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カンパネ


 ☆


 昼まで各自自分の作業を行っていた。

 俺はセシリーに魔術を教えて貰いつつ、新たに炎の魔術も取得したため、シャトラの精霊のフェリーにも魔術を教えて貰っていた。


 主に魔力の制御についてだが、二人曰く他の人間と比べて覚えが早いらしい。

『うむ、残るは威力じゃが、こればかりは日々の鍛錬じゃな。制御は他よりも優れていても、手持ちの魔力量が少なければ弱いからのう』

『大は小を兼ねるー。その魔力量でこの威力は強い方だけどー、やっぱり実戦では小動物くらいしかまだ倒せないかなー』

 赤と青の小さな精霊ズに教えられながら頑張る俺。それをシャトルはジーっと見ていた。


「どうしたの?」

「いや、普通に考えて凄い事なのよ? 精霊二体に魔術を教えて貰うなんて、権力者でもよほど高位な存在じゃないとできないわよ?」

「そうなんだ」

 凄い……と言われても、やはり俺はこの世界の人間では無いから、標準がわからないな。

「姉様。カルマ様は頑張っています。水を差すような発言は止めてください」

「え!? あ、うん」

 シャトラがシャトルを叱っていた。まさかのお叱りにシャトルは驚いていた。


「カルマ様。すみません。姉様が今度また失礼なことを言ったら焼きます」

「いや、気にしてないから。というか姉なんだから焼くって言わないでよ」

「はい!」

 先日の騒動以降、シャトラは俺に優しくなった気がした……と言うと今まで冷たかったという表現になりかねないが、今までは一歩距離を引いていた印象だった。

『まああの『大叔母様』に歯向かったからのう。思う所はあるじゃろうて』

『青春ー』

「いやいや、それだけで印象良くなる?」

 そう聞くと精霊二人は軽く頷いた。まあ、お世辞として受け止めておこう。こういうとき、自意識過剰や勘違いは一番恥ずかしいからね。

「そう言えばシャトルもシャトラも用事とか無いの? ここで見ていて暇じゃない?」

「精霊から距離を取ると、その分魔力消費が激しいから、ここで見てるしかないのよ。もしも魔術訓練をもう少し難しくしたいなら、ここから小石を投げて、避けながら的に魔術を当てるって訓練にしてあげようかしら?」

「姉様!」

 怒るシャトラ。だが、その案は中々面白そうだと思った。

「いや、その案やってみよう。実戦だと、どこから何が来るかわからないし、地球出身の俺ならなおさらそういう訓練も必要かな」

「へえ、じゃあ本気で行くわよ」

 その瞬間、小さな石粒が、俺の顔の横を音を立てずに横切った。


「ちっ。外したわね」

「ちょ! 今の当たって大丈夫なやつ!?」


 実物は見たこと無いけど、例えるなら弾丸だよ!

「直撃は避けてあげるわ。ほら、避けながら的に当てなさい」

「ひい!」

 必死にシャトルの攻撃を避けながら、離れたところに置いてある的に『氷球』や『火球』を放った。いつもより精度は劣るが、それでも何とか端に命中はしていた。

「これで最後!」

 そして『氷球』を放ち、最後の的に命中。

「あっ! 危ない!」

「え?」


 その瞬間、俺のこめかみ付近に強い衝撃を感じた。


 そして俺は、そのまま気を失った。


 ☆


 目覚めると、布団の上……というのがいつもの流れだが、今回は違っていた。

 周囲はどこまでも広がる白い部屋。そして空は……青いけど空っぽくない。


「おや、こんなところに人間さんが来るとは」

「へ?」

 後ろから声が聞こえた。振り向くと、そこには白髪の青年が一冊の本を持って立っていた。

「君は?」

「ボクはカンパネ。うーん、ざっくり言うとミルダ大陸の神様をやっているよ」

 突然の神様の登場。これこそ夢の世界だろう。もしくはこめかみに弾丸を食らってあの世に行っちゃった?

