父上との初対面
「母上。俺、父上に会いたいです。」
ただいま、固有スキルを発動させた五歳の第八王子ノアが母上に言い放った。
「え。ノア。それが固有スキル発動のお祝いでいいの?」
「はい!俺はまだ父上に会ったことがありません。」
「まあ、生まれた時は会っているのだけれど覚えていないわよね。」
先程母上に固有スキル発動のお祝いとして何をしたいかを聞かれたのだ。そして俺はついに気になっていた事を話した。ルエディア王国国王の父親、カベルウィンドについてだ。俺は生まれてから父上の記憶が無い。きっと赤ん坊だったから俺が寝ているうちに訪ねてきたことはあるだろうが、こんなにも母上にも合わないのは何かワケありなのだろう。しかし、俺の好奇心は収まらないし、母上が父上との擦れ違いでストレスを感じているのなら許せない。俺は母上が大切だから。前に父は来ないのか聞いた時に母上は愉快そうな寂しそうな表情を浮かべていた。
「分かったわ。では今から訪ねましょう!シシリ、リリノ、至急準備よ!」
「「了解しました。」」
母上は瞳を輝かせ、水を得た魚のように生き生きとしながら母上の従者である双子のハーフエルフのシシリとリリノにその旨を伝えた。
「は、母上?今から行けるのですか?」
「普通は前もって従者達で連絡をしますわ。ですが、ソフィア様は、まあ、大丈夫でしょう。」
エマが苦笑いをしながら俺に話しかけてくる。
母上は何か父上にしたのだろうか?
「ノア!行きましょう。あなたの父上は中央の塔、レックス宮殿にいるわよ。」
ルエディア王国の王宮は父上や宰相などが政治的な事を行うのと共に父上が寝泊まりする父上の領域である一番大きい塔、レックス宮殿とその周りの塔にそれぞれ迎え入れられた妃の宮殿がある。
主な方角で宮殿をまとめると以下のようになる。
北にある塔が俺達の暮らす第五王妃ソフィア・フレアルリスの宮殿、アージェンティ宮殿。アージェンティは白銀という意味があるらしい。
東にある塔が第三王妃マリエッタ・リルベルらが暮らす宮殿、アンナアヴィ宮殿。マリエッタ様の故郷、アナトリ島をルエディア王国の言葉にしたのがアンナアヴィだそうだ。
西にある塔が第二王妃クリスティーナ・フルベルナらが暮らす宮殿、インペリ宮殿。インペリはクリスティーナ様の故郷、ルーインラッド帝国の帝国から来ている。
南にある塔が正妃アン・ヴェルディアノらが暮らす宮殿、ケント宮殿。ケントはヴェルディアノ公爵家の領地で大きな城下町であるケントルムからとっている。
北東に位置する塔がリフ兄様やフィル兄様などの第四王妃フレアリディ・スノールドらが暮らす宮殿、ダイヴィーズ宮殿。ダイヴィーズは豊かという意味だ。
他にも色々な宮殿が王宮にはある。
それぞれに宮殿と付けられているため別の場所にあると勘違いされているが、一つの王宮の敷地にある大きな建物を幾つかの塔に分け、その塔にそれぞれ〇〇宮殿とつけているだけである。
長い渡り廊下を歩きレックス宮殿に着くと一人の従者がいた。
「お待ちしておりましたソフィア妃。私がご案内いたします。」
「宜しく頼むわ。」
暫く歩くと豪華な扉の前で歩くのを止めた。恐らくこの中に父上がいるのだろう。
「カベルウィンド様。ソフィア妃御一行をお連れしました。」
「入れ。」
「はっ。」
程よい威厳と貫禄を持ち合わせた声が扉の向こうから響いた……気がした。
「てめぇ!何爆発してるんだよ!卑怯ー!」
「口汚いな、リアム。そんなに言うなら君も固有スキルを使っては?」
「ちょっ!オーウェン俺の固有スキルは魔力操作だからお前に効かないの分かってるだろっ!」
「はは、分かってないとでも思ってたの?」
「俺お前より四歳年上なんだけどなー。十八歳なんだけどなー。」
「それが?俺は十四歳だけど?」
「リアム。オーウェンに尊敬してもらいたいだなんて思うだけ無駄だよ。」
「ルーカス様酷くない?」
「オーウェンは俺も敬わない。無理だよー。」
「オーウェンお前強いな主人を表立って尊敬しないだなんて。」
「リアムは私を敬いたくないのかな?」
「そんなわけないでしょー。ルイス。」
部屋の中では小豆色の髪をおかっぱのようなショートカットに切り揃えてあり右サイドだけ髪を伸ばして垂らしている童顔の美少年がにこやかなフレンドリーっぽい顔立ちの金髪にオレンジの目の青年と口争いをしながら戦っていた。そしてそれを愉快そうに眺めているシャンパンゴールドの髪にルビーのような赤い目の甘いマスクの少年と金髪に王族特有の青い目を持った青年がいた。
ルエディア王国では青が入った目を持つ人は王族以外生まれないらしい。だから青い目は王族の特徴だとか。
そして奥には資料を見ながら苦笑いしている貫禄のあるが若い整った顔立ちの男性が座っていた。
ここは何処だっけ?




