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昇格試験2


 とりあえず魔術を放った。

「『氷球』!」

 が、固い鱗が俺の氷を弾いた。

「え、これ無理じゃん! なんで言ってくれなかったの!?」

「……やる気に満ちた若者を否定してはいけない。ってクアンがどこかで言ってた」

 どっちも見た目年齢十歳なのに、大人に言われている気分だ。いや、こっちも大学生だから映画料金は大人に分類されるけど!


『ブアアアアアアアアアア!』

「ぬああああ!」

 巨大なワニは、顔面を俺に向けて突っ込んできた。ギリギリ避けることはできたが、そもそも足場が悪いため、転んだら終わりだろう。

『ブェアアアアアアアアア!』

「やばい、皆はとりあえず逃げて!」

 パムレはともかく、シャトルとシャトラは危ない。注意を呼び掛けるとパムレが答えた。


「……あ、二人は精霊の魔力のおかげで、そのワニは恐れて襲ってこない。つまるところ、今はカルマしか襲われない。火炎ワニは巨大な魔力に対して怖がり」

「良いのか悪いのかわからない情報だな!」


 意外と小心者なの!?

『ギャゴガアアアアアアアアア!』

 再度俺に顔を突っ込んでくる。その衝撃は大きく、周囲に砂をまき散らしてくる。

 何か良い方法は無いか?

 俺は周囲を見渡した。

 すると、俺の持つ謎能力の『じっと見ると名前がわかる力』が作動し、二つの文字が頭に入ってきた。

「おかしい、火炎ワニは一体。なのに二つ? しかも地面に埋まっている……巨大な火炎ワニは盾になって……ということは子供がそこにいるのか!」

 地面をえぐるほどの魔術はまだ使えない。が、精度は高くなっている。

 とにかく少し離れた名前が見えた場所の地面に向けて俺は魔術を放った。

「『氷球』!」

 すると、巨大な火炎ワニは今まで俺に襲い掛かってくる動作を中断し、しっぽを器用に使って、俺の放った魔術よりも早く動き、右手で俺の魔術を防いだ。

『ギャゴオオオオオオオ!』

 表面は鱗で覆われているが、内側は柔らかいのか?

 さっきまで傷一つつかなかった巨大な火炎ワニだが、手から赤色の血を出している。

「なるほど、そこに子供がいるから親は守っているのか!」

 俺は先ほどの地面付近に何度も『氷球』を放った。すると、火炎ワニは自分を盾にするかのように防御に回った。


「おお! あの火炎ワニに一人で何とか頑張っているわ。でもどうしてあの火炎ワニは動かないのかしら」

「もしかしてですが姉様、あそこの近くに子供がいるんじゃないでしょうか」

「……!? それはヤバイかも」


 離れた場所で三人が話している。ん? 今パムレはヤバイって言った?

 いや、とにかく子火炎ワニには悪いが、親火炎ワニを倒して、その皮を頂くとしよう!

「これでトドメ! 思いっきり魔力を込めた『氷球』!」

 俺が力いっぱい魔力を込めて放った氷球はまっすぐ火炎ワニの顔に向けて放たれた。コントロールも申し分ない。このままいけばクエストは達成


 ばああああああああああああああああああああん!


「な、え、なに!?」


 巨大な音と共に大きな砂煙が襲い掛かってきた。

「……これは想定外。カルマ、手を貸すね」

「え、パムレ?」

 パムレが俺の横に来て構える。え、何があったの?

「俺の力いっぱい込めた魔術が爆発したのかな?」

「……ちがう、親の火炎ワニが出てきた」

「親の火炎ワニが出てきたって、最初からいたじゃん。そっか、俺にしか見えて無いもんな。多分だけど地面に子供の火炎ワニが埋まっているんだよ」

「……逆」


 逆?


「……火炎ワニは親を守る習性を持つ。ほとんどの時間は地面に埋まってて出産しかしないけど、稀に近くに親がいて、顔を出してくる」

 地面が少し揺れ始めた。まるで地面から何かが出てくるの示しているかのようだ。

「えっと、その親の火炎ワニが討伐に十人くらいなんだよね?」

「……親の場合は特例で三大魔術師が呼ばれる」

 災害レベルじゃん!


『ウチの息子に……なにしてるんじゃああああああああああ!』


 え!?

 話せるの!?


