スリープ・クロス・キャンパスライフ・ザ・プロローグ
尾竹先輩に扮したレイジがマリー先生を襲い掛かる瞬間、音葉は目にも止まらぬ速さでレイジに殴り掛かった。
「なっ! かはっ!」
「凄い! 狩真、見て見て! すっごい体が軽いの!」
ありえない速度で殴りかかる音葉。それを受けるレイジ。
えっと……凄い勢いで殴られている尾竹先輩っていう状況が凄く複雑なんだけど。
「や、やめ……やめるでござる音葉氏! せ、拙者でござるよー!」
と、ここで尾竹先輩の口調で話しかけた。次の瞬間。
「はあ? うるさい。ずっと思ってましたがキモイです。死んでほしいです。近寄らないでください。今日も狩真との貴重な朝を奪って、邪魔なんです。消えてください!」
「なあっ!」
容赦なく殴り続ける音葉。え、音葉ってああいう性格だったっけ?
「ポカンとしてますね。ワタチが説明します」
「う、うん」
「音葉様はとある悪魔に転生しました。同時に悪魔の特性上、感情のリミッターがぶっ壊れています。いつもニコニコな音葉様ですが、おそらく今の音葉様が本当の音葉様です」
マジで?
つまり、尾竹先輩とか俺にニコニコと優しくしてくれてたのって、凄い感情を抑え込んでたってこと!?
「あははは! あはははは! 貴方をここで潰せば狩真と一緒に学校を楽しめるんだよね! オカルト探求部って変な部活もやめて、ずっとずっとずっとずっと、すっごい楽しい大学生活を送れるんだよね!」
「あー、狩真少年。良かったな。狩真少年と接している時の彼女はどうやら素らしい」
「嬉しいけど怖いんだけど!」
そして凄い勢いで殴り掛かる音葉。待って、尾竹先輩の顔が凄い事になってるよ!
「目に見える物が現実とは限らないわ」
「マリー先生!?」
口から少しだけ血を出していたマリー先生が俺の近くに来た。
「大丈夫ですか!?」
「顔面にいいパンチを貰ったけど、問題無いわ。というか、認識阻害を使いながら心情読破って頭が割れるわね。マオはどうやって併用しているのかしら」
まあ、あの子は特殊だから。
「それよりも目に見える物が全てでは無いというと?」
「尾竹はレイジだった。これは貴方が見つけた事実ね。ただ、あんな暴行を受けても原型をとどめている状態だから、多分『ガワ』は人では無いわ」
「いやいや! 暴行って言っても女の子のパンチですよね!? 原型をとどめているのは普通なのでは!?」
ボクシング選手とかだったら話は変わるけど、今は悪魔でも音葉は元々普通の女の子だよ!?
「悪魔は脳のリミッターを解除するの。つまり、あのパンチ一つ一つはボウリングの球を使って殴られているような物よ」
「マジで!?」
音葉……凄い強くなったな。いやいや、そんな暢気なことを思っている暇は無い。
「フーリエ、あの尾竹を封印できる?」
「今準備してます。ですが、音葉様が邪魔で最後の狙いがつけられません」
「封印!?」
「あの尾竹もといレイジは多分だけど殺せない。臭い物に蓋をするというわけでは無いけど、封印しか方法は無いわ。ということで、音葉を少しの間レイジからは慣れさせなさい」
「どうやって!」
俺の問いに、マリー先生……では無く、後ろから男の声が聞こえた。
「そりゃ狩真。突っ込むしかないだろ」
「木戸?」
木戸が腕を組んで立っていた。
「マリー女史、しくったか? 認識阻害が解けてるぞ」
「そんなわけ無いわ。今も頭が割れる痛みを耐えて貼ってるわよ!」
「じゃあどうしてそこに第三者がいる!」
木戸は二人の会話を無視して俺に近づいてきた。
「以前皆の心を読ませた時、音葉だけが嫌がったのは、これを隠すためか。ようやく納得できたよ」
「は?」
「いや、それを僕が言うのは野暮だ。それよりも音葉に体当たりでもなんでもいいから、二人を離すんだ。じゃないと、手遅れになるぞ?」
木戸が店主さんを見た。
店主さんは額に汗を流し、ゆっくりと頷いている。そして背中にはレイジに刺された痕があり、今も血が流れている。
「分かった。体当たりで良いんだな!」
「多分な。ほれ、行ってこい!」
「あ、ああ!」
俺は木戸に言葉で背中を押され、音葉に向かって突っ込んだ。
「そこから離れるんだ、音葉!」
「狩真!?」
止まらない攻撃が一瞬止まり、その隙に俺は音葉に向ってタックルをした。
同時に店主さんが術を唱え、レイジの足元が光り出した。
「迂闊でした。無の魔力で自我を消し、時々様子を見るタイミングで周囲は守られていた。あちらの世界の人間はどうしてこう厄介な者ばかりなのでしょう」
徐々にレイジが地に沈んでいく。時々触手のような物が出て来て、手足を抑え込んでいた。
「しかしかなり残念でした。音葉氏が拙者を心の底では嫌っていたとは。同時に狩真氏は拙者を頼ったりして、楽しい日々を過ごさせてもらった」
「一体何を……」
「拙者はレイジであり尾竹でござる。レイジとしての記憶を不定期に出すけれど、それ以外は尾竹でござる。あらゆる理不尽に遭遇し、世界の理を見つけ、その世界をぶっ壊してざまあみろと言うのが尾竹の……そしてレイジの願いでござる」
「おたけ……先輩……」
とうとう首の上しか出ていない状態で俺を見てきた。
「レイジとして言わせてもらうと、貴方の事は絶対許しません。知っての通り他のワタクシが貴方をこれからも狙います。ですが、尾竹として言わせてもらうと……」
――楽しかったでござるよ――
そして尾竹先輩は地に埋まり、不気味な光は消えていった。
☆
夕方。
俺の自宅に集合し、マリー先生が得た情報を共有することになった。
「あー、狩真。後日にする?」
「いや、今でお願いします」
「でも……こう……二人だけの時間とか必要ない?」
「まだ早いです。俺の事は気にしないでください。あと、今はなさないと俺の首が取れる気がしま……ま……あがががが」
「狩真ああああ! わああああ! 怖かったねええええ!」
感情がぶっ壊れた音葉が後ろから抱き着いて、首をがっつり絞めている。うん、ヤバイ。アニメとかだと美少女がプロレス技を受けている主人公羨ましいナーとか思ってたけど、これマジでヤバイ。
というかフブキは俺の護衛なんだからこの状況をどうにかしてほしい。ずっと天井で張り付いているけど、地球では基本的に何もしないのかな!
