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久々の故郷


 ☆


「わー! 狩真ー! 久しぶりー!」

 音葉が抱き着いてきた。と思ったら、すぐにパッと離れた。

「ご、ごめん! つい、体が動いちゃった」

 可愛いかよ。いや、良いけどね!

「その、嫌じゃ無いから。うん」

「お前ら、そういう関係なの?」

「木戸!? いつの前に!」

「ずっと狩真の後ろにいたよ」

 大学に到着し、掲示板を見ると、特に大きな話題は無かった。強いて言えば昨日の授業が一部休みになっていたらしい。まあ、二日休んだから、その分のノートは音葉から借りようかな。

 と、思った瞬間後ろから音葉が抱き着いてきて今に至る。うん、びっくりだ。そして周囲も驚いている。

「おお、狩真氏。見事戻ってきたのでござるな」

「尾竹先輩。あー、尾竹先輩を見ると帰ってきたーって感じがします」


「その認識はちょっとやめて欲しいでござる」

「いや、こっちで一番キャラ濃いって意味だから。音葉も引かないでくれる?」


 そっちの趣味だったの? っていう目が刺さるが、違う。俺は女の子が好きだ。

「それにしても戻って来れなかった理由って何だったの?」

「ああ、この首飾りが壊れたんだ」

 そう言って俺は首飾りを見せた。

「壊れた? つまり外れたのか?」

「あっちの世界でね。理由は分からないけど、とりあえずそれを修復して、また前のように夢と現実を行き来って感じ」

「そうなんだー。ところで」

 音葉が周囲を見て言った。


「その話題、放課後しよ?」

「そうだね!」


 ☆


 長い間授業を受けていない感じすらしたけど、休日と平日二日だけだから、現実ではそこまで時間も経過していなくて、ノートの写しも休み時間中に終わらせることができた。

 そして放課後、本当は部活の日では無いけど、今日は例外として集まることに。木戸だけはサッカー部に行って、部室には俺と音葉と尾竹先輩。そして


「入るわよ」


 マリー先生が入ってきた。

「久しぶりです。マリー先生」

「そうね。まあ、ワタクシは半透明の狩真を毎日見てたから、久しぶりな感じはしなかったけどね」

「ウチも見た。なんかコンピュータグラフィックスみたいだった」

 あ、俺も知らない半透明の状態を音葉も見たんだ。

「それより残念だったわね。ミルダ大陸とは縁を切れる絶好のチャンスだったのに、結局元通りね」

「あはは、クアンに怒られました。『馬鹿』って」

「あのクアンが? 凄いわね。あの子は知識はあるのに相手を陥れることはしないのにね」

 じゃあ俺ってよっぽどの馬鹿だったのか?


 ミルダ様に吹っ飛ばされた俺とシャトラは、そのままフェルリアル貿易国の寒がり店主の休憩所にいるパムレに魔術でキャッチされた。

 痛みは無かったが、正直酸欠になるかと思えるくらい叫び、そして寒かった。

 うっすらとしか覚えていないけど、パムレにキャッチされた俺は、そのまま気を失った。そしてその間に店主さんが俺の首元にグールの首飾りを付けたらしい。

 当然、この首飾りは最初と同じように外れない。店主さんの依頼を放棄するつもりはないけど、念のため外れないか確認くらいはした。


「という感じで戻ってきました」

「うん、全然わかんないわ。何ミルダさんとか、神の失敗とか、ぶっとばされたとか」

「砂漠地帯から一泊二日馬車に乗っただけで雪山というのも気になるでござるな。どんな地形でござる?」

 うん。俺も見たままのことしか言えないからわからない。

「ミルダ大陸の環境はクアンにすら解明できないあやふやなもので、それなのに『魔力のせい』で片付く厄介な物よ。砂漠や雪山とかよりも、今後について考えた方が良さそうね」

「ふむ、それもそうでござるな。あ、ちょっとこの麦茶ぬるいでござるから、氷を入れてくるでござる」

 尾竹先輩は立ち上がった。


「あ、それくらいなら俺入れますよ。『氷球』っと」


 そう言って、尾竹先輩のコップの中に綺麗な氷の球が生成された。

「ぬおあ!? び、びっくりしたでござる」

「ちょっと狩真。ここは地球よ。安易に魔術は使わない方が良いわよ」

「しまった。そうだった」

 あっちで焚火とか作る時、パッと出せるようになるくらいにはなったから、油断してた。

「凄いわね。前は確か洗面台をぶっ壊したのよね。ウチが見に行った時のアレ」

「そう。良い感じに調整ができると、今みたいな感じに生成できるよ。結構便利かな」

「まあ、あっちに三大魔術師が二人もいる中で育たない方が変よね。でも気を付けなさい。魔術を使える人間は普通ありえないんだから」

 ありえない……か。


「それで、フーリエの依頼通りリエンを助けるということね。にしても『神の失敗』ってミルダ大陸では言われてるなんて、お腹が痛むくらい笑えるわね」

 クスクスと笑うマリー先生。うーん、詳しくはわからないけど、リエンさん達を代償に世界が救われたって、映画で言う所のバッドエンドであり、周囲は幸せになるタイプのエンディングだと思うんだけど、だからそこまで笑えないかなー。


