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最初のクエスト


 ☆


 長く感じた一日も終え、家に帰って風呂に入り夕ご飯を食べて布団に入った。


 と思ったら、ボロボロの布団で寝ていたことに気が付き目を覚ました。正確には夢の中に帰ってきたというべきだろうか。


 服装は今日着ていた服と同じ。そしてグールの首飾りをしている。

 まだ二回目だしもう少し様子見をしたい所ではあるが、尾竹先輩の話を本気にした場合、ここはグールの首飾りが原因で入り込めた夢の中。いや、むしろ布団の触り心地や空気を吸った感じこっちが現実にすら思えてきた。

『カルマ様ー。掃除をしたいので起きていただいて良いですかー?』

 扉から少女の声。いや、受付の少女の声が聞こえた。

「今出ます!」

 そして扉を開けると、割烹着を着た水色の髪の赤い目をした少女が立っていた。

「おはようございます。カルマ様」

「おはようございます。えっと」

 名前何だっけ?

「あ、ワタチの事は店主さんとかで良いですよ。ワタチの名前は国家機密なので」

「何そのいらない設定」

 冗談なのか本気なのかわからない。いや、内容的には冗談十割だろう。名前が国家機密って聞いたことがない。

 それに店主って厨房にいるんじゃ……まあ細かいことは気にしないでこれからは店主さんって呼ぶようにしよう。

「あ、そう言えば俺にもできる依頼って来てますか?」

「ああ、取り置きしてました。薬草の採取は最近やりたがらない人が多いので、ナイフを怖がるカルマ様にはピッタリかと」

「探索なら任せとけ!」

 なんとも頼りない返事だと自分でも思った。


 ☆


 渡された地図通りの場所へ行くと、森に到着した。ゲームなどでは序盤に入るダンジョンという感じである。

 道は商人がよく通るということで整備されている。肝心の薬草はその道を少し外れたところに生えているらしい。

 と言ってもゲームではコントローラを傾けて移動してアイテムの場所でボタンを押す作業だから疲れないが、実際歩いて探して手で薬草を抜き取るとなると結構疲れる。

 唯一良かった点は、物をじっくりと見るとなんとなくそれが何かが分かる。ゲームでいう所の固有スキルみたいなものだろう。

 それっぽい草をじっくり見たら『薬草』とか『毒消し草』などの文字が浮かび、時々『毒あり草』などのネーミングセンスが残念な物まである。まあ、わかりやすいから良いけどね。

 依頼されているのは薬草だけだが、ついでに毒消し草も取り、それを籠の中に入れた。依頼された量をすでに超えているが、雑貨屋で売れるだろうと思い多く取っている。

「ん?」

 何かに見られているような?

 ふと周囲を見渡した。すると、木陰で身をひそめている何かを見つけた。

 もしかして魔獣?

 一歩後ろに下がると魔獣は姿を現した。まるで狼の様な形をした四つ足の魔獣。目は赤く光り、こっちを威嚇していた。

「ゆ、夢の中とは言えこれは結構怖いな。全速力で逃げれば間に合うか?」

 そう思った瞬間だった。


 狼の魔獣は俺の腹部に思いっきり突っ込んできた。


「ぐっ!」


 痛い!


 今まで感じたことの無い痛みに意識が飛びそうになった。

「がはっ」

 地面に横たわるも、狼の魔獣は俺にのしかかってきた。

 俺は反射的に両手で引きはがすように掴むが、狼の魔獣は俺の顔を今にも噛みつこうとしている。

 飛び散る唾液が俺の顔にポツポツと落ちてきて、それがまた妙に生暖かい。

「た、助けて!」

 思いっきり叫ぶ。同時に狼の魔獣も吠えた。怖い、そして痛い。これが夢?

 その瞬間だった。


「セシリー! あそこ!」

『うむ! くらえ!』


 声が聞こえた。

 同時に何かの塊りが狼の魔獣に当たり、俺を引きはがした。

「はあ、はあ」

 助かった?

「大丈夫!?」

 女性の声が聞こえた。俺は起き上がり声の元を辿った。

 そこには長い金髪を後ろでまとめてポニーテールにしていた。ツンとした目は凛々しく、腰にぶら下げている短剣や立派な鎧からは気品を感じた。

 その少女の横には青色の髪の小さな……人形?