「フーリエ女史、一応聞くが、音葉少女は何の悪魔になったんだ?」
「グーラです。グールの女性版ですね。グールと言っても解釈は色々あり、一説によると夢に関する悪魔に当たります」
「ふむ、グールとはゾンビ等の屍が動く物体と思っていたが、そもそもグールの首飾りという名のアイテムで行き来していたのであれば、その解釈は間違いとは言い切れないか」
うんうんと頷くクアンと店主さん。いやいや、なに納得しているのかわからないけど、俺は今首を絞められて死にかけてますよ?
「それよりも木戸。どうしてワタクシの認識阻害を破って入れたの?」
マリー先生の質問に音葉以外全員が黙った。
「僕も詳しくはわからないけど、これが関係しているんじゃないんですか?」
そう言って木戸は首にぶら下げていた首飾りを取り出した。
「なるほど。『龍の角』ですか」
「それって確かオカルト探求部に入部する時に渡されたアイテム?」
「はい。運命の切札で木戸様にふさわしいアイテムがこれと出てきました。あらゆるものを破壊し、概念すらも破壊する。つまり、認識阻害という壁を壊して入って来れたんですね」
「へえ、凄いんだな」
そう言って木戸は龍の角をマジマジと見ていた。
と、それを見ていたクアンが俺に近づいて話しかけてきた。
(偶然にしてはできすぎている。本当に彼は『木戸』という少年か?)
(え……)
尾竹先輩の件もあり、少し不安な部分もある。が、一応木戸の事をよく見た。
『木戸』
『木戸』
『木戸』
何度見ても同じ結果。
内心ほっとして、俺はクアンに頷いた。
(ふむ、杞憂で無ければ良いが、仮に彼が何か重要な情報を持っていた場合、今後の行動に影響が
「なーに狩真とコソコソ話してるのー! ウチに一度相談してから話してもらえるかな!」
「ぬああああああああ!」
クアンがひょいっと持ち上げられて、部屋の隅に持って行かれてしまった。同時に俺の拘束が解けて、ようやく呼吸がしやすくなった。
「さて、クアンはグーラの餌食になってしまったからこの四人で今後について話すけど『勝手にクーを殺すなー! おい音葉少女、そこは人間の弱点で、弱い力での攻撃は同時に拷問にぐあああああ!』良いわね?」
全然良くないけど良いかな。
「マリー先生は尾竹先輩……レイジから情報は取れたんですか?」
「ええ。最後の最後に頭の中をかき回して取れたわ。リエンの場所もシャルロットの場所も分かった。グールの首飾りの情報は全くなかったけど、最低限の情報は集まったわ」
「はあ、あっちの世界のワタチの息子をどうしてワタチが助けなければいけないのやら。まあワタチなので良いですけど」
「えっと、僕は関係あるの?」
マリー先生の話をクアンと音葉以外が聞き、全員が首を縦に振った。
これからが本番であり、おそらくゲームだったらここまでがプロローグなのだろう。
悪魔になってしまった少女に悪魔の店主。そして魔術が使える先生に歴史に名を刻んでいる学者。そしてサッカー少年。
個性豊か過ぎる人の中に俺がいるのも変な話だが、これが現実であり、受け入れるしかない。
まだ見ぬリエンさんやシャルロットさんを助けるために。
こんにちは!
そしてお久しぶりです。いとです。
まずはここまでご覧いただきありがとうございます。
サブタイトルに関して、プロローグと書いていますが、実際ここまでがすべての始まりという感じでプロローグと書きました。実際はエピローグかもしれませんが、その辺はふわっとしている感じでどうかお許しをー。
途中かなりお休みしたり、ぽつぽつと更新はしつつも、やはりなかなか進まない状況でしたが、ようやく完結まで持ち込むことができました。
本作に関して、まずは『すべて書きたい物語を全部のっけたい』という感じで書き始めました。例えば異世界に転移という部分は凄く書いていて楽しいなーと思いつつ、転移する物語は転移してからずっと過ごすという物。自由に行き来できたらなーと思いつつも自由過ぎたらご都合主義が生まれかねないということで、一日一往復という欠点も加えました。
魔術や神という存在も取り入れて、とにかくモリモリにした結果、書いていて胃もたれができかねない状態になり、すっごく後半書いていて矛盾が生まれていないかの確認が多くなりましたね。
実際一日一往復という感じで過ごすと、ここまで書いても現実世界では一か月も経過していないということで、なかなかに時間を操るのは難しいと感じました。これは今後の創作に生かしていこうと思います。
最後になりますが、ここまでご覧いただきありがとうございました。また、引き続き色々と書いていこうと思います!
また、最近は月一くらいしか更新していませんが、活動報告もちょくちょく更新しているので、そちらもご覧いただけたらと思います!
では!




