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信じていた者


 俺は押し倒される状態になり、息ができなくなっていた。


「きゃああああああ!」


 音葉の悲鳴が聞こえた。

 俺は、このまま死んでしまうのだろうか。

 突然変な世界に行き来するようになり、そして色々と巻き込まれて、あっけなく死んでしまうのだろうか。

 こうなるくらいなら、変な勧誘から逃げて、ゲームをする毎日の方が良かったのかな……。


「諦めるのはちょっと早いと思いますが……ね!」

「ふぐっ!」


 急に体が軽くなった。

 同時に、尾竹先輩は何かに突き飛ばされたのか、俺から離れていた。

「空腹の小悪魔を毎日連れていたからこそ、貴方は助かったのです。全く、マリー様の監視は足りなくて困りますね……っく!」

「店主さん!?」

 俺の上に店主さんが乗っかっていた。つまり、尾竹先輩と俺の間に店主さんが出てきたってことか?

「どうして気づいたでござるー? 拙者はあらゆる自我を無にして隠していたでござるー」

「別に尾竹青年を真っ先に疑ってはいない。ただ、疑う箇所はいくつもあった。それが今回の一件で定まった。失敗点として、気が付くのが五秒遅かっただけだがな」

 よく見ると店主さんの背中はナイフで刺された跡があり、そこから血が出ていた。

「店主さん、大丈夫ですか!?」

「これが大丈夫に見えたらサイコパスですね。とは言えこれくらいの流血は悪魔術を使っていて普通です。それよりもようやく人払いは終わりましたね」

 そう言えばここまで大事なのに、悲鳴を上げたのは音葉しかいない。


 よく見たら周囲は俺と音葉、そして店主さんにクアンに尾竹先輩しかいなかった。


「ワタクシの懐に入っていたなんて、迂闊だったわ」


 マリー先生が校舎から出てきた。そして普段は光らない目が、金色に輝いていた。

「普段よりも強めの『認識阻害』でどうにかして人を払ったわ。さて、どうするのかしらレイジ?」

「グフフ、勝ったつもりでござる?」

 そう言って尾竹先輩……いや、レイジは音葉の所へ走った。

「ひっ!」

「音葉!」

「ぐふふ、この場において戦闘員はそこの悪魔だけ。そして非戦闘員の音葉氏は無力かつ全員においては重要人物。どうするでござる?」

「卑怯だな。だが、最善手と言うべきか。クーが悪役なら同じことをするだろう」

「いやあ……狩真……」

 助けを求める声が俺に向けられている。また、音葉はレイジに襲われてしまった。

「何が狙いか言ってくれるか?」

「簡単でござる。拙者の世界に穴をあけている狩真氏の始末。そしてその首飾りの回収。それが終わったらようやく拙者の世界……いや、ワタクシの世界は完成する」

 わからない。

 最終的な目的が俺には理解できない。


「リエンさん達を閉じ込めて、本当に貴方は何がしたいんだ!」

「彼らはワタクシの分身を消すために自らを犠牲に来ただけです。無の世界すら転移するあの力は異常ですが、自力で抜け出すことはできないのが惜しいですね」

 不気味な笑みを浮かべつつ、手に持っている刃物を音葉に近づけていた。

「さて、どうしますか? この場で貴方が決めてください。ここで大事な彼女を失いますか? それとも、自ら死を選びますか?」

「狩真……」

 まるでアニメの世界だ。

 究極の選択。しかし、ここは現実であり、いざ自分の生死を問われると、頭が真っ白になってしまう。


「ふう、遅いので時間切れです。では、さようなら」


 その瞬間、音葉の腹部に刃物を突き刺した。


 え……突き刺した!?