 それにしても我ながら変な……というかとても馬鹿な夢だ。ミルダ大陸の神様(自称)が出てくる夢を見るとは。

「その首輪は……あー、グールの首飾りを付けちゃったんだ。ということは地球とミルダ大陸を行き来しているんだね」

「わかるの?」

 白髪の少年は苦笑した。

「その首飾りは『破壊の時代』の副産物。色々な空間の歪みからすり抜けて具現した神具なんだ」

 破壊の時代。地球の店主さんが言っていた単語だ。

「破壊の時代って?」

「それはボクの口から言えない。もし聞くなら神様に聞いてくれ……と言っても、答えてくれないかもね。それにボクはこれ以上は変なことができないんだよ」

 そして少年は本をめくった。


「君の状態をざっと確認したけど、どうやら気を失っただけだね。グールの首飾りの効果通りにするなら、地球で目覚めた方が負担は少ないみたい。どうする? もう帰る?」

「え、うん。特にここには用がなさそうだし」

「そうだね。君のような人間は神が住む世界に足を踏み入れてはいけない。とは言え、今回は特別に見逃してあげるよ。君と繋がっている人たちにはかなりお世話になったしね」

 そう言って本が光り出した。

「少ない人生だ。楽しむんだよ」

 そして俺は光に包まれた。


 そして俺は微かに見えた。


 光り輝く本。その名前は『ネクロノ


 ☆


 目覚めると地球のアパートの家だった。転移できなかった物が色々と散乱している。

「って、訓練中に気を失っちゃったからクーちゃん置いて来てるじゃん!」

 そう思った瞬間、俺の服の中が動き出した。


『ギャギャ! カルマ、オキタ!』

「クーちゃん!」

 ひしっ!

 思わず頬ずりしちゃったよ。うーん、やっぱりしばらく見慣れてしまうと愛着が湧いちゃうんだな。

「お帰りなさい。狩真様」

「わあ! 店主さん!」

 部屋の隅に体育座りをしていた。

「一応何か問題が無いように、ずっとここに居ました。この子を通じて一部始終見させていただきましたが、どうやらミルダ大陸はそれなりに発展しつつ、根本的な部分は変わらない平和な世界みたいですね」

 どことなく店主さんの表情は暗いような気がした。

「その、店主さんって昔辛い過去を過ごしたんですか?」

「そうですね。正直、死を覚悟しました。一度では無く数十を超える数です。今から八百年前の失われた『破壊の時代』でワタチはいつ死ぬかわからない状態になりました」


 八百年前って、西暦二千年代だよね。その時代って色々と技術が発達したけど、いつしか機械が人間を支配し始めて、そこからの歴史は消されているんだよね。


 約五百年前くらいに人類は文明を取り戻して、ようやく西暦三千年の今になってもとに戻ったけど、多くの文献は壊されたため、あらゆる科学者や考古学者は遺跡の探索に苦労しているとか。


「それよりもゴルド様から魔力を抑制する指輪は貰いましたか?」

「あ!」

 俺は頭を抱えた。

「いやー、魔術訓練をしていたら、ちょうど頭にガツンと食らって、そのまま気を失って、ミルダ大陸の神様を名乗る人と会う夢なんか見て今に至ります」

「何ですって! もしや途中で空腹の小悪魔との繋がりが途切れたのはそれが原因ですか!」

 店主さんは驚いていた。

「あ、でも指輪はあっちの店主さんが手続してくれる感じなので、多分次回は持って帰れます」

「そこじゃありません。ミルダ大陸の神様? それって名前とか名乗っていませんでした?」

「え、まあ」

 俺はなんとなく覚えていた単語を答えた。


「確か『カンパネ』って」


 その瞬間、店主さんは壁を叩いた。いや、ご近所(マリー先生)に迷惑になっちゃうんだけど。

 でも、店主さんはそのまま動かなかった。よく見ると店主さんの手は震えていた。


「今度はこの子なんですかカンパネ様。貴方は何人の人間を観察し、そして自身が楽しむためだけに人生を狂わせるんですか」


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