世界のコトワリ
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「前回のあらすじ。なんとクアンがガラスの球から出てきたのだった」
「狩真少年。混乱しているのはわかるが、どこに向って言っているのかわからないその行動は無意味だぞ」
だって、クアンが来ちゃったんだもん。というか、俺の所為で呼んじゃったんだもん。
「それよりも二人を紹介してくれないか? 雑談を挟みつつ状況を確認したい」
「あ、うん。こっちの女の子は音葉。こっちの大きい男の人は尾竹先輩」
「初めまして」
「こんにちはでござる。あ、幼子は拙者から二メートル離れることを推奨するでござる。拙者から発せられるオーラは悪影響を与えかねないでござる」
と、尾竹先輩はいつもの調子で話した。というか、初対面でその自己紹介って、今更ながらすごいメンタルだよな。
「オーラ? うむ、尾竹青年からは全く魔力らしきものは感じない……ああ、なんかこうフワッとした感じの抽象的な奴か。それなら安心したまえ。クーは君のような者を何人も見ている」
「見た目に反してずいぶんと口調が達者でござるな」
「おっと、皆に名乗らせてクーの自己紹介がまだだったことを詫びよう。クーはクアン。ミルダ大陸では……と言っても狩真少年しかわからないな。異世界でちょっと偉い立場の者だ」
その自己紹介の瞬間、尾竹先輩は立ち上がった。
「く、クアン!? まさか、千年前に突如消えた天才学士の!?」
いつもの口調ではない尾竹先輩に驚きつつ、そう言えばクアンってその界隈では有名なんだっけ。
「そう言えば音葉も名前は知ってたよね」
「う、うん。それこそ狩真がクアンって人と会ったって聞いたときに、文献とか調べたよ。なんでも色々な事件も解決しつつ、難しい数式も暗算で解いたとか」
「おおむね正解だ。クーはそもそもこの地球出身で、色々理由があってミルダ大陸で寿命を延ばす術を得た」
「え、じゃあ久しぶりの里帰りじゃん?」
「千年前の地球に帰ったところでクーの家は無いだろう。それにここは日本だろう。クーはフランス出身で、里帰りにしては距離が大雑把だな」
そんなことも言ってたな。
「待つでござる。じゃあ、クアン氏は……『世界の理』を知っているでござるか?」
尾竹先輩はいつもとは違って、真剣な表情でクアンに問いかけた。
「質問に対して質問で返すことを許して欲しい。それを聞いてどうする?」
「拙者は、あらゆる理不尽を受けて来た。理不尽な運命に理不尽な日々。いつも辛い日を乗り越えるために全てを受け入れているでござる。『世界の理』がそう拙者に与えた試練なのであれば、それを書き換えたいでござる」
話は全く分からない。そもそも度々単語は聞いてるけど、『世界の理』とは一体何なのだろう。
音葉も重い空気を察して、その場でお茶を飲みながら周囲の様子を見始めた。
そしてクアンもお茶を飲んだ。
「あ、それ俺の」
「それを先に言いたまえ。ごめんなさい」
クアンって普通に謝るんだ。
「こほん。残念ながら君は『世界の理』を勘違いしている。君の不運とやら『マジでヤバイくらい超絶運が悪かった』だけで、世界の理とは無関係だ」
「嘘でござる! 他人が拙者を見ただけで逃げる。見た目だけで危ないヤツと思われる人生を約二十年も過ごしたでござるよ!」
「では一つ、クーが照明してあげよう。もしも世界の理が関係しているのであれば、謝罪をしよう」
「一体何を?」
そう言うと、クアンは俺に向って手を出した。
「金を貸せ」
「すげー直球のカツアゲ!?」
びっくりしたよ!
「違う。コインだ。裏表が異なる絵柄のコインが必要なんだよ」
「そう言ってよ。はい」
そう言って俺は十円玉を出した。
「ふむ、ではこれを投げる。裏か表か、言って見ろ」
「そんなことで分かるでござるか?」
「もちろん。一応五回くらい投げれば証明できるだろう」
そう言って、尾竹先輩は裏か表を言って、都度クアンはコインを投げた。
一回目は表で正解。二回目は裏で正解。三回目は裏で不正解。四回目は表で正解。五回目は裏で不正解。
「理想的な形で満足だ。正解三の不正解二だ」
「これのどこが証明になるでござる?」
その質問にクアンははっきりと答えた。
「世界の理によって君の運命が全て壊されているのであれば、今のコイントスは全て間違いか、全て正解。もしくは、このコインが五回連続で縦に落ちる等の現象が発生するのだよ」
どや顔のクアン。それを聞いた尾竹先輩は。
「いや……確率でござるよね? それはさすがに無理があるのでは? しかも最後の答えに関しては奇跡というか、ほぼ不可能でござる」
俺もそう思う。さすがに無理があるのでは?
「答えを知るために自身の意見を言う事はとても大事だ。世界の理はそもそも絶対的なルールという物だ。あくまでも例えで言うが、水素と酸素が合わさって水になるというのがある種世界の理に近いと言える」
「それは科学的な話で、世界の理というのとは違うような?」
「ああ。だからあくまでも例えだ。だが、遠くない例えだ。世界の理というのは絶対的なルールで、概念だ。故に、世界の理を捻じ曲げた場合、ここにあるお茶がココアに変化することもある」
「いや、意味がわからないんだけど」
「今の話は全て君たちに合わせて話している。あらゆる元素や時間、運命や空に見える星々は世界の理のルールの下で成り立った成果物だ。例えばこの地球を巨大なバナナに変化させた場合、どうなると思う?」
そのクアンの質問に対して尾竹先輩が答えた。
「仮にでござる。そのバナナのような形に変化した場合、あらゆる国が崩壊するでござる。重力そのものがおかしくなって、人類は滅亡するでござる」
「理論的に考えた場合だな。だが、世界の理を捻じ曲げ、この地球を人が住めるバナナの形状をした星になった場合、全員はそういう物として認識し、そして世界もそういうものと認める。例え君が緑茶をあらゆる科学を駆使してココアに変化させたところで、それは科学であり世界の理を捻じ曲げたわけでは無い」
おそらくここにいる全員は誰も理解できていないだろう……いや、尾竹先輩の額の汗がいつもより多く流れていると思う。
「では、拙者が世界の理について探求した時間は、全て無駄だったということでござるか!」
「無駄ではない。現にこうしてクーに問う事が出来た。それは世界の理という単語を知らなければできないことだ。強いて言えば、それを捻じ曲げる方法は……」
と、そこでクアンが言葉を止めた。
「クアン?」
「いや、クーは非常に残念な性格でな。勘違いで発言をすることはあっても隠し事や嘘は苦手だ。世界の理を捻じ曲げる方法は『無いわけでは無い』」
「本当でござるか!」
尾竹先輩がクアンに近づいた。
「おいおい、本人が二メートル以内に来ない方が良いと言ったのに、そっちから来たらクーはどうしようもないだろう」
「ぬあああ! すまぬでござる!」
いや、そこで突っ込むんだ。
「えっと、クアン。無いわけでは無いって、ずいぶん変な答えだね」
「ウチの調べだと、クアン先生ってばっちり答える感じだけど……」
「狩真少年と音葉少女は人の発言に気を付ける良い思考の持ち主だな」
「それで、方法は何でござるか!?」
尾竹先輩の質問に、クアンは一呼吸置き、答えた。
「リエン少年の救出に可能性がある」




