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友人の不幸体質


 ☆


 午後の授業も終えて背伸びをすると、後ろから木戸の声が聞こえた。

『だから……で……』

 何やら争っている感じ?

 パッと見た感じ見えないし、どこか見えない所で言い争っているのだろうか。

「ねえ狩真。木戸の声よね」

「ああ、ちょっと探してみよう」

 声を頼りに音葉と一緒に向うと、駐輪場の隅にある倉庫の近くで、この大学の先輩と思える男の人たち三人に囲まれていた。

「だから、僕と如月マネージャーはそういう関係じゃありません!」

「ああ? だったら何でお前とメッセージのやり取りをしてんだよ!」

「それはあっちが送ってきたから返しただけで、内容もサッカー部の話です!」

 おおよそ内容は分かってしまった。木戸は『また』男女関係でトラブルを起こしたらしい。それも『また』不可抗力でだ。

(ねえ、どうするの?)

(とりあえず音葉は離れてて。何かできるわけじゃないけど、タイミングを見て木戸に声をかけてみる)

 小さな声で話し、音葉は頷いた。俺はゆっくりと近づき木戸たちの会話を聞いていた。

「大体お前がこの大学に入るとかクソだろ。多少授業サボっても試合出て良い結果を出せば先生も点数をくれる。それなのにお前が来たら試合に出れねえかもしれねえじゃねえかよ」

「それは先輩が勉強もサッカーも頑張ればいいだけで」

「口答えかこのやろう!」

 先輩は殴りかかろうとしていた。いや、殴る前に何かズボンに入っている物を取り出そうとしている?


『ジャックナイフ』


 そんな単語が俺の脳内に入ってきた。ジャックナイフって、あのジャックナイフ!?

 俺は思わず叫んだ。

「木戸! 先輩のズボンにジャックナイフ!」

「なっ! くっ!」


 木戸はすぐに先輩の開いた両足の間に向ってスライディングをして、先輩の股をくぐった。バランスを崩した先輩はそのまま倒れこみ、木戸は先輩の腕を掴んで固定した。先輩の右手にはナイフが握られていた。

「これはどういうことですか?」

「離せ!」

 周りの先輩が木戸に向って殴りかかろうとしたその時だった。


「ちょ、何やってるの?」


 声が聞こえた。

 俺は振り返った。いや、この場にいた全員が振り返った。

 そこには約十人の女子学生が集まっていた。

「き、如月! お前、何でここにいる!」

 木戸に身動きを奪われた先輩は、もがきながら叫んだ。右手に握るナイフが輝き、女子学生全員が恐怖のあまり悲鳴をあげた。

「キャー! は、刃物!?」

「ウチ達やばくない? 逃げよ!」

「警備員呼んでくる!」

「ば、待て!」

 女子学生たちは一気にその場を駆け出し、木戸に掴まれた先輩は勢いよく起き上がって木戸を退かし、ナイフを持ったまま走って行った。

「馬鹿杉田! それ捨てろ!」

「キャー! やばいやばいやばい、マジ殺されるんだけど!」

「洒落にならないって! 警察! 警察!」

 そして先輩たちは集まった女子学生たちを追いかけて行き、倉庫付近には俺と音葉と木戸の三人だけになった。

「何があった? というかどうしてお前たちがここにいる?」

 木戸がきょとんとしているなか、音葉はスマホの画面をこっちに向けて来た。

『校舎裏で木戸君がヤバイんだけど、これって誰に言えば良い?』

 そのメッセージと共に先輩たちに囲まれている写真が送信されていた。

「俺たちは偶然通りかかっただけだ。声が聞こえて覗いたらいつも通りトラブルに巻き込まれてる木戸を見つけただけだよ」

「あと、高校の友達繋がりで、この大学の女子一年が集まるグループチャットに入ってたの。毎日数十の通知が来るからうるさいんだけど、初めて役に立ったわ」

 ファインプレーである。というかやっていることがえげつないな。

「音葉、助かった。いや、来てくれた人たちには危険な目に合わせているから後で謝りにいかないとな」

「あはは、確かに。刃物を持った男が全力で追っかけて来るって、正直トラウマ物だと思うよ? 学校休むレベルかもね」

 相手は同年代。と言っても、普通に大学生が殺人をする時代である。実際にジャックナイフを持っていたということは、木戸の命が危うかった可能性だってある。

「それよりも狩真。よく先輩がナイフを持っていた事に気が付いたな」

「え? あ、ああ」

 なんていえば良いのかわからない。別に隠すようなことでも無いし、かと言ってどう説明して良いかわからない。

「見えたんだ。後ろの尻ポケットからそれっぽいのを持っているの。思わず今やっているゲームキャラが持っているジャックナイフって単語が頭を過ったから、そのまま言っちゃったけどね」

