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面接の練習


 ☆


 森を出て少し南に行くと、田舎の村という感じの場所に到着。 

 そして入り口には。


「あ、こっちに来たのですね! お帰りなさい!」


 当然のように店主さんの登場。本当にどこにでもいるなー。リアルセーブポイントである。

「影の者からは協力者を出してもらえそうですか?」

「いや、俺が変な質問をした所為で交渉決裂しちゃった。ごめんね」

「え!? 一体何があったんですか?」

 俺はざっくりと内容を話した。すると店主さんは何度か頷いて、真顔で答えた。


「それは駄目ですね。影の者も堕ちましたね」

「いや、大分俺が悪いって感じの話しかしてないけど!?」


 パムレに刀を向けたことに関しては最小限の情報しか言ってないのに、それでもあっちが悪い事になるんだ。

「それもそうじゃよ。三大魔術師を敵に回すというのは、それすなわち大陸を敵に回すということじゃよ。あの若造の一つの行動が、今後取り返しのつかない物だと誰もが思っている。自身の力に自信があったのじゃろうが、相手の力を見極めれない時点で駄目じゃ」

「……それに、族長以外は見た目だけで、実際それほど良いとは思えない。依頼を出せば確実にあの集落の誰かは死ぬ」

 もしかして失敗すると思ったから依頼をしなかったのではなく、誰かが死ぬと思ったから依頼を取り下げたという感じなのかな。


「それにしてもカルマ殿のあの言葉はなかなか度胸があるのう。儂が居るからとは言え、仮に刀を首元に置かれた状態なら無傷では無いぞ?」

「今思い返せばかなり無謀だったと思うよ。店主さんがバックにいると知りつつ、それすらも知らない人は沢山いるからね。これからはもっと言葉に気を付けるよ」

「では今日はこの村で一泊ですね。ではこちらになります!」


 ☆


 気が付くと地球に帰ってた。相当疲れてすぐに布団に入っちゃったのかな。

『ギャギャ。カエッタゾ』

「あ、クーちゃん、おはよう」

 そう言えば鞄の中からほとんど出して無かったけど、ずっとついて来てたんだよね。

『ゴシュジンガチカイカラ、カバンカラデタギャ』

「ああ、地球の店主さんね。そう言えばこの状態で手を振ったら店主さんは見えるのかな?」

 俺は目の前でぷかぷかと浮いているクーちゃんに笑顔で手を振ってみた。


『あー、えっと、反応に困りますね。いや、確かに見えますけど、ワタチは手を振り返せばいいですかギャ?』

 クーちゃんは右の翼を器用に振ってくれた。これって店主さんが手を振り返してくれたって事?

「うん、今になって恥ずかしくなってきました。おはようございます」


 冷静なツッコミ程心に刺さる物は無い。

『はあ、それよりも王族との食事はどうなりましたギャ?』

「あっちの店主さんが気を使ってくれて、そこから抜け出すことができました。と言っても、そのまま別件で小さな村に行くことになって、そこに泊まることになりました」

『小さな村……タプル村ですかギャ?』

 村の名前までは聞かなかったな。

「えっと、すみません。名前までは」

『別に謝る必要は無いですギャ。それよりも朝食ができたので、食べますかギャ?』

「いただきます!」

 起き上がると隣でフブキが寝ていた。まあ地球は平和だし、ずっと護衛しているのも疲れるだろうから、寝かせておくか。


 ☆


 ミルダ大陸とこっちの世界を行き来していると曜日感覚がわからなくなるから、今日が何曜日か忘れてしまう。

 実際その辺の人より倍活動しているようなものだもんな。


「それで、間違って土曜なのに学校に来たと。意識高いわね。と言っても一日学校に来ただけで単位をあげられるほど世の中は甘くないわよ」

「一番見つかりたくない先生に見つかってしまった」


 授業の休みとか予定の変更が無いか掲示板を見に行ったけれど、人が全然いない。部活動に励む学生がちらほらと見えて、まさか今日は……と思った瞬間、後ろから『土曜日よ』と声をかけられてしまった。心を読まれるって本当に辛いな。

「そういう先生も間違って来たんですか?」

 俺の質問に呆れ声でマリー先生は話した。

「あのね。一応ワタクシは教授よ。それにゼミを持ってるから、四年生の就活の面倒を見ないといけないのよ」

 一気にファンタジーから現実に切り替わる単語である。あー、手から火が出ていた頃が恋しく感じてしまった。いや、今でも出せるけど、出したところで火遊びでしかない。


 あ、違う。火遊びって言うのは、魔術を使って火を出す遊びって意味で思っただけで、深い意味じゃないです。あの、心を読んでいるからだと思うけど、マリー先生、俺のことを冷たい目で見るのやめてくれます?


