宮殿だった。アージェンティ宮殿は白銀や金、寒色系が多いのに対し、フォリウム宮殿は金や緑など自然を意識した温かな装飾が多い。アージェンティ宮殿に比べ植物が多いのはエルフであるリフ兄様とスフアリフィル様の母であるフレアリディ様の影響が大きいのだろう。長い廊下を走りある部屋に近づくにつれて空気が冷たくなっていった。そして氷漬けになったドアの部屋の前でリフ兄様は立ち止まった。もしかしなくてもこの中にスフアリフィル様がいるのだろう。何故氷漬けになっているが疑問だが、取り敢えず入る方法を考えなければ。
「リフ兄様?どうやって入りますか。」
「俺の固有スキルを使うよ。俺の固有スキルは魔法を少しは吸収できるんだ。」
そういうとリフ兄様は固有スキルを展開させた。なんとみるみるうちにリフ兄様の周りに生き生きとした太い樹が生み出されており、リフ兄様の周りを生きているように動いていた。まさに魔法使いのようだった。そしてリフ兄様が生み出した自然樹はリフ兄様を中心にリフ兄様を守るようにまわっている。
魔法を生み出したリフ兄様自身も驚いた表情を浮かべていた。
「フィルが倒れている時ほど俺の魔法は上手くなる気がする。」
ポツリと呟いたあとリフ兄様は腕をドアにかざした。それに合わせて樹も前へ動いた。リフ兄様が操っているようだ。そして樹は凍てついたドアに根を伸ばし、氷を吸収していった。ドアも一緒に壊れてしまい、部屋の中が見えるようになった。それにしてもリフ兄様は魔法の才能がないと嘆いていたがとてつもなく強力な固有スキルだと俺は少し畏怖の感情を抱いた。
「フィル!」
リフ兄様が真っ直ぐ冷たい冷気が溢れ出す部屋の中へ駆けて行った。
冷気が漂う部屋の中はこの空間だけ時が止まったかのように静まり返り、粉雪がハラハラと舞っていた。昼間なのに少ない光が雪を反射してキラキラと輝きより一層疎外感を醸し出していた。部屋のあちこちに氷柱が下がっており、冷や冷やとした氷の膜が部屋全体に張り巡らせてあった。そして部屋の中心に進むにつれて空気がより一層冷たく凍てついていった。中心のベッドには一人の少年が横たわっていた。青白い、血が通っているかも分からない肌にハラリとかかっている灰銀の髪、うっすら空いている目は水色でそれらが彼の雰囲気をより一層冷たく思わせた。彼が多分俺の兄、スフアリフィル様だろう。リフ兄様が彼の肩を揺らしながら涙目になり話しかけている。
「リフ兄様。落ち着いて下さい。元気のない人は安静にしたほうがいいです。一回、スフアリフィル様から離れましょう。」
少し、いやだいぶ五歳ぽくない話し方になっているがそれは置いておこう。
「ノアはどっか行ってて!フィルはっ…フィルはノアと似たような銀色の髪を持っているのにっ、フィルだけ辛くて、フィルだけ痛い思いをしているのにっ…。」
リフ兄様が涙を流しながら俺を睨んだ。そして傷ついたように顔を歪めた後ゴメン、と小さく呟いた。
「リフに何し、てるの?」
冷え冷えとした声が響いた。スフアリフィル様が話したのだ。スフアリフィル様とは話したこともないのに俺に敵意の篭った目を向けている。
「リフに何してるの?君は第八王子?第八王子は第八王子にも関わらず、王太子なるだなんて馬鹿げた事を、言っている愚か者だよね。ごほっ。なんで僕の部屋に、いるのかな。」
スフアリフィル様は見た目に反さず毒舌で冷たかった。それにしても薄々気がついてはいた。母上が俺が生まれた時に王太子になれるといった発言を聞いた者が、第八王子なのに身分を弁えていないと敵対視していると。
「フィルっ。ノアは悪くないよ。それよりも治療を受けなきゃっ。」
リフ兄様が慌ててスフアリフィル様を宥め、治療を促した。しかしスフアリフィル様は顔を歪めた後顔を横に振った。治療を拒絶したのだ。
「なんでよ!護衛のものが命に関わるって言ってたよっ。」
「でも治療はしない。ごほっ。放っておけば、治るって。ねっ?リフ、大丈夫だから。外にっ、出ていいよ。ね。」
スフアリフィル様の態度がおかしい。まるで治したくないのではなく他人に治療をさせる事やリフ兄様に傷や治療を見られる事が嫌なみたいだった。俺は不思議に思いながらも俺に力は無いので分からない。それがもどかしくて、もどかしくて思わず目に力を込めた。その瞬間、世界が一転した。スフアリフィル様の周りに透明なプレートのようなものが浮かび上がり、魔力の流れも正確に目で捉えられるようになった。自身を見るとブワンとエンジンが掛かるように透明なプレートが現れた。そこには名前と年齢、固有スキル名が書かれていた。俺の固有スキルは鑑定。
成る程。だから色々なものを細かく見れるようになったのだ。そして、その他にも固有スキル欄には書かれていた。暗殺、魔法、と。
もしかして俺は三つの固有スキルをゲットしてしまったのでは無いだろうか。暗殺スキルとかは物騒であるが。原則、固有スキルは一人一つ持っていると教わった。つまり俺が三つもっていたらチート並の能力を持っているという事だ。無双できるじゃん、と内心はしゃいでいたが、スフアリフィル様の呻き声で現実に戻された。この鑑定能力を使えば原因が分かり、対処できるのでは?
「スフアリフィル様。俺が手当てしてもいいですか?」
スフアリフィル様はギョッとした後、意外そうに顔を歪めた。
「なんで?たかが五歳の君に手当てなんて、できるわけっ、ごほっ、ないじゃん。」
「俺の固有スキルが有ります。少しスフアリフィル様の体を見てもいいですか?」
「固有スキル?治癒系の固有スキルなの?」
リフ兄様が身を乗り出して聞いてきた。
「ちょっと違いますけど、治すことは出来そうです。」
「っつ。勝手にすればいいのでは。」
スフアリフィル様は諦めたように俺に目を向けた。たかが五歳では何もできないと思っているのだろう。中身は高校二年生ですー。
「少し、近づきますね。」
断りを入れて、スフアリフィル様のベッドに近づいた。そして固有スキルを発動した。
スフアリフィル・ヴィルディスト
十三歳
ルエディア王国第五王子
固有スキルー
ハーフエルフ
初めて使うため見えない部分が多く、スフアリフィル様の固有スキル名もわからない。そして、病気に関する情報も見つからない。だったら他の情報を消して、見たい情報だけを鑑定するように範囲を狭める。細い、自分が知りたい領域にだけ固有スキルを発動させる。
俺の固有スキルは鑑定。
先程、リフ兄様との会話中に違和感がありジッと見つめていたら発動した。なんともまあ、地味な発動。
魔法制限魔法発動中 術師の状態により弱体化
出た。これが原因だ。