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簡単な報告会


 ☆


 夢の中でかなり大変な思いをしたと言っても肉体的疲労はやはり無いらしい。感覚的にはあっちの世界で冒険をした夢をがっつり見たという感じで、眠気等はしっかり取れていた。

 唯一不満点があるとすれば、鎧を着こんで寝たから寝返りがうてなかったため、首が痛い。完全に寝違えている状態だ。

「次からは鎧を外して寝よう」

 そう考えると昔のゲームは鎧を着たまま布団に寝るシーンとかもあったみたいだし、昔のゲームの勇者は屈強なんだなと思った。いやまあ、グラフィックの問題とか容量の問題とかで仕方がないのだろうけどね。

 しかし夢の中が充実していたからかお腹が妙に空いている。朝ごはんを抜くつもりだったが、目玉焼きくらいは作って食パンと一緒に食べるか。

 フライパンの上に卵をのっけて熱すると白く色が変わった。それを良い感じの半熟になるまで待つ。

『目玉焼き』

 うん。目玉焼きがどうやら完成したらしい。

 それを救い上げて軽くオーブンで熱した食パンの上に乗せる。簡単な朝食だがこれでも十分である。

 徐々に朝の眠気が覚めてきて、頭がスッキリし始めた。


「なんで目玉焼きって文字が出てきた!?」


 自然な流れでスルーしてたけど、よくよく考えれば変な話だ。

 もう一度目玉焼きをじっくり見る。

『目玉焼き(食べかけ)と食パン』

 がっつりと頭の中に何かふわりと送り込まれてくる。文字というか言葉と言うか、とても表現できない何かで俺に情報が伝わってきた。

 周囲の物を見てみると、きちんとその情報が入り込んできた。

『テレビ』『レンジ』『机』

 それら全てがしっかり俺の頭に入り込んでいる。

「薬草や毒消し草を見つけた時の能力が現実でも使える? という事はこっちは夢?」

 訳が分からなくなってきた。

 いや、そもそも鎧や剣を持ってきた時点でどちらが夢という考えはやめた方が良いかもしれない。寝る時に俺は転移する。そう考えた方が現実的である。いや、転移は現実的ではないけど、今はそんなことを言っている暇は無いだろう。

 色々と頭の中がゴチャゴチャしている中、スマホが鳴り出した。

『木戸氏をグループチャットに入れたでござる!』

『初めまして。お兄ちゃんがお世話になります』

『はぶし!? い、妹様でござるか?』

『はい。兄のスマートフォンはセレンが管理しているので、変なメッセージが無いか逐一管理させてい』

 何故か途中でメッセージが途切れている文章が来た。

 多分木戸が途中でスマホに気が付いたのだろう。

『悪い。妹が勝手にスマホを触っていた。その、よろしくな』

『拙者、悔いは無いでござる。うう、朝から生きる希望を得たでござるよ』

『えっと、よろしくね。木戸』

 と、音葉がメッセージを送った瞬間、チャット内だが空気が凍った気がした。


『お兄ちゃん。この音葉という方は女性ですよね? どういうご関係ですか?』


 あの、グループチャットで話さないでくれる?

 と言うか一つのスマホでどうやって話してるのかな。もしかして別端末でも監視されてるの?

 昨日の尾竹先輩の気持ちが分かったよ。

『木戸とは部活仲間でそれ以外関係は無いよ。セレンちゃんって言うんだ。可愛い名前だね!』

『そ、そうですか? えっと、失礼しました』

『狩真から写真を見せてもらったけど凄く可愛いかった! 今度遊びたいな!』

『本当ですか!? 是非! あのあの、音葉お姉さまって呼んでも良いですか?』

『良いよセレンちゃん』


 と、そんなやり取りとは別に尾竹先輩から個人チャットが送られてきた。

『美少女姉妹のやり取りが尊いでござる』

 姉妹じゃないよ。

 と言うか音葉も良い感じに丸め込んだな。これはもしかして木戸の妹を鎮めるカギになるんじゃないか?

