ルーカス兄様とオーウェン様
「カベルウィンド様。ソフィア妃がお越しになられたのですよ。おもてなしの準備は何処に?」
俺と母上を連れてきた従者の者がとても冷ややかに父上に言い放った。父上は顔を真っ青にしながら俺たちを見ている。それに対して母上はとてもにこやか。争っていた男性四人もいつの間にか俺らを見ていた。
「す、すまない。急だったもので、その…そ、ソフィア、えっと、久しいな。」
「ええ、お久しぶりですね。カベルウィンド様。」
ダラダラと冷や汗を流す父上をとてもとても素敵な笑みで見返す母上。
「その…どうした?」
「夫婦ですのに何か理由がなければ会ってはいけないのですか?、と言いたいところですがノアが貴方様に会いたいと言ったのですよ。」
「ノアが?」
父上が驚いたように俺を見た。息子だぞ。別にあってもいいだろう。それに前世の様な父かと少し不安に思っていたから会いたかったのだ。母上にも会いに来ないし。つまり俺は父上に文句を言いにきたのだ。
「初めまして父上。ノア・ヴィルディストです。」
笑いながら話しかける。コグノーメンはヴィルディストに決まっていると言うのに名乗るのは俺に会いに来なかった父上への皮肉。あえてヴィルディストの部分を強調して言ってあげた。
「あ、ああ。ノア久しいな。ノアは覚えていないかもしれないが会ったことはあるのだぞ。」
「私の記憶に残らないくらい幼い頃に数少なく訪ねられたと言われても私にとっては会っていないのと同じなんですけれどね。」
「そ、それは。」
父は驚き吃っている。たかが五歳にこの様な皮肉を言われると思っても見なかっただろう。
生意気なクソガキはお好きかな父上?
「すまない、忙しくてな。」
「忙しい?他の妃とは通常のお茶会をしているのになぜ母上に会いに来ないのですか?母上も貴方の奥様ですよ。」
「それ、は、。」
「言って下さって結構ですわよ。私は何も思いません。」
「ソフィア…。」
「なんでですか父上?気まずかった?愛されていないとか思った?ああ、そうですか?」
父上は顔を顰めた後決意した様に話し出す。
「私はノアのことが大好きだ。それは分かってくれ。私は何度もノアに会いに行こうとしたしかしソフィアはノアが生まれてすぐ、この子は皇太子に成れると言った。皇太子は次期王だ。それを自身の子になって欲しいと思っているのなら今の王である私が嫌だからだと思った。そうしたら気まずくて会えなかったのだ。すまないソフィア。」
そういうと父上は頭を下げた。気まずい沈黙の後母上は話し出した。
「…貴方は脳味噌がお有りで?」
「…は?」
最高に攻撃的で衝撃的な皮肉が冷ややかな声と共に室内に響いた。
「大丈夫ですか?私はその様なことなど思ってもいません。しかし自分の子を皇太子にしたい?そんなの普通の貴族令嬢なら思うことですわ。そんな気持ちも知らないのです?」
「い、いや。権力争いなどに生じるのは分かっている。しかし、ソフィアはどうでもいいとノアを産む前に言っていたから。変わってしまったのは私に愛想を尽かしたからだと…」
「へんな早とちりで私に迷惑をかけないで下さいな?私は貴方のことを愛しています。そもそも…」
「ソフィア様。落ち着けー。」
「ソフィア様場所を変えましょう。」
母上の話が余りにも長くなりそうだったのでリリノとシシリが父上と母上の会話を切った。そして父上と母上を連れて隣の部屋に移った。
しかし嫌われた気がしたから遠ざけた?ふざけているのだろうか。態度にも言葉にも嫌いだなんて含まなかった母上を最も簡単に遠ざけるだなんてよっぽど父上は愛されることに慣れていたのだな。とても羨ましくて妬ましくなる。
そして父上は本当に馬鹿だ。
「わかる。父上馬鹿だよね。」
赤い目の青年がいつの間にか俺の隣に座っていた。青年は少し思い詰めた様な顔をしながら俺を見つめている。
「ノア、初めまして。第二王子のルーカス・ヴィルディストです。ノアの十一歳上のお兄ちゃんでーす。よろしくね。」
そう言って俺の目を覗こうとした時…
バチッーンバチバン
と爆発の様な音が響いた。ルーカス兄様の近くで小さな爆発が起こった様だ。
敵襲?という疑問は浮かんだが小豆色の少年が手をルーカス兄様に掲げている様子から起こしたのはその少年だろう。
「酷くなーい?オーウェン。俺なんかしたぁ?」
ルーカス兄様はヘラヘラと笑いながらオーウェンと呼ばれた小豆色の少年に話しかける。少年はルーカス兄様を睨みながら吐き捨てる様に話しかける。
「馬鹿か、ルー。初っ端からノア様を洗脳するだなんて。お前嫌われるぞ。」
「オーウェンはわかってるくせにー。俺が固有スキルを発動させてオーウェンが止めて、俺たち二人の固有スキルを披露ー。つまりわざとやったってことね?」
「知ってる。それくらい。ほんと馬鹿。」
そして少年は俺に近づいてきた。
「初めましてノア様。ルーカスの護衛に無理矢理なってしまったジェルディア公爵家次男オーウェン・ジェルディアです。以後お見知り置きを。」
「初めましてノア・ヴィルディストです。あの洗脳?固有スキルって…」
「ああ。ルーカスの固有スキルが洗脳作用のあるスキルなんですよ。神眼っていうんです。俺の固有スキルは魔力を爆破させる破滅です。」
