初めての魔法
「ノア。初めて外に出てみない?」
母から発せられた言葉。
そう。俺はまだ外に出たことがないのだ。ついに念願のお外デビューの日が来たようだ。
「おそと。」
勿論興味がある。すごい興味がある。不思議な生物を見てみたいし、魔法も見てみたい。竜や精霊を見てみたいし、兄弟にも会ってみたい。俺が第八王子だから兄が7人いるのだろう。父にも会えていない。
俺はいつの間にか目を輝かせていたようだ。母は俺を笑いながら見つめた。
「そう、お外よ。ノアは興味があるみたいね。」
「うんっ!まほう、みてみちゃいー」
「あら。魔法見せていなかったかしら。」
母は意外そうに目を見開き驚くとピンッと人差し指を立てるとクルクルと撫でるように回した。
そして
「シルフ、シルフ、風の乙女よここに祝福の風を吹き導きたまえ。」
母は何かを呟いた。
そしたら驚くことに空中にクルクルと回る風の輪っかの様なものが現れた。これが魔法だろう。
すごい!すごい!前世では魔法がなかったからより凄く感じる。俺も魔法を使ってみたいと切実に思った。
「すごいっ!すごいっ!」
俺が母に称賛を送ると母は悪戯を考えるように笑いながらまた何かを呟いた。
「氷の精霊よ、いま煌めく星のような冷ややかな氷の花を咲かせたまえ。」
そうしたら氷のバラが風に乗って現れた。風の輪っかに浮かんでいる氷はとっても美しかった。
「すごい!ははうえはまほうがちゅかえたのですね。」
「ええ。私は精霊王国の王女ですからね。」
「せいれいおうこく?」
母から知らない単語が出てきた。精霊王国は母の実家なのかもしれない。
「精霊王国はフリーギドゥスプラクラ王国の別名よ。そして私の祖国。フリーギドゥスプラクラ王国はルエディア王国より北の方にある精霊に愛された王国よ。」
「エルフ?」
精霊に愛された種族として代表的なのはエルフだろう。エマが読んでくれた精霊伝はエルフが出てきた。
エルフは人間より魔力が多く、人間が出す魔法と使う魔法が違うらしい。もちろん人間と詠唱する内容は違うが、エルフは人間よりも短い詠唱で魔法を出せるらしい。つまり魔法に特化した種族だ。その他にもありえないくらいの美貌の持ち主であることが有名だ。
母もエルフなのだろうか。エルフは耳が尖っている特徴があるが母は尖っていない。
「違うわよ。エルフは精霊の力を与えられた種族。フリーギドゥスプラクラ王国は人間で精霊の加護を与えられた王国よ。エルフとも交流が深いけどね。エルフの王国はフリーギドゥスプラクラ王国の隣でナートゥーラ王国というのよ。フリーギドゥスプラクラ王国とナートゥーラ王国特徴は精霊の関係で、髪が銀に近い色の子が王族に産まれるの。フリーギドゥスプラクラ王国の王族はほとんどが銀に近い髪の色なのよ。ナートゥーラ王国の王族は金髪が多いみたいだけれど、銀髪も生まれるわよ。まあ、それは後にわかると思うわ。ノアの髪が水色がかった白銀髪なのは私の血を引いているからね。因みにあなたの目はルエディア王国の血筋のものよ。青系の瞳はルエディア王族に多いの。紫が入っているのは私の血筋のせいかもしれないけれどね。」
成る程。つまり母のコグノーメン、フレアルリスはフリーギドゥスプラクラ王国の王族のコグノーメンだろう。
「んん、えいしょ、してたよ?ははうえ。」
ふと疑問に思った。精霊の加護を得ている王国の王族である母はこれくらいの魔法に詠唱が要らないのではないか、と。
「ふふ。たしかにこれくらいの魔法は詠唱無しに出せるわ。けれど詠唱を聞いた方がノアは面白いでしょ?それに詠唱は祝福の言葉にも使われるからノアに贈ろうと思って。言霊的なね。」
微笑みながら母は教えてくれた。これは俺への愛情だろう。ささやかで、でも誰もが求めている幸せのようなものだろう。
俺はゆったりと微笑みながら母に感謝を伝えた。
「ふふっ。ありがとうははうえ。」
和やかな空気が流れた時、エマがやってきた。
「ソフィア様、ノア様の外出の準備が整いました。」
「そう、では行ってらっしゃい。私は自室に戻るわね。私の護衛を一人付けておくわ。」
ついに俺は外に出られるようだ。
「ありがとうございます。」
「楽しんでいらっしゃいノア。」
そう言うと母は爽やかに笑いながら去っていった。それと引き換えに二人の男性が入ってきた。