初めての外〜南の庭園〜
母と入れ違いに入ってきた男性二人は俺の前に来てひざまつくと自己紹介を始めた。
「お初目にかかります。ノア様の護衛を務めさせていただいている将軍職のフレディ・リアルノスです。以後、お見知り置きを。そして今日の外出に伴う護衛も務めさせて頂きます。」
茶髪で黄色の目のガタイのいい男性が初めに話した。爽やかなイケメンで体育系だな。この国は顔がいい人しかいないのだろうか。
「お初目にかかります。シシリ・フルノスです。ソフィア様の護衛をしております。ソフィア様の名でこちらに参上した次第です。以後お見知り置きを。」
澄んだ声が響いた。もう一人の男性だ。とても中性的で美しく黄緑色の長い髪を金の細工の葉の髪飾りでハーフアップにしている。瞳は深い緑だ。翡翠のピアスをしている耳が尖っているからエルフだろうか。
「あの、エルフ?」
俺は思わず尋ねた。
シシリは少し顔を歪めた後教えてくれた。
「ハーフエルフです。もし気味が悪いと感じるのならばすぐ出てきいます。」
ハーフエルフ。道理で人外の美貌を持っている。初めてのエルフはとっても美しくて思わず目を引かれた。
それにしてもシシリの言葉、ハーフエルフは差別の対象にでもなっているのだろうか。
「へーき、だよ。ふたりともよろしく、おねがいします。」
「では私が抱き上げて進みますね。ノア様、失礼します。」
エマはそう言って近づくと俺を軽々と抱き上げた。高二の男子を抱き上げるのは、と焦ったら俺は一歳だった。
最高。
それにしても抱き上げられるのは初めてだ。俺は今猛烈に興奮している。初めて外に出る事も少し関与しているだろう。
「ここは南の庭園です。第四妃フレアリディ様の宮殿フォリウム殿に近い庭園ですよ。因みにフレアリディ様はエルフの王国、ナートゥーラ王国の王族です。南の庭園は妖精たちが集まる場所でもあり、エルフの方々も時々訪れますね。王宮で一番大きな庭園ではないでしょうか。」
なんと!
この王宮にはエルフがいるのか!是非会ってみたい。そしてエルフの王妃がいるってことは俺の兄はハーフエルフだろう。尚更会ってみたい。
それにしてもこの南の庭園はファンタジーの世界だ。キラキラと輝く宝石のような植物に、ふわふわと浮いている色とりどりの光。幻想的で本当に美しい。ファンタジー世界の森の様なところだ。まるで宝箱の中みたい。
『だあれ?』
拙い声が上から降ってきた。上を見上げると緑色の目と髪を持つ羽根を持った小さな妖精がふわふわと飛んでいた。
「ウィンディー。第八王子のノア様だ。失礼のないように。」
シシリが鋭く言い放った。
『しない!しない!ノア、あまーいもんっ!』
ウィンディーと呼ばれた妖精はぷりぷり怒りながら俺に近づいてきた。
『ノア、あまーーいっ!ノアはおうたちのおきにいり!わたしもすきっ!』
笑いながら俺の周りを飛んでいる。甘いと言っているが気に入られたのだろうか。それにしても王のお気に入り?俺が?よく分からないが歓迎されているようで嬉しかった。
そういえばさっき母はシルフといっていたが一人一人精霊にも名前があるのだろうか。
「シシリ。こおりのせいれい、さまはなまえあるの?かぜのせいれいさまは、シルフっていってた!」
「あぁ。シルフは風の精霊で2番目に偉く、四大精霊の一人です。その名を呼ぶ事で偉大な精霊の加護を贈るとされます。氷の精霊にも名がありますが、ソフィア様が名を挙げなかったのは全ての氷の精霊の加護を与えるという意味を込めてでしょう。全て言葉の贈り物に込められた事であり、実際はあまり関係ありません。そもそも詠唱をしない者が多いですしね。因みに氷の精霊王はフェンリル、2番目に偉いのはセルシウスといいます。」
「ありがと。」
成る程。精霊にも序列があり、それぞれ名前があるらしい。四大精霊は火、水、風、土の2番目に偉い精霊達を纏めて表すのだとエマが前に言っていた。一番偉い精霊は神に近い存在であり、契約が出来ないから詠唱では使わないらしい。四大精霊は契約した人が過去に数人いたらしい。
そして俺たち四人は庭園の奥に進んでいった。物珍しい植物があるたびに俺は身を乗り出してフレディに支えられた。赤ちゃんの姿は少し不便だ。
暫く進み、花が咲き乱れる澄んだ川の近くに来た時だ。
「そこに誰かいるの?」
まだ幼い声が響いた。間違いなく人間の声だろう。