密談
☆
夕ご飯を食べ終えたあと、俺は自分の部屋でパムレを待っていた。すると、扉から二度叩く音が聞こえて、俺は返事をした。
「はーい」
『……はいる』
そしてパムレが入ってきた。どうやらシャトルとかは……いない。本当にパムレ一人なのか。
「えっと、話って?」
「……一応フォローをしようと思った。今日はクアンがプルーを責めてたけど、あれは狩真の為に問い詰めていた」
「俺の為? というと、グールの首飾りを修復するためってこと?」
「……違う。グールの首飾りの修復はクアンの中で二番目に優先する事。一番は狩真を地球に戻すこと」
「それってつまり、首飾りの修復でしょ?」
「……だから違う。言い換える。グールの首飾りを修復せず狩真を戻せないかをクアンは考えてた」
「え?」
それってつまり、寝たら行き来する方法を使わずに、俺をそのまま地球に戻すって事?
「……フーリエの近くだと話せないからここには小さく『認識阻害』を使った。けど、多分魔力的にフーリエは気が付いてる。あえて触れていないけど、フーリエは狩真に本当の意味で戻られるのは困る」
「そりゃ、息子さんを探さないといけないからね」
「……クアンはそれも知った上で、狩真が帰れる方法を最優先に考えていた。そして第二の手段にグールの首飾りを修復するという方法を探している」
「いや、でも結局どっちも今はまだ見つかってないんでしょ?」
そう聞くと、パムレは首を横に振った。
「……プルーが見つかった時点で、グールの首飾りは修復できる」
「そうなの!?」
え、どういう事?
「……狩真は信じていないけど、プルーは『神』……ってざっくり言うと伝わらないけど、創造神。だからグールの首飾りの壊れた部分を修復するくらい、超簡単」
「じゃあどうしてそれを言わないの?」
「……言ったらまず最初にフーリエがその方法をすぐにプルーに依頼して、狩真に首飾りを付ける。そしてまたここと地球を行き来する。クアンは狩真の安全を第一に考えている」
「いやいや、それじゃあクアンは店主さんを裏切ってることになるじゃん。確かにこの世界は魔術が存在する世界で、色々と危険があるけど、店主さんの息子さん探しに関してはまだ危険を感じないよ?」
そう言うとパムレは俺の目をじっと見た。
「……クアンの推測だとリエンを助けるためには狩真が命懸けで助ける必要がある。他人の息子のために命をはる必要は無い。クアンは『同じ地球出身の人』をただ守りたいだけ」
「!?」
俺は衝撃を受けた。
クアンはプルーに圧力をかけた。だが、それは俺をこの状況から脱却させるためと言う事か。
「どうしてそうパムレは思ったの? 今の話はクアンから直接聞いたの?」
「……パムレは最初から言った。飛び交う言語は理解できない。だから相手の心と会話をしている。クアンは常に狩真をここから逃がす方法を探していたことは出会った時から気が付いていた。今日、ちょっとクアンが暴走したからそのフォロー」
「そうか。うん、俺もクアンに謝らないとな」
そう言って俺はパムレに笑顔を見せた。
「教えてくれてありがとう。でもこうして聞いたら、店主さんに『心情読破』を使われてバレるんじゃない?」
「……フーリエは悪魔。悪魔のフーリエは『心情読破』や『認識阻害』を使う事ができない。もう数日でクアンが答えを出すから、それまでに口に出さなければ大丈夫」
「そうですね。悪魔のワタチなら、カルマ様の心を読むことはできませんね」
聞き覚えのある声『だけ』が聞こえた。
「……おかしい、声だけ聞こえた」
「そうでしょうね。だって、ワタチが『認識阻害』を使っていますからね」
その言葉の後に、まるで霧が晴れるように店主さんの姿が現れた。
「え、パムレ、店主さんは『認識阻害』が使えないんじゃないの?」
「……うん。『悪魔の』フーリエは使えない。目の前のフーリエは……『人間』」
よく見ると、ほんの少しだけ髪が長いような気がした。そしていつもは目が赤いのに、目の前の店主さんは目が水色だ。まるでミリアムさんの様だ。
「密会なんて変だと思いました。しかもしっかり『認識阻害』も使ってワタチが入れないようにするなんて、ひどいじゃないですか」
「……ある種盗み聞きをしたフーリエに言われたくない」
「そうですね。ですが、そんな些細なことよりも、グールの首飾りを直す方法を知っているのに、それをすぐに実行しなかったクアン様や、知ってても言わなかったマオ様は許しません」
すさまじい殺気。今までの優しい店主さんとは違って、恐怖しか感じない。
「……プルーの所に今から狩真をぶっ飛ばす。悪魔の魔力は狩真の空腹の小悪魔を使えばっ!」
「させないですよ。ちょっと黙っててください」
店主さんが指を鳴らした瞬間、パムレはパタリと倒れた。
「何を!」
「……チート。これだから本物のフーリエは……」
「パムレ様の魔術をちょっと改変して、一時的に動けなくしただけですよ」
あのパムレが、たった一瞬で?
