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夢と現実の違い


「なるほどね。フブキがこっちの世界に来ちゃったか。これは想定外というか、嫌な予感通りというか」

 何故か俺の頭にはたんこぶができそうなほどの痛みが走っていた。おかしいな、何かに殴られた気はするんだけど、さっきまでの記憶がないナー。

「そもそもフブキが封じられてたお札を何でマリー先生が持ってたんですか?」

「それはワタクシがフブキの契約者を選んでいたのよ。契約者が亡くなる時に再度お札に封印されるんだけど、そのお札を持ったままこっちに来ちゃったのよね」

 先代のガラン王国女王や姫に仕えていたフブキ。その選定者はマリー先生って言ってたけど、常に契約をしていたわけでもないのか。空き時間的なやつがあるのかな。


「でも、今回は俺なんですね。俺、姫じゃ無いですよ?」

「そんなことは知ってるわよ。ただ、一つの可能性を信じて見たのよ。貴方があっちの世界にいる時に封印を解いて、こっちに戻った時、フブキは契約という縛りから解かれると思ったのよ。インターネットの回線落ちでノーゲームになる感じでフブキはあっちに残る的な感覚?」

 クアンの失敗でフブキはこの状態になった。だからフブキをクアンの描いていた状態にしようと思ったのか。

「マリー様。それはかなり危険な賭けですね」

「そうかしら?」


「狩真様がこっちに来たときにフブキ様が消滅するという可能性を考えていなかったのですか?」


「わーお。考えていなかったわ」


「カルマ殿、この紫髪を切って良いか?」


「俺の部屋を事故物件にしないでください」


 どんなやり取りだよ。というか、なんとなく集まってるけど、平然と皆俺の部屋に来てるんだよね。

「それよりも一つ問題も出てきたわね。そっちをどうにかしないといけないわね」

「問題?」


 ☆


 今日は科学の授業。ということでいつも通り正門前には笑顔が眩しい音葉が手を振っていた。

「狩真ー! おはよー!」

「おはよう。音葉。そして木戸も」

「おう。見る限り今日も大変だったみたいだな」

「流石友人だ。パッと見ただけでわかるとはさすがだな」


「いや、後ろで僕をがっつり睨んでる女の子がいて、普通じゃないことくらい察せるよ」


 うん、がっつり殺意むき出しのフブキが俺の後ろに立ってるもんなー。

「えっと、狩真。その子は?」

「あー、えっと、あっちの世界の子で、今は俺と契約している精霊……的な?」


『なんかあいつ、変な事を言い出したぞ』

『ねえねえ、妹さんかな? 可愛いね』

『あ、今こっち見た!』


 うん。姪っ子って言って、部活の時に本当のことを話せばよかった。こっちの世界で精霊ってゲームのやりすぎだと思われてもおかしくないよな。

「儂はカルマ殿……コホン、妹のフブキじゃ。こんな兄じゃが、よろしく頼む」

「うん、今日からウチの妹ね。よろしくフブキちゃん!」

 そして抱き着く音葉。おいおい、最近までセレンが妹だったじゃんよ。


「イモウト……デゴザルカ?」


 殺気!?

 振り向くと、涙を流している尾竹先輩の姿があった。

「聞いていないでござる。こんな美少女が妹にいるとは、現実とは実に理不尽。これは本格的に狩真氏にポスターブレードの餌食になってもらうでござるよ!」

「先輩! 違う! この子はあっちの子!」

「ほう、では聞くでござるが、二人はどういう関係でござる?」

 その質問にフブキが答えた。


「主従関係でござる?」

「狩真氏を処す!」


 凄い勢いで背中のリュックに刺したポスターブレード(ポスターを丸めたやつ)を抜き出し、それを俺に向けて振りかぶってきた。

「筋は良いな。体格が大きい故に勿体ないのう」

 叩きつけたポスターブレードをちょうど突くように、フブキは腰にぶら下げていた刀を出した。

 内心『え、武器!?』って思ったけど、鞘から出していない。

「なっ! 拙者のポスターブレードを防いだ!?」

「面白い口調じゃ。儂と似ているとは同族か?」

「しかも『のじゃロリ』だとっ! 狩真氏はいくつ罪を重ねるでござる!」

 いやいや、意味が分からないんだけど!


「全く朝から騒がしいわね。というかワタクシの部活じゃない。あまり目立たないでよね」

 と、そこへマリー先生が入ってきた。

「先生、尾竹先輩が暴走したんです」

「意味がわから……ああ、察したわ。なんというか馬鹿というか」

 ため息をつくマリー先生。俺と木戸と音葉はフブキの後ろに隠れている。うん、超情けない。

「こういう時はこれで良いのよ。フブキ、これを頭に付けなさい」

「む、紫髪。一体何を?」

 そう言ってマリー先生は鞄から何かを取り出して、それをフブキの頭に付けた。


「ね……猫耳……ですと!? もはや失われた文明、いや、古典とも言える文化。色褪せないその麗しい姿はかはっ!」


 口から血を吐いたんだけど!?