 だがしっかり動いている。妖精みたいな小さな女の子が金髪の少女の隣をふわふわと飛んでいた。

『油断は後じゃ! 弱ってはいるがまだ息がある。こちらを狙っておるぞ!』

「わかったわ。えっと、君。走れる?」

「は、腹の怪我が」

「腹部をやられたのね。『魔力治癒』!」

 彼女の手から黄緑色の光が放出され、俺の腹部を優しく包み込んだ。すると腹部の痛みが徐々に無くなり、体が軽くなってきた。

「傷が……」

「治癒術よ。これなら走れる?」

「ああ」

 返事をして俺は薬草が入った籠を持ち彼女と一緒に走った。魔獣の声は聞こえたが、追ってはこないみたいだ。

「はあ、はあ。ありがとう。助かった」

「良いのよ。助けが聞こえたから来ただけよ」

 俺は息も切れているのに、彼女は余裕そうな表情。どれくらい走ったかは覚えてないけど、男として少し情けないような気もする。


 少し走り、広い場所に到着した。金髪の少女はとりあえずと言って自己紹介を始めた。

「私はシャトルよ。こっちは氷精霊のセシリーちゃん」

「俺は狩真。ギルドの依頼で薬草を集めてたんだけど、突然襲われて驚いたんだ」

「へ? ギルドの依頼って冒険者?」

 目を丸くするシャトル。そして俺の服装を見て不思議そうな表情を浮かべた。

「えっと、武器とかは?」

「無いよ?」

「冒険者なのに?」

「薬草採取だし……」

 そう答えるとため息をつかれた。

「えっと、いくら薬草採取でも魔獣対策はしないと。あの森でさっきの魔獣はうようよいるわよ?」

 え!? 

 あれって主人公が倒す最初のチュートリアル的な敵だったの!?

 めっちゃ怖かったんだけど!

 と、驚いていると氷精霊セシリーは俺に話しかけた。

『シャトルよ。もしかしたらギルドに入ったばかりかもしれぬぞ?』

「そうなの?」

「あ、うん。昨日登録したばかりで、これが初仕事」

「ああ、そういう事か。まあ仕方がないと言えば仕方が無いのかな。全くギルドの店主殿は人手不足だからって手ぶらの初心者を魔獣のいる森に手配するなんて酷な事するわね」

 いや、店主さんには俺が手配してって頼んだから悪気は無いと思うんだけど。

「フェルリアル王国に行くのよね。私もギルドに行くし、一緒に行こ?」

「むしろ俺からお願いしたいくらいだ。流石にあんな魔獣が襲ってくるってわかったら護衛が欲しいくらいだ」

 そして俺は金髪の美少女シャトルと、氷精霊セシリーと一緒にギルドへ戻るのだった。


 ☆


 で、到着。

 ギルド『寒がり店主の休憩所』に入ると賑やかな店内が一瞬静かになった。

「おや、シャトル様。お帰りなさい」

「店主殿。なかなか酷な事しますね。ギルド入りたての青年に薬草採取なんて」

「それ以外彼に斡旋できる依頼が無かったのですよ。と言うか店を出る時と装備が一緒という事は丸腰ですか? てっきり色々と準備してから外へ出る物だと思ってましたが」

「そうよ。武器を持たずに森に入ったのよ?」

「ええ!?」

 そんなに驚くことなのか。まあ、ゲームでも全裸装備(インナー有り)の縛りとかは見かけるし、今の俺はそんな感じなのだろう。

「いやいや、さすがにありえませんって! ワタチの理解を超えているのです。と、とりあえず装備が買えるまで城下町の依頼をできるだけかき集めてー」

「あ、その前に薬草や毒消し草を集めてきたんだけど、これで装備とか買えないかな?」

 籠を受付に置くと、店主さんは驚いていた。

「結構な量。しかもなかなか見つからない毒消し草も? これだけあれば一式は買えますね」

 ゲーム序盤でも数ゴールドで鎧とか買えるだろうし、これを売れば宿代と武器と防具くらいは買えるだろう。

「それよりもシャトル様。それとセシリー様。例の依頼はどうでしたか?」

 ん? もしかしてシャトルは店主さんから何か依頼されていたのだろうか。

 店主さんの質問の答えはシャトルではなくセシリーから出た。

『悪いがそれもまだじゃ。痕跡はある物の見つからないのう』

「そうですか。まあ気長に待つとしますか」

 そう言って店主さんは何か紙に書き、それを俺に渡してきた。

「カルマ様。武器と防具を探しているならおすすめの場所があります。シャトル様も知っている場所なので教えて貰ってください。特別に紹介状を書きましたから、少し割引してくれると思いますよ」

「あ、ありがとうございます」

 そう言って一枚の手紙を貰った。寒がり店主の休憩所って書かれてあるけどそれ以外は読めない……いや、よーく見ると文字が見えた。寒がり店主の休憩所という部分以外は別の言語で書かれてあるのか?

「『フーリエ』……? 名前か何かか?」

「!」

 俺の言葉に店主さんは驚いていた。そして氷精霊セシリーも「ほう」と言って驚いていた。え、どうしたの?

「カルマよ。今どうしてその言葉を発した?」

 セシリーが俺に質問をしてきた。

「え、紙にそう書いてあったから」

「読めるのですか!? というか何手紙を読んでるのですか!」

 あ、そうだよね! ゲーム感覚で手紙を届けるイベントとかついつい中身を見ちゃう癖があるから、そんなノリで見ちゃった。でも実際そこの部分しか読めなかったし、他はもっとじっくり見れば読めるかもしれないけど、何か疲れるんだよね。

「はあ、セシリー様。ワタチから依頼をしても良いですか?」

『構わぬ。予想もできておるし、防具屋に行く道中で話す』

「お願いします」

 そう言って店主さんは一枚の銅貨をセシリーに渡した。

「じゃあ早速防具屋に行くわよ。こっちだからついて来て」

「うん」

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