昇格試験1
☆
「ということでそろそろカルマ様には昇格試験を受けていただきます」
唐突に一枚の紙を渡された。
「昇格試験?」
「はい。今までのんびりと過ごしていますが、カルマ様はギルドに所属しています。なのでこれから幅広い依頼を受けられる資格を得る必要があるのです」
俺は考えた。
「店主さんの依頼を終えるまで、とりあえず困らない程度にお金が稼げれば良くね?」
「さーて、ワタチの持てる限りの権限で、ギルドから抜け出せない状態かつ低賃金でボロボロの部屋と最低限の食事のフルコースを堪能してもらいましょう」
この人、容赦ないな。
「……仕方がない」
ため息をつき、補足説明をパムレがし始めた。
「フー……店主はカルマに色々な仕事ができるようになった方が都合が良い。例えば隣国へ行くためにはシャトルくらい……とはいかなくても、そこら辺の人くらいの実力は必要」
「そのギルドから発行される資格ってパスポートにもなるの?」
その言葉に『?』を浮かべるシャトラとシャトル。うん、普通そうなるよね。パムレや店主さんは理解してくれたみたい。
「……なる。ギルドに所属している人はしっかり管理されているから、身元がしっかりしている。それに、隣のガラン王国にはいずれ行かないといけないから個人的には昇格試験を受けて欲しい」
「え、何か用事があるの?」
その質問にパムレは指を刺した。
「……そこの家出少女を家に帰す」
「絶対帰りません!」
そう言えば城を爆破させてここに来たんだよね。
「……大丈夫。パムレはすでにガラン王国の城を四回、庭を五回爆破したから、一回くらい怒られない」
「いや、回数の問題じゃないと思うよ!?」
「そうよシャトラ。私も母上の大事な花瓶を割ったけど、怒られただけでそれ以上は無かったわ」
「違います! 城の爆破が原因ではありません!」
城の爆破が原因ではない……というのはまあ、一つの言い訳に過ぎないだろう。
と言うか、何でみんな唐突にやらかし自慢をしてるの?
「じゃあ何が原因なの?」
「単純に、外に出たかった。広い世界で国民や動物が見ている世界を見たかったのです。パムレ様が時々教えてくれる世界も、単に言葉でしかありません」
魔力の制御が不安定だからこそ部屋に閉じ込められていた。これは本人もだけど、周囲を危険な目に合わせないようにするためだろう。
「ん? でも、今は比較的安定しているんじゃ?」
そう疑問を投げると、ポンっと音を立てて赤い少女が登場。火の精霊フェリーだっけ?
『それはー、そこの悪魔店主と全力で戦ったから魔力が一時的に枯渇しているだけー。後、実は寝返りを打つ際に微力な炎を放っているから、都度魔力お化けが消火してるー』
「え!? じゃあもしかしてワタチの宿の部屋、一部燃えてるんですか!?」
そう言って店主さんは走ってパムレ達の部屋に向かった。
『あー! カーテンに大きな穴が! 床も若干黒い!』
俺はそっとシャトラを見ると、目を逸らした。
そうしている間に店主さんが戻ってくると、手には少し焦げ付いたカーテンがあった。
「うぐ……これ、一応気を使ってシャトル様とシャトラ様が泊まる部屋だからカーテンは高級な物にしていたのですが、穴が空いてしまっては汚い布です……」
ここまで落ち込んでいる店主さんもあまり見たことが無いな。特に地球の店主さんは基本的に無表情だし、こっちの店主さんだからこそ出てくる表情だろう。
「す、すみません! 見た感じ絶対に高い物だと思ったので、バレないようにパムレ様に『認識阻害』で隠してもらって、良い品があったらすり替えるつもりでした」
「あの、そう言う事は正直に言ってくださいよ。それこそシャムロエ様に報告しますよ」
「そ、それだけは!」
大叔母様に言われるのは嫌なんだね。以前お忍びでこっちに来たけど、確かにあの人に怒られたらただでは済まなそうだよね。
「諦めなさいシャトラ。店主殿のカーテンを燃やした罪は消えないわ。ここはしっかりと反省することね」
「なーに他人事の事のように言ってます? 姉なら妹のしたことの罪を一緒に味わってもらいます。と言う事で二人が燃やしたと言う事をシャムロエ様に言いますよ!」
「ええ!?」
「さて、昇格試験で何をさせようか悩みましたが、今決まりました」
「え?」
「昇格試験の依頼は基本的にギルドが出した物。もしくは依頼内容をギルドが確認して、昇格試験にふさわしいと判断した物になります。ということでカルマ様には高級なカーテンを作ってもらいます」
「俺までとばっちり受けてない!?」
カーテンって、作ったことないんだけど!