「人が神を笑うとは、なかなか偉くなったのう。紫髪の童」


 突然、机の中心に赤と白を基調とした巫女服を着た少女が登場した。

「ぬぬ!? これは、巫女服を着た美少女!?」

「え、この人って……」

 うん、俺も音葉も一度会ったことがある『神』だった。

「えっと、ヒルメ……様だよね」

「そうじゃ。そして何やら問題にぶつかり、そしてひとまず乗り越えたという表情をしておる。おっと、移動した先が机の上じゃったか。これは失敬」

 机から降りると、どこから出したかわからない布を折りたたみ、テーブルを拭いた。

「狩真氏の知り合いでござるか? 仮にそうなら拙者は憎悪がこもったパンチを狩真氏にしなければいけないでござる」

「ほう、それは興味があるのう。ということで、儂はこやつの……超親友じゃ」

「一日しか会ってないのに親友って言えます? この人……というか、この方は神様。音葉も知ってます」

「うん、信じられないかもしれないですけど、この方はヒルメ様。別名アマテラス様です」

「アマ……えっと、正直な感想を言って良いでござるか?」

「何じゃ?」


「巫女服コスプレ美少女にしか見えないでござる」

「こす……いや、よくわからない言葉じゃが、褒めているか? いや、褒めて無いな? 消して良いか?」


 神様が消すとか言わないでよ。

「それよりヒルメが直々に姿を現すなんて、珍しいじゃない。大事件でも起こった?」

「うむ、大事件が発生したから顕現してしまったのじゃよ。むしろ、儂だけじゃなく、神と呼ばれる者は揃って焦っているじゃろうて」

「一体何が……」

 もしや、神様の住む世界に何かやばい出来事が?


「肉体を得た神たちが、衣食住にありつくために、就活したりゴミ拾いをしているのじゃよ。いやー、どうしようね」

「どうしようねじゃないよね! え、神様たちがウロウロしてるの!?」


 唐突過ぎて話が追い付かない。

「もう少し詳しく、あとちゃんと言ってくれないかしら」

「事実を述べて責められるとはのう。いやなに、ちょっと前に変な魔力が全てを覆ったのじゃよ。結果として下位の神はすでに肉体を得て何とか生活をしている。儂のような原初の魔力の神はギリギリを保っておったが、こうして顕現している方が楽になったのじゃよ」

 変な魔力……。

「質問良いですか?」

「なんじゃ?」

「先日、俺も変な魔力の所為で、このグールの首飾りが壊れたんです。それと関係はありますか?」

「ある。と、断言はするが、それ以上の答えは出せぬ。どこからの魔力か、そしてどんな魔力かという詳細までは分からなぬ。まあ、おおむね『あの人間』じゃろうが……」

 あの人間。この神様は何かを知っている?

「とりあえずはおめでとうじゃ。あの悪魔っ娘の所為で近くに行くことはできなんだが、様子は見ておった。近々また会いに行くでのう」

 そう言ってヒルメ様は消えた。


「え、消えた?」

「オカルトショップの店主氏も魔術を使っている時は凄かったでござるが、いやはや、慣れないでござるな」

 まあ、地球の人からすればそうだよね。

 苦笑していると、音葉は心配そうな表情で俺を見ていた。

「でも狩真はせっかく戻ったのに、また行き来するんだよね。辛くないの?」

「うーん、辛いと言われたら辛いけど、あっちの世界ってゲームみたいな感じだからね。魔術を使ったり、剣士がいたり。ゲームの世界を歩いているって思うと、あまり辛くは無いかな」

 そう言うと音葉は俺の手をぐっと握ってきた。


「駄目だからね!」

「え?」


 そのまなざしは真剣だった。

「ゲームはやり直しがきくけど、あっちは死ぬかもしれないんだから、あっちの世界が魅力的に感じたら駄目だからね!」

「う、うん」

 それよりも、近づいてきた音葉に驚いて反応しにくい。

「水葉の言う通りよ。あっちの世界はあくまでも他の神の領域で貴方はこっちの世界の住人。ヒルメが貴方を見守ってくれてるのも、気まぐれ程度に思いなさい」

「は、はい」


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