「そうか。持っている物まで当てたから、実はすげー視力が良かったとかだと思ったぜ」

 そう言ってお互い笑う。

 そんな俺たちを見て音葉は溜息をついていた。

「それにしても木戸っていつもこんな感じなの? 不幸体質というか、望んでいない状況に巻き込まれる体質というか」

「ああ。サッカーで良い点を取らないと妹が暴走する。友人が僕の悪口を言うと妹が暴走する。だから僕はいつも愛想よく振舞うしか無いんだ。結果、勘違いさせてしまうんだ」

 妹のバーサーカーは本当にヤバイ。何かに取り付かれているレベルで物を破壊し、その都度俺と木戸で止めていた。

「木戸って彼女は作らないの?」

「あー、絶対作らない。理由は狩真が知っているからそいつから聞いてくれ」

 俺!?

「話して良いのか?」

「狩真なら良いさ。僕はさっきの人たちに早く謝罪しないといけないからさ」

「ちょ、待って」

 止めようとしたが、木戸は自慢の脚力で颯爽と消えていった。別に木戸が悪い事をしたわけでは無い。音葉が目撃し、それを構内に広めて興味本位で来た女子学生が勝手に巻きこまれただけとも言える。

 だが、もしも木戸の様子を確認しに見に行ってトラウマを植え付けられ、それが変な方向で話が広まったら妹が暴走してしまう。俺からすればいつものことなのだが、異常ということも重々承知していた。

「一体何があったの?」

 まあ、木戸が話して良いって言ってたから良いか。


「高校二年の頃、同じクラスの女の子に木戸は告白されたんだよ。木戸も気になっていた人だったから告白を受け入れたんだ」

「そうなの? え、じゃあ彼女居るの?」

 あれは事件と言っても過言では無い。

 俺は同じクラスだったから一部始終知っていた。木戸とは家も近かったから付き合ったばかりの彼女と手を繋いで帰る姿を後ろから見ていた。

 次の瞬間だった。


「木戸の妹のセレンは橋の上から川に飛び降りたんだ」


 その話に音葉は両手で口を覆った。

「橋には靴が二つ綺麗に並んであった。いわゆる自殺だ。木戸は急いで川に飛び込み妹を助けた。後ろで全て見ていた俺も急いで救急車を呼んで、運良く助けることができた」

「どうしてそんなことを?」

「理由は簡単。大好きな兄が取られたから」

 そう。木戸の妹は色々な意味で狂っている。それも過去形では無く現在進行形である。

 飛び降りの日以降、木戸と俺は少し関わるようになり、妹のセレンが入院している病院にも何日か遊びに行くようにもなった。

 木戸がトイレで席を外している時にセレンは俺に話してくれた。

 兄の為に全てを捧げ、兄を見るために毎日生き、将来兄とどこかへ行く。日本で許されないなら海外で結婚すれば良い。兄がワタクシを見てくれるまであきらめないと。

「その……まるで漫画のキャラクターね」

「見た目も相まってマジのヤンデレなんだよな」

「うわー。現実にヤンデレっているんだ。女友達にもいるけど、今まで一番過激だったのは一人の女の子を奪い合うために髪を引っ張り合うくらいだったわ。飛び降りのエピソードを聞いた今、ウチの思うヤンデレの概念はアップデートされたわ」

 そんなアップデートいらん。むしろ髪を引っ張り合うってどういう状況だよ。しかも一人の女の子をって言った? 俺の思考が追い付かなくなってきたぞ?