「はいはい、とりあえず一限の授業が始まるから、さっさと準備しなさい。そこの先輩は放置しても良いわよ」

『はーい』

『なんかすごかったね』

『一体何だったんだろう』

『あの子、フブキちゃんって言うんだって。狩真君と仲良くなったら話せるかな?』

 各々そんな会話をしながら各教室へ向って行った。


 何で先生は猫耳のカチューシャを持ってたんだろう。


 ☆


 そして放課後。なんだかんだで三日連続で部室に来た。木戸はサッカー部の活動でいないから、この場には俺と音葉と尾竹先輩とフブキの四人だ。

「改めてこの子は俺の契約……精霊? のフブキ。マリー先生とは知り合いで、生まれは夢の中の大陸らしい」

「主から紹介があった通り、フブキじゃ。色々あって狩真殿から距離を離すことができぬ故に、こうして学び舎に来ることになった。邪魔はせぬ故に、儂を気にせず生活をしてくだされ」


「できるわけないわ。はい、フブキちゃん。ウチの膝に来なさい」


 なんか、音葉とシャトルって似てない?

 絶対二人は仲良くなれる気がするんだよね。

 そしてフブキも一瞬考えてから、音葉の言う事を聞いて、膝の上にちょこんと座った。良いんだ。

「ずるいでござるー。忍者っ娘ののじゃロリで猫耳に抵抗ない。どこの天使でござるー?」

 そして不機嫌な尾竹先輩。うん、この人が今一番面倒くさいなー。

「尾竹殿と言ったな。太刀筋は鍛えれば光るものがある。どこかの流派の者か?」

「独学でござる。ポスターブレードはアニメを見て学んだでござる。オタクですら格好良く見えるあの作画。うむ、未だに忘れることはできない」

「そのあにめとやらは儂にはわからぬが、良い教材のようじゃな」

「おお、アニメを理解する者はウェルカムでござる!」

 なんか仲良くなってるし。

「それにしてもフブキちゃんは可愛いけど、精霊って事は強いの? 普通に人間っぽいけど」

 フブキは動じてないけど頭とかほっぺたとかお腹とかすげー触られてるよ。よくその状況で真顔でいられるね。

「はっきり言って強いかな。今はガラン王国ってところに向ってるんだけど……あー、なんというか、強かった!」

「え、言葉に詰まる場所でもあったの?」

 うん、そのー、何て言えば良いんだろう。

「む、カルマ殿が言いたく無いなら儂が言うが?」

「えっと、それは……」

 俺が止める間もなくフブキは話した。


「襲い掛かって来る盗賊は全て儂が葬った。それだけじゃよ」


 あっさりと言って音葉と尾竹先輩はポカンとした。

「えっと、無力化したってこと? 縄でグルグルーって」

「音葉はレイジに襲われたから、もしかしたら予想できると思うけど、ミルダ大陸は地球よりもかなり殺伐としてて、盗賊が襲ってきたら自衛のために命を奪うことが普通なんだ」

 俺の言葉に音葉は言葉を失っていた。

 と、そこで尾竹先輩が代わりに質問をしてきた。

「つまり、狩真氏は人を殺したのでござるか?」

「人はまだ。というか、そう言う場面に遭遇しても、フブキや他の護衛が何とかしてくれているんだと思う」

 俺がまだ人に手を出していないことに安堵したのか、音葉は胸をなでおろした。

「って、フブキちゃんはすでに人を殺してるんだよね!? 駄目だよ! 命大事!」

「ふむ、と言われてものう」

 そう言うとフブキは音葉の膝から立ち上がり、腰の刀を鞘から抜き出した。

 そしてそのまま尾竹先輩の頭上に乗せた……乗せた!?


「この場で突然儂のような存在が『金をよこせ』と言ってくる世界じゃ。むしろこの世界が不自然なくらいじゃぞ」

「なっ、なっ、おっ」


 尾竹先輩が自分の状況に理解するのに少し時間がかかっていたが、理解した瞬間震えていた。

 さすがにこれ以上の実演での説明は不要と思ったのか、フブキは刀をしまった。

「一応言うが、好き勝手に人は殺めぬ。儂たちを本気で殺しにかかる者のみを対象にしているぞ」

「でも……」

 音葉の言いたいことはわかる。でも、ミルダ大陸ではそれでは生きていけない。

「音葉、理解できないとは思うけど、『夢の話』だから」

「そ……そうか。夢の話よね。うん」

 何とか納得しようとしつつも、どこか納得していない様子。これは時間がかかりそうだな。


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