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悪魔の在り方


 ☆


 ガラス玉が割れてしまい帰れなくなったクアン。

 地球での家が無いため、俺のアパートの『隣の隣』の部屋をノックした。


「はーい、何よ。フーリエだったらご飯を置いてくれる? ちょっと論文を書かないといけないのよ」

「ほう。ならばクーがその論文とやらを代筆しよう。報酬は屋根のある部屋と布団で充分だ」

「ギャー! クアン!!!!」


 突然の悲鳴にアパートの二階の人たちが全員出てきた。皆初めましてなのだけど……。


 ☆


 とりあえず全員に軽く謝罪した後、マリー先生の家に集まった。

 店主さんの部屋には良く行くけど、マリー先生の部屋は初めてだな。いや、女性の教授の部屋に入ること自体変だと思うけどね。

「ななななんでこここにいるのかかかかしら?」

「愚問だなマリー女史。君がこの世界にいる以上、クーがこの世界に来てもおかしくは無い。ほれ、論文は書いたぞ」

 すげー。よそ見しながら紙に何か書いてたけど論文だったんだ。ちゃんと二列になってて、凄く字が綺麗だ。というかパソコンで印刷したような字なんだけど。

「というかワタクシの家じゃなくてフーリエの家でも良いじゃない! ほら、ここ汚いし!」

 マリー先生の家の中は本で一杯だった。汚いと言えば汚いけど、別に服が散らかっているとか、ゴミが落ちているという汚さでは無い。

「ワタチの家でも良いか聞いたら『空腹の小悪魔が睡眠を妨げるだろう』と言ってマリー様の家になりました」

「狩真の家は!?」


「常識的に女子と男子が一緒の部屋で寝るのはまずいだろう」

「見た目幼いだけの実年齢数百歳のクアンが今更男を気にするの!?」

「おー言うようになったなマリー女史。そう言うならクーにも考えはある。かつてクーに三大魔術師の仕事を押し付けたり魔術に関する書物の添削を全て押し付け、自分は現実逃避に花と会話をしていたエピソードをお前の生徒に言いふらすぞ」


 全部聞こえているんだけど。というか、凄く重要なことを言ってる気もするし、マリー先生の残念な部分がそれを覆いかぶせてるけど!

「ぬあー! わかったわよ。というか、あんたがこっちに来て大丈夫なのかしら?」

「問題無い。今頃『あっちのクー』は小屋から出て来て、いつも通り動いている。若干手こずっているが、まあ慣れる。あ、今小指をぶつけてしまった……痛い」


 あっちのクー?


「あれ、狩真様、クアン様の体について、何も気が付いていませんでしたか?」

「えっと、長生きな地球生まれって聞いてたけど……」

 クアンをジーっと見た。

 その辺の小学生と同じくらいの身長で、色白の栗毛の短髪で『赤い目』をしている……赤い目?


 俺は店主さんを見た。


 そしてクアンを見た。


「もしかしてドッペルゲンガー!?」


 ☆


 地球とこっちを行き来していると記憶がわからなくなる。えっと、こっちの世界では確かタプル村という所で一泊したんだっけ。

『おはようございます。起きてますか?』

 と、店主さんの声が聞こえた。

「はい。おはようございまー……」


 天井に女の子が張り付いていて、俺をジッと見ているんだけど!


「ぬあああああ!」

「ぬおおお!?」


 ドシッと俺の上に女の子が落ちて来た。


「す、すまぬ。地球は平和すぎる故、護衛を忘れてガッツリ瞑想していたのじゃが、こっちに戻ってきた瞬間気が抜けてしまった!」

「いやいや、こっちこそ急に声を出してごめんね!」

 そんなやり取りをしていると、扉が開いた。

「ドア開けますね。いやー良い朝で……あー、空気を読まずにすみません。まさかフブキ様とカルマ様がそこまでの関係になっていたとは」

「誤解じゃ悪魔店主! 突然大声を出されて驚いたから手を離しただけじゃ!」

「へー。じゃあ、そっちはどう説明するんですか?」

 と、店主さんは俺の右隣を指さした。


「なんでパムレが俺の隣で寝てるの!?」

「……ん、おはよ。良き朝」


 びっくりなんだけど!