 ☆


 家に帰り夕ご飯を食べながらテレビをつけると、今日の大学で起こった殺人未遂のニュースが映っていた。

 男子学生が刃物を持って複数の女性を追いかける事件。一人は退学処分を検討、二人は自宅謹慎を言い渡されたらしい。流石にあんな事件が起こってしまえば無理も無いだろう。

 とは言え、俺があの場で声を出していなかったら殺人未遂では無く殺人事件になりかねない状況だったと思うと背筋が凍った。

 目の前にあるサイコロステーキをジッと見つめると、俺の頭の中にはサイコロステーキという単語が入ってきた。もちろん手に持っている箸を見つめても同じく箸という単語が頭に流れてくる。

 文字が見えるわけでは無く、かといって声が聞こえるわけでは無い。見た物の情報が分かるというのは一見便利そうだが、裏を返せば気味が悪い。

「さて、どうせ今日も夢の中の世界に行くんだろう」

 そう独り言をつぶやいて、俺は部屋の隅に置いてあった鎧を身に着けて、短剣を腰にぶら下げた。うん、寝心地は最悪である。

 今度ふわふわなシーツと枕でも買おうか。そんな事を考えていたら徐々に意識が薄れて行った。


 ☆


 目を覚ますと茶色い屋根。異世界……いや、夢の世界である。


 体を起こすとボロボロの布団が目に入った。隣には俺が地球で着ていた服があった。

「これからはこの服を着て寝よう」

『そうじゃな。鎧を着て寝るなんぞ、腰を痛めるじゃろうて』

「うおあ!?」

 真上から声が聞こえて驚いて思わず声が出てしまった。

「えっと、君は」

 確かシャトルの契約精霊の。

『セシリーじゃよ。それよりもお主は寝ている間、何か特殊な術式でも使っているのかのう?』

「特殊な術?」

『うむ、何と言うか、半透明じゃった』

 うん。意味が分からない。

『突然光り出したと思ったら実体化して今に至るわけじゃが、しっかり休めているのかのう?』

「あ、うん。大丈夫。その、ちょっと特殊な体質でさ」

 どう説明して良いかわからない。と言うか俺だって寝ている間にこっちの俺がどうなっているかなんて知らないし、もしかして地球の俺って半透明になっているのかな?

『ふむ、まあ魔力量も少ないし、大丈夫じゃろう。一応我は主を守る義務があるからのう。カルマ殿に害を加えるつもりは無いが、警戒はさせてもらう。許せ』

「あ、うん。別にかまわないよ」

 主を守る精霊は義務を守っているだけ。ゲームでは王に従順な兵士という感じだろう。

「というかセシリーは隣の部屋だよね。どうやって入ってきたの?」

『我は精霊じゃ。ほっそい扉の隙間はもちろん、ここくらいのボロッボロな宿なら通り抜け放題じゃよ』

 かかかっと笑うセシリー。俺にプライバシーは無いのか。確かに古い木造建築だし、頑張れば小さな穴から隣の部屋を覗けたりする? いや、やらないけどね。


「お客様の部屋に無断侵入はワタチが許していませんが、納得できる説明をしてくれるんですよねセシリー様」


『ぬああああああ!』


 バッと起き上がると、扉に店主さんが目を真っ赤にして立っていた。いやいや、完全にホラー映画だよ! 画面から飛び出してくるタイプの怖さを極めた映画レベルの恐怖があったよ!

『待つのじゃ悪魔店主! 契約精霊として主人を守るための行為じゃ! せめて一日くらい見逃して欲しいのじゃよ!』

「だったらせめてワタチに一言声をかけてくれれば良いのですが、それともワタチがうっかりお客様に話してしまうと? 信用できないと?」

 ズイズイと近づいて来る店主さん。なんか心なしか紫色の様な不気味な光を漂わせているんだけど!

 そしてセシリーをバッと捕まえた。まるでトンボや蝶々を両手で捕まえるような感じである。

『ぎゃあああああ! 許してくれ、頼むうううう!』

「すみませんカルマ様。朝から賑やかで」

「い、いえ」

 不気味な笑みを浮かべて店主さんは部屋をゆっくり出て行った。


 というか店主さんも勝手に部屋に入ってきたよね? それは良いの?

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