 とりあえず話題を切り替えよう。

「就職活動の面倒って、面接の練習とかですか?」

「履歴書の添削から面談の練習。ひどいとスーツの着こなし方も教える必要がある学生もいるわね」

「そこまで?」

「貴方基準で考えたら駄目よ。例えば、今日までネクタイを付けたことが無い人も稀にいるし、履歴書に関してはその企業で不要な資格を書きつつ、あると良い資格を書かない人もいるの。一生を任されている以上、少しだけ真面目になるわよ」

 思った以上にちゃんと先生してるー。

「そうだ。暇ならこの後にやるワタクシのゼミに来て、面談の練習相手にならない?」

「え、俺が?」

「ワタクシの隣に座るだけで良いわよ。それとこれも貸してあげる」

 マリー先生は俺にサングラスを渡してくれた。

「これは?」

「普通のサングラスだけど、魔術の練習も兼ねて『心情読破』を使って見なさい。なかなか面白いことを聞けわよ」


 ☆


 そして始まった面接練習。

 マリー先生だけだと緊張感が無いということで、ほぼ初対面の生徒を一人用意したーという適当な紹介をされて始まった。

 というか初対面で面接相手がサングラスを付けてるって、どういう状況だよ。


「失礼しま……ぶふっ」


 うん、思いっきり俺の顔を見て笑われたんだけど。


「はい。大久保君は一点マイナスね」

「え!?」


 そして理不尽な原点である。

「えー、環境通信学科から来ました。大久保です」

「はい、お座りください」

 その言葉と同時に俺は『心情読破』を使ってみた。サングラスのお陰で目が金色になるという状況は相手から見えないようだ。


『なんでサングラス!? しかも全然似合ってないし!』


「マリー先生。この先輩、俺の事を貶したので不合格です」

「そうね。じゃ」

「ちょっと待ってください!」


 俺の我慢の限界って結構浅いんだな。自分の事なのに大学一年生になって初めてわかったよ。

「え、何で!?」

「顔が緩んでるのよ。こっちの狩真を見てずっと笑い堪えているし、これがもしも本当にサングラスのような眼鏡を着けている人がいたらどうするのよ」

「いや、いないでしょ!」

「そうとも言い切れないわ。色が認識できない人が着ける特殊な眼鏡はサングラスに似ているし、光に弱い人もサングラスのような物をつけるわよ。ワタクシの知り合いでは目を怪我していて、それを隠すために真っ黒なサングラスをつけていたわ」

「そんな人がー」

「そんな人が面接官になるわけ無いって言いきれるかしら。貴方は知らないからこそ、今だから自信があるだろうけど、一社目で落ちたらきっと家から出れなくなるタイプね。人を見下すのはそろそろ卒業しなさい」

「うっ」

 すげー。俺が心情読破を使う前に相手の心を読んで意見を言わせないようにしたぞ。こういう使い方もあるのか。

「はい、じゃあ入る所からやり直しよ」

「はい」

 そう言って大久保先輩の面接練習は何度も行われた。


 ☆


 一時間後。

 大久保先輩の目が死んでいる。うん、最後の最後に『おわったあああああ!』って心の中で叫んでしまい、それをマリー先生が読み取って、追撃を受けた。

 正直可哀そうと思いつつ、自業自得だよなと思ってしまった。

「要点はこんな感じね。直す点は直して再来週の一次面接頑張りなさい」

「ありがとうございます!」

 おおー、上手く飴と鞭を使っている。

「狩真もお疲れ様。はいこれ」

「え、これは?」

 何やらお菓子が入った箱を渡された。

「現金を渡すわけにもいかないし、客先で貰ったお土産のおすそ分けよ。後二箱あるのよ」

「ありがとうございます」

 なんか高そう。

「狩真君だっけ? 最初はサングラスを着けてたから笑ってしまったけど、今思えば俺の悪い点をしっかりと出してくれた。ありがとう」


 何この先輩。一気にさわやかな性格に変わったんだけど。キモチワルイ。


「なにこの大久保。一気にさわやかな性格に変わったんだけど。キモイ」

「先生!?」


 俺の心を読んで代弁しやがった!

 しかも俺の心の声よりも強い言葉に変換してたよ!

「いや、今までひねくれてたんだと反省しているよ。それに君の質問は色々と俺の弱点を突いて来る物ばかりだった」

 そりゃ、嫌な質問とかを心情読破で読み取って、わざとそれらを質問したからね。今思うとこの術は便利だな。

「俺は残り数か月しか大学に居ないけど、もしも困ったことがあったら訪ねて来てくれ。恩は返すよ!」

「それは助かります。ありがとうございます」

 本当に最初に会った先輩なのかな。凄いさわやかだけど、まあ困った時に助けてくれる人は多い方が良いだろう。残り一年限定だけどね。


「ちなみにワタクシの卒業論文の合格範囲は超高いから、貴方が卒業できるかどうかはわからないけどね」

「水を差さないで貰えます!?」


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