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影の者フブキ


 ☆


 目覚めて早速マリー先生から言われた通り、札を鞄から取り出した。

 スマートフォンのようなものは持って来れないのに、こういう道具は持って来れるのはなんでかな。もしかしたらインスタントカメラくらいは持って来れるかな?

「えっと、これに魔力を込めるんだっけ」

 独り言をつぶやいて、俺は少しだけ魔力を込めた。

 次の瞬間。


 ボン!


 札は思いっきり煙を出した。

「うわ、けふっけふっ、なんだこれ」

 あたり一面煙だらけ。まるでドライアイスを水に入れた状態だ。


「おはようございますー。今日はお寝坊でってぎゃー! 火事ですかー!?」

「あ、店主さん。大丈夫ですー! ちょっとマリー先生に言われたことをやってましてー」

「余計に信用できないじゃないですかー! 待ってください、そこに水魔術を!」

 店主さんが手を前に構えた瞬間、煙の中から声が聞こえた。


『久しい再会なのに冷たいのう。悪魔店主。それとも、お主は儂の知らない別の何かかのう?』


 中の人影が腕を払う動作をすると、そこには黒髪の少女が立っていた。服装はまるで忍者服のような装いで、腰には一本の刀のようなものをぶらさげ


「やべーやつですー! 空腹の小悪魔召喚ー!!!!」

「ちょ!? お主、しっかり儂を見たろうに! ちょ、待て!」

 いやいや、容姿の確認がまだ終わってないんだけど!

 店主さんによって召喚された空腹の小悪魔四匹が、凄い勢いで少女を襲い掛かった。次の瞬間、


 空腹の小悪魔は全て真っ二つになった。


「え、何があった?」

 何も見えなかった。いや、強いて言えば、一瞬煙が揺れたようにも思えた。

「ふむ、どうやら本物でしたか。それで、『今は』敵ですか? 味方ですか?」

「おー、いきなりモノノケを使って来て敵か味方か聞くのは変じゃろうて。じゃが、とりあえず儂はそこの少年の味方じゃ」

「ふむ、それは良かったです。ふう、本当に……良かったです」

 その場で膝をつく店主さん。え、そんなにヤバイ人なのこの人。

 改めて見ると、目は赤く、そして黒い髪にキリっとした目つきとシュっとした顔。服装は忍者でくのいちと言った方が良いのかな。

 腰に刀とチラッとクナイが見えるし、完全に日本古来に存在する忍者である。

「長い眠りから目覚めさせられたということは、一大事ということじゃな。さて、少年、儂を何故呼んだ?」

 え、何故って言われても、マリー先生に魔力を使えって言われたから。


 と、困っていたら廊下から足音が聞こえて来た。

「朝から騒がしいのよ。一体何?」

 シャトルだった。

「……ふあー、眠い。今日のパムレットは何が……なっ!」

 そしてパムレは忍者娘を見た。

「おお、魔力お化けか。久しいのー」


「……この右手の炎が地に落ちたら、この国ごと消える。フブキ、敵? 味方?」


「なんじゃ貴様ら、儂を見るなり殺意出しおって! 以前は仲良しじゃったろうに!」


 パムレもそんなお手軽に国を亡ぼす炎を右手に出さないでくれる!?

 すげー禍々しい色してるんだけど!

「……殺意は無い。むしろ狩真の味方か。なら良いや。マリーにでも貰った?」

「あ、う、うん。マリー先生から札を貰って、これに魔力を込めろってさ」

 と言ってもその札は無くなったんだけどね。

「あ、自己紹介を忘れてたね。俺は狩真。君は?」

「うむ、名を聞く前に名乗る。良い心がけじゃな。儂はフブキ。ただの刀使いじゃよ」


 ☆


 朝食の時間、それぞれ自己紹介とかこれからについて話し始めた。

「えっと、フブキってもしかして『影の者』の?」

 影の者……なんかカッコ良い名前が出てきた。

「うむ、それを知っていると言う事は、お主はガラン王国の者じゃな。金髪がそれを語っておる」

「あはは……えっと、じゃあ一つ質問」

 お、珍しくシャトルが言葉を選んでいるように思えるぞ?


「その……王族を狙った依頼とか……何かを盗むーとか、そういうのをやってた?」


「うむ、かつてシャムロエ女王の命を狙ったり、王族の心臓を持ち帰ってたな」


 やべー人じゃん。そりゃ店主さんもパムレも初手魔術を放つよ!

