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神に近づいた少女


 ☆


「……そういえばミリアムが来ていることはフーリエは知ってるの?」

 パムレが話題を出してくれた。

「はい。この土地に来る途中の港町で会いました。と言っても私の家の近くにもあの子はいるので、特に久しぶりというわけでは無いですけどね」

 本当に店主さんはどこにでもいるな。

「ミリアムさんは店主さんみたいに分身とかしないんですか?」

「あー、あはは。おそらくしないですね。あれはフーリエにしかできない技でしょう」

「そうなんですか?」

「はい。記憶の共有。しかもこのミルダ大陸ではすでに十以上のフーリエが存在します。見る景色も全員異なる中で全て異なる行動をしないといけない。それに加えてあの子はギルドの受付や店主をやっている。はっきり言って……いえ、実の妹にこれを言うのは姉として駄目ですね」

 俺、もしかして聞いちゃいけない事を聞いたかな。


「あの、すみません。俺はその、地球から来た人間でして、魔術とかそれほど詳しくは無いんで」

「え、ではクアンさんと同じ場所出身ということですか?」

「クアンを知っているのですか?」

「はい。クアンは元々私の下で働いて、今はフーリエの下で働いています。私の大陸とミルダ大陸の関係を築いたのは彼女と言っても過言ではありませんね」

 クアンってそんなに凄い人だったんだ。ただ話の長い人だと思ってた。

「というかこの世界ってミルダ大陸だけじゃ無いんだね」

 そうシャトルに質問をすると、視線がシャトラに向いていた。あ、こいつ知らないな。


「こほん。『姉に変わって』シャトラが説明します。ミルダ大陸はカンパネ様という神が作り出したと言われています。一方で隣の大陸は運命神フォルトナ様が作ったとされる大陸で、名前は無く、国だけが存在します」

「しっかり勉強されていますね。シャトルさんも王族としてこれから勉強しないとですね」

「代理人様に言われると、心が痛いわ」

 ミリアムさんって日本で言う所の皇族みたいな人だよね。そんな人に柔らかく指摘されたら、そりゃ何言われても凹むよね。

「名前が無いって言ってるけど、ミリアムさんが代理人で不老不死なら『ミリアム大陸』とかにするとか言われなかったんですか?」

「その案は真っ先に断りました」

「何故?」

 俺の質問にミリアムさんは真顔になった。もしかして深刻な事情があるのでは?


「自分の名前が大陸名になるって、凄く恥ずかしくないですか?」

「あの、まだあったこと無いですけど、ミルダさんにそれ言ってみてくれません?」


 いやまあ、そうかもしれないけどね。

 自分の名前を会社名にする人とか方程式に自分の名前を入れる人はいるけど、俺だったら絶対に自分の名前は入れないかな。全国の狩真さんもしくは誠さんが困るだけだもん。

「あ、じゃあミリアムさんって大陸の代理人なら、凄い強いってことですか? こっちの大陸では三大魔術師って称号があるし、その中にミルダって人も含まれてるし」

「ふふ、面白い質問ですね。その答えはマオさんが知ってますよ」

 そう言ってパムレを見た。


「……かなり辛い」


 え、あの火炎ワニの親を何もしないで黙らせるパムレでも!?

「……ミリアムはパムレと違って単純な魔力の力が強いわけではない。その中の原理を解明した」

「じゃあ大叔母様のような物理は?」

「……それは無理。シャムロエの宿す魔力は悪魔術に弱い。ミリアムはフーリエよりも悪魔術を得意としていて、魔術と合わせて極めている」

「そんな方が……」

 驚くシャトルとシャトラ。俺はそのすごさがわからないけど、とにかくパムレが勝てないという部分だけでも、敵に回したら絶対に勝てない相手なのだろう。

「そういえば代理人様がいるのに護衛の一人もいないというのは」

「そうですね。逆に護衛を私が守る状態になってしまいます。と言っても、マオさんが長時間かけて詠唱した魔力の球を私に放ったら、さすがに危ないですけどね」

「……戦う理由は無い。結果も見えているからパムレは相手にしたくない。それだけ」

 ここまで否定するパムレも見たことは無い。店主さんとはギリギリ勝てるレベルって言ってたのに、そんな手段を使っても勝てない相手という事だろう。


「そうだ、実は今日、宿を探しにここの跡地に来たんですけど、宿とかって知ってますか? 無ければ一日だけこの部屋を借りたいんですけど」

「え? この跡地には確かに宿はありますが『寒がり店主の休憩所』は無いですよ。流石にマオさんがいてもガラン王国の姫二人を守るのは負担が大きいですし、私が送り届けますよ」

 送り届ける?

「フェルリアル貿易国の寒がり店主の休憩所で良いですか?」

「へ? あ、はい」

 どういうこと?

「……ミリアム、もしかしてだけど、そこまで達した?」

「はい。原初の魔力を研究していたら、ある程度わかりました。三大魔術師の中ではマオさんが一番強そうですが、一歩リードと言ったところでしょうか」

「……その一歩は大きすぎる。はあ、ちょっと凹む」

 パムレは落ち込んでいた。え、どういう状況?

