国家騎士団と挫折したエルフ騎士
といってもやる事がない。
「あーー!!!なにすりゃいいのー!」
俺は白銀の髪を掻きむしりながらベッドにダイブする。
そして優雅に紅茶を傾けるフィル兄様。
フィル兄様は紅茶をテーブルに静かに置くと首をコテンと傾けながら俺に話しかける。
「ノアはなにが欲しいの?」
「護衛が欲しいです。スフアリフィル学園に王族とバレないように入りたいので。」
ウンブラ学園は家族にも隠さなければいけないが、スキエンティア学園については行っても問題ない。組織の中心となるような強い実力者が欲しいのが本音だが…
「護衛かぁ。ノアに絶対忠誠を誓って貰うくらいの護衛じゃないとね。」
フィル兄様は細い白い指で唇をなぞり、フィル兄様の美しい顔にある水色の眼光を鋭くしながら言い放つ。
「はい…」
あまりの色気に圧倒されながら俺は答える。
「よし。ルーカス兄様に頼んで国家騎士団の基地に行こう!そしたらいい人がいるかもよ?」
「たしかに!行きます。」
国家騎士団ならある程度のテストを通過しないと入らない為実力は保証できる。
王への忠誠を捨ててくれるかどうかは別だが。
***
「国家騎士団?なに?なんか不満でもあった?俺でもいいなら聞くよ?」
「はい。行動に出る前に。」
ルーカス兄様に会いに行き事情を話すととても驚かれ、心配された。オーウェンさんも同様に。
「不満?ありませんよ。スキエンティア学園に行くための護衛が欲しいんです。」
「あ、そぉーなの?ならよかった!俺たちの二の舞はなぁー。」
「流石に王族が終わってしまう。うん。いやもうこの王国終わってね…」
ルーカス兄様とオーウェンさんが意味深な事を呟く。
「何かしたんですか?」
「ちょっと問題をねぇー。あはは。」
「知らなくていい事です。」
ルーカス兄様に案内を頼み国家騎士団の基地に行く。そしたらシュバルツ将軍がいた。
軍服に色とりどりの称号をつけて、帯刀した剣に手を置いて騎士団員に指導を行っている。
めちゃくちゃかっこいい。
シュバルツ・ルディノット
五摂家の一つで西のオッキデーンスの領主ルディノット家の当主であり、将軍職。因みに軍事管理省省庁でもあり、固有スキルは剣技だ。71歳だが、この国では150歳が平均寿命なため、まだまだ若い方だ。
しかし、この国は前世より長寿なのにも関わらず、若い世代が世間を多くまわしている。歳が増すほど、世間を長く体験したため飽きるらしい。この国の人間は快楽主義者が多くを占めているようだ。
「ノア様。お初目にかかります。ルディノット家現当主であるシュバルツです。」
綺麗にお辞儀をしたシュバルツ将軍はルーカス兄様とオーウェンさんをみると不敵な笑みを浮かべた。
「お久しゅうございますお二人方。ノア様がいらっしゃると聞いた時は肝が冷えましたぞ。二年前の事がまた起きるのではないか、と。」
ルーカス兄様とオーウェンさんは視線を彷徨わせながら苦笑いをする。
「流石にもうしないよ。安心してね。あの時はえらく迷惑をかけたな。」
「父と話し合ったのでもう、爆破することはないかと…」
一体二人は何をしたのやら。
二人に呆れていると一人、水色の長い髪を一つに高く結っているとても美しい若い女性が見えた。女性にしては背が高く、姿勢がとても良く、凛とした女騎士である事が一目で分かった。騎士団の制服を着ているため、騎士団員なのだろう。
しかし、訓練をしていない。
指導係だろうか。引退には若すぎる気がするが、耳が尖っているためエルフだろうから思ったより年上なのかもしれない。
「シュバルツ将軍。あの水色の髪のエルフの女騎士は…」
俺は思わずシュバルツ将軍に問いかけた。
シュバルツ将軍は俺の目線の先を追いかけ、あぁ、と納得したような声を上げた。
「彼女はクルル・リスノッテ。第五班班長を務めていた優秀な女騎士でしたよ。男子群を抜いて際立つ剣技にエルフ特有の魔法、両方を使いこなす逸材です。オーウェン様のスタイルと似ているかと。」
「なぜ、班長を辞めたのですか?」
シュバルツ将軍の彼女を語る時全て過去形だった。
「何か、呪いだか、病気だか、はっきりは教えてくれませんでしたけれど体が麻痺してうまく動かなくなったのだと。」
呪い?
気になる人材だな…
「彼女と二人で話しても?」
「リスノッテ嬢とですか…?分かりました。クルル!」
シュバルツ将軍はなせないような表情をしながらもクルルさんを呼んでくれた。
やはり凛と澄んだ美貌を持った女性だった。水色の目がこちらを鋭く射抜く。
「どう致しましたか?シュバルツ将軍。」
均等の取れた歩きで近づいてくる。間違いなく彼女は相当の実力を持った手慣れ。
「貴方は…!」
俺を見ると彼女はひどく驚いていた。
「初めまして。突然読んでしまい申し訳ない。第八王子のノアです。」
「第八王子…あぁ。フリーギドゥスプラクラ王国の妃の…初めまして。元第五班班長のクルル・リスノッテです。以後お見知り置きを。」
そして優雅にお辞儀をするクルルさん。
「クルルさん。急なんだけれど、二人で少し話さない?」
「?わかりました。」
クルルさんを人気のない訓練所の裏へ連れて行った。そして鑑定スキルで障害の原因を見極める。
ブワァン
ヴァンパイアの血の摂取
麻痺 魔法放出障害
ヴァンパイアの血を摂取…?
成る程。推測するにエルフはヴァンパイアの血を摂取したら障害が出るのだろう。これが事実だったら公開は控えたいだろう。
これを口実にニ種族は争える。
ヴァンパイアは王族に近いほど始祖の純血に近く強力な力を持つ。麻痺や魔法放出障害だなんて相当上位の血を摂取してしまったのではないだろうか。クルルさんがナートゥーラ王国でどれだけの地位を持つかは分からないが、ぜひとも秘匿にしたいだろう。
「クルルさん。あなたヴァンパイアの血を摂取しましたね?」
クルルさんは目を少し動かした。表情を作るのは上手いらしい。
俺とクルルさんの間に風が吹く。
「摂取などしていません。」
「それが原因で麻痺しているのに…」
俺の言葉は言い終える前に風の音で掻き消された。
そして俺の首には鋭い刃が当てられている。
クルルさんが目に見えない速度で抜刀し、剣を俺に突き立てたのだ。
「どこで知った。回答次第では殺す。」




