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英雄ミッド


 ☆


「見てください姉様! あそこにパムレットの専門店があります!」

「あー、はいはい」

 キラキラな笑顔で店に指をさすシャトラ。それを見て苦笑しながらもどこかほっこりとしてついて行く姉のシャトル。


 と、三大魔術師のマオと魔術研究所副館長のクアンと俺。うん、なんだこのパーティ。


「……今日は諦めた方が良い。シャトラは絶賛家出中。姉に甘えて満足させたらパムレが家に帰す」

「満足できなかったら?」


「……この国がポンする」

「よーし、お兄さん頑張るぞー」


 そんなこんなで今日はクエストを受けずに皆で街を探索することになった。

「そこまで気を重くする必要も無かろう狩真少年。魔力お化けから聞いた話だと、先日までは動物の退治や魔獣の討伐でなかなか血の気の多い修羅場をくぐってきたらしいじゃないか。地球から来たばかりで、そんな経験をすでに味わっているなら、このお散歩はボーナスステージだと思った方が良いさ」

 そう言って流れるように屋台に売っていた焼いた肉の串焼きを買って食べるクアン。それを見てシャトラは興味を持った。

「クアン様、そのお肉は美味しいのですか?」

「王族の口に合うかはわからないが、この素朴な味はクーの好みだ。見た目で判断せず、まずは食べてみて判断するのも勉強だぞ?」

 そう言ってクアンはもう一本串焼きを買ってシャトラに渡した。

「あ、ありがとうございます。ハムッ」

 そう言えば家出をしたシャトラは今まで店主さんの作ったご飯を食べていたんだよな。店主さんの作るご飯ってすごくおいしいんだけど、王族の舌にも通用する感じなのかな?

「とても難しい味ですね。美味しい……です。その、味にばらつきがあって、調味料も濃かったり薄かったり……ですが、そういう部分も楽しむという意味では色々な味わいがあって良いです!」

「王家の食事はかなり綺麗に作られているからね。私もここで初めて食べた時は似た感想だったわ」

 苦笑するシャトル。

「王家で出るご飯ってどんなのがあるの?」

 素朴な疑問を投げてみた。


「えっと、すごい昔からある料理なんだけど、『チャーハン』って料理があるわね」

「めっちゃ中華じゃん!」


 俺の世界では一般的に作れて、素とか使ったら数百円で作れちゃう料理だよ!

「かつて兵士の厨房で作られていた料理らしいんだけど、当時の姫様や女王様が気に入ったみたいなの。作った人は伝説の料理長って言われているわね」

 伝説の料理長。歴史に名を刻む人ということか。本当にこの世界は歴史が色々とあるんだな。夢なのに。

「おや」

 そんな声が少し離れたところから聞こえた。あれは武器屋を営んでいるゴルドさんだ。

「久しぶりですね。今日は……おおー、なかなか大人数ですね」

「姉様。こちらの方は?」

「ゴルドさんよ。武器とか鎧の加工を全部やっているの。常連ということで色々とおまけしてくれているわ」

「初めまして、ガラン王国の第二皇女。そして久しぶりですね、フェリー」

 その声にシャトラとゴルドさんの間からポンっと音を立てて、赤い小さな精霊が出てきた。

『久しぶりーですー』

「知り合いなの?」

『知り合いというかー、まあ、色々ー』

「はは、ガラン王国とは色々と縁があってですね、もちろんセシリーとも知り合いですし、大叔母様と呼ばれている人とも知り合いですよ」

 へー、ただの武器屋じゃ無いんだ。まあ、店主さん繋がりで色々と事情はありそうだけどね。というか店主さんの知り合いってだけで事情が絶対あると思うんだよね。


「そういえば今、広場に『英雄ミッド』が来ているみたいですよ。もしかして会談をするために第二皇女が来ているのですか?」

「へ? い、いえ。シャトラはその……姉様に会いに来ただけです」

 すっごい苦笑するシャトラ。それに対して無表情のシャトル。そして


「……城、ポン。姫、来た」

「あー、察しました。流石ガランの血筋ですね」


 答えを言うパムレ。うん、空気読もう?

 そしてさっきので察するゴルドさん、本当に何者?