「……シャトルと違って狩真は寝相が良いから、安眠だった。あ、店主もおはよ」

「まったく、ここはのどかな村でワタチの大事な場所でもあるんですから、不純なことはしないでくださいよ。それよりもカルマ様、ちょっとお話が」

「もしかしてクアンの事?」

「話が早くて助かります。先程物置で体育座りをしていたクアン様が出て来て、ワタチに会いに来ました。どうやら、ドッペルゲンガーの片方が地球に行ったそうですね」


 ……物置で体育座りをしていたクアン様というパワーワードが気になるんだけど。


「……興味深い。どういうこと?」


 ☆


 朝食を食べながら理由を話すと、パムレは頷きながら話した。

「……クアンの長寿の秘訣はドッペルゲンガーだったか。納得。いや、予想通り」

「どういう事?」

「……店主と同じ。ドッペルゲンガーになることで、体は人では無くなる。それで、長生き。クアンはその道を選んだということ」

 マリー先生がいつだったか、ちょっと理由があって長生きしているって言ってたけど、まさかドッペルゲンガーになったから長生きしていたとはな。目が赤いなーくらいにしか感じていなかった。

「と言う事は同じく目が赤いフブキも悪魔ということかな?」

 と、冗談っぽく話してみた。


「儂の最大の秘密を暴くとは、カルマ殿はやり手か」

「マジなの!?」


 勘が当たってしまった。

「ドッペルゲンガー……ではないよね。札から出てきたし」

「儂は儂だけじゃよ。人の体が消滅し、魔力お化けが何かをして悪魔になったのじゃよ。悪魔以外の方法があれば良かったのじゃがな」

「えー、悪魔は良いですよー。時々光りが眩しく感じますが、基本体は軽いですし、魔力も高めです」

 何だろう。この悪魔のセールスは。


「というか、寿命をそんなにポンポン伸ばしちゃって、リスクは無いの?」

「もちろんあります。まず悪魔になると、感情の制御が難しくなります。クアン様はワタチがちゃんと認めた上で悪魔にしました」

 あ、店主さんが悪魔にしたんだ。さらっと凄い事を言ったな。

「感情の制御が難しいって、基本的にどういう感じ?」

 フブキに問いかけると、凄い笑顔で答えた。


「人をころ……切りたいのう」


「今すぐ封印した方が良いのでは!?」


 殺人鬼じゃん!

「冗談じゃよ。儂の場合は刀を極めるという部分に関して時々自制が効かなくなる。とは言え、長時間木刀を素振りしていれば納まる程度じゃ」

「クアンは?」

 この場にいないクアンのリスクは、店主さんが答えてくれた。

「クアン様は知識を蓄えるという感情が収まらず、読書中は声をかけても生返事です」

 うーん、あまり参考にならない。ゲーム中に声をかけられても同じ反応になりそう。

「店主さんは?」

「ワタチは料理ですね。あらゆる料理を極める事に関して制御できません。とは言え、ワタチは他の方より長時間悪魔だったので、多少マシになりました」

 へー。悪魔になっても、それなりに時間が経てば人と同じくらいになるのかな。


「パムレはお菓子に関して我慢できなくなるよね」

「……パムレは『人工魔術師』ぞ? 悪魔ちゃう」


 俺の周りの平均年齢がインフレしているから、パムレも悪魔だと勘違いしちゃった。

「とはいえ、悪魔にするのは簡単でも、悪魔になった後に苦労することの方が多いです。聖術を食らうと溶けるし、何より死が恐ろしいですね」

「悪魔なのに?」

 悪魔って生死にすごく関わりがある種族な気がする。

「当然です。それに悪魔は確定で死後の運命は決まっています。それ故に生きなければいけないのですよ」

「悪魔店主にそれを言われて儂も死ぬに死ねなくなった。ほんの数十年長生きしたいって思ったのじゃが……軽率だったのう」

 ゲームとかだと悪魔って格好良かったりするから、そういう裏事情って全く共感できないけど、それぞれ大変なんだな。


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