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絶望と僅かな希望


 ☆


「さて、私はそろそろ自分の大陸に帰って仕事をしますね」

 そう言って寒がり店主の休憩所の裏庭で陣を生成する。

「もしかして転移で自分の大陸へ?」

「いえいえ、さすがにその距離は無理なので、港町までですよ。そこから船旅です」

 そうか。長距離移動はできないのか。だから港町の店主さんに会ったって言ってたのか。

 と、そこで店主さんがミリアムさんに話しかけた。

「あ、でしたら『ミルダ大陸式転移術』で港町まで送りますよ」

「へ、いつの間に貴女はそんなのができたの?」

 ミリアムさんが頭に『?』を浮かべていると、店主さんはパムレに耳打ちした。

 まさか……。


「……おっけー、じゃ」

「へ、お腹を掴んで……なんかすごい魔力が……え、ええ、えええええええええええええ!?」


 まるでロケットである。

「あの、店主さん。良いの? お姉さんだよね?」

「カルマ様は分かっていませんね」

「何が?」


「姉の悲鳴はとても心地よいのですよ。そしてあんな目に遭遇した後はワタチに泣きつきます。一口で二度おいしいのです」

「悪魔かよ……悪魔だった」


 うん、店主さんってすっごい優しい人だと思ったけど、印象変わっちゃうよ。

「さて、日も暮れて夕方になったことですし、ワタチは食堂の準備を……」

 突然ピタリと止まった店主さん。

「店主さん?」

「あ、いえ、他のワタチがちょっと厄介なお客様に絡まれただけです。すみません、ぼーっとしてましたよね」

 記憶の共有をしているからこそ起こる事なのだろう。むしろ今まで普通に会話できていたことが凄い事なんだろうな。超マルチタスク的なやつ?

「シャトル様とシャトラ様はシャムロエ様についていって王族の公務をやらされていますし、今日は珍しくカルマ様だけですね」

 そっか。いつもシャトルがいたし、パムレも途中からずっといたから、一人って初めてかもな。


『ずっと黙っていただけで、一応ワタチもいることは忘れないで欲しいギャ』


「クーちゃん!? というか地球の店主さん!?」

 鞄からカプセルに入ったクーちゃん登場。ずっと持っているとそれが当たり前になってるから忘れちゃうよね。

「自分自身なのでカウントに含まれるかと言われると、ちょっとわからないですね」

『分裂はしているから、一個体ギャ。それよりも『さっきの違和感』は何だギャ?』

「違和感?」

 それって、店主さんがぼーっとしたことに関係しているのかな?

「空腹の小悪魔を通じているのに気が付くとは、そっちのワタチは凄いですね。正直さっき感じた違和感はわかりません。ミルダも気が付いたようですし、クアン様がすぐに分析していま……」


 また考え込んだ。


「え、大丈夫ですか?」

「はい、えっと、ちょっと待ってください。今、クアン様から話を……」

 記憶を共有している別の場所にいる店主さんとクアンが話をしているのだろう。


「っ!? すみませんカルマ様、今すぐに術式を使います!」

「え!?」


 店主さんは俺に向って何かを放とうとした。次の瞬間。


 ばああああああん!


「え……グールの首飾りが……とれた?」

「くっ! 遅かった……です」

 え、何で?

 確かこのつなぎ目を壊す方法は静寂の鈴ってアイテム以外方法は現状無いはずでは?

「地球のワタチ! 返事できますか!?」

 店主さんは俺の持っているクーちゃんに話しかけた。

『ギャ? オマエ、アルジニ、ニテル』

 え、クーちゃんになってる?

「どういうことですか?」

「クアン様から言われました。運命の魔力がどこかで暴発した。君のグールの首飾りに影響が出る前に何としてでも眠らせてくれとのことでした。ですが、眠らせる前にグールの首飾りのつなぎ目部分が壊れたので、失敗したと報告しました」