「おとはああああ!」


 嘘だろ。

 いや、これが現実であり、無慈悲なのかもしれない。

 悪役はヒーローが返信している間に待ってくれるというのは、あくまでも演出であり、現実は隙だらけ。つまり、これが現実。


「フーリエ女史! その血を使え!」

「っ! はい!」


 クアンの掛け声に店主さんは走り出した。


「人間として終えるか、悪魔として進むか、選んでください!」


 店主さんの声に音葉はうつろな目をしながらも、なんとか声を出した。


「……あ……く……」


「わかりました! 即興悪魔術で組みますから、文句は言わないでくださいね!」

「何を……」

 尾竹先輩……いや、レイジが驚いていると、マリー先生が声を出した。

「よそ見は厳禁よ」

「なっ!」

 店主さんが音葉に向って走り出したと同時にマリー先生はレイジに突っ込んでいた。

 そしてレイジの頭に手をかざし、何かを唱えた。

「やめろ! 何を……」

「『心情読破』。リエンを助ける方法を知っているのはリエンを捕まえている本人。つまり、貴方の心を読めば、それで済むわよね?」

「狩真少年、何をぼーっとしている! レイジの足を凍らせろ!」

「!」

 俺は我に返り、すぐに右手から氷の球を飛ばした。

「『氷球』!」

 飛んだ氷はレイジの足に直撃し、鈍い音がした。

「があ!」

「うっ! ちょっと狩真! 心を読んでいる最中に物理系攻撃はしないでくれる!?」

「今それどころじゃないですよ!」

 レイジは膝をつき、その状態でマリー先生はレイジの心を読み続けた。同時に店主さんは音葉に手をかざして何かを唱えていた。


「悪魔契約は使い方を間違わなければ薬になります。つまり、使い方を間違えれば毒になるということです。悪魔というのは命を奪ったり何かを失わせる人間にとって都合が悪い存在。故に、人間に都合が悪いと解釈できる存在を生み出せば、世界の理から反することなくこういう事も可能です。人間の命は絶対的な物で、必ず終わりがあります。命を助ける行為は悪魔的に間違っています。故に命を代償に生み出す行為が悪魔的に正しい解釈です!」


 店主さんの手が光り出し、そして音葉の体が地面に埋まった。


「命が終わるというのは世界の理であり、都合が悪い。つまり解釈次第では悪魔的にはそれは人間にとって間違っている。貴重な命を代償に悪魔の力を得るというのは悪魔的に間違っていません!」


「音葉!」


「ここからは音葉様次第です。悪魔に飲まれるか、悪魔を飲むか。音葉様が望んだ通りであれば……生まれてくるはずです!」


 そして、地面が次第に膨れ上がり、紫色の光が漏れ出した。


「ふふ、クアン様。今だけは言わせてください。貴女の考えの先をワタチはやり遂げました。この先の説明はしなくても良いですね?」

「ははは。もとよりクーはミルダ大陸のフーリエ女史を尊敬している。同時に地球のフーリエ女史も尊敬している。知識に関して勝敗というのは無い。が、今回に関してはお手上げと言わせてもらおう」

 二人は何を言っているんだ?


「きゃあ!」


 と、マリー先生の声が聞こえた。

 どうやらレイジに殴られたらしく、ひるんでいた。

「はあ、はあ、何度も何度も……千年以上前も同じことを、再び頭を掻きまわして、そんなに楽しいですかー!?」

「全然楽しくないわよ。でも、これでリエンの場所がわかったからヒントは得たわ!」

「となれば、やはりこの場で貴女も倒すしかないですね!」

「マリー先生!」

 俺はすぐに次の魔術を放とうとした。けど、店主さんが俺に突っ込んできた。

「かはっ!」

「伏せてください!」


 バアン!


 俺がいた場所が突如破裂し、一瞬何が起こったか理解できなかった。

「魔術を基点にした罠です。あれくらい察知してください!」

「知らないよ!」

 そんな技まであるとか聞いて無いんだけど!

「それより音葉は!?」

「大丈夫です。まもなく生まれます。ただまあ……」

 店主さんが目を逸らした。


「目が赤くなりますけどね」


 目が……赤く?


「あはは、狩真。その……やほー」


 そこには音葉が立っていた。


 だが、雰囲気は少しだけ変わっていた。


 目は赤く、そして八重歯が少しだけ見えていた。


「えっと……多分だけど、悪魔になっちゃった」


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