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楽しい魔術教室


 ☆


 目をつむった瞬間移動している感覚も慣れてきた気がする。

 とりあえず天井の色でどこにいるのか咄嗟に判断できるようになったし、最初と比べて焦る事は無い。


 起きている間はゴルドさんからもらった銀の腕輪は外して、身支度をして食堂へ行くと、今日はいつもより賑やかだった。

「あ、カルマ様、おはようございます」

「店主さん、おはようございます。今日は人が多い?」

「はい。というのも、すっごく珍しくパムレ様がやる気を出して、今日限定で魔術師に指南するというイベントが発生したんです!」


「それは本当ですか!」


 廊下の奥から声が聞こえた。この声はシャトラだ。

「パムレ様が魔術指南を! これはシャトラも参加しなければ!」

 そう言えば全然魔術を教えてくれないって言ってたっけ。

「あ、シャトラ様。すみませんが、ギルド加盟者のみなんです。シャトラ様は未加入なので参加できません」

「がーん!」

 すっごい落ち込むシャトラ。

「ふああ、だからパムレが朝起きたら私の腕から消えてたのね」

 そう言って寝癖が爆破しているシャトルが廊下から出てきた。


「いや、一国の姫としてその髪はどうなの?」

「ん? へ、うわ! なにこれ! ちょっと直してくる!」


 あ、確認しないで出てきたんだ。


「それよりも店主様。それならシャトラをギルドに加入させてください! 姉様が入っているならシャトラも大丈夫ですよね!」

「ワタチの胃が血まみれになるので勘弁してください。訓練なら時間を見つけてワタチが相手をしますから」

「そ……それなら……」

 パムレと店主さん。どっちが強いかという質問に対してパムレは、ある属性を使えば勝てると言っていたけど、その対策もしている店主さんは同じくらいとも言っていた。だからこそ今の交渉は間違いではないだろう。

 というか、三大魔術師に指南してもらえるって凄いことなのでは?

 この世界の基準はまだパッとしかわからないけど。

「それよりどうしてパムレは急に指南を?」


「……答えは簡単。ミリアムに負けたから」


 おお、後ろにパムレが立っていた。背が低いからわからなかった。

「店主さんのお姉さんに? まあ、確かに凄い強い感じだったけど、実際に戦って無いよね?」

「……戦わずに勝敗がわかるほどあっちは凄かった。同時に、隣の大陸の魔術師レベルが高い可能性も捨てきれない。一応三大魔術師としての立場もあるからギルドの加盟者のみ魔術指南をすることにした」

 へえ、一応その立場ってただの凄い称号ってわけでは無いのか。

「俺も参加できるの?」

「……? いつも見てるから狩真は見なくて良くね?」

「いや、他の人の実力も見れると思って」

「おお、他の人を見て勉強するのは良い事です! ギルドの権力も少し使って、一般の方も見れるようにもしましょう!」


 ☆


 そして大広場にてイベントが始まった。

「『火球』!」

「……弱火。陣の作りが緩い」

「『爆炎』!」

「……それは『火球』。見た目をごまかしたらだめ」

「『雷撃』!」

「……周囲に兵が槍を持ってるから、使う時は気を付けて」


 すげー。一気に三人相手に戦っているよ。そして中には雑貨屋の店員さんとかも参加してるよ。

「はっはやへほ、ひふほひはんはひへふひはいへ(雑貨屋でもギルドに加盟しているみたいね)」

「焼き鳥食べながら話さないの。というか本当に姫?」

 シャトルって本当に姫っぽくないというか、まあだからこそ話しやすいんだけどね。


「へえはは、ほっひほほひふほほいいいへふ(姉様、こっちのお肉も美味しいです)」

「姉妹揃って行儀悪いだろ!」


 シャトルはまだ冒険者の荒波に揉まれてこうなったと説明がつくけど、シャトラは最近来たばかりだよね!?

「甘いですカルマ様。郷に入りては郷に従う。周りも焼き鳥を食べていますから、これはここでのマナーです!」

「そうかもしれないけど、一国の姫がそれをやってどうするの!?」

 突っ込むとさらに隣から声が聞こえた。


「はあいいははい。ははひはひひほふふほほ(まあ良いじゃない。たまには息を抜くのも)」


「「大叔母様!?」」


 おおおおあああ!?

 以前シャトラを連れて帰ろうとしたすげー怖い先代女王が焼き鳥食ってるよ!

「ど、どうして大叔母様が!?」

「んっく。ふう、どうしてって、一応私も王族だから視察とか挨拶で回ってるのよ。そしたらマオが面白い事をやってるから見ていたら、見覚えのある金髪二人がいたから、気配を消して隣で見てたのよ」

 やばいよこの人。初めましての時は凄く怖かったのに焼き鳥を食べてる姿はすげー普通の人だよ(変な仮面付けてるけど)

「あ、カルマ様ー」

 と、奥で店主さんが籠を持って歩いてきた。


「焼き鳥いかがですか? 今なら銅貨二枚です」

「犯人は店主さんだったんだね!」

「は、犯人?」


 どこで買ったのかと思ってたけど、まさか店主さんが売ってたとは。

「あ、シャムロエ様。どうですかワタチ特性焼き鳥は?」

「やっぱり『貴女』の料理は美味しいわね。でも久しぶりに子孫とのご飯が立食の焼き鳥になるとは思わなかったわ」

「まあまあ、この場に某三大なんちゃらが二人いるということで、場所的には結構立派だと思いますよ?」

 見世物にされているパムレ。そしていい感じに商売をしている店主さん。三大魔術師って意外と資金難なのかな。


「……ふう、今のは精度が良かった」

「ほんとうっすか! やった!」


 パムレが青年を褒めると、周囲は少し驚いていた。

「すげー、あのマオに褒められたぞ」

「将来有望だな」

「次世代三大魔術師か?」

 そんなに大げさな物なのかな。

「……さて、そろそろ」

 パムレが切り上げようとした瞬間、一人の少女が枠の中に入ってきた。

「すみません。私と手合わせしてもらっても?」

「……ミリアム」

 いつのまに!?

 俺は反射的に店主さんを見た。が、特に焦る姿も無く、枠の中に入って行った。

「ミリアム姉様。すみませんが、今回はギルド加盟者だけなので」

「知っています。なので交渉です。マオさん、私と手合わせをしてくれませんか? おそらくさっきの方で最後でしょう。なので、これはイベントではなく、遊びです」

「……ここでは駄目。こことミッドガルフ貿易国跡地の真ん中くらいの場所なら良い」

「ふふ、ありがとうございます」


 そう言ってミリアムさんは振り向いて帰って行った。

 仮面とつけているシャムロエ様はミリアムさんを見て目を細めていた。

「シャトル、今の人はこの国の人かしら?」

「い、いえ。店主さんのお姉さんで、隣の大陸の代理人って言ってました」

「そう。あれが噂のミリアムね。さて、この国の王との話はちょっと延期にしてもらって、マオの応援に回ろうかしら」

「え、大叔母様。それは相手方に失礼では?」

「多少失礼になっても良いレベルで、あれはやばいわね。フーリエの姉……という肩書が無ければ、このミルダ大陸は一瞬で制圧できる力。私も久々に動けなかったわ」

 シャムロエ様の力がどれほどの物かは俺にはわからないけど、パムレが恐れるレベルと言うのは知っている。

 王との話し合いを延期するほど、これから行われる手合わせは重要な物なのだろう。

 俺はただ、見る事しかできないのだろう。


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