「期日は首飾りの件もあるので設けません。ただし、地球から持ってきたカーテンは禁止にします。この世界の素材を使って高級なカーテンを作ってください」
☆
ということで俺の部屋にて緊急会議が始まった。
参加者は俺、シャトル、シャトラ、パムレ。そして氷の精霊セシリー、火の精霊フェリー。
一応この世界では全員何かしらの称号を持っている人たちなのに、この人達で作る物がカーテンというよく分からない状況だが、ゲーム序盤のクエストだと思えば変では無い。
いずれ魔王を倒す勇者も、最初は薬草の採取から始まるのだ。
「ということで高級カーテンだけど、何か良い案は無い?」
そう言うと、最初に手を上げたのは以外にも精霊組のセシリーだった。
『そこの魔力お化けが魔力を超圧縮して布っぽい何かを生成すれば、この世に存在しない一つだけの魔力カーテンが作れると思うのじゃが?』
「……万が一、穴が開いたらこの国は吹っ飛ぶね」
「うん、却下だね。次!」
穴が開いたら爆破するカーテンって聞いたことが無いよ!
「というかパムレなら何か良い案が無いかしら? 三大魔術師なんだし」
あのね、シャトルさん。俺は地球の人間だからあまり凄さはわからないけど、この大陸で三大魔術師って凄い地位の人だと思うんだ。
毎日抱き枕にしているその子って、凄い人なんだからもう少し敬意とか持とう?
「……んー、あるけど言えない。フーリエに言われた。カルマの明確な指示なら動いて良いけど、合格一歩手前までの手助けは駄目」
「あちゃー、先手を撃たれてたか」
まあ、実際そうだよね。クアンをぶっ飛んで送り届ける人だったら、高級な布をどこからか持ってくることも可能だもんね。
考え込んでいると、フェリーが手を挙げた。
『高級かは人間基準でわからないけどー、どうせシャトラが燃やすかもしれないと考えるならー、燃えにくいカーテンを作った方が良いよねー』
「確かに。今回の依頼はカーテンを燃やしたから発生したクエストだもんな。となると燃えない布?」
『一応心当たりはあるー。ここから南に行ったところに砂漠があるんだけどー、そこに出てくる動物の皮がー燃えにくいー』
おおー。凄くそれっぽい手がかり!
ちょっと前にレイジとかいう男に襲われて大変な目にあった出来事が嘘のようだ。
「……んー、まあ危なかったらパムレが手を出すよ」
「いや、これは俺の昇格試験だし、俺一人で頑張るよ! 皆は離れたところから見てて!」
☆
町を出て南に歩くと、徐々に砂粒が道の所々に出てきた。
いつもは町から西に行って森に行ってたから、砂地に来るのは凄い新鮮かもしれないな。
と、奥から人影が見えた。商人かな?
「おや、カルマじゃないですか。それにパムレ達も? どうしてここに?」
「ゴルドさん? いや、こっちの台詞ですよ。どうして鍛冶屋がここに?」
「ああ、この先は滅んだ国の跡地になっていて、時々様子を見に行ってるんです。盗賊とかの巣になるので、ギルドに報告とかしているんですよ」
へー、そうなんだ。
ゴルドさん、一体何者?
そういえばフェリーとセシリーとも会話してたし、何かしら裏がありそうな人ではありそうだよね。
店主さんの名前も確か知ってたっぽいし、実は結構強い?
「そうだ、ゴルドさん。この先に燃えない皮を持つ動物とかいますか?」
「燃えない皮? うーん、そうですね。火炎ワニと呼ばれている生物ならいますが」
すげー適当な名前!
でもゲームではそんな感じだよね。動物の名前が答えみたいな感じ。
「ですがおすすめはしませんよ?」
「いえ、それを倒すのが俺の昇格試験なので」
「昇格試験? え、火炎ワニの討伐をフーリエが頼んだのですか?」
「いえ、とりあえず燃えない皮を探しにと思って」
そう言うとゴルドさんはパムレを見た。パムレは特に何も反応せず、ゴルドさんは苦笑しながら納得した。
「おすすめはしませんが、まあパムレがいるなら大丈夫でしょう。気を付けてくださいね」
そう言ってゴルドさんは俺たちが来た道を歩いて行った。
「え、火炎ワニってそんなに危ないの?」
そう言うとシャトルとシャトラはお互い空を見た。
「えっとね、私達がカーテンを燃やしちゃったし、これからもシャトラが燃やすかもって思って黙ってたんだけどね……」
……。
…………。
少し歩くと砂が足首まで埋まる程歩きにくい場所にたどり着いた。
そして。
『ブガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
「普通討伐依頼が出るなら、十人以上の討伐隊を組む程の猛獣ね』
「でけえええ! 十メートルはあるよねこれ!?」
目の前には二足歩行で四本足の、深緑色のワニの形をした巨大な生物が立っていた。