見た感じ凄く強そうなミリアムさんですら、パムレは勝ったのに、この店主さんはそのパムレを上回っている?
「ふう、というわけで、カルマ様」
「は……はい」
俺は一体何をされるんだ?
首飾りの修復ができるとわかった以上、店主さんは修復させた首飾りを付けるだろう。
そしてまた夢と現実を行き来する生活を強いられる。
クアンの事を考えると、確かにこの世界で地球生まれの俺にしてみれば、いつ死んでもおかしくない危険な場所だ。
もしかして俺は、店主さんから逃げられないような魔術を……例えば漫画とかにある奴隷契約的なものを付与されるのか!?
「おねがしじまず! リエンを……リエンのだめに、ぐーるのぐびがざりをづげでくだざい!」
その場で土下座をして、思いっきり泣きながらお願いをしてきた。
「え、え?」
「今までの宿泊費はお返しします。家事や洗濯は全てやります。リエンが戻った後もカルマ様に仕えます。なので、リエンを、リエンを助けてください!」
思いっきり叫ぶ店主さん。
「ちょっと、頭を上げて」
「あげまぜん! リエンを助けるといっでぐれないがぎり、ぜったい!」
あのパムレを一瞬で力でねじ伏せた店主さんが、一転して今度は頭を下げていることに、頭が追い付かなかった。
「ワタチはクアン様ほど頭は良くありません。プルー様が復活したので、てっきり神の力を使ってグールの首飾りを修復できると思っていました。それをすぐにしなかったということは、別の理由かとずっと思っていましたが、クアン様がリエン様の事を最優先に動いていたことに気が付いていませんでした」
「いや、俺もそれはさっきパムレに言われて気が付いたんだけどね」
「おそらくクアン様はすでに仮説を立てています。リエンを助けるには危険な道をいくつも通る必要があると。だからこそ、カルマ様をこの状況からリタイアさせようと動いていたのです。でも……もしそれをやられたら……」
店主さんの息子さんは……見つからない。
「いや、もしかしたら俺じゃなくてもリエンさんを見つける方法をすでに探しているかもよ?」
「……それは無理。すでにクアンは狩真以外出会う事は無いと結論を出している」
「でも、クアンだって結論を覆されることはあるし、まだわからないだけでは?」
「……狩真がクアンを言いくるめたのは凄い事。でも、あれは本当にまぐれ。都合よくすぐに別の方法は見つからない」
それほどクアンは考えているのか。
そして、俺は今二つの道があるということか。
一つは、このまま地球に帰り、普通の大学生活に戻る。
もう一つは、また寝るとこっちに来る生活に戻る。
後者は死の危険もある。だから、普通なら前者なんだろうな。
「ねえ店主さん」
「はい……」
「そのリエンさんって人は俺と仲良くなれる?」
「え……人当たりは良い方です。無茶はしますが、カルマ様とは気が合うと思います」
「そっか」
それだけ聞いて、俺はパムレに話した。
「ごめんパムレ。俺はまだこの世界を楽しみたい。とりわけ急いでプルーをフェルリアル貿易国の寒がり店主の休憩所に連れてって、グールの首飾りの修復をお願いしてもらっていいかな?」
「……後悔しても知らない。多分クアンは納得しない」
「だろうね。クアンは俺の為に動いてくれてたんだと思う。でも、店主さんも俺の友達だからさ」
「……わかった」
再度店主さんは指を鳴らすと、パムレは起き上がった。
「……野菜料理リセット。それで許す」
「はい。わかりました」
それだけ話してパムレは外に出て行った。
「すみません、ワタチのわがままで」
「いえ、強いて言えば地球の店主さんには美味しいご飯を作ってもらってますから」
「そうですか。あっちのワタチが……本当に、すみません」
そして店主さんはゆっくりと頭を下げて、部屋から出て行った。
『おい魔力お化け、お前、プルーに何を……え、なに、飛ぶ? 何で!? え!?』
『……発射』
『ぬあああああああああああああああああ!』
なんか外で悲鳴と大きなロケットが飛ぶような音が聞こえたけど、気のせいだよね。




