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魔術研究所の館長室


 ☆


 魔術研究所の中は基本的に石で作られた建物という印象だ。

 日本の建物と違って暖房なんて無いから、凄く寒い。

「ねえクアン。結局あの人は死罪なの?」

 歩いている間、暇だったから一番気になっていた質問をクアンにしてみた。

「狩真少年の発言により彼は見習い兵に降格で終わるだろう。あの寒さでクーも頭が回らなかった。ナイスパスだったぞ」

「まあ、助けれたなら良かったけどね」

 三大魔術師は口出しできない。王族は口出しできない。うん、なかなかそういう仕来りは難しい物だな。

「実際カルマは一人の命を助けたのよ。女王も死罪なんて本当はしたくないしね」

「え、じゃあ何であんなすぐに死罪を持ちかけたの?」

「それは私やシャトラ。それにパムレがいたからよ。ガラン王国との交流に傷をつけることはできない。それに加えて三大魔術師を敵に回さない。その二つが一気にのしかかってきたから、すぐに判断する必要があったのよ」

 そういう物なのか。体裁的なやつかな?

「ちなみにカルマもいつ死罪になってもおかしくないのよ?」

「そうなの?」

「大叔母様にたてついたり、ミルダ様に頭を下げなかったりしたからね」

「え、じゃあ何で罪に問われて無いの?」

 そう聞くと、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。


『ワタチがいるからです……ギャー』


 ……店主さんだと思ったら、空腹の小悪魔だった。

「えっと、何故空腹の小悪魔?」

『魔術研究所の館長は正体不明となっていて、部屋にはクアン様以外入れませんギャ。意思疎通はこれで行っているギャ』

 この研究室に入って最初の関門は空腹の小悪魔を見慣れるということかな。

「それより、どうして店主さんがいるから俺は大丈夫なの?」

『カルマ様はワタチの息子を探す最後の手がかりギャ。だからワタチが背後についているため『多少の』ことでは捕まらないギャ。あ、間違っても女王をぶんなぐったりしないでギャ』

「やらないよ!」

 それは女王以前に暴行罪でしょ。


 ☆


 館長室は一番奥にあり、周囲から覗かれないような作りになっていた。中に入るとそこにはなんと!


「いらっしゃいませ」


 うん、いつもの店主さんだ。


「改めて自己紹介ですね。三大魔術師で魔術研究所の館長のフーリエです」


「あ、狩真誠です」

「シャトル・ガランです」

「シャトラ・ガランです」

「……マオ」

「クアン」


「え、別に皆自己紹介しなくて良いですよ?」


 いや、なんかそういう流れが出来てるよね。

 というか、店主さんが自分の事をフーリエですって言うの、なんか新鮮だなー。普段はそう呼ぶとパムレのおかずに野菜が追加されるから言わないようにしてるけど、ここではどう呼べばいいのかな。


「……念のため店主って呼んであげて。隙を見て野菜増やすかもしれない」

「どれだけ野菜苦手なんだよ。農家の方々は美味しく作ってるんだぞ」

「……心が痛い」

 そんな会話をしていると、クアンが部屋の奥から黒板を持ってきた。

「さて、結論から言おう。グールの首飾りが壊れた理由は、呪いが解けただけだ」

「呪い?」

「そうだ。それも限定的な魔力。ここで言う限定的な魔力とは悪魔の魔力だ」

 その言葉に俺は店主さんを見た。

「フーリエ上司の報告では、グールの首飾りが壊れる直前に、違和感があったらしい」

「地球の店主さんも何か言ってたよね」

 そう尋ねると、店主さんは頷いた。

「はい。あの時一瞬だけ、全てのワタチとの記憶の共有が切れました。一秒もしない間に元に戻ったのですが、その後にグールの首飾りは壊れました」

 クアンは黒板に絵を描き、説明を始めた。

「グールの首飾りが壊れた時間。そしてフーリエ上司が一瞬だけ孤立。さらにそこの鞄に入っている小さな空腹の小悪魔と地球は繋がっていたが、途切れた。ここから仮説として挙げられるのは、悪魔術によって付与された呪いが解けて、首飾りが取れたということだ」

