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博物館


「お久しぶりですね。マリーさん」

「そうね。元気……だったかしら?」

 マリー先生はすぐに立てる体制に入っている。え、もしかしてこれって凄くヤバイ状態?

「本当にミリアム姉様ですか? 嘘では無いですか?」

「はい。こっちの別れてしまったフーリエとは久しぶりですね」

 店主さんは目を真っ赤にして涙を流していた。


「さてマリーさん。ようやく見つけました。覚悟はできていますね?」

「ちょっと待ってくれないかしら? このお漬物がまだ残っているのよ」

 ただならぬ状況。もしかしてマリー先生はこの場で殺される!?

「ミリアムさん! ちょっと待って!」

「へ?」

「マリー先生は今、俺の首飾りを壊すのに、重要な人なんです! まだ殺さないでください!」

「ころ……え?」

「ミリアムさんが強いのは分かりました。でも、力で圧力をかけるのはどうかと!」


「ちょ、ちょっと待ってください。別に殺し……というか、何か勘違いしてません?」


 え?

 完全に殺意むき出しだったじゃん。

「マリーさんには『普通に説教』をするつもりだったんです。魔術研究所の館長の責務を私の愛する可愛い妹のフーリエに押し付けて、自分はどこかに旅に出た。これはもう説教ですね」


「あ、じゃあ気が済むまでどうぞ」


「待ちなさい狩真。あんたどっちの味方よ!」


 そりゃ、正義の味方です。

「ミリアム姉様、こんな『腐れなんちゃって大学教授』よりも、ワタチとお話をしませんか?」

「あの、フーリエ? 一応ワタクシ、頑張ってるのよ?」

 言った手前、だんだんマリー先生が可哀そうに見えてきた。と言うか授業で凄く指名されないか不安になってきた。


「そうしたいのは山々ですが、実はこれは実験も兼ねた状態です。地球に転移できるかどうか試しましたが、どうやらカルマさんのように完全な状態での転移は無理そうですね」

 そう言って右手を前に突き出すと、半透明になっていた。

「私の魔力を持ってしてもなお、神の作った壁は簡単に超えられない。となると、カルマさんの首飾りはそれを超える遺物。あっちのフーリエから少し話は聞きましたが、これは思った以上にすごい宝かもしれませんね」

 そう言ってミリアムさんは店主さんを見た。

「レイジに渡すくらいなら、運命の導きに従って、渡すべき人物に預かってもらう。そんなところかしら?」

「その答えは言えません。相手が大好きなミリアム姉様でも、あっちのワタチとこっちのワタチは違います。黒幕がわかるまで、例え身内でも全ては言えません」

「それが良いですね。ちなみに私もレイジは探しています。彼の持つ謎の魔力は危険ですからね」

 そしてミリアムさんは全体が半透明になってきた。

『あ、そろそろ時間でしたか。カルマさん、時々遊びに来るので、その時はよろしくお願いしますね』

「はい」


『マリーさんは、説教の日を待っててください』

「嫌よ、そんな日」


 そんな冗談のような会話をしつつ、ミリアムさんは店主さんを見た。

『これで、分裂したフーリエは最後かしら? 私からすればいつも会っているフーリエだけど、貴女にとっては久しぶりの再会なのに、またしばらくお別れね』

「いえ、今日会えただけで十分です。それと分裂したワタチはミルダ大陸とワタチ……それと冥界にもう一人います」

『なんだ……てっきり悪魔術に関しては負けないと思ってたけど、すでに超えられちゃってたか』

 そしてミリアムさんはすっと消えていった。


「ふう、まさかミリアムがこっちに顔を出すとは思わなかったわ。しかも自発的に転移を使って来るって、どんな化け物よ」

「いや、俺からすれば周囲の人全員化け物ですよ。部活メンバーだけが唯一の心の拠り所ですよ」

 溜息をついて店主さんを見てみると、その場で目を閉じてゆっくりと呼吸をしていた。

「えっと、大丈夫ですか?」

「はい。ただ、久しぶりで緊張しただけです。あっちのワタチはいつも会っていると聞いて、やはり恨めしくも思いますが、同時にこの運命を選んだのもワタチ自身です。後悔はしていませんよ」

 そう言って食べ終わった食器類を方付け始めた。俺も手伝って一緒に洗い物をして、リビングで休憩。


「あの、いつまでいるんです?」

「そうですよね! 朝食ごちそうさまでした!」


 ☆


 とりあえずやることも無くなったし、暇だから町に出ることにした。

『ギャギャ、カルマ。ツレテケ』

「お、クーちゃんも行くか。あまり声出さないでね」

『ギャ』

 鞄の中に入れて外に出て、バスに乗って駅前に行くと、人でにぎわっていた。流石休日の駅前。

「兄さん、試食はどうすか?」

 最近はスーパーじゃなくても試食を進める店もあるのか。それを一本貰って、半分食べて、もう半分を鞄の中にいるクーちゃんに食べさせた。

(ニク!)

