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エルフ騎士との契約

鋭い光が目の隅をチラつく。

親に包丁を向けられることはあったが、剣は初めてだ。まあ、前世では剣など常備していないからな。


「こわいなぁー。ただの5歳だし俺は王族だよ?王族に刃向かったら不味いんじゃないー?」


俺は戯けたように言った。

しかしクルルさんの視線は鋭いまま俺を見据えている。


「はっ。王族といえど第八王子。それにナートゥーラ王国の公爵家を頼ればどうとでもなるわ。さあ

どこで知った。」


一段と声を低くしてクルルさんは問う。それにしてもクルルさんが公爵家だっなんて。だったら尚更

都合が良い。

クルルさんを仲間にすれば、ナートゥーラ王国の公爵家の権力掌握は勿論、ナートゥーラ王国の政治への口出しも可能になる。

思わず不敵な笑みを浮かべた。それを感じ取ったクルルさんが素早く距離を置く。


「どうした。何故答えない。」

「それ、俺が治してあげようか?」


秘密ごとを打ち明けるように言う。魅惑的で甘美なお誘い。



「はっ。これは帝国の医者も見抜けなかった。ポッと出のお前が情報を把握できるものか。」


クルルさんは信じていないようだ。サラサラと木々が揺れる。あぁ、俺はなんて幸運なんだ。


「できるよ。固有スキルがあれば、ね。」

「固有スキル…!…なんの固有スキルだ。」


驚きはした様だが、すんなりと納得するところ固有スキルの存在を正確に把握しているのだろう。情報戦にも長けているってか。


「それは、秘密だよ。」


人差し指を唇に当て、不敵に笑う。

俺だって良心があるから助けたいとは思う。だけれども無償で取引情報を手放すほどお人好しでもない。これは組織の人材を集める為の作業なのだから。


「…だろうな。本当なら拷問で済ませれば良いところだが、私の状況をわかるほどのスキル。警戒するを得ない。しかし、私の状況を公開されては困る。取引を行いたいが、貴方が望む提案はあるか?」


俺への二人称がお前から貴方になった。取引相手までには格上げされた様だ。俺の読み通り。

ここからが本番だ。


「俺は貴方の状況一切公開しない。俺への態度も。そして貴方の麻痺なども治してあげる。その交換条件が俺に仕えること。」


クルルさんは目を見開き驚いた。

俺の言葉をすぐには理解できない様だった。そして徐に口を開いた。


「私を家臣として欲しいのか?」

「そうだよ。おかしい?」

「いや、私の状況を治してくれるのだからその交換条件では私の方が…」

「都合が良い?」


クルルさんが言いたいことを察して先回りする。図星だったようでクルルさんは、黙って肯定する。


「都合いいかな?俺への忠誠を欲しいんだよ。王への忠誠を捨て、俺を第一に見て欲しいんだよ。意味、分かる?」


俺は暗にクルルさんに伝える。

これは国家反逆に近いのだと。これは全てを投げうってしまうのだと。人生を俺と密接したものにしてしまうのだと。


それをクルルさんは感じ取り、暫く沈黙が訪れる。


「どうやって証明すれば良い。」


クルルさんはそれでも乗ってくれる様だ。そもそもクルルさんに選択肢は無いのだ。


「別に、いいよ。行動で分かるから。じゃあ交渉成立でいい?」


暗殺スキルで隠密行動は分かってしまうのだ。だから俺に危害は及ぼせない。


「結びを結ぼう。」


結び

自分の魔力と他人の魔力を結び呪文を唱える、契約魔法。破ることが不可能で呪いとも呼ばれる類。命にさえ干渉する合意魔法だ。


「いいよ。結んであげる。」


気が引けるが、高飛車な態度の方が舐められない。仮にも王族なのだから。

俺は自分の体から出る魔力に色をつける。相手も同様に色をつけ、放出する。

神秘的な青と赤の風のベールのような魔力が合わさり、魔法陣を織りなす。


クルルさんが呪文を唱えると、それに応える様に俺も呪文を唱え、魔力を結ぶ。

紫の魔法陣が煌々と輝く中、俺たちは命をかけた侍従関係を結んだ。


「この命、貴方様に捧げることをお許しください。」


クルルさんが跪きながら首を垂れる。


「許そう。」


俺はそれに応えるように、声を発した。




クルルの本心が別であったのはまた、別のお話。





***


フィル兄様達のところに戻ると、三人とも心配そうな顔をしていた。そして俺が戻ると安堵の表情を浮かべた。


「ノア。何話したから聞いても良い?」


フィル兄様が尋ねてきた。まあ、フィル兄様は話の内容をある程度予想しているのだろうけど。


「クルルさんに俺の護衛になってもらうことにしたの。」


ルーカス兄様とオーウェンさんはひどく驚いていた。

フィル兄様は納得しな様に頷いた後、嬉しそうな、切なそうな顔をして俺を撫でた。


「血は、巡るんだね。」


フィル兄様が何かを呟いていたが、俺には聞き取れなかった。


「クルル・リスノッテをノア様の護衛に任命されるのですか?」


シュバルツ将軍が納得いかない様で、疑心を含ませながら言う。

クルルさんは戦えない状況だったから、護衛に務まらないと思われたのだろう。しかし、それでは本人に無能と面と向かって言っている様なものだ。

俺はシュバルツ将軍に少しばかり腹がたった。


その時、冷たい声が響いた。


「なに?ノアの考えに何か文句でもあるの?」


虫をも射殺さんとばかりの鋭い、冷たい水色の目があった。体感温度が大幅に下がったと錯覚するくらい冷めた表情のフィル兄様がいた。


「そうですよ。俺の意見に何か?」


俺も苛立っていたため、フィル兄様に便乗させてもらった。


「い、いえ。出過ぎた真似をしました。申し訳ございません。」



のちに護衛としていたフレディ将軍に二人の周りにブリザードが発生していた様だったと言われた。

以後、気を付ける。

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