『そうそう。木戸氏に与える記念品が決まったでござる。明日の部活動で楽しみにしているでござるよ』

『お、俺も何か力を得る系のやつかな』

『期待には添えないと思うでござるが、そこそこ価値のある物でござる。楽しみに待たれよ!』

 そのチャットを見て俺はスマホを鞄に入れて学校へ向かった。


 ☆


 一限目の授業の教室へ向かうと音葉が手を振って待っていた。

「狩真ー。こっちー」

 すげー目立つ。親しい人は木戸だけだったが、高校で同じクラスメイトだった人は数名いる。俺と音葉を交互に見て『何故』という表情から色々と察せるが、残念なことに部活仲間というだけである。

「というか一番前か」

「意識高い系大学生よ。高校では成績一番だったし大学でもそれなりに成績上位を目指すつもり!」

「それは心強い。色々と教えて貰おうかな」

「えー。一文字リンゴジュースね」

 ふむ。数学の途中経過も記載せよ系の問題が出たらリンゴジュースのピラミッドができてしまうな。

「それよりも夢は見たの?」

「ああ。朝起きたら鎧を着てた」

「鎧!?」

「あと腰に剣をぶら下げてた」

「剣!?」

 立ち上がる音葉。そして周りにペコペコ頭を下げて顔を真っ赤にして座る。

「俺は悪く無いぞ」

「むむ。興味をそそる話題を出してそれは酷いよ。と言うか夢の話だよね?」

「説明が難しいんだけど、夢の中で鎧と剣を装備して寝て、現実で目覚めたらその装備を身に着けたまま目覚めたんだ」

 あまりにも滑稽すぎる話で、口に出した時間が長ければ長いほど頭がおかしくなりそうな説明である。

「え、じゃあ今狩真の家に剣と鎧があるの?」

「うん」

 そう言って俺が鎧を着て剣を構えている写真を見せた。


「どこのコスプレイヤー?」

「間違った。こっち」


 うっかり朝のギリギリ頭が回ってない時の写真を見せてしまった。と言うか寝ぼけている俺は無意識で自撮り写真を取るのか。陰キャの自撮りほど痛々しい物は無いな。

 次の画像に移動し、剣と鎧だけの写真を見せて、それをじっくりと眺める音葉。

「見たことが無い模様。日本の物では無いし、海外の物でも無い。何よりつなぎ目も無いし、どうやって作ってるんだろう」

 色々な角度から写真を撮ったから写真をスライドさせて色々な角度からの写真を次々見る音葉。やっぱり博物館の関係者なだけあって、色々な知識と照らし合わせているのだろう。

 俺が見ても「よくわからない模様」と答えるが、知識がある人と知識が無い人の感想は大きく異なる。模様一つにしろ、音葉がわからないと言う事は、廃れた文明か未知の文明の可能性が浮上してくる。


「このトーストと目玉焼きの写真も夢に関係あるの?」

「それは大学生っぽいかなーと思って撮ったやつだから。というか恥ずかしいから剣と鎧の写真だけ見てね」

「はーい」


 今後スマホを誰かに貸す時は気を付けよう。うっかりゲームのスクリーンショットとか見られたら恥ずかしいもんね。

「あ、可愛い女の子。えすえすあーる?」

 ほらね。

「とりあえずスマホは返してもらうね」

「えー、あ、じゃあ後で個人チャットに送ってよ。グループチャットで連絡先飛べるからさ」

 お、俺が女の子に個人チャット?

 あ、いや、木戸妹と連絡を取っているから今更だ。うん。今更。

「わかった。忘れないうちに送るよ」

 まとめて送信。別に写真の容量は少ないし、気にするほどでも無いだろう。


「自撮り来たけど?」

「それは削除してくださいお願いします」


 写真の容量よりも内容を気にするべきだった。


 ☆


 本格的な授業が始まり、他の学科では今日から実験等を行っている授業もあるらしい。

 俺たちの環境工学課の今日の時間割は座学がメインで、朝には無かった眠気が不思議と先生の声という魔法によって俺を惑わしてくる。

 唯一今までと違うのは、隣に可愛い女性が座っているからか、これと言って何か理由があるわけでも無いが、強いて言えば、本当に強いて言えば、格好悪い姿を見せたら何か駄目な気がするという意識から、頑張って座学を聞いていた。