 空気を読んでくれたのか、小声で言ってくれた。最近クーちゃん賢くなってない?

「そうだな、例えば図書館とか行けば面白い物が見つかるかな?」

 ふと独り言を言うと、鞄から声が聞こえた。


(音葉様の博物館に行けば良くね?ですギャ)


「あの……店主さん?」

(店にお客さんがいる時は忙しいのですが、場所が場所なので暇なんですよギャ。と言うか鞄に入れるならせめて外が見えるように置いてくださいギャ。暗くて何も見えないギャ)

 すげー我儘言ってくるじゃん。

「でも博物館は部活のメンバー全員で行きたいですし、俺だけ先行していくのはちょっと」

(まあ、その辺は任せるギャ。『全員で一緒』と『もしかしたら同級生に案内してもらって二人だけで色々とお話ができる時間』のどっちを選ぶかは、狩真様の勝手ですギャ)


 ☆


「いらっしゃいま……あれ? 狩真?」

「や、やあ」

 まんまと店主さんの助言を聞き入れてしまった。

「あれ、今日って部活の日じゃ無いよね?」

「うん。いや、昨日はあんなこともあったし、大丈夫だったかなって思って」

「あ、うん。わざわざありがとう。まだちょっと怖いって思うけど……うん、大丈夫」

 苦笑する音葉。

 レイジに襲われ、初めて魔術という凶器を突き付けられたあの出来事は、この地球に住む人にとっては脅威でしかないだろう。


「おや、君は昨日の」


 と、音葉のお父さんが出てきた。

「初めまして、音葉の父だ」

「は、初めまして」

 レイジに化けた音葉のお父さんも似た挨拶をしてきたから、正直初めましてな感じがしない。

「改めてお礼を言わせてくれ。音葉を酔っぱらいから守ってくれたそうだな。父としてお礼を言わせてもらいたい」

「いえ、大したことはしていません。友人として当然の事です」

「そうか。君のような友人が近くにいると知って安心したよ。今日は音葉に会いに来たのかな?」

「昨日あんな事があったので大丈夫だったかなという心配もありましたが、博物館の見学が本命でして……」

 変な誤解をされるのは避けたい。事実をしっかり言わないとな。

 ん?

 音葉さんは何故か睨んできてるけど、何で?

「そうか。ならば音葉、狩真君を案内してあげなさい。ここは私が受け持つよ」

「ええ!? 父さ……館長が受付を!?」

「館長もここで働く者の一人だ。変なことでは無い」

「そ、そういうなら。じゃあ狩真、案内するね!」

 そう言って音葉は受付から出て来て、俺を案内し始めた。


 ☆


「優しいお父さんだね」

「うん。あ、でも最近ちょっと怒られたんだよ?」

 え、あの優しそうなお父さんが?


「食事中に狩真の話をしたら、男の話をするんじゃないって」

「それは完全に音葉が悪いね。そしてさっきまで凄い笑顔だったけど、実は笑ってなかったんじゃないかな!」


 聞きたくなった。そうだよね。一人娘だもんね!

 やっぱり俺の発言は間違いではなかった!

 えらいぞ俺!

「で、でも、実家の博物館とは言え二人でお出かけってちょっと照れるね」

 少しもじもじする音葉。


 俺はそっと鞄からカプセルに入ったクーちゃんを出した。


『あの……狩真様? これ、ワタチは絶対悪くないですよ? なんなら空気を読んで何も言葉を発さないまで考えてましたギャ?』

「俺、隠し事は苦手なんです……」

「うん、クーちゃん常備は身の安全のためだもんね。シッテタシッテタ」


 何故音葉ががっかりしているかはわからないけど、とりあえず店主さんの陰口とか突然言って、俺のご飯が闇鍋になる方が困るからとりあえず正直に話しただけだ。他意はない。

「本当は部活メンバーと一緒に来たかったんだけど、それはまた今度かな。とりあえずミルダ大陸に関係しそうな資料があれば良いのだけど……」

 そう言って歩いて行くと、何やら色とりどりの飾りがついているコーナーにたどり着いた。

 これは……『琉球フェア』?

「今ちょうど沖縄関連の展示物があるんだ。ミルダ大陸とは関係無いかもしれないけど、これはこれで楽しいんだよ?」

「普段触れられない物ばかりだし、見てみようかな」


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