 驚いていると、巨大なワニの顔だけが地面から出てきた。

 先ほどの火炎ワニを鼻の上に乗せていて、ただでさえ大きかったのに、それを上回る大きな顔の所為で小さく見える。

『貴様か、魔力お化け。また我が息子を殺しているのだな?』

「……えー、今回は違う」

「ぱ、パムレ。知り合いなの?」

「……違う。普通に敵同士。ほら、パムレって有名だから」

 こんな怪物にも名前を知られているってどんなんだよ。

「カルマ! 私達も手を貸すわ!」

「シャトラも僭越ながら」

 そう言って二人も隣に来た。

『ほう、その魔力。ガランの娘か』

「え?」

『我も年を取った。先代のガラン女王に殴られ、右手を失った。これは時を超えた復讐にもなるな!』

 俺が子供を攻撃したことよりも、ガラン王国の血縁者の方に怒りの矛先が行っちゃったよ!

「ぱ、パムレ様。貴女の魔術をぶちかまして何とかできませんか!?」

 シャトラの提案にパムレは固まった。そしてゆっくりと答えた。


「……いや、できるんだよ? ただ、跡形も無く消え去るから、肝心の皮が無くなるんだよね」

『ちなみに我もいつ攻撃されるかわからないから、正直動けない。え、魔力お化けは普通に攻撃してくるの? 王族がいるから不干渉だと思ってるんだが?』


 え!?

 あんなに殺意たっぷりな感じで出てきたのに、実はめっちゃ怯えてたの!?

「……カルマ。火炎ワニは巨大な魔力に対して怖がりってパムレは言ったよ?」

「そうだけど、あの巨大な怪物が出たら普通に襲い掛かって来るって思うじゃん!」

 じゃあ何?

 なんか怖い事を言ってたけど、実は『早く帰ってくれないかなー』とか思ってたの!?

「あーえー、その、火炎ワニさん。ちょっと相談が」

『何だ』


 めっちゃ普通に返事してくれるじゃん!


「えっと、火炎ワニさんの燃えない皮を少しわけてくれれば、このパムレ……魔力お化けは連れて帰るので、くれません?」

『貴様は何を馬鹿な事を言っている』

「え?」


『人間の言葉で言い換えれば、皮膚はがしてくださいって言ってるもんだぞ?』


 うん、言われてみればそうだね!

 凄く痛そう。

「じゃ、じゃあ、代用となるものは無いですか? 人間で言う髪の毛とか」

『そうだな。取れかけの鱗程度なら良いだろう。これなら生えてくるしな』

 そう言って巨大な火炎ワニは地面から手を出してきた。うわー、何かに例えるとするなら、新幹線くらいの太さはあるな。そして鱗がびっしりとついている。

「これ剥がして良いの?」

『そこの魔力お化けが我を攻撃しないならな』

「パムレ、良い?」

「……ん。問題無い」

 やべー、絶対に力関係的にはこの二体が俺を簡単に上回っているのに、仲介に入っているよ。

「私も手伝うわ」

「シャトラも!」

 とりあえずパムレが一歩歩くとビクっとするから、そこに留まってもらい、俺とシャトルとシャトラは、はがれやすい鱗だけを選んで、十枚ほど手に入れた。

 と言っても一枚の大きさが車のタイヤ一個分あるんだけどね。

『用事は終わったな。ではさっさと帰るが良い』

「あ、ちょっと待って」

『なんだ、人間』

「いや、こうして会話できるのに、人間と共存ってしないの? 子供を殺されて嫌なんだよね?」

『人間の考えを我らに押し付けるな。本来はそこの魔力お化けがいなければ、貴様らは食い殺していた』

 マジかよ。


『我や我の子も食わなければ死ぬ。人間も我の子の鱗や皮を狙って殺してくる。会話が成り立つから共存ができるとは限らぬ』

 確かに。それを言ってしまえば地球で戦争は起こらない。火炎ワニの親は人と会話ができるけど、それとこれとは話しは別ということか。

「ですが」

 と、シャトラが話し始めた。

「少なからずシャトラ達はこうして言葉を交わして、平和的に解決をしました。これは紛れもない事実だと思います」

『お前たちは分かっていないだけだ。そこの魔力お化けがどれほど我らの脅威になっているか。目の前に避けることができない絶対的な死を保証する武器を突き付けられた状態が、人間の言う所の交渉と言うならば、お前たち人間の世界は我らよりも知能が劣っているのだろうな』

 そう言って巨大な火炎ワニは地面に潜って消えた。


「消えちゃった。なんか冷たい人……じゃなくてワニだったね」

「……それが獣や魔獣」

「えっと、パムレにひどい事を言っていたと思うけど」

「……それは慣れてる。というか、それが三大魔術師。動物に恐れられているのは普通で、いつもは人間に恐れられている。抱き枕にされている今が異常」

 驚異の存在であり、地位としては王以上の存在だと思っていたけど、その真実は孤独ということなのかな。なんだか寂しいな。


 抱き枕の件は当人だけで解決してください。

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