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ヒルメ


 ☆


 再度ニリヤとカナイの家に戻った俺たちは、音葉を布団に寝かせてヒルメと名乗る神とお話することになった。

『魔力の消費削減のためにこの姿ですみませんギャ』

 クーちゃんは元の姿に戻っていた。


「良いのじゃよ。それよりも久しいのフーリエ。元気じゃったか?」

「あ、えっと、この店主さん……フーリエさんは複数固体いるので、違うフーリエさんかもしれません」

『いえ、このワタチとヒルメ様は知り合いです。と言っても、狩真様の言う通り、あっちのワタチの方が会っている回数は多いと思いますけどねギャ』

 へー。補足説明不要だったか。

「ちなみにヒルメ……様でしたっけ。もしかして本当にあのレイジを倒しに?」

「うむ、それはおまけじゃな。実はこの世界は神の住む世界でも人間の住む世界でも無い、とても説明しがたい世界なのじゃよ。故に、一度お主たちと話そうと思って機会をうかがっていたのじゃが、ちょうどニライカナイと縁のある道具の近くにいたから、儂から呼んだのじゃよ」

 あ、じゃあこの人に呼ばれて俺たちはこの世界に来たんだ。

「じゃあすぐに来てくれても良かったのでは?」

「それが、ちょっと事情があってのう」

「まさかレイジが関係してすぐに来れなかったとか?」

 ヒルメ様は真剣な表情で


「小指を

「小指ぶつけたとか言いませんよね。なんか最近そう言う溜めた後にくだらない理由を言う人多いので」


 ……。


「レイジが入ってきたから、すぐに入れなかったのじゃよ」


 この神、責任転嫁したぞ!

 絶対小指ぶつけた系だよ!

「さて、儂がお主に会った理由は一つ。その首飾りについてじゃよ」

「グールの首飾り?」

「そうじゃ。それは破滅の時代と呼ばれた千年前の『人間の科学では』解明できない現象により生まれてしまった遺物。さまざまな偶然が重なって誕生した物なのじゃよ」


 西暦二千年代、とくに後半は本当の意味で何も文献に残っていない。人類は三千年代から誕生したとまで言われているが、色々な科学者によって今が何年かを突き止めたらしい。

 詳しい話はわからないけど、学校でも簡単にしか習わない。一説によると、知るには禁忌に触れるとか。

「じゃあヒルメ様はこのグールの首飾りを壊すことができるんですか?」

「外すことはできる」

 真剣な表情。これは、本気でできる目だ。


「ちなみに首をスパッと斬る系はもう出た案なのでそれ以外でお願いします」


「……手詰まりじゃな」


 神様!?

「冗談じゃよ。いや、お主にとっては笑いごとでは無いじゃろうな。というのも、首スパ系じゃなくても儂の力で呪いを解くことはできる」

「おお!」

 というか首スパ系って、神様がそんな単語使うの?

「じゃが、問題はあっちの世界で眠る肉体がそのまま残るという事になる」

 え、呪いを解けば消えるんじゃないの?

「お主は今、意識的には行き来、もしくは転移している状態に思えているだろう。実際持ち物も最小限持って行ける状態じゃ。じゃが、事はもう少し複雑で、人の言葉で説明するなら双方に魂の器が生成された状態なのじゃよ」

「魂の器が生成された状態?」

「グールの首飾りを壊せば確かに行き来することは止めれる。が、半透明となった器は残った状態じゃよ」

「じゃ、じゃあ、えっと、ミルダ大陸でグールの首飾りを壊してもらって、なんやかんやで神パワーを使って地球に転移するのは?」

「残念じゃが、あっちの神であるカンパネが手放さぬじゃろうな」

 カンパネ。確か一度だけ会ったことがあるネクロノミコンを所持していた白髪の人だよな。


「よほどの理由が無い限り、他の世界を行き来するのは禁じておる。おそらくお主の近くにいる紫髪の娘も何かしらの方法であっちに行こうにも行けない状態じゃろう。そして破滅の時代以前にこっちに来た者に関しては黙認しておる。その悪魔っ子が良い例じゃな」