なんと。オーウェンさんの固有スキルは破滅。そしてルーカス兄様が洗脳作用のある神眼の持ち主。ものすごい強いスキルを持った二人のタッグだな。しかしオーウェンさんは十四、ルーカス兄様は十六か。オーウェンさんは若いのにもう職業についているのか。この世界の人間の平均寿命は百五十歳と前世より長いため成年する年も上だと勝手に思っていたがそれは間違いなのかもしれない。
「ねえ。ノア様は自分なんかが愛されないと思っていますか?」
オーウェンさんがいきなり問いかけた。図星だった。前世の記憶からか俺は愛されるのが苦手で、受け入れようと頑張って態度では示せても心の何処かで拒絶している。優しさが怖い。
「あと、俺なんか愛されてはいけないとか?」
ルーカス兄様も続けて言った。何故二人はこうも俺の心情がわかる?何故?態度に出していたのか。いや取り繕うのは得意なはず。なんで…
「ははっ。俺たちもそうだったからだよ。安心しなノア。」
ルーカス兄様が笑いながら言った。オーウェン様を見ると頷いていたから彼も同じなんだろう。
「ルーカス兄様。そうだったって?」
「あぁ。俺の母のクリスティーナが帝国王族である事は知ってるな?だからそれで好奇の視線に晒されて俺は邪魔な要らない存在だと思っていたんだよー。帝国の血を引くから、ね。まあもう捻くれていないけどなぁ。」
成る程。今は解決したがルーカス兄様の母君の実家ルーインラッド帝国は昔、ルエディア王国の国民を誘拐している貴族がいた。王族は無関係だが、その事件により帝国との関係は悪化。今となっては友好国に戻ったが、帝国への差別的な想いはルエディア王国に今も根付いている。ルーカス兄様の赤い目はルーインラッド帝国での王族特有の色だ。それも関与しているのだろう。
「私は固有スキルが原因です。私の固有スキル破滅は殺傷性が高く、いつでも引き起こせるものでして。自身の魔力を爆発できる魔法詠唱や魔法陣がいらない直接干渉性ですのでね。それを制御出来なくて隔離してもらった事から畏怖の視線に晒されて心を閉じていました。十二歳、二年前まで。いまは親切に接してくれる人がいると分かりましたし親友も出来ました。」
オーウェンさんも話してくれた。
普通の魔法は人間の場合詠唱をして魔法陣を発動させて展開する。難易度の高い魔法ほど魔法陣が複雑になり多くの詠唱が必要になる。しかし能力がある人は詠唱を短縮して魔法陣を発動することが出来る。つまり高位魔法をより短い詠唱で発動できる人ほど魔術師としての能力が高いと言うことだ。簡易魔法を無詠唱で発動することが出来る人も魔術師には多くいるらしい。
まとめると人間の場合詠唱などを行って創る魔法陣を媒介にしなければ魔法を発動できない。例外としては魔道具など。魔道具は元々道具に魔法陣が刻まれており、魔道具に魔力を流すだけで魔法が発動出来る直接干渉性の器具。そして固有スキルも例外がある。殆どの固有スキルは魔力を吸収し、体で独特な魔力を作り出し発動させる。しかしオーウェンさんの固有スキルの様に自分の魔力にそのまま干渉する直接干渉性スキルも稀にある。まあ固有スキルは様々な種類があり、なにか決まりがあるわけではないため固有スキルは例外だらけで謎だらけだ。
「そ、うなんですね。俺はとても愛されているんです。分かっています。とても大切で。でも、たまに優しさが、愛が怖い。いつ消えてしまうか分からない。怖くてたまらない。」
「当たり前だよー。愛は簡単にプツリと消える。でもそれが怖くて拒絶すれば貰うことすらできない。だったら怖くても受け入れてみるべきでしょ?」
ルーカス兄様は真剣に言い放った。ルーカス兄様自身経験したことなのかもしれない。
そうだろう。踏み込まなければ拒絶すらない。楽だけど前世と変わらないじゃないか。
「…ありがとうございます。頑張ります。」
「うん。がんばってねー。辛かったら俺のとこきてね!」
「はい!」
そして俺はルーカス兄様とオーウェンさんに不気味な笑みを返す。俺は別にただの五歳の餓鬼ではないのだぞ。
「ルーカス兄様。ルーカス兄様の固有スキルは俺に効きませんからね。目を合わせても魔力を込める前に貴方の魔力を止めますから。」
「え?」
ルーカス兄様は驚いた様に俺を見つめた。
「オーウェンさん。貴方の爆発も止められますよ。」
オーウェンさんは黒い微笑を浮かべた。多分オーウェンさんは腹黒だ。女顔の美少年で腹黒は凄い。二人とも驚いている、何故ないかな。
だって
「俺の固有スキルは相手の魔力を切れるんですよ。」
正確には違うかもしれないが俺の固有スキル暗殺は魔法を切れる。それを応用すれば魔法発動前の魔力の流れも切れるだろう。いやあこのスキルまだまだ未知だがとても強い。
生意気にも兄様達を挑発した俺は不敵な笑みを浮かべる。
ルーカス兄様はさぞ愉快そうに笑いながら俺を見つめる。オーウェンさんはとびっきりの笑みを浮かべる。
「どんなスキルか聞くのは野暮だから聞かないけどぉ。楽しみしてるねぇー。ノアくん。こんどお茶会しよう。」
「はいお待ちしておりますよ。いつでもお話し合いしましょう。」
「ええ。ありがとうございます。楽しみにしてます。ルーカス兄様にオーウェンさん。」
第二王子のルーカスとオーウェン・ジェルディアの出会いと過去は
『孤独な破滅の公爵子息の決意と出会いと未来』
https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/1961931/
もしくは
https://ncode.syosetu.com/n2127ho/
に書きました。是非読んでみてください!