「でも、首飾りを持って寝ても、戻れなかったよ?」

「首飾りの仕組みの問題だろう。これは他の魔術を例に考えたものだが、『円』が重要だ。いわゆる魔法陣と言った方が君にはわかるか?」

「まあ」

 ゲームではお世話になる単語だ。


「首飾りは付けた状態で円になる。それが第一段階。そして睡眠がトリガーになり、術式が完成という仕組みだろう。あくまでも推測だがな」

「じゃあ、テープでくっつけてやればいいのかな?」

「可能性は低い。暇ならやってみても良いが、万が一の安全性を考えると首輪として機能していた方が良い」

「じゃあどうすれば?」

「方法は二つ。一つはグールという悪魔を探すことだ」

 グール。本当にいるのか?

 いや、この世界なら本当にいるのかもしれない。

「もう一つは?」


「諦める」


「え?」


 俺は固まった。

「クーはこの世界で数百年生きている。それほど退屈では無い。狩真少年もこの世界で骨を埋める。それがクーから出せるもう一つの道だ」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 と、シャトルが机を叩いた。

「カルマは答えを探しにここに来たのよ? あきらめるって、そんな答えは望んでないわよ!」

「望むかどうかはクーには無関係だ。この極寒の土地の海で泳げますかと問われて、君は『はい』と答えるかい? クーは質問に答えただけで、希望や励ましを言ってあげるほどできてはいない」

「言い方があるでしょ!」

「ちょ、シャトル」

 俺はシャトルの肩を掴んだ。


「クアンは質問に答えているだけだ。意地悪を言っているわけではない」

「どう見てもいじわるじゃない」

 今にも殴りかかろうとしているので、俺は仲裁に入った。

「違う。情報が無いだけだ。そうだろ、クアン」

「そうだ。仮説を立てるための情報が無い。もしも答えが欲しければ、クーが知らない情報を言って見たまえ。ほとんどはフーリエ上司から聞いているぞ?」

 俺は店主さんに話していない情報が無いか、考えた。

 ん、そう言えば一度だけ、地球の店主さんと会話ができたな。正確にはマリー先生だけど。

 俺はそのことを思い出し、クアンに話した。


「一度だけ、グールの首飾りが壊れた後に地球と繋がりました」

「何?」


 クアンは眉を動かした。

「マリー先生の話だと、地球の店主さんが凄く頑張った状態でようやく話せていると言ってました」

「それはマリー女史の声しか聞こえなかったか?」

「はい。クーちゃんが証人です」

 そう言うと、鞄からクーちゃんが飛んで出てきた。

『ゴシュジン、マリョク、タイリョウ。カミノマリョク、コンゴウ。ソレデツナガッタ』

「魔力お化け。今の言葉は嘘では無いか?」

「……パムレはうそ発見器では無い。でも、狩真は真実を言っている。本当にマリーと話した」

「少し考えさせてくれ。フーリエ上司、一冊本を貰うぞ」

「はいはい」

 そう言って店主さんはクアンに一冊本を渡した。その本は何も書かれていない真っ白な本、つまりノートだ。

 そこに文字を書き、次々とページが埋まっていった。


「えっと、これはどういう状況かしら?」

「ふむ、この時間だと、カルマ様が一本上手だったということですね。クアン様は仮説を並べて真実に近づけますが、今の情報でクアン様の仮説は全部崩壊したみたいです」

「ああその通りだ。フーリエ上司からも聞いていない重要な情報だ。クーはすでに地球とミルダ大陸が遮断されたと仮説を立てていた。が、『頑張れば』繋がる。つまり、厚い壁ができただけという表現が生まれる」

 あっという間に本の半分を埋めていた。凄い早いな。

「そこのクーちゃん小悪魔は神と悪魔の魔力を混同させたと言った。魔力を合わせた場合の反応が未知数だ。いや待て、ちょうど神の魔力を持つ材料がいたな」

 パタンと本を閉じ、クアンは上着を着た。


「ちょっとプルー修道女を拉致してくる」

「ええ!?」


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