 そして待ちに待った昼休み。

 少し照れながらも俺は音葉と一緒に食堂へ行き、事前に連絡を入れていた木戸と合流することになった。

「おう狩真。こっちだ」

 手を振る木戸。その後ろには何故か殺気を漂わせている女性達。

「悪いな。本当はお前たち二人だけの方が良いんだろうけどさ、狩真以外に僕の弁当を見せるわけにもいかないんだよな」

 木戸は一人で昼食をすれば、おそらく周囲の女性達が囲って来る。色恋とは無縁の俺にとっては別次元の話だが、木戸の場合は事情が事情だ。まあ、俺も音葉と二人きりだときっと会話が続かない。

「気にしなくて良いよ。と言うか相変わらず凄い人気だな」

「見たところ四年生の先輩もいるよ? 木戸ってモテるのね」

「はは。ありがたい事だけど、これでも悩んでるんだぜ?」

 木戸はハーフ。妹のセレンは母親の遺伝子をばっちりと引き継いで、ハーフには見えない容姿。一方で木戸は両親の血をバランス良く引継ぎ、美青年が誕生。そしてスポーツも堪能と来たら狙う人も多い。

「所詮僕は顔とサッカーだけの男だ。彼女にするなら中身を見てくれる人が良いな」


「陽キャ特有の悩みとはこのことでござるな」


 突然尾竹先輩が現れた。いや、本当にどこにでも登場するね。

「尾竹先輩こんにちは」

「うむ。音葉氏は今日も美しく、そして狩真氏は普通でござる。そして木戸氏は拙者には到底理解できない悩みで苦しんでる様子。羨ましくもあり、同時に同情するでござるよ」

 そう言って流れるように俺の隣に座る。え、四人だし木戸の隣で良いじゃん。と言うか何も考えていなかったけど音葉は俺の隣に座ってたんだ。

「容姿は良い。スポーツも万能。ちょっとワルな感じがまた女性の人気を上昇させる木戸は、学校中の女性を虜にでもするのでござるか?」

「しねーっすよ。と言うか尾竹先輩は僕の事嫌いですよね?」

「当り前でござろう。金髪の可愛い美少女が妹が居る時点で敵でござる。が、同時に拙者と似た部分があるでござるな。木戸氏はまともな相談相手が居ない、もしくは狩真氏しか相談相手はいないでござろう」

 その言葉に木戸は驚いていた。

「どうしてそれを?」

「超絶イケメンと超絶不細工というのは紙一重でござる。どちらも誰かに悩みを打ち明けたところで、参考にならない同調の回答か、無収穫な回答拒否。どちらも孤立しているのでござるよ」

 尾竹先輩は売店で購入したハンバーガーの紙を丁寧に開き、それを食べた。口も大きいため一瞬でそれは無くなった。

 尾竹先輩の言葉に木戸は少しぼーっとた。そして話始めた。

「僕は尾竹先輩の事、嫌いじゃ無いですよ?」

「ほう。では拙者と握手できるでござるか?」

 そう言って尾竹先輩は右手を出した。

「それくらい普通だろう」

 そして流れるように木戸は尾竹先輩の手を握った。尾竹先輩は想定外だったのか、少し驚いている様子だった。

 やがて手を離すと、尾竹先輩は微笑んだ。

「いやはや、これは想定外。木戸氏を入部させた理由は美しい妹様の御神体を見せていただいたから故だったが、拙者の考えを改める必要がありそうだ。明日の部活でお渡しする記念品について、本来渡す予定だったものではなく、別の物にした方が良いだろう」

 そう言って尾竹先輩は丸まったポスターが入ったカバンを手に取り、立ち上がった。

「木戸氏、一つ質問でござる。『陽キャ』と呼ばれるのは嫌か?」

 その質問に木戸はすぐに答えた。

「慣れた」

「そうで……ござるか。では拙者は用事がある故、御免」

 尾竹先輩は速足でその場を去った。同時に予鈴も鳴った。

「はあ、午後も頑張るか」

「狩真、座学嫌い?」

「い、いや、椅子に座り続けるのが嫌だなって思っただけ!」

 何とか誤魔化しつつも教室へ向かう。なんとなく気が重たい昼食になってしまった。

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