「それよりゴルドさん。英雄ミッドって誰ですか?」

「ああ、君はあっちの世界の人ですもんね。えっと、英雄ミッドはギルドの中でも凄腕と呼ばれている剣術使いで、かなり評価されている人です。いくつもの大物を倒し、この国からも勲章をいくつか貰っている人です」

 おおー、三大魔術師以外にもそういう称号を持つ人はいるんだ。

「あ、ちょうどこっちに向っているみたいですね」

 ゴルドさんが指をさすと、その先には集団がこっちに向っていた。正確には、ここが通り道と言ったところだろうか。

 体格の大きい人、弓を持つエルフ。大きな杖を持つ魔術師。そして最後尾には銀色の鎧を身に纏った青年。おそらくその青年が英雄ミッドだろう。

「む?」

 俺たちがその人たちを眺めていたら、英雄ミッドはこっちに反応した。


「これはこれはシャトラ姫ではありませんか。その節はどうも」

「は、はあ」

 英雄ともなれば姫の一人や二人、知り合いということか。というか、俺のこの状況が変なんだろうけどね。

「他の方はシャトラ姫の手伝いの方ですか?」

「いえ、友人です」

「ほーう」

 そして俺の方へ近づき、ニコッと笑った。

「見たところ僕より弱そうだ。どうでしょう、シャトラ姫。僕の所へ来ませんか? この男の近くよりも安全だと思いますよ?」


 すげー!

 初めて見たー!

 見た目で判断して馬鹿にする漫画にしか出てこなさそうなやつー!


「不要です。カルマ様は確かにまだ修行中の身ですが、他にも姉様もいるので」

「姉様? おお……これはこれは、シャトル姫。すみません、まさか冒険者のような服装を着て、変装をしていたとは」

 まさかのもう一人の姫だと知っても驚かない英雄ミッド。それほど自分に自信があるのだろう。

 シャトルは不機嫌そうな表情を浮かべて返答した。

「変装じゃ無くて本業よ。まさか英雄ミッドがこんな失礼な人とは思わなかったわ」

「不快にさせたのでしたら謝罪します。が、ある程度実力を持つ者として一つ言わせていただくと、多少の自信ある発言は相手になめられないようにするために必要かと」

「そうかしら。強者こそ謙虚にいるべきだと私は思うけどね。仮に目の前にすごい強い人が現れたらどうするのかしら?」

「英雄ミッドと呼ばれている僕より強い人がそうそう出てくるとは思いませんね」

 とりあえず俺はパムレを英雄ミッドとやらの前に置いてみた。


「何だこのガキは(ツンツン)」

「……ほっへふひふひひはいへ(ほっぺフニフニしないで)」


 しばらく沈黙が続いた。その間、ゴルドさんが急いで商品を店にしまい始めた。

 しばらくツンツンタイムが続き、俺はヒヤヒヤしながら、とりあえず『この子』を知っていそうな杖を持った魔術師に声をかけた。

「あの、そこの魔術師さん」

「なんですか?」

「この銀髪の少女の名前とか顔とか、見覚え無いですか?」

「はあ? 任務で助けた人とかなら覚える暇は無いし、銀髪で少女で有名な人って三大魔術師のマオしかいないじゃん」


 ……。


「えっと……マジ?」


 俺は小さく頷いた。


 その瞬間、その大きな杖をフルスイングをして、英雄ミッドをぶっ飛ばした。

「いってええええええええええ! おい何する!」

「馬鹿! 早く地に顔を付けて謝んな! その人は三大魔術師のマオよ!」

「はあ? そんなわけねえだろ。なんでそんな奴がここに」

「あー、理由としては十分あると思うよ?」

「は? 何だよ理由って」

 聞かれたので俺は丁寧に答えた。

「ガラン王国第一皇女、ガラン王国第二皇女、あ、この人は魔術研究所の副館長……の護衛」


「失礼しましたああああああああああああ!」


 颯爽と逃げて行った。まさか身分を言って頭を下げる人が現実にいるなんて思わなかった。

 それにしても姫二人に対しては動じなかったのに、三大魔術師に関しては格が違うのかな。

「実に悲しい事件だったな狩真少年。二人の皇女を前にしても引かなかったということは、それほど自身に自信があったのだろう。クーはそこの三人と比べたら地位としては低いが、それでもそれなりの地位にいる。やはり三大魔術師という称号は脅威でありチートだな」

 俺も改めて三大魔術師という称号の凄さに驚かされたよ。本当にチートだな。


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