「じゃが、今の儂は影の者では無い。それに、ガラン王国の王族とは和解し、影の者という組織は無くなっているじゃろう?」

「うん、昔の出来事としか言われてないから、一応教えては貰ってたけど、本当に存在してたんだ」

 つまり、昔は凄い暗殺集団がいたってことか。

「え、つまりフブキは蘇生したってこと?」

「遠からずというところじゃな。ある実験に失敗し、儂はそこの魔力お化けの力を借りて、精霊と同じ状態になった。契約者が死ぬまで行き、そして契約者が死ねばまた札に戻る」

「なるほどー……ん?」


「つまり儂とお主は一心同体じゃ。よろしくのう」

「ちょっと待ってそれは聞いてない」


 クーちゃんのようなマスコットならまだいいけど、人ぞ?

 忍者っこだし尾竹先輩が見たら発狂しちゃうよ?

「く、クアンが失敗って、珍しい事もあるんだね」

「……あれはクアンが失敗というより、他の魔術師が失敗した。全て把握していたはずのクアンだったけど、魔力に対して無知だったクアンは勘違いをしていた。結果としてフブキはこうなった」

「そもそもフブキは何でこの状態になったの? 元々は人間だったの?」

「うむ、儂はカルマ殿と同じく人間じゃった。じゃが、そこの魔力お化けや悪魔店主を見て、羨ましく思ったのじゃよ。この先の未来を見て、儂を超える者に出会いたいとな」

 つまり、長生きをしたいということ?

「……クアンは失敗を知らない。故にフブキが最初にその申し出をした時、躊躇いも無く術を使った。結果として失敗し、パムレが『なんかこうフニフニしてポンってした後にギュッギュッ』とやったら、今の状態になった」


 すげー抽象的!


「……表現ができない。ただ、フブキを失うわけにはいかなかった。何とか札の状態にして、当時のガラン王国の女王に契約してもらって、フブキを残すという最低限の実験は成功した」

「でも、それってフブキに自由は無いんじゃ?」

「そうじゃ。じゃが、契約者に関してはマリー殿やクアン殿に選んでもらっている。じゃから、儂は納得している。クアン殿は……まあ、しばらく部屋から出なかったがな」

 そりゃ、実験が失敗したもんな。あの完璧なクアンが失敗となれば、そりゃ落ち込むか。


「ふむ、なんだか軽い気持ちで聴いてますね、カルマ様」

「へ?」

 店主さんがパムレットを持ってやってきた。

「……さすが店主。今日は気分が良い」

「フブキ様が来たので、小さな歓迎会ですよ。今日には旅立つので、これくらいしかできませんけどね」

 サービスということね。

「それよりも、カルマ様は『クアンが失敗した』という点しか見ていませんね」

「そりゃ、クアンのような人でも失敗するんだなーとしか」

「クアン様は常に失敗をしています。こと魔術に関してはあらゆる実験で失敗をしています。今回はただの失敗では無く、人を一人殺しかけたという部分です」

「あ」

 その言葉に俺は、言葉が詰まった。

「あの時のクアン様は荒れました。魔術に関して一部の解読を魔術研究所職員に任せていたのですが、間違った解釈をした者の論文を見て、それを正と見たのです。理由を問い詰めたら、途中の計算を省略しても間違いではない答えが出たということで提出したらしく、クアン様はその場で目の前の研究員を殴りました」

「あのクアンが?」

 頭は良いのに常に相手を尊重するクアンが、まさかの暴力?

「それからです。魔術研究所は定期的に試験を行い、不合格者は研修生になるという制度を設けました。驚いたのは、一回目で落ちた人数が半分以上という事です。そしてワタチが怒られちゃいました」

 魔術研究所の館長だもんな。

「というか、テストで落ちたらクビでは無いんだ」

「そう考える幹部もいました。陰でサボる人を見つけ出して追い出す好機だと。ですが、クアン様はそこ『は』否定しました。『研修生は大事な労働力だ。お前たちが何でも命令ができるんだぞ』と言った瞬間、周囲の幹部は手のひらを返しましたね」

 おおう。重いな、この話は。

 そう思った瞬間店主さんが突然変な動きをし始めた。

「あ、いや、お、あー、あー」

 なんだろう……この大陸の踊りか何かかな?


「やっちまったです。クアン様に『そのクーを憐れんでいる目……もしかしなくても今クーの話を初年にしたな。後で山のような書類作業をしてもらうから覚悟しろ上司』と言われてしまいましたー!」


 うん、やっぱりクアンは怖いや。


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