『ギャ』

 そうなんだ。実はしっかりと神様に監視されてたんだ。

「じゃあ店主さんが変な道具をオカルト探求部に売っていたのは」

「知っておる。レイジとやらが何かをすると思った時には、すでに動いておったな。結果的にお主には苦労をかけたが、最善手でもあった」

「グールの首飾りが俺の所に来るのも」

「うむ、尾竹とかいう人間が運命の切札を使っているのを見たからのう。知っておった」


「じゃあ将来的にこの首飾りが取れるということは想定しているんですよね?」

「そこまでは想定外じゃー。いやー、魂の器が生成されるとか厄介すぎじゃろ。てっきりちょっと悪趣味なデザインをしてて、夢と現実がフワッとする程度のオカルトアイテムじゃと思ったのじゃが、呪いで取れない上に色々と二重三重と厄介な呪いが入ってるとは」


 おおおおおおおおおおおおい!


「ま、まあまあ、落ち着くのじゃよ。お主がレイジとやらに倒されず、その首飾りの力を活用してある少年を救い出せば、全て丸く収まる」

「ある少年……」

 それって店主さんの息子さん?

「どうして店主さんの息子さんが関係してくるんですか?」

「それは……ふむ、言えぬな。というのも、これに関しては全面的に儂ら神々が悪い。神の恥たる行為を神自ら言うのはできぬ。儂だけでは無い。鉱石の神や運命の神等が関わっており、全てがその少年に託し、そして解決した。代償として少年は存在が消えた。もしも真実を聞くなら、その少年に聞いてくれ。これに関しては儂からは言えないのじゃよ」


 苦笑するヒルメ様。何か大失敗を犯したのだろうか。

「わかりました。では、そのリエンさんを見つけ出したら、この首飾りを外すことはできるんですか?」

「すぐでは無いぞ? ただ、外すための準備は整う。そうじゃな、もし少年を助けることができたら、儂も最大限の協力をしよう」

「ちょ、ヒルメ様!?」

 ニリヤとカナイが立ち上がった。

「良いのじゃ。そもそもこやつは日本の子じゃよ。じゃから、多少贔屓しても問題はない」

「そう……ですか」

 そう言って二人は座った。


「ふああ、ん、あれ、ウチ、寝てた?」

 ちょうど話が終わったタイミングくらいで音葉が目を覚ました。

「え、知らない人。もしかしてお出迎えの方?」

「えっと、一応神様で名前はヒルメ様だってさ」

「ひる……え、ホンモノ?」

「うむ、そうじゃが?」

 音葉が俺の背中にそそっと寄って来た。

(えっと、夢よね? ヒルメって……ざっくり言うと天照大神の別名よ?)

(え!? あ、いや、でも自分で神って言ってたし、さっきめっちゃビーム出してたし)


「おーい、儂の出す術をビームと言うな。安っぽくなるではないか!」


 あ、耳も良いんだね。

「し、失礼しました。それで、ウチ達は帰れるのでしょうか?」

「うむ、と言うより呼んだのは儂だからのう。まあ、儂が来るまでもなかったがのう」

 その瞬間扉が開いた。


「はあ、やっと着いたわ。ニライカナイの座標は毎回変わるから厄介なのよ。って、何でヒルメもいるのよ」


 マリー先生!

「ちょ、マリー先生。天照ですよ! 神様ですよ!」

「知ってるわよ。ワタクシをこき使って結構苦労させた神様よ」

 いやだからマリー先生一体何者だよ!

