ルイス兄様とリアム様
「いやいや。私達ともお話ししようよ。」
金髪で青眼の青年が苦笑いを浮かべながら近づいてくる。すっかり存在を忘れていた。
「ノア様初めまして。ベルディアノ家次期当主候補でルイスの従者であるリアム・ベルディアノです。」
金髪の青年を遮ってオレンジの目を持つ青年が話しかけてきた。ベルディアノ公爵家の者らしい。
つまり
「こんにちは。リアムさんはベルディアノ公爵家の方でルイス兄様の従兄弟?」
「え!ええ、そうですよ。よくご存知で。誠明な人ですね。」
第一王子のルイス兄様の母はベルディアノ公爵家の令嬢だ。そしてリアムさんがベルディアノ公爵家の当主に近い場合、直属の血脈を受け継いだ者だということが想像できる。その場合、同じく公爵家で大切な令嬢だったルイス兄様の母のアン妃とは兄妹か従兄弟など近い関係ではないと成り立たなくなる。そこから推測したらルイス兄様とリアムさんは従兄弟か再従兄弟になる。まあ、従兄弟かどうか聞いたのはただの勘だ。
「そして私はさっきから君が言っているルイス兄様だよ。第一王子のルイス・ヴィルディストだ。よろしく。ノアはとても頭がいいね。」
本当に貴公子や王子などの言葉をそのまま具現化したような完璧な容姿と完璧な笑みを浮かべ、穏やかに話しかける先程の青年。なんとこの青年が時期国王に最も近いとされる第一王子ルイス兄様だったのか。変な事を言う前に自己紹介をしてもらってよかった。
「初めましてルイス兄様。第八王子のノアです。ルイス兄様の方がよっぽど頭がいいと思いますよ。」
「はは。今の私は確かに君より頭がいいよ。だけれど五歳の時私は君より断然馬鹿だったよ。」
「そんな事ないですよ。でもありがとうございます。」
十四歳上の十九歳のルイス兄様にそれだけ誉められては流石に嬉しい。
「ところでノア、さっき言っていた固有スキルってなにかな?」
ルイス兄様を改めて見たら目が笑っていなかった。成る程。ルイス兄様は俺の事を危険分子と認識し信用していないのだ。だからいつでも処分できるように手持ち札を曝け出そうとしている。ただ、ルイス兄様の誤算は俺がルイス兄様より頭がいい事。
「秘密です。ルイス兄様ならこの意味分かりますよね?」
「つっ!」
ルイス兄様が顔を引き攣らせた。
『秘密』
つまり俺はルイス兄様に全てを見せない。ルイス兄様に全面的に協力する訳ではないと言う意思表示。俺はルイス兄様が嫌いな訳ではない。ただ、このままだとルイス兄様はすぐ壊れる。
「ノア。それはつまり私を信用できないと?」
「いや。違いますよ。だってルイス兄様はすぐ壊れそう。」
「壊れそう?」
ルイス兄様の笑顔の仮面にヒビが入った。ルイス兄様は第一王子。一番皇太子に近く、期待も大きかったはず。だからルイス兄様はそれに応えようと完璧を追い求めた。それがこの結果。
どのような事があっても冷静に対処し、笑顔を崩さない。完璧になんでもこなし、限界がない化け物のような人。それがルイス兄様。
しかしルイス兄様は最後まで完璧になれていない。心が。
どんなに頑張っても自分の感情を抑えきれない。子供の頃から我慢をして限界が近いのだ。だからもうすぐ壊れてしまう。
「ルイス兄様は凄いです。それはもうなんでも完璧。でも、それじゃあただの馬鹿です!」
ビシッとルイス兄様に指を差しながら断言する。ルイス兄様は呆然とし、リアムさんは笑いを堪えている。
「ば、馬鹿?」
「はい。馬鹿です。だってルイス兄様。ルイス兄様は完璧でいなければならないだなんて誰が言ったんですか?ルイス兄様はルイス兄様じゃないですか。完璧でなくてもルイス兄様。ルイス兄様が皇太子になった暁には、不完全なルイス兄様が皇太子。それでいいじゃないですか。なんで完璧になろうとするんですか?ルイス兄様はルイス兄様のままでいいのに。」
そう言うとルイス兄様は酷く驚いていた。リアムさんはもう爆笑。一応リアムさんの主人はルイス兄様だろうけどもう、お構いなし。
「あっははは。あっひひはあっ。ルイスが弟に説教されてる。あっはwwマジ笑える、あ。」
「リアム黙れ。」
「いでっ!」
ルイス兄様はムスッと拗ねたような歳対応の表情を浮かべると俺に向かい合った。
「ノア。ありがとう。お陰でスッキリした。ノアは凄いな。五歳に思えない。」
「え、え、あはは。俺五歳でちゅよ。」
「まあ、ありがとう。また話そうね。」
ルイス兄様は吹っ切れたように俺に話しかけると俺に近づいてきた。
「?なんですか?」
チュッ
「っ!えだばたあっえだばっ。」
ルイス兄様が俺にキスをしてきた。俺は顔を真っ赤にしながら頬をおさえルイス兄様を見る。ルイス兄様は整ったとてもカッコいい顔を近づけて華麗なウインクをすると俺にを抱きしめた。
「ノア大好きだよ。よろしくね。」
「つぅ!」
「ルイス兄様ずるいー!俺もノアにキスするー!」
「こ、こないでくださいルーカス兄様!」
「あはは!」
暫く兄弟奮闘は続いた。




