カレー
☆
結局、他愛もない話を長々と続けている間に、目的地に到着した。
店主さんに言われたチェックポイントである。
「あ、いらっしゃいましたね。こちらが今日泊まる場所になります」
……?
何も無いんだけど。
その、草原が広がってると言うか、建物がないと言うか。
「ここはワタチが副業として始めた『寒がり店主の休憩所・キャンプ場』です!」
どや顔をする店主さん。いや、てっきり俺は宿屋とかの建物があるんだと思ってたよ?
全く建造物は無いし、小屋と言うか物置がちょっとあるくらいだから、変だとは思ったよ!
「姉様、もしや今日は噂の『野営』とやらを体験できるのですか!?」
「なに興奮してるの!?」
シャトラが凄く鼻息を荒くしている。
「私は何度かやったことあるけど、シャトラは初めてね。まあ、馬車の中に野営道具も念のため入れてたし、できるわよ」
「わー! 楽しみです!」
そう言えば俺も父さんに連れられてキャンプとかやったな。初めてテントの中に入った時は凄くワクワクしたなー。
「……あ、土で適当に立派な一軒家作るね。てい」
すげー。パムレが一瞬で二階建ての家を建てたよ。
「……匠のこだわりポイントとして、階段下の収納スペース。そしてリビングは風通しを考えた作り。遊び心として小動物(精霊)用の出入り口を作った」
「いや、今完全にテントを作る流れだったよね! シャトラがすごくガッカリしてるよ!?」
「や……え……い」
これが三大魔術師の力か。無慈悲だ。
「こらーパムレ様! ここで魔術は焚火を作る時以外は禁止です! 罰金を取りますよ!」
「……罰金なら払う。それでもなお、この家の中で過ごした方が安全。というかすぐそこが雪原だから寒い」
うん、地味に刺さるような寒さはあるんだよね。
「今日の夕食は野菜メインにしますよ」
「……背中はお腹にかえられない。さようなら、住み心地の良い家」
パムレは手から火を放って土で作った家を破壊した。というか『背に腹は』な。なんかフワッとした表現になっちゃってるよ。
「はっ、い、家は!?」
気が付いたシャトラ。
「今シャトラの目の前に、憧れの野営をぶち壊す建造物があったと思うのですが」
「うん、パムレがぶち壊したから、今日は野営だよ」
「わーい!」
野営でここまで喜ぶ姫はいるだろうか。シャトルは野営経験があるからか、そこまで嬉しそうでは無かった。
「と言っても、一応ここはワタチが運営している場所です。食材はワタチが持ってくるので、それらを自由に調理してください」
「なるほど。ということは料理の腕が試されるのか。ちなみに皆の料理スキルは?」
「焼けば食べれるでしょ」
「料理経験は……備え付けのソースをかける程度ですね」
「……待てば出る」
一人論外がいるぞ。しかも姫がそれを言うならわからなくも無いが、パムレがそれを言うか!
「そういうカルマはどうなのよ!」
「そうだな……」
店主さんが食材を持ってきてくれて、それらを見てみると、明らかにカレーライスの具材だった。
ご親切にカレー粉らしき茶色い粉もあるし、中学の合宿でこれらを使ってカレーを作ったっけ。
「店主さん、これってカレーの材料ですか?」
「言ってしまえばそうです。ですがこの世界でカレーが出るのはガラン王国の兵士専用の厨房だけです。野菜に肉に穀物を用意すると、お客様は何かしら作りますね」
なるほど。大陸中にカレーが伝わっているわけではないのか。
「よし、この食材なら何とか思いつく料理もある。俺が指示をするから、皆手伝ってくれ!」
「「「(……)はーい」」」
☆
周囲は暗くなり、キャンプ地だけが少し明るく照らされていた。
というのも、火の精霊フェリーが常時中心にいるおかげで、俺たちのいる場所は常に光っていた。
『照明気分ー。退屈ー』
『じゃあ我としりとりでもするか?』
『わかったー。『魔術』』
『うむ……『精霊』』
「ちょっと待って」
え、しりとりって言ったよね?
『なんじゃ?』
「しりとりなのに『魔術』の次は『精霊』なの?」
『あー、言語の違いー。こっちの大陸の言語で聞くと、今のは成り立っているー』
そういうことか。俺は日本語として認識しているから変だと思ったけど、この大陸の言語だと、今のでしりとりは成り立っているのか。
そんなやり取りをしているとシャトラが俺の近くに来た。
「カルマ様。まだでしょうか。お腹が……」
「お、そろそろかな。肉が柔らかくなって米もできれば完成だ。えっと、良い感じの布を用意してっと」
米は鍋で焚いていた。名前は思い出せないけど、キャンプ用のお米を炊く金属のアレは無いため、代わりに何か無いかと探していたら店主さんが教えてくれた。
「ご飯って鍋で炊けるんですね」
「チキュウでは災害時にこのようにして米を炊いたそうですよ」
「というかこの大陸に米があるんですね」
「ガラン王国の南にタプル村という村があるのですが、そこでお米を作っています」
ふむ、日本人としては是非行きたいな。
鍋を開くと白いお米がふっくらと炊きあがっていた。そして鍋を開くと、程よいスパイスの効いたカレーができあがっていた。
「こ、これは……時々城内で香る正体はこれだったのですか!?」
どうやらシャトラは香りだけ知っていて食べたことが無いのか。
「……うん、薄々気が付いてたけど、カレーなんだよね。うん、辛いんだよね」
そしてこの中でおそらく一番強い魔力お化けことパムレは絶望していた。
「一応もう一つの鍋でシチューを作ったから、パムレはそっちかな」
「……え、狩真ってそんな気配りができる人だったの?」
失礼な。一応数日一緒にご飯を食べてたら、パムレの食の好みくらい察せれるよ。
「甘いわけではないけど、辛くないから大丈夫でしょ?」
「……感動。今後狩真に命の危機が迫ったら、例え地球でも助けてあげる」
だったら地球に転移させてほしいな。
ということで俺とシャトルとシャトラとパムレは机にご飯を置いて食事を始めた。
「はむっ。姉様、これはとても美味しいです! こんな美味しい料理を王族が食べれないなんて、逆に兵達に恨みを覚えます!」
「あはは、まあこれくらい許してあげてよ。一応それ以上の豪華な料理を食べているんだしさ」
「うむむ、豪華な料理は確かに美味しいですが、温かみが無いんですよね。今度食堂に忍び込みたいです」
ゲイルド魔術国家で勉強を終えた後だし、それはいつになることやら。
「……シャムロエ……シャトルたちの大叔母様は時々食堂でカレー食べてるよ?」
「大叔母様を一度殴りたいと、今はっきりと思いました」
「やめなさい。あの人、怒るとマジで怖いから」
初めて会った時は凄い怖い印象だったけど、それ以外では冗談も言う人なんだよね。
「パムレってその大叔母様とはどんな関係なの?」
「……うーん、凄く難しい」
「あ、もしかして言えない内容? だったら言わなくても」
「……そうじゃない。シャムロエはパム……『マオ』と一緒に旅をした仲間」
マオと言い換えたパムレ。
「……暗い話でもないし、食事の会話として昔話をしてあげる」
そしてパムレは、過去の出来事を話し始めた。