「久しいのう、紫の娘っ子よ。大学の教授として立派に過ごして居るようじゃが、就職祝いは届いたかのう?」

「やっぱりあんただったのね。毎回お中元とか暑中見舞いに立派な日本酒が届くから、全部フーリエに渡してたわよ」

『え”、全部料理酒として使ってましたが、あれってヒルメ様からのお酒だったんですかギャ!?』

「なぬ!? お主、儂からの贈り物を料理酒にしておったのか!?」

「送るならせめて郵送とかにしなさいよ。宛名で分かるから!」

「書けるか! そもそも電話番号持っておらぬから、自宅前に置くしかできぬわ!」

「だったら手紙でも添えるなりで良いじゃない!」


 いやいや、そもそも神様が玄関にお中元置くほどの間柄ってどういう関係だよ。


「うむ、じゃがこの悪魔っ子の料理は美味と聞くからのう、美味しく調理しているのなら良しとしよう」

「あ、だ、だったらヒルメ様も店主さんの家に行って食べてみたら良いのでは?」

 音葉の提案に店主さん(が動かしているクーちゃん)が音葉の顔の近くに飛んで来た。

『勘弁してほしいギャ! こんな歩く蛍光灯がワタチの前に来たら、秒で溶けるギャ!』

 悪魔……蛍光灯……光?

 そういえばかなり前にパムレが『ある属性を使えばフーリエに対抗できる』って言ってたけど、もしかして光属性的なやつなのかな?

「じゃあ今度ウチがヒルメ様の家に持ってくるので、それでいいですか?」

「う、うむ? まあ、それなら食べれるかのう。という訳で、悪魔っ子。美味しいご飯を頼むぞ」

『ぬおおおお! 何故ワタチが悪魔の天敵にご飯を……ですがこれは一矢報いる好機か……ギャ』

 何と葛藤しているのかわからない。

「とりあえずマリー先生が来たと言う事は帰れるんですよね?」

「そうよ。陣を作ったから、それで帰るわよ」

 念のためマリー先生をジッと見て見たら、今度はしっかりと『マリー』という文字が頭に入ってきた。

「はい。えっと、ニリヤとカナイも、お茶、ありがとう」

「もう来るなよ」

「気を付けろよ」

 そして助けてくれたヒルメ様にも挨拶をする。

「今日はありがとうございました」

「うぬ、呼んだのわ儂じゃ。助けたのはついでじゃよ」

「助けた?」

「ああ、後で話すよ」

 そして頭を上げてヒルメ様を見た。


『天照大神』


「うむ……お主」

「は、はい!」

 あ、もしかして今の能力を見るのは失礼だったかな。

「儂は今の能力を知らぬ。原初の魔力でも無く、その後に生まれた後発魔力でもない。しかも神の名も読み取ったじゃろう。神として一つ助言をするなら、名が無い神には気を付けることじゃ」

「は、はい。すみません、ジッと見てしまって」

「良い。身を守ることは悪い事とは言わぬからな」

 軽く頭を下げて俺は家を出た。


「ちなみにマリー先生」

「何よ?」

「俺たちはショーケースの中にある鏡に吸い込まれたんですが、戻る時はどうなるんですか?」


「それを先に言いなさいよ!」


 ☆


 まるでワープゾーンを通っている感じの風景から徐々に博物館の風景が目に入ってきた。

 視界がはっきりした瞬間、少し離れた場所のおよそ一メートルくらいの高さの位置で、俺の中で『転移した』という感覚が生まれ、その感覚と同時に地面に体が落ちていく感覚が感じ取れた。

 日ごろから魔術の訓練とか魔物退治をしているおかげで、上手く着地ができた。


「わあああ!」


 ぐっと後ろから首を腕で締められる感覚が襲って来た。

「ん! ん!」

「あ、ああ! ごめん、大丈夫!?」

 どうやら同じ高さから音葉も落ちてきたのだろう。もしかして俺の首に捕まってなかったら落ちてたんじゃない?

 パッと音葉が離れた瞬間、スマートフォンが鳴り、通話しても大丈夫なエリアに移動して出たらマリー先生だった。


『無事に転移できたようね。というかそういう情報早く言いなさい。ワタクシじゃ無かったら二人はショーケースの中よ』

「そういう仕様だったんですね。すみません、特に考えていませんでした」

『それよりもワタクシは二人しか位置調整していないから、早くもう一人……いや、もう一匹を助けてあげなさい』

 もう一匹?

「狩真! 早く!」

 音葉に呼ばれた。俺はスマートフォンを切り、向かうと


『ギャー、トジコメラレテルー、タスケテー』


 クーちゃんがショーケースの中で大泣きしていた。


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