「では四名と隠れている精霊二体。そしてそこの大きな鱗十枚を送り届けますね。いつかまた会いましょう」


 その瞬間。


 俺は瞬きをしたと思った。


 ほんの一瞬だった。


 ☆


「ぬあああ! びっくりした。帰って来たなら言ってくださいよ!」


 突然横から大声が突き抜けて来た。

「へ? えっと、ミリアムさん?」

「は? どうして姉様の名前を……ああ、そう言えばミリアム姉様はミッドガルフ貿易国の跡地に行ってましたね。もしかして偶然そこに会ったんですか?」

 ミリアム姉様……と言うことは、目の前の水色髪の少女は店主さん……か。目はドッペルゲンガー特有の赤色をしていて、それ以外はミリアムさんと同じだった。

「こ……こは?」

 俺の質問に隣で顔を青くしているパムレが答えた。

「……寒がり店主の休憩所。パムレですらまだ解明していない転移の魔術を簡単に使った。これが明確な差」

「私達、さっきまでボロボロの跡地にいたわよね?」

「は、はい。例えて言うなら、瞬きした瞬間、ここに居ました」

 その表現通りだ。あっという間という表現では追い付かない。たった一瞬の出来事だった。

「ね、ねえ店主さん。店主さんのお姉さんの実力って、何かで例えることはできる?」

「え、凄く難しい質問ですね。参考にはなりませんが、唯一人間の中で神に挑めるくらい……でしょうか」

 神がどれほどの強さかわからない。そもそも神という存在がいるのかもまだわからない現状、確かに参考にはならないが、それでも俺たちは『わからされた』気がする。


 ☆


「ということで、無事に火炎ワニの親を粉々にして、それを加工してカーテンにして作った結果、耐熱カーテンを作って、めでたく昇格しました。あ、このお漬物美味しいです」

「へー、やるじゃない。その火炎ワニってのは知らないけど、マオがいるなら問題無いわね。ふう、朝に味噌汁ってのは沁みるわね」

「パムレがいなかったら食い殺すって言われました。言葉が話せるのにお互い共存できないのは残念ですね。あ、これ貰いますね」

「まあ、地球でも同じことよ。言語は違うけど、それでも会話はできるもの。その上で紛争があるんだから、仕方が無い事よね。あ、フーリエ、おかわり」


「なーに当然の様にワタチの家で朝食を食べているんですか! いや、入れたのはワタチですけども!」


 なんというか、隣の家から美味しい香りが漂ってきたんだもん。そしてノックしたら普通に入れてくれたし、マリー先生に関しては『認識阻害』を使って後ろからついて来てたんだよね。

「それで、フーリエの姉に会ったんだって?」

「え!? そうなんですか!?」

 そしてマリー先生はいつも通り心を読んでいたっぽいな。

「はい。偶然滅んだ国の跡地に行ったら、ミリアムさんに会いました」

「そう……ですか」

 ん?

 何故か寂しそう?

 俺が疑問に思っているとマリー先生が話し始めた。

「あっちのフーリエは記憶を共有しているから、ミリアムに会った時は全員会ったことになるのよ。一方でこっちのフーリエは孤立しているから会えないのよ。分裂した後は一度も会ってないんじゃないかしら?」

「はい。マリー様から存在だけは聞かされていましたが、やはり会えるのなら会いたいですね」

「じゃあクーちゃんを通じて会えば良くないですか?」


 ……。


「狩真様。ワタチはあらゆる手段を使って貴方をサポートします。そこのなんちゃって大学教授が単位を落としにかかってもワタチに相談してください。あらゆる手を使ってマリー様の授業の単位を差し上げましょう」

「ふざけないで! これでもワタクシは教授になるために一応勉強して試験も受かってるのよ!? そんなことをしたらせっかく就いた職から追い出されかねないじゃない!」

「マリー様はただ狩真様のテストに丸をつけるだけで良いのです。ワタチは難しい事は行ってません。解答用紙が例え真っ白でも、正解にすれば良いのです」

 ここまで本気の店主さんを初めて見たぞ。食材を持ってきた時よりもさらに悪化している気がするな。

「とは言え、半分は冗談です。ミリアム姉様には会えたらラッキーくらいに思いつつ、そこまで気を使わなくて良いですよ。それよりも昇格試験とやらに合格したことの方が気になる話題です」

「そうなんですか?」

 白いご飯を食べながら質問する。するとマリー先生が話し始めた。

「そうね。さっきの話を聞く限り、フェルリアル貿易国以外で活動する必要があるから、あっちのフーリエは昇格試験を受けさせた。ミルダの所へ行けばそのグールの首飾りは壊れてしまうから、行くとしたら南のガラン王国。つまり、今一緒にいるガランの娘たちの実家ということになるわね」

「ガラン王国……どうしてそこに行けるようにしないといけないのでしょうか」

「今考えられるのは、フーリエの息子のリエンが育ったタプル村が、その領土内にあるから。もしフーリエが何か手がかりをつかんでいるなら、そこに狩真を連れていきたいんだと思うわ」

「そうですね。あっちのワタチなら全てを言わずに先導しそうです」

「それって、黙ってついて行って良い類のものですか?」

「現状狩真はフーリエにとって最後の希望よ。危険性は無いと思うし、仮に危険な目にあっても第一にフーリエが守りに入ってくれるわ。まあ、マオもいるし大丈夫でしょう」

 三大魔術師の二人がいるから大丈夫……か。

 でも、ミリアムさんの力を見た後だと、どうしても不安が残る。


「ん? ミリアムがどうしたって?」

 マリー先生はいつもの心を読んでしまう能力で、俺の思考を読んでいた。

「いえ、パムレも凹むレベルで驚いていたのですが、ミリアムさんが俺たちを宿屋まで転移させたんです。それにパムレの話だとミリアムさんは相当強いとのことでした」

「てん…い……?」

 マリー先生は固まった。


「はい。これを取得するのはとても大変でした。原初の魔力と次世代魔力の複合で、マオさんのように脳が二つあればもう少し簡単に発動できるものですが、私は『普通の魔術師』ですから」


 後ろから声が聞こえた。そして正面に座っていた店主さんは、持っていた茶碗を落とした。


「みりあむ……ねえさま……?」


 振り向くと、そこには砂漠の廃墟で出会ったミリアムさんが、笑って立っていた。

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