「つまり?」


「地球に帰れないです」


 ☆


 俺は部屋の中で一人、椅子に座って外を眺めていた。

 クーちゃんは机の上に置いた布の上で寝ていた。

『入って良いですか?』

 店主さんの声が聞こえ、俺は多分返事をしたと思う。が、声を出した記憶が無いほど、頭がぼーっとしていた。


「その、大丈夫ですか?」

「わかりません。えっと、まだ寝ていないのでわからないんです」

「クアン様の話では、つなぎ目を完全に修復しない限り、絶対に帰れないとの事でした。他の言い方は無いのかと言いましたが、ボカすよりは良いだろうとの事で」

 おそらく時間的には今は午前の二時くらいだろう。およそ二週間ぶりに寝た気がする。軽い夢っぽい何かを見て、起きたら風景は変わっていなかった。

 今の状況が悪い夢だと思いたかった。まさか、グールの首飾りが壊れるとは思っていなかった。

「不幸中の幸いなのが、あっちのワタチと会話をしている途中だったということです。おそらくマリー様も動いてくれていると思います」

「そうですよね。ニライカナイにも迎えに来てくれたし、マリー先生なら……」

 いや、マリー先生がこっちの世界に行き来できるならすでにしているはずだ。理由があって行けないと言っている以上、すぐには戻れないだろう。

「俺は帰れないんでしょうか……」

「きっと大丈夫です。つなぎ目さえ戻れば、きっと……」

 俺はグールの首飾りを持った。


 一応じっくりと見ると『グールの首飾り』という名前は頭に入って来る。ということは、これはまだグールの首飾りなのだろう。

「そうだ、店主さん。店主さんがボーっとし始めた瞬間、このグールの首飾りが壊れました。一体何があったんですか?」

「表現ができません。ただ、一瞬ですが全てのワタチとの繋がりが途切れた感じがしたんです。そして元に戻った瞬間、一気に風景が頭の中に入ってきたので、ちょっとめまいがしました」

 記憶の共有をしているドッペルゲンガーとの繋がりが途切れた。それは他では例えることができない感覚だろう。

「すみません。店主さんも忙しいのに、俺の相談に乗ってもらって」

「いえ、そもそもカルマ様はワタチの依頼を受けてもらっていますし、その首飾りはあっちのワタチが渡したのでしたら、これくらい協力しないとです」

 ニコッと笑う店主さん。何となく不安は残りつつ、少し安心はする。


「あまり良い情報では無いのですが、その小さな空腹の小悪魔とあっちのワタチが途切れたので、期待はしていませんでしたが、ミリアム姉様にもお願いをして地球に繋がるか確認してもらいました」

「結果は失敗でしたか」

「はい。ミリアム姉様からの伝言なのですが、以前は色々な抜け道をすり抜けて、僅かな時間だけ会話が出来たそうですが、今回は完全な遮断状態だそうです。可能な限り原因を探ってみるとのことでした」

 あの凄まじい魔力を持っている(らしい)ミリアムさんでも、地球に繋がるのは無理なのか。

「そこで、たった今、クアン様から一つ提案がされました」

 今って、夜中なんだけど、もしかして色々と調べてくれてたのかな?

 そういえばミリアムさんも伝言って言ってたから、もしかして今の今まで考えてくれてたのかな。


「何ですか?」

「グールの首飾りはワタチが預かります。カルマ様は北の魔術の国、ゲイルド魔術国家へ行くのはどうでしょうか?」

「ゲイルドって……確か静寂の鈴の巫女ミルダって人がいる場所でしたっけ?」

「はい。今まではその首飾りが壊れるという理由で行けませんでした。ですが、取れた今なら行く価値はあります」

「手がかりがあるんですか?」

「カルマ様は物をジッと見ればわかる能力を持っています。それでワタチの名前を当てることができました。でしたら、魔術研究所の書庫で、まだ解読ができていない書物などにヒントがあるかもと、クアン様が言ってます」

 可能性は……ないわけでは無いか。

「うん、少ない可能性だけど、そうしよう。現地までは馬車で行った方が良いかな、それともパムレにお願いした方が良いかな?」

 そう聞くと、店主さんは固まった。そして俺に質問をした。


「ぱむ……えっと、どなたですか?」


「え?」


 いやいや、今冗談を言うタイミングじゃないでしょ。

「三大魔術師のマオ。ほら、店主さんの同僚で、さっきミリアムさんを送った人!」

 その瞬間


「……ぷはあああああああ!」


 何も無い場所からパムレが出てきた。

「ほ、ほら! これ!」

「……これって……物扱いしないで……はあ、はあ、ただいま」

「え、すっごい疲れてるけど、大丈夫?」

 ここまで疲れているパムレは見たことが無い。いつも魔術を使っても涼しい顔をして終わってるのに。

「え、ワタチ、今マオ様を忘れてた?」

「……だろうね。ミリアムを送り届けた後、突然何かに飲み込まれた」

「何か?」

「……『無の魔力』。唯一の鍵は、狩真に早くパムレの名前を言ってもらって、他の人が思い出してもらう事だった。さんきゅう」

 そんな事態になってたの!?


「す、すみません。そんなことになってたなんて。えっと、まだ状況が整理できてないのですが」

「……大丈夫。それよりもさっきから話は聞いてた。狩真はとりあえずゲイルド魔術国家に行って、クアンと話すと良い。フーリエは今のマオの現象をクアンに説明すれば、多分道が開く」

「わかりました……はい、クアン様が『でかした狩真少年。クーの頭の中で落ちていたパズルのピースが見つかった気分だ。君がこっちに来るまでに資料を集めよう』って言ってます」

 店主さんテレフォンは便利だな。そしてクアンはいつ寝てるのかな。

「クアン様からまた伝言です。『現象と言うのは必ず原理が存在する。君が見つけた魔力お化けが消えていた現象と、それに関係する魔力はすでにクーの手の中だ。様々な謎が一気に解明している今、その中にはグールの首飾りを修復する方法もある。一つ断っておくと、修復だ。だからできたとしてもまた地球とミルダ大陸を行き来することになると言っておこう』だそうです。てか長いですね!」

 長い。


 だが、俺はその長い言葉に安心して、


 いつの